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恋愛、友情

桜舞う季節に

作者:雨森 雪
 満開に咲いた桜が舞い散り、幻想的な景色を醸し出す春の小川。ここは都会の筈だけどの雰囲気から外れている。そんな光景を上から見下ろし、私は言う。

「春、だなぁ」

 私こと高月空は今年で中学一年生。川沿いに立ったマンションの家からは桜の咲くこの川が見えて私は好きだ。

「なあに言ってんの! 今日から中学生でしょ。入学式の準備できた?」

 そう言うのは母である高月美空。栗色の髪に黒い瞳。普通の日本人。天然パーマのかかった肩ほどの髪。低い身長が特徴的だ。そのテンションと身長から私と姉妹だと勘違いされたこともある。

「出来たよ」

「おおー! わが娘ながら可愛いじゃん! 鏡見てみなよ」

 鏡には、紺のセーラーを身に付けた私が映っていた。母譲りの栗色の髪に黒い瞳。母とは違う、ストレートの髪を腰ほどまで伸ばしている。容姿は普通。母が隣にくれば、私の方が身長が高いとわかる。

 私は母が苦手だ。そのテンションにはついていけないし、身長的に私の方が年上に見られることが多い。それに……。

「可愛いよー。空!」

「ありがとう」

 いつもと変わらずに素っ気なく返す。どう見ても身内贔屓だけど、それは言わないでおこう。

「さ、行こっか」

 こんな私でも、母には感謝している。養ってくれたことにも感謝してるけど、こんな風に娘に素っ気なくされたら、私なら今まで通りには接せられない。そんなことを考えながら私は車に乗る。

「新しい友達出来るといいねぇ」

母が車を運転しながら言う。

「そう、だね」

 そのあとは母の話しに相槌をうちながら、気が付けば学校についていた。
 小春崎中学校。それが、私の通う学校。伝統を重んじる由緒正しい学校。校舎も古くなってきているとはいえ、綺麗に磨かれている。

「クラスはC組だったねぇ。友達出来るといいわねぇ」

「ん」

 そう言う母と別れて私は廊下を歩く。一年生は青いスリッパを履いていて、私以外にもちらほらと見れる。

 一年C組は二階。階段を登り、クラスの戸を開ける。ざわざわとしていたクラスが一瞬静まり、すぐにまた騒ぎだす。入学式が始まるまでに、このクラスに馴染めたら良いな、なんて考えていたけど、やっぱり無理で。私は一人本を読んでいた。こっちを見ている視線も知らない振りをして。

 面倒な入学式も終わりを告げる。この後はクラスで自己紹介なんかをするらしい。私は無難なことを言い、終わらせる。

「小春崎小学校の出身の、高月空です。よろしく」

 ここで微笑んで見せれば、きっと、友達もできやすくなる。そう思いつつも、いつも通り無愛想に。私にはそれしか出来ないから。
 先生も困った顔をしているけど、私には関係ない。他の子達と仲良くできない? それでいいじゃん。逆にどうして仲良くしなくちゃいけないの?
 困った顔をするだけで先生は特に何もいってこなかった。最初だから仕方がないとでも思っているのかもしれない。あるいは、小学校の先生からある程度話を聞いているのかもしれない。どちらでも構わないけど。
 明日からの予定や学校での心構え、その他諸々の話を先生はして、今日の学校は終わり。私は早めに帰ることにする。
 帰り支度を終え教室を出る。そして、階段を降りきったところで、声をかけられた。

「高月さん!」

「何?」

 それは朝から私を見ていた視線の主で、そいつは小柄で黒髪ショートな男子生徒だった。私に関わりのない人だったので名前なんて覚えてない。

「え、えっと、今から部活の見学があるけど、行かないの?」

 そういえば先生はそんなことを言っていた気がする。この学校には部活棟と言うのがあるらしく、そちらへ行くには二階からしか行けないという不便なつくりになっている。勿論、外からなら回れないことも無いけど、家から部活に来た人くらいしか、そこから入らない。若しくは、部活から帰るとき。

