秘本竜馬伝 心に空を恋う男(3/4)縦書き表示RDF


秘本竜馬伝 心に空を恋う男
作:L.B.



目覚め


ぱきぱきと、何かがはじける音がする。

そう思ったのが、最初。意識を取り戻して、音に気づいた。

目は、あけることが出来ないが、ただ、オレンジ色の光が近くで揺らめいているのは何となく分かった。

目が熱い。目の奥が、じくじくと、重さを持った熱に支配されている。

「いてぇ…よぉ」

声が裏返っている。もしかして、最後に声を発してから、相当時間が経ってるんじゃないのか。
喉がからからだ。

意識失ってから、どれだけこんな状態やったんやろう。

「あ、あー。あ?あー」

とにかく声が出る、

生きてる。

よし、生きてる。

利次は、自分が生きていることを確かめると、安堵した。

意識はあるのに体が全く動かない。それだけ大怪我をしているということだ。
それで生きているのだから、ラッキー、ぐらいに思っているのだろう。

しかし、利次は不意に違和感を感じた。

あれ、そういや、ここ、病院じゃねぇ、よな。

何となく、自分が寝転がっているのが病院のふかふかとは言えないが多少弾力のあるベットでないことが分かった。

恐らく、傷も汚れを取って布か何かを巻かれているだけだろう。

もしかして、俺、生きてるけど、やばい感じ?

強盗かなんかに連れ去られたーみたいなオチ?

なわけなさそうだけど。

とりあえず、近くに人がいないか確認することにした。

「ぁ、…う゛ン」

いでぇ!!

声を出そうと咳払いをすると肺の奥がきしんだ。

折れてそうだな。でも確か肋骨って治療できないんだよな。

「す、すいません、誰かー、すいませーん」

声を出したその側から返事が返ってきた。

「うーくーうぅうぅぅん、うー?」

へ?

驚いて声を失っていると、そのすぐ側にいた人は利次の体に触れた。

うわっ、ばさばさな感じ なにこの人、って言うか人?

「何?!」

「う ぅ わふっ!!わふ!!」

思いっきり吠えてんじゃん

あ、もしかして犬?

俺、犬に助けられたとかそういうオチ?

そりゃ病院無理だよな

って、じゃ、結構ピンチ。これって感じ的に重体だよね。さっきまで意識不明だったんだし。

えー。どうしよう。

生来ののんびりした考え方で、逼迫した状況にもかかわらず、利次は落ち着いていた。

ま、生きれるところまで、生きてみよう。
この分じゃ、主役なんてしなくてよさそうだし。

文化祭のことを思い出したついでに、利次は肝心なことを思い出した。

せんせぇ!!

いないじゃん。俺のすぐ近くにいたのに。

ってかそうだっけ、俺、最初に意識取り戻したとき何人かの人に助けられてたよね。

人間の言葉を喋ってたじゃん。何か凄く迷惑そうだったけど。

て、ことは強盗じゃないな。

そう思っていると、足もとの方で扉が開く音が聞こえた。

音がすると同時に、利次の側にいた犬がそちらの方に走っていくのが分かった。

「お、気がついたみてぇだな」

そんなに嬉しくなさそうだな。30〜40歳くらいか?

声の調子から、そんなことを思っていた。

「話せるのかい?え、異人さんよ」

え、イジンサン?

イジンさん…異人さん…偉人さんは違うな。

俺が?

何で?

「異人さんですか?」

おぉ、達者じゃねぇかとその男は笑った。

「わしの話してること分かるかね」

「もちろんです、僕日本人ですから」

「あぁ、混血かぇ。心配せんでもえぇ、わしはそういうの気にせんからの」

「違います、父も母も日本人です」

「そうかいそうかい、気にしなさんな」

全く聞く気が無いようだ。

何で、俺、異人さんやと思われてるんやろ。

背が高いから?って180なんていまどき珍しくなんて…

「すいません、おじさん、これ、頭の多分血です。髪の色じゃありませんが」

考えられることといえば、髪に付いた血が髪を赤く見せているのだろう。

利次はとっさにそう言ったが、男は髪なんて真っ黒じゃが、と言い放った。

「じゃ、何で異人さんだと思うんですか」

「そりゃ、そんだけ背ぇ高けりゃのぅ」

ぴんぽーん、最初の勘のほうが当たってんじゃん。

「や、180センチなんてざらにいるじゃないですか」

そういうと男はぼんやりとしているようだった。

「はっは、やっぱり異人さんじゃ。何言うてるかわからんわぃ」

そんな、ここどこだよ。ホント。

利次は気を取り直してその男に今の状況を聞いた。

「おまぇさんはのぅ」

何と言うか、と、しぶしぶ、その男は話し出した。

「残念じゃが、お前さんが入っとった船は不吉じゃ言うて郷のもんが壊してしまったぞ、難破したんじゃろ粉々だったしの」

船?何だそれ。ゴウって何

「今の国ん中であんなもんつくれる腕持った奴はおらんからの」

「このご時勢で京様らが異国の船についてこんなに進んどると知ったら驚くでな」

京様?

「ほれ、帝さまのことじゃ。恐れ多くての」

「あんなもんて?」

あの白い壁みたいな、と男は言っていたが、利次は何のことかが分からなかった。

最初から、分からなかった。

どうして、ここは病院じゃないのか。

と、言うか、自分が何で怪我をしているのか、から分からない。

男との話も意味不明で会話が成り立たないし

周りが静か過ぎるのが何故なのか、分からなかった。

「あの、質問ばかりですいません。ここ、どこですか」

男の話をさえぎり、利次は質問してみた。

男は、わしの家、と言った。

「そうじゃなくて、市の名前とか、町の名前とか、この家が建ってる場所!!山ん中?何でこんなに静かなの」

利次の言っている事が分からないと言うような感じで、男は黙った。

ここは、仙崎じゃが、長門の。静かか?普通じゃろ

思いもよらない返答に、利次はいらだった。

センザキ?ナガト?どこだよ、そりゃぁ!!

自分が今いる場所が、西暦2000年以降の日本であると信じて疑わない利次の苛立ちは、至極当たり前だった。
この男が、どっかおかしいんじゃないのかとさえ思った。

「疲れとるんだよ、これを飲んでもっぺん寝んか」

イヌヒコ、瓶子へいじ持ってこい、とその男は犬を呼んだ。

あ、あの犬がイヌヒコ。

じゃ、俺を助け出してくれたのはこの人達か。イヌヒコって犬のことだったのか。
そのまんまじゃん

と思っていると、口の辺りが湿った。

「ぶっ!!」

にがー! まずー! なにこれ 飲み物なのか?!

「心配するな薬じゃ、薬」

そういって男は笑った。

途端に利次は目が回る感覚に陥り、気分がすっと遠くなり、意識が薄れていくのが分かった。

俺、ほとんど意識不明だ…

そう思いながら深い眠りに付いた。

男は、利次が眠ったのを確認すると、静かに部屋を出て行った。
イヌヒコが一緒についていこうとしたが男はそれを制止した。

「イヌヒコ、お前はおってやれ」

イヌヒコを残し、男は闇にまぎれた。



























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