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コナン哀ものがたり
作:サブラピッド



第23章:ひとつの別れ


「な。俺さ、毛利探偵事務所を出ようと思ってんだ」
「そう。やっぱり・・・」
 学校帰り、阿笠邸に寄ったコナンが、哀の部屋で、彼女に言った。

「ハハ、やっぱ、おめえ、気づいてたか」
「なんとなく、ね・・・蘭さんのことでしょ?」

 コナンと哀にとっての気がかり、それは、やっぱり蘭のことだった。こんなことを言えた義理でもないのだが、蘭には、幸せになってほしいと思う。

「アイツ、たぶん、俺が新一だと気づいている。前にも何度かあったけど、今回は、確信してると思う」
「そう。もう、前みたいな下手なごまかしは、通じないってことね」
 哀も、蘭がコナンを見る目が以前と違うことに気づいていた。そして、哀を見る目も違うことも。
その目には、真実を知る恐怖も宿っている。しかし、蘭の新一への想いが以前と変わっていることも感じていた。

「彼女、大丈夫?」
「蘭は、強いさ。俺なんかより・・・それに、おっちゃんも、英理さんも、園子もいるし・・・俺が蘭にできることは、もうないと思う」
「そう」
「それにさ、おっちゃん、英理さんとより戻して、新しい家で暮らしたいみたいなんだ・・・いくらなんでも、そこへは、ついていけねえしな」
 哀は、コナンの顔を見つめ、少し首をかしげて話しを聞いている。コナンは、こんな時の哀の表情が好きだった。

「でさ、おめえがいやじゃなきゃさ、ここに世話になろうと思ってんだけど?」
「隣に自分の家があるのに、居候しないといけないなんて、因果ね。でも、私より、博士に言うべきことだわね、それ」

「博士に言う前にさ、おめえに言っときたいんだよ。おめえがいやなら、他に考えるし・・・っていうか、博士に世話になることはともかく、おめえと暮したいんだ。おめえと、少しでも長く一緒にいたい・・・一緒に暮せるなら、どこでもかまわない」

 コナンは、哀の表情を伺うように見つめた。

「プロポーズみたいね」
 哀は、目を細めて言う。
「ありがと。私も、あなたと少しでも長く、一緒にいたいと思ってるわ。あなたが来てくれるなら、嬉しい」

 そう言って、哀は微笑えむ。そして、コナンに体を預けてきた。そんな彼女をコナンは、そっと抱きしめる。
「明日、博士に頼むよ。それから、おっちゃんと蘭に言って、早いうちに、おめえのとこに行きたい」

*****

「じゃ、蘭姉ちゃん、行くね。おじさん、今まで、ホントにありがとう」

 コナンは、3年近く世話になった毛利探偵事務所を出て、阿笠邸に居候させてもらうことになった。

「いや、礼を言うのは、こっちの方かもな。コナン、今まで、蘭のこと、ありがとな」
「おじさん・・・僕は、何もしてないよ」
「それからな、これ、お前のお母さんから預かってた通帳だ」

 それは、かつて、江戸川文代なるコナンの母に変装した有希子が、小五郎にコナンの養育費として渡した1千万の銀行預金の通帳だった。

「え!?おじさん、1円も使ってないじゃないか!」

 コナンは、通帳を見て驚く。一度も引き出されておらず、3年間の利子の分だけ、金額が増えている。
「当たり前だ。天下の名探偵、毛利小五郎がガキ一人を世話できずにどうすんだ」
 そう言って、胸を張って笑う。

「おじさん・・・ありがとう」
 コナンは、心から、小五郎に頭を下げた。

「コナン君。いつでも、遊びに来てね」
「うん。蘭姉ちゃんも、遊びに来て。それに、また、どこかへ連れってほしいな」
「そうね。また、誘うわね」

 別に遠く離れるわけでもないのだが、3年間、コナンの保護者であった蘭にとっては、やはり寂しいことには違いない。新一が離れ、帰らなくなってしまった後、コナンの存在にどれほど救われたのか、今更ながら、蘭は、思い知らされている。

 そして、コナンは、毛利家を出る理由として、小五郎が別居中の英理との復縁を真剣に考えていることを言ったが、蘭は、コナンが哀と一緒に居たいという想いが強いことも、十分感じていた。

(まったく、哀ちゃんにヤキモチでもないわよね・・・)

 蘭は、自嘲して笑う。
 3年前、初めて会ったときに比べて、大きくなったコナンの背中を見つめていたが、その姿が霞んできた。

(なんで泣いてるのよ。たとえ、コナン君が新一だとしても、もう私のところには、帰ってこないって、わかってるじゃない)

 コナンも背中に蘭の視線を感じている。哀と歩いて行くことを決めた。その時に、蘭とは、気持ちの上で別れたはずだった。でも、この寂しさ、辛さはなんだろう?哀がいるのに、自分のことを一番信頼し、愛してくれている女性がいるのに、最愛の人がいるのに、なぜ、蘭との別れがこんなに辛いのだろう?

 コナンは、その想いを振り切るように、振り返って蘭と小五郎に手を振った。蘭が手を振り返す。

その姿に笑顔で答えたコナンは、阿笠邸へ、愛しい人の待っている場所へ歩き出した。












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