「部活? 行かない」

 私はそう告げて歩き出す。彼は立ち尽くしている。どっか行けばいいのに。

「あ、あのさ」

 そんな風に何かを言っているが私は無視。関わりたくもない。

「……ゴメン」

 なんで、なんで、あんたが謝るわけ?それじゃ私が悪いみたい。……わかってる。私が悪い。だから、謝罪がわりに一つ。

「名前、教えて」

 振り向いた私が言った言葉に彼は目を見開き挙動不審になると、


「そ、空野大輔そらのだいすけ


 そう名乗った。空野か。私の名前に似ててなんかいや。

「大輔」

「っ、えっ、は、はいっ!」

 私はそれだけいうと今度こそ振り向かず歩き出す。
 家に着いて、さっきのことを考えていた。大輔。私は彼を変な人だと思う。まず、私に声をかけたから。普通、話しかけない。私は無理。それに、挙動不審になるし。だから、大輔は変。だけど、悪い人ではないと、思う。

 翌日。朝。今日は自転車で通学する。足が痛い。運動不足かも。
 教室は今日も平凡で、私だけ浮いている。そんな中。彼だけは話しかけてくる。

「高月さん! 係りの仕事あるよ」

「係りの仕事?」

 そんなのあったっけ? 覚えてない。面倒。

「昨日の学活で決めたよ?」

「そうだっけ?」

「そうそう、職員室にプリントを取りに行くんだけど」

 職員室! どこにあるのだっけ。忘れた。

「一緒に行く?」

「ん、お願い。ありがとう」

「ふぁい、大丈夫!」

 私は今でも誰かと関わりたいなんて思ってない。それは彼も例外ではない。でも、人間一人じゃ生きてけないから利用するだけ。そうなんだから。

 昼。給食の時。なぜか大輔が隣の席だった。普段からそうだけど。

「高月さんのストレート髪が綺麗だよね」

 もう馴れたのか一々挙動不審にはならない。大輔。社交辞令は見え見えだから止めて。私は無視する。そうすれば大輔は諦める。

――フラれてやんの。

――うるさいなぁ。

――それはどうでもいいけどさ、ツインテールとロングどっちが好き?

――どっちも好き。

 耳を澄ませばそんな話が聞こえてくる。かなりどうでもいい話だ。

――でも、どちらかと言えばツインテールかな。

 やっぱり、ロングな私には関係ない話なのだ。
 昼休みが始まる。女子がたむろして、髪型誰かの髪をを弄ってる。長い髪を下ろしている私は標的にされる。

「高月さん! 髪を結んでいいー?」

 断る方が面倒なことになるので了承しておく。女子の執念は凄い。私はその間本でも読んでれば良い。名も知らない女子が私の髪を結ってゆく。それはもう手際よく。あっという間に完成だ。

「空野~! 見てみー! 高月ちゃんツインテール!」

「……」

 何故、大輔が出てくる。大輔関係ない。と言うかちゃんに変わってるし、大輔は口を開けてないで何か反応しろ。

「すっごく可愛いっ!」

「ふぇっ」

「おろろ、高月ちゃん耳まで真っ赤だよ!ツンツン」

「ひゃん」

 し、知ってます! 可愛いなんて、親や社交辞令以外で言われたの初めてで、ちょっと恥ずかしい。と、いうか耳をツンツンするなっ! 余計真っ赤になるわ! 
 大輔の顔も見れないけど、横目で見ると大輔も少し顔が赤い。

「ありがとう」

「ど、どういたしまして」

「ひゅーひゅー。お熱いねーお二人さん」

「リア充どもめ」

「いや、違う。そんな関係違う」

 私が野次馬達に反論すると、なぜか大輔が悲しそうな顔をするけど私には関係ない。というか、理由すら見当もつかない。

「あ、チャイム」

 誰かのその言葉を合図に皆、大慌てで準備する。勿論、私も。先生が来る前に席についたからセーフ!

 もう放課後。他の皆が部活をしている頃。私は家に帰る。この中学校は無駄に設備が素晴らしく、下駄箱に蓋がついている。つまり、外から見えないのだ。中が。だから、開けてビックリしてしまった。だって、一通の手紙が入っていたから。

――放課後、中庭の桜の木の根本で待ってます。

 たった、それだけが書かれた紙。誰から出されたのかもわからないけど、とりあえず中庭の桜の木の根本に向かう。桜の木は数本あるけど、根本に行けるのはこの木だけ。だから、ここで待っていよう。一つ、願いがあるとすれば、人違いだったということ、ぐらいだろうか。

