コナン哀ものがたり(13/51)PDFで表示縦書き表示RDF


コナン哀ものがたり
作:サブラピッド



第12章:二人の告白


 その日、目暮と白鳥が険しい表情をして、コナンと哀を訪ねてきた。

 佐藤、高木両刑事に従い、哀の車椅子を押したコナンが病院内のある場所に着くと、そこは、目暮が手配して借りた病院の応接室の前だった。入り口に警官を立たせ、コナンと哀をその部屋の中に案内する。目暮と白鳥がソファに座り、向かいに車椅子の哀、その隣の椅子にコナンが腰掛け、扉に近い方で向かい合う4人を横から見るように、佐藤と高木が椅子に腰掛けた。

「話が済むまで、誰もこの部屋に入れないように」
「ハッ!」

 白鳥がドアの外にいる警官に声を掛け、ドアを閉め、鍵を掛けた。
 厳しい表情の目暮が口を開く。

「二人とも、順調に回復しているようだね」
「はい」
「まずは、よかった」
「ありがとう」
 
 コナンが言うと、目暮は、フッと息を吐き、コナンの目を見て言った。

「今日、ここへ来たのは、警察官としてではなく、君達を知る者として、友人として、訊きたいことがあるからなんだ。ここにいる4人、相談の上、ここへ来た」

 コナンは、そう言われて哀を見た。いつもと変わらず、静かに目を閉じ、腕を組んでいる彼女の様子に、コナンも落ち着いて目暮に目を移した。

「あの黒の組織の事件、今、世間は、この話で持ちきりだ。そして、強制捜査の現場にいたFBIと共に君達がいたこと、私には、偶然とは思えん」

 目暮は、いつものような子供を見る目ではなく、鋭い目で、コナンと哀を見つめてくる。

 次に口を開いたのは、白鳥警部だった。
「君達のあまりに大人びた・・・いや、時に、大人以上の知識や言動。そして、あの世間を揺るがす大事件の現場に君達がいたこと・・・私は、君達がただの子供だと思えなかったが、今回、その思いが確信になった」

 コナンは、白鳥を静かに見つめている。哀は、腕を組んで目を閉じたままだ。

「コナン君、哀君、トキワの原専務殺害事件を覚えているだろう」
目暮が問う。

 原は、組織のメンバーで、組織のデータをハッキングし、自身が専務を勤めたコンピュータ会社、トキワのメインコンピューターにデータを送った可能性があったため、ジンに殺された男だった。

「実はな、殺害された原佳明の部屋を捜索したとき、気になるメモを見つけたんだ」
「え?」

 コナンが小さく声を上げる。

「彼は、死の直前、トキワ本社にあったコンピュータを・・・人間の10年後の顔を推定して写真にするというヤツだが・・・かなり時間をかけてチェックしていたらしい」

 コナンがピクリと肩を動かす。哀も、目を開いた。

「そして、彼のメモを見つけたんだが、そこに君達の名前があった」
「俺達の名前・・・そうか」
 コナンが小さく呟く。

「ERROR 江戸川コナン 灰原哀・・・メモには、そうあった」
 
 コナンと哀が目を合わせる。

 その様子を見ていた白鳥が、目暮の話しを継ぐ。
「君達は、蘭さんや子供たちと、あのコンピュータを試したそうだね。それで、君達二人だけ、10年後の顔が出なかったそうだが、殺された原さんは、その原因を調査していた・・・そして、彼は、コンピュータではなく、君達自身に原因があるのではと考えた。それで、君達のことを調べようとしていたようだ」

 今後は、目暮が白鳥に変わって話す。

「君達が彼の死体を発見したが、その時、彼が殺害されず、君達と会っていたら、君達の方が彼にいろいろ訊かれたかもしれないな」

「原佳明は、今回のことで、組織に関わりのある人間とわかった。彼を殺害した犯人は、まだわかっていないが、トキワのツインタワービルの爆破事件と考え合わせると、犯人は、組織の人間の可能性が高い・・・警察は、そう考えている。そして、あの爆破事件が、トキワのコンピュータの破壊と共に、誰かを殺害する目的であったとすれば・・・そして、君達があそこにいた。これは、偶然かな?」

 目暮がコナンと哀を交互に見る。

「いや、無理やりに訊こうとは思わない。今日は、警察官としてではなく、あくまで、君達の知人として来たのであって、もちろん、話しは、上に報告することもしないし、公表も、もちろんしない。必要なら、ここに居る者だけの秘密にしようと4人とも思っている」

 ここまで言われ、コナンは、小さく息を吐くと、哀を見つめた。
哀は、コナンの視線を受けて頷く。コナンは、その様子に、哀にフッと微笑んで、目暮に向き直って、意を決したように眼鏡を外した。

