第24章:ゆめ
阿笠は、二階の哀の部屋の隣に、コナンの部屋を用意してくれた。8畳ほどの広さで、隣の哀の部屋と互い違いになるようにクローゼットがある他は、哀の部屋と同じつくりだった。
南に窓があり、有希子が用意した机やパソコン、ベッドを持ち込んだ。
コナンが引っ越してきて3日目の夜、夜中に目覚めたコナンは、なぜか妙な胸騒ぎに襲われた。
時計を見る。
「2時すぎ・・・」
喉の渇きを覚え、廊下へ出てみると、隣の哀の部屋から、物音が聞こえている。少し躊躇ったコナンだったが、ドアをノックし、声をかけた。
「哀、まだ起きてんのか?」
「え?工藤君・・・」
ドアが開き、哀が顔を出す。
「ごめんなさい。起しちゃった?」
「いや・・・でも、こんな遅くまで、なにやってんだ?」
「ちょっと・・・データの整理してたら、意外と時間がかかってしまって・・・」
哀が一瞬、戸惑った表情をしたのをコナンは見逃さなかった。
「そっか・・・あんまり、無理すんな・・・」
「わかったわ・・・もう、寝るから」
「眠れないんなら、添い寝してやろうか?」
コナンがニコッと少し意地の悪い笑顔をする。
「バカ」
コナンを睨んで、そう言うと、哀は部屋に入り、ドアを閉めてしまった。すると、コナンの顔から笑顔が消え、その表情が曇った。
コナンは、キッチンのある1階へ降り、冷蔵庫にあるミネラルウォーターのペットボトルを取り出すと、コップに移し、それを喉を鳴らして飲み干し、さらに水をコップに注ぐと、リビングのソファに座った。
(アイツ・・・)
今さっきみた、一瞬の哀の戸惑った表情を思い出す。
(やっぱ、言いたいことは、言わねえとな・・・)
コップの水を今度は、ゆっくり飲むと、空になったコップをキッチンのシンクに置く。そして、ゆっくりと2階へ上がり、哀の部屋のドアを横目で見てから、自分の部屋に戻り、ベッドに潜り込む。しばらく、哀の部屋の方の壁を見つめていたが、やがて寝返りを打って反対の方を向くと、目を閉じた。
ドアを閉めた哀は、しばらくその場に立ち、無表情でドアを見つめていた。そして、コナンが階段を降りて行く足音を聞き、それが1階へ消えると、ゆっくり振り返った。
哀は、パソコンを見つめると、その前に座りなおした。
*****
次の日の朝、コナンが起きてリビングに降りると、哀が眠そうな顔をして朝食の用意をしていた。少し、疲れた顔をしている。それでも、コナンを見ると、微笑んだ。
「おはよう」
その美しい笑顔に、コナンの胸が高鳴る。同時に、疲れている様子も見え、胸に苦しさも覚えた。
「おはよう・・・大丈夫か?・・・あんまり、寝てねえんだろ?」
「大丈夫よ」
哀がそう応える。コナンは、その声を聞きながら、あたりを見回した。
「博士は?」
「今日は、九州で学会だから、朝一に飛行機に乗るって、もう出て行ったわよ・・・聞いてなかったの?」
哀が呆れたようにコナンを見ている。
「あれ?今日だっけ?」
九州の学会に出席するとは聞いていたが、今日が出発日だとは、忘れていた。
「帰り、来週だっけ?」
「ええ。火曜日・・・」
「じゃ。4日間、二人っきりか」
コナンがニヤッとして、哀の方を見る。
「何?襲う気?」
「バーロ・・・二人でゆっくりできるなって、そう言いたいだけだよ」
「ほんとかしら?」
哀は、クスっと笑うと、キッチンへ消えた。
コナンは、しばらく、リビングで新聞を読んでだりしていた。と、キッチンで何か物音がした。
不審に思って、哀に声をかけながら、コナンがキッチンを覗いた。
「哀・・・どうした・・・!」
コナンの視界に、床に倒れている哀の姿が入った。
*****
「哀・・・やっぱり、俺、帰るわ・・・」
「工藤君・・・?」
哀は、とっさにコナンの言葉が理解できなかった。
「帰るって?」
哀が首をかしげて訊く。
「アイツのところだよ・・・だから、解毒剤をくれよ・・・俺、蘭のところへ帰らなきゃなんねえから・・・」
コナンが哀に手を出して言う。
「・・・やっぱり、あなた、彼女のところへ帰りたいのね・・・工藤新一に戻りたいのね・・・」
哀は、少し俯いて、横を向いた。
「そうだよ・・・だから、早く解毒剤をくれよ・・・」
「あなた、一緒に歩いて行くって・・・私と一緒に生きていくって、言ってくれたじゃない・・・」
哀は、コナンを見つめなおして言った。
「あん時は、そう思った・・・でも、やっぱ、蘭の元へ帰らねえと・・・アイツ、いつまでも、待ってるから・・・だから、解毒剤をくれよ」
コナンが哀に詰め寄るように言う。
「解毒剤をくれよ」
「ごめん・・・できないの」
哀は、また俯いてしまった・
「嘘だろ?・・・解毒剤をくれよ・・・哀」
「できない!できないの!・・・お願い・・・私と一緒にいて・・・私には、あなたしかいないの・・・私を一人にしないで・・・お願い・・・く・・・どう・・・くん・・・」
「!」
「・・・ゆめ」
哀が眼を覚ますと、見慣れた自分の部屋の天井があった。
「眼、覚めたか?」
コナンが哀の寝ているベッドの傍に椅子を置いて座っている。
「私、どうしたの?」
「倒れたんだよ。キッチンで・・・で、新出先生に来てもらったんだ・・・過労だってよ・・・寝不足と食事が原因だろうって・・・おめえ、小学生が過労って、どう言い訳したらいいと思う?・・・たく、頼むぜ」
そういいながらも、コナンは、笑っている。
「よかった・・・たいしたことなくて・・・ほんと、おめえ、俺を心配させるよな、いつも」
「ごめん・・・」
「わりいな・・・」
コナンがそう言って、哀の頭に優しく手を当てる。
「え?」
哀には、コナンがそう言う意味がわからなかった。
「いや・・・俺がちゃんと、おめえと話をしなかったのがいけなかったんだよな」
上体を起そうとする哀を、コナンが手助けし、哀の肩に、上着をかけてやる。そして、そのまま、後から、哀を抱いた。
背中にコナンのぬくもりを感じながら、哀は、さっきの夢を思い出していた。なぜ、あんな夢を見たんだろう。自分のなかに、コナンの自分に対する気持ちを疑う部分があるのだろうか。それとも、身近な愛する人を失ってきた自分には、無意識にコナンを遠ざける気持ちがあるのだろうか。
「おめえ、解毒剤の研究、やってんだろ?」
「え?」
不意に言われ、哀は、後から自分を抱いている腕に手をかけ、彼の顔を見ようとした。しかし、コナンの顔は、哀の肩にあって、見ることはできない。ただ、自分の頬がコナンの頬に触れていた。
「やっぱ。ちゃんと話さなきゃいけねえな。おめえの話も聞かねえと・・・」
コナンは、哀を抱いている腕を外し、ベッドから降りて、哀と見つめ合った。 |