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同棲生活最後の日

作者:風富来人
 今日、由香と俺は約三年間に及ぶ同棲生活にピリオドを打つ事になった。
 同棲生活を終わらせようと言ったのは俺の方からだ。俺が由香にその事を告げた日、俺の言葉を聞いた由香はこらえきれずに泣き出した。由香は泣きながら俺の思いを了承してくれた。

 昼食を食べ終えた後、俺は食器を洗った。
 由香の使う茶碗は縁が一部欠けている。以前俺が洗い終わった茶碗を食器戸棚に仕舞う時、誤って床に落として欠いてしまったからだ。
 由香が大切に使っていたのを知っていたので、俺はすぐに由香に謝った。すると由香は、「気にしないで。形あるものはいつかは壊れるから」と言って俺を咎める事はなかった。茶碗を買い換える事を提案したのだが、由香は物を大切に使う女性で、買い換える事はせず今日まで使ってきた。
 食器を洗い終わった後、俺達はお揃いのマグカップでコーヒーを飲んで一息ついた。
「今日で終わりなんだね……」
 由香がしみじみと言った。
「ああ。前々から決めていた事なんだ」
「私達、これからどうなっちゃうのかな? 雄二の事、これからなんて呼べばいいかな?」
「今まで通りでいいんじゃないか? その方が俺も落ち着くし」
「うん」
 同棲しようと言ったのは由香の方からだった。俺は当時仕事が忙しく、家にほとんど帰らない日々を送っていた。そんな状況を見かねた由香が「家賃がもったいないから」と言って同棲する事を提案してくれた。
 同棲生活が始まると由香は毎朝俺より早く起きて朝食と昼食の弁当を作ってくれた。
 初めて由香が弁当を作ってくれた日の事は忘れられない。由香の作ってくれた弁当はご飯の上に桜でんぶで「大スキ」と書かれていた。その日から同僚の目を気にして俺は一人で職場近くの公園で弁当を食べるようになった。由香の「大スキ弁当」に元気づけられたおかげでいくつものつらい仕事をこなす事ができた。
 由香は仕事で疲れているのにも関わらず、毎晩欠かさず夕食を作ってくれた。俺は仕事を切り上げてなるべくその日のうちに帰宅するようにして、由香の作ってくれた夕食を食べた。今は週に三日くらいは由香と一緒に夕食を食べられるようになっていた。
「おかえりなさい。今日もがんばったね」
 俺が帰宅すると由香はいつもこの言葉をかけてくれた。

「救われた」
 そんな気持ちを抱いた。
 その反面、
「いつまでも由香に甘えていてはいけない」
 こんな気持ちも抱いた。
 だから俺は、同棲生活にピリオドを打つ日を心に決めた。

「コーヒー飲んだら行くよ」
「うん。すぐ支度するね」
 家から駅に続く道、由香と二人恋人同士で歩くのは今日で最後だ。もうじき由香と俺は恋人同士ではなくなる。
 俺は緊張しながら駅に続く道を歩いた。

 電車に乗ってひと駅。俺達はこれまで数多くの恋人達がこれから幸せな毎日を送るために訪れる場所に向かった。
 由香と俺が向かった場所は区役所だ。
 俺達は婚姻届を提出するためにここを訪れた。
 十一月二十二日、「いい夫婦の日」。入籍するならこの日だと俺は以前から決めていた。
 今日は日曜日なので窓口業務は行われていなかったが、守衛室窓口に婚姻届を提出した。
 婚姻届を提出したら守衛さんから「入籍おめでとうございます」とお祝いの言葉を頂いた。
 区役所からの帰り道、由香がスーパーに寄ろうと言い出した。
 スーパーの生活品売り場で俺達は夫婦茶碗と夫婦箸を買った。
「雄二、この夫婦茶碗は今までの茶碗より大事に扱ってね」
「ああ。由香の一部だと思って大事に扱うよ」
 駅から家に続く道、俺達は手を繋いで帰った。
 同棲生活最後の日、今日から由香と俺は夫婦としての新たな生活を始める事になった。

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