 結論を言えば、人違いでは無かったようだ。知らない男子が走ってきて、こう言ったのだ。

「誰?」

私の一言で息を詰まらせるも、すぐに取り直して言う。

「高月さん! 俺、1ーBで野球部の白河博康しらかわひろやすっていいます。ずっと前から好きでした。付き合ってください!」

「私?」

「そうです! あなたしかいないですっ!」

 つまり、こう言うことだろう。私は、今、告白された、ということなのだろう。え、私にはそんな経験ないからどうしたらいいのかわかんないよ? ど、どうしよ。困った。

「やっぱ、大輔が好きなんですか?」

「そ、そんなわけない。私はあいつどうでもいい」

 あんなの鬱陶しくて迷惑で、変な奴好きなわけない。興味もない。

「なら……俺じゃ、ダメですか」

「……ゴメン。私、好きが何かわからないから」

 そう言って私は首を横に振る。嘘は言ってない。嫌いなら嫌でもわかる。でも、好きってわかんない。気になるけど、好きかって言われたらそうでもない……面倒。

 博康だっけ、博康は後ろを向いて走り去った。その後ろを知らない女の子が追いかけたから。きっと、なんとかなる気がする。

 今、思い出したけど、同じ小学校の人だった。去年同じクラスだったような気がする。女の子もそうだったのかもしれない。遠くてよくわからなかった。
 私は今日はもう帰って寝ることにした。

――大輔が好きなんですか?

 その言葉が胸に残ったまま……。

 朝。鳥の鳴き声とアラームの音で目を覚ます。外を見れば満開だった桜も半分近く散っている。でも、そんな桜も好き。
 朝ごはんを食べて、着替えも済ませ、今日も自転車で登校。教室は少し騒がしかった。昨日の放課後の事が噂されている。私に昨日のことを聞きに来た人もいたけど、今はヒソヒソと話してるだけ。きっと、私がとてつもなく不機嫌だから。

「高月さん、ちょっといい?」

 大輔が話しかけてくる。こいつは空気が読めないのか? 私も読めない。けど大輔こいつほどではない。

「うるさい」

「僕の話を聞いてくれない?」

「なんで私が、他の奴に頼めば」

 あー、もう。腹が立つ。なんなの? でも、一番腹が立ってるのは私自身に。だって、どうして腹が立ってるのかすらわからないから。ただ、なんか嫌。なんでだろう。まるで子供みたい。

「じゃあ、放課後は空いてる? 桜の木の根本で待ってるからさ」

 そう言って席についた大輔。周りの人達は噂話してる。知らない。私には関係ない。
 その日の授業は全く手がつかなかった。

 放課後。きっと、桜の木の根本に行くべき。それはわかってる。だけど、なんだか怖い。何かが変わってしまいそうで。
 私、誰かと関わりたいなんて思ってなかったのに。

「全部、大輔あいつのせい」

 そう、私がこんなに悩んでるのはあいつのせい。だから、さっさと話を済ませて帰る。
 コンクリートを踏みしめて歩く。周りからは部活の掛け声が聞こえてくる。

「いーちー、にー、ファイト~」

 きっと、この掛け声はテニス部女子だろう。妙に間延びした、可愛らしい声がする。
 そして、ついに辿り着いてしまった。あいつは自分が言った事だからか、私より先に来てた。教室を先に出ていったのを知ってるから何とも言えないけど。

「来た、何のよう?」

 言外に不機嫌だと告げて。

「あ、あのさ。昨日博康に会ったんだ。そのとき、あいつ俺になんて言ったと思う?」

「知らない」

博康君は昨日私に告白してくれた男の子だよね。流石に覚えてる。でもなぜ彼の話?

「今回はお前に譲ってやるって。博康が譲っても高月さんが頷かなきゃ意味無いのにな」

 どういう意味かよくわかんない。本当に。だって、それじゃ、まるで……まさかね。
 大輔は笑うけど、私は少し困る。大輔は頭をかくと私の名前を呼んだ。

「高月さん」

「何?」

「あ、あのさ」

 大輔はそう言うと大きく息を吸い込み、私の瞳を見つめて言う。

「いきなりでゴメン。僕は君が好きだ。僕の気持ちに応えてくれるなら、返事が欲しい。そうでないなら、去ってくれて構わないから」

そう言って頭を下げた。

「――」

 なんだろうこの気持ちは。気持ち悪くって、ぎゅって胸が痛くて。でも、不思議と暖かくて。きっと、これが恋。でも、やっぱ認めるのも癪。
 大輔は下げた頭をそっとあげないままこちらを見てる。

「見ないでよ」

「ゴメン。でも、気になるからさ」

 そんなに