「目暮警部、白鳥警部、佐藤刑事、高木刑事・・・今まで、騙していてすみませんでした。僕は、工藤新一です」

「えっ!?」

 目暮は、驚いて目を見開く。白鳥も目を大きく開いてコナンを見たが、二人は、声を出さなかった。声を上げたのは、佐藤と高木両刑事だった。

 半ば、呆然とする4人の警察官を前に、コナンは、順を追って話し始めた。

 トロピカルランドで組織の取引現場を目撃し、ジンに毒薬を飲まされ、意識が戻ったら体が幼児化していたこと。その後、コナンになって、組織を追っていたこと。その途中でジョディらFBIの捜査と協力してきたこと。
しかし、哀に関しては、何も話さなかった。

「そして、あの茨城の工場に、ヤツらの本拠にジョディ、赤井捜査官達と入り、撃たれたことは、ご承知の通りです」

 哀は、また、腕を組んで、目を閉じている。4人の大人、それも警察官が9歳の少年の話に呆然と聞き入り、9歳の少女だけが冷静な表情で目を閉じているという、異様な風景の空間がここにあった。

 気を取り直したように目暮が口を開く。

「・・・その・・・毒薬の副作用で君が、工藤君が幼児化したのがコナン君だったというわけか・・・信じられんが・・・まあ、君の並外れた推理力、知識の量を思えば・・・で、他にこのことを知っているのは?」
「ここにいる灰原の他は、俺の両親と阿笠博士、それに大阪の服部平次です」

「毛利君と蘭君は、知らないんだね?」

「ええ。毛利探偵事務所に転がり込んだのは、探偵事務所であれば、いずれ、組織の情報が入るかもしれないからと考えたからです。でも、毛利探偵と蘭や英理さんには、組織の手が伸びたときのことを考え、僕の正体は隠していました」

 自分のことを話したコナンは、心配げに車椅子の哀を見た。彼女のことをどこまで話すべきか、できれば、哀のことは、何も言いたくはなかった。
 しかし、そのコナンの想いとは裏腹に、白鳥が哀に向かって訊いた。

「灰原さん・・・君も、工藤君と同じなのか?」
 哀は、目を開くと心配そうに自分を見ているコナンに微笑んだ。そして、白鳥を見て真剣な表情をつくると、初めて口を開いた。

「ええ。私も彼と同じ・・・私の本名は、宮野志保。元は、黒の組織と呼ばれている組織の一員で、彼が・・・工藤君が飲まされた薬の研究開発責任者でした」

「何だって!」

4人の警察官が驚愕する。コナンは、心配そうに哀を見つめている。哀は、かまわずに続けた。

「幼児化したのは、工藤君が飲まされたのと同じ薬を飲んだからです。彼と違い、自ら飲んだんですが。死ぬつもりで・・・」

「・・・それで・・・どうして、コナ・・・工藤君と知り合ったんだね?」

 驚きながらも、目暮が疑問を口にする。
 自分以上につらい話になることを知っているコナンは、目暮を制止した。

「すみません、警部。彼女のことについて話すのは、少し待ってもらえませんか?」

 待ったところで、何の解決にもならない。しかし、コナンは、ここで哀に、彼女の背負うつらい過去の話をさせたくはなかった。なにより、コナン自身が耐えられそうにない。

「私は平気よ」
 哀がコナンを見て言う。
「おめえの話を・・・おめえに話をさせるのは、俺がつらいんだよ」
「工藤君・・・」

 哀は、硬く握られたコナンの右手の拳を両手でそっと包み込むように触れると、自分の胸に当てた。

「ありがとう、工藤君。でも、いつかは話さないといけないことよ」

 哀は、胸に当てた手をそっと離そうとしたが、コナンの右手が哀の左手を握りしめ、離そうとはしなかった。
 哀がコナンに視線を向けると、歯を食いしばって、哀を辛そうに見つめている。

(大丈夫だから)

 そういう想いを込め、哀はコナンに微笑んだ。

 哀が話し始めた。

 自分の両親が組織で薬の研究をしていたこと。自分が幼い時、その両親が事故死したこと。組織にアメリカ留学させられ、その後、両親の研究を引き継いでいたこと。
そして、同じ組織にいた姉が、姉自身と自分を組織から抜けさせるため、10億円強奪事件を起こし、警察は自殺と断定したが、本当は組織に殺されたこと。

 姉の死に抗議し、組織で研究を中止したこと。そのため、反逆者として拘束され、死ぬためにアポトキシン4869を飲んだこと。そして、幼児化したため、脱出に成功し、阿笠に保護されたこと。組織から逃げたため、宮野志保は、命を狙われていたこと。そのためにいくつかの事件が起きたこと。

