第34章:事件と彼女達
「でも、なんで男女ペアなんだ?」
コナンが首をひねっていると、晶子が言った。
「この八木グループはね、今、結婚式とか、冠婚葬祭のビジネスに力を入れてるの。このパーティーでも、ベストカップルとか、親子、兄妹なんかの男女ペアのベストペアとか、賞を出して、会社のイメージアップにつなげたいみたい・・・」
「へえ」
「ベストカップルになると、賞金や商品の他にポスターなんかで写真を使ったりするみたいよ。もちろん、本人の承諾をとるけど、それなりの報酬も出るみたい」
要するに、人気有名人を使って莫大な広告費を使うより、安く、効果的な宣伝を考えてのこと、ということなのだろう。
晶子に説明されても、コナンには、さして興味は持てなかった。
(哀のヤツ、どうしてるかな?)
ふと、コナンの頭に、哀の顔がよぎった。
*****
「あら?」
哀は、開いていたコナンの部屋のドアから、その机に上に、赤い小さなモノを見つけた。
(変声器・・・忘れていったのね・・・まあ、必要ないでしょうけど・・・)
その蝶ネクタイ型変声器を机の上に置きなおすと、机の上に放置された本を揃えた哀は、コナンの部屋を出て、ドアを閉めた。
少し間を置いて、再び、コナンの部屋のドアが開けられる。
主のいない部屋を見ながら、何かを考えていた哀だったが、再び、部屋へ入り、机の上を見た。
赤い蝶ネクタイをしばらく見ていたが、やがて、それを持ち上げ、哀は、自分のスカートのポケットに入れると、部屋を出て、ドアを閉めた。
*****
その頃、米花プラザホテルの宴会場は、大騒ぎになっていた。
パーティー主催者の株式会社八木の社長、八木幸作が、舞台で挨拶しているとき、突然、倒れたのだ。
(やっぱり事件が起きちまった・・・)
騒ぎの中、コナンがため息をつく。
いつものように、小五郎が倒れた幸作のもとに駆け寄り、蘭が警察に連絡、目暮警部たちの登場となった。
「死因は、青酸系毒物によるもの・・・おそらく、ワインかそのグラスに仕込まれていたかと思われます」
監察医の報告を聞いていたコナンは、眉をひそめた。
(やっぱ、他殺か・・・)
いつものように、コナンが周辺を調べると、犯人は特定できた。証拠も揃った。
(間違いない。犯人は、あの人だ)
そして、いつものように、舞台上では、小五郎が見当違いな推理で、目暮達の目を白黒させている。
時計型麻酔銃を構えようとして、コナンが左腕を上げかけたとき、不意に傍で声がした。
「何してるの?」
晶子がコナンの腕を見つめている。
「あ?・・・いや、これは・・・そのぉ・・・」
慌てたコナンだったが、ハッとして晶子に言った。
「あれ?関係者以外は、舞台から下ろされたのに、どうしてここにいるの?」
「だって、コナン君だって、ここにいるじゃない?・・・今日は、コナン君のパートナーだもの、コナン君の横にいるわ」
「いや、そういう問題じゃなくて・・・」
冷や汗をかき、苦笑するコナンがそう言ったとき、後ろから声がした。
「あら?楽しそうね」
ビクっとしたコナンと晶子が振り返ると、腕を組んだ哀が立っていた。
「哀!?」
「灰原さん!」
「おめえ・・・どうして!?」
驚いたコナンがそう言うと、慌てて哀の背中に手をあて、舞台の袖、人のいないところへ哀を連れて行った。
その様子を不思議そうに見ていた晶子は、その場に取り残されてしまった。
舞台の反対側では、蘭が気づいていた。
(哀ちゃん・・・どうして?)
舞台の袖で、他の人から離れたところにいるのを確認したコナンは、哀に声をひそめて言った。
「何かあったのか?」
「何かあったのは、そっちでしょう?これ、持ってきてあげたのよ」
哀は、親指と人差し指でつまんだ蝶ネクタイ型変声器を、コナンの目の前に差し出した。
「眠りの小五郎の登場でしょ?そろそろ・・・」
「あっ!」
コナンは、小さく声を上げた。変声器を忘れたことに、今、初めて気づいた。
(危なかった・・・あのまま麻酔銃を撃ってても、眠りの小五郎ができずに困っちまってたな・・・)
(何してるのかしら・・・)
晶子は、遠目にコナンと哀を見ていた。2人は、向うを向いているので、変声器は、晶子からは、見えなかった。
晶子は、ふと、背中に視線を感じ、振り返ると、蘭もコナンと哀の様子を見ている。
(蘭さん・・・なんて、寂しそうな目・・・いったい、あの2人と蘭さんの間に何があるのだろう)
「早くしないと、あの迷探偵、他の人を犯人にしちゃうわよ」
哀に促されたコナンは、舞台の中央へ戻ると、小五郎の後に周りこんだ。しかし、晶子と蘭が見ていて、麻酔銃を撃つことができない。
(くそっ!なんとか、蘭と晶子ちゃんの目を逸らす方法はないか・・・)
コナンは、困ってしまった。
「んがぁ・・・きた・・・」
その時、奇声がして、小五郎がその場に崩れ落ち、舞台の後にあった椅子に座り込んでしまった。
「おお!眠りの小五郎だ!」
一同が声を上げる。
「?」
自分が麻酔銃を撃つ前に、小五郎が眠ってしまい、呆気に取られたコナンだが、すぐに思い当たって哀を見た。
哀は、右手に阿笠手製の麻酔銃を持ち、コナンと目が合うと、笑みを浮かべ、ウインクした。
(哀・・・)
コナンを見ていた蘭と晶子も、座り込んだ小五郎に目を奪われていた。その僅かな隙に、コナンは、舞台の後のカーテンの裏に隠れる。哀も、袖からカーテンの裏に入り、コナンの傍に行った。
(あれ?コナン君はどこ?・・・灰原さんもいない)
晶子があたりを見回す。ふと見ると、蘭も2人を探しているようだった。
そして、眠りの小五郎こと、コナンの推理ショーが始まる。
その途中、カーテンの裏に隠れ、口に蝶ネクタイを当てながら、コナンは、哀の方を見てウインクすると、そっと、彼女の手を握った。
*****
「おめえ、ホントに変声器を持ってくるためだけで、ここへ来たのか?」
小五郎の推理ショーが終わり、犯人が警察に連行され、一件落着となった後、その様子を舞台袖の陰から見ていたコナンは、隣に立つ哀に言った。
「・・・そうよ・・・たぶん、事件に巻き込まれていると思って・・・」
そう答え、向うを向いてしまった哀を半目で見たコナンは、表情を崩して、彼女に言った。
「気になってたんだろ?俺と晶子ちゃん・・・」
「別に・・・」
相変わらず、哀は、向こうを見たままだった。
「ま、助かった。おめえがこれ、持ってきてくれて・・・」
変声器を振りながら、コナンが言う。
「コナン君」
声をかけられ、コナンが振り向く。哀も、声の方に振り向いた。
「・・・蘭・・・姉ちゃん」
「ね、コナン君、話があるの、ちょっと、いい?哀ちゃんも・・・」
コナンと哀は、顔を見合わせ、小さく頷きあうと、蘭の方を見た。
「うん・・・」
頷いたコナンと哀を見て微笑んだ蘭は、2人を促すように小さく手招きすると、振り向いて歩きだした。その後に、コナンと哀が続く。
その様子を見ていた晶子は、少し考えていたが、少し離れて3人の後について歩きだした。
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