 哀は、表情も変えず、淡々と話していた。しかし、警察官4人は気づかなかったが、姉の話になると、僅かに表情が歪み、声が少し震えていた。それには、コナンだけが気づいていた。哀の表情がわずかに歪み、声が震えると、哀の手を握るコナンの手に力が入る。そのたび、哀もコナンの手を握り返してきた。

 哀の長い話を聴き終えた目暮ら4人の警察官は、その内容に唖然としていた。見た目は小学生の哀の口から出た話の重大さに愕然とする思いがし、4人ともしばらくは黙っていた。

 長い沈黙を破ったのは、白鳥だった。

「灰原・・・いや、宮野さんと呼ぶべきか・・・その話、真実とすれば、君は、逮捕、起訴される可能性が高くなる。それを覚悟で今の話を我々にしたということかな」

 哀の手を握るコナンの手に力が入り、悲痛な表情で哀を見つめている。

「そうね。それは、やむを得ないと思います・・・それだけのことをしたのだから・・・」
「灰原・・・」

 コナンが何か言おうとした時、目暮が口を開いた。

「いや、この話しは、あくまで、二人の知人として訊いたことだ。報告も、公表もしない・・・考えても見ろ、人間が幼児化したなんてことが公になれば、大騒ぎになるぞ。この二人がどうなるか・・・世界中の注目の的、実験材料にされかねん」

「そうですね・・・もっとも、それ以前に、世間が簡単に信じるとは思えませんが・・・いずれにしろ、マスコミの話題の格好のネタにはなるでしょう」
 白鳥が言うと、目暮がコナンと哀を交互に見て、改めて言った。

「とにかく、今、君達に聞いた話は、ここにいる4人は一切口外しない。警察の上層部にもあの組織と係わりのあった人間がいないとも限らん。私は、このまま、何も知らないことにしようと思う」

 目暮は、白鳥と佐藤、高木に向かって言った。
「今、コナン君と哀君から聴いた話は、私は、決して他言しない。家族にも・・・たとえ、死んでもな・・・できれば、君達にもそうしてくれ」

「言っても信じてもらえないでしょう。私も、目暮警部と同じく、知らないことにします」
 白鳥も目暮に同心した。

「佐藤君、高木君」
目暮が半ば、唖然としている二人の部下を呼んだ。

「私も、何も聞かなかったことにします。ただ、今後は、二人の身辺については、それとなく、警戒したいと思いますが・・・」
 佐藤がそう言うと、高木も同意した。

「私も、佐藤さんと同意見です」

「わかった。二人の身辺については、私も注意することにしよう・・・もっとも、今後も事件現場で会えそうな気はするがな」
 目暮が始めて笑顔を見せて、コナンの方に顔を向けた。

「ありがとう、目暮警部」

 コナンが頭を下げると、哀も同じように頭を下げた。

「君達には、いろいろな事件で恩があるからな・・・じゃ、またな。これから、いろいろ大変になるかもしれん・・・いずれにしろ、よろしく頼むよ、コナン君、哀君」

 目暮と白鳥が部屋を後にし、敬礼をして見送っていた佐藤と高木が、哀の車椅子を押して病室へ戻るコナンの横についていた。

 佐藤が口を開く。
「それにしてもねぇ。あなた達、ただ者じゃないとは思ってたけど・・・信じられないけど、今までのあなた達の言動を思い返すと、納得はできるわね・・・」

「ごめんね。今まで黙っていて・・・騙すつもりはなかったんだけど・・・」
 コナンがバツが悪そうに佐藤を見上げて言う。

「なあ、くど・・・コナン君。あの東都タワーのエレベーターに閉じ込められた時、君に訊いたよね?君は何者なんだい?・・・って。あの答え、やっと教えてもらえたわけだ。」
 高木が、まだ驚きを隠せないような表情でコナンに言った。

「そして、哀ちゃんの言動も・・・」
 高木は、今度は哀を見た。

「悪いと思っているわ・・・みんなを欺いて。責任は、私にもあるのに・・・」
 哀の表情はあまり変わっていないが、声がいつもより沈んでいる。

「哀ちゃん・・・あなた、強いわね。そして、綺麗だわ」

 佐藤が微笑んで哀に言う。
「えっ?」
 哀が驚いて佐藤を見る。

「だって、あなたが経験してきたこと・・・私だったら、とうに耐えられなくて、潰れているわよ」
 そう言った後、意味ありげにニヤっと笑ってコナンと哀を見ると、

「まあ、そういうことなら、あなた達、立派な恋人同士というわけね。応援してるわよ」
 と、言ってウインクした。


原作では、この4人の刑事、一向にコナンと哀を不審に思う気配がありませんが・・・とくに高木刑事は、身にしみてるようの思うのですけど。今回は、高木刑事の影が薄くなってしまいました。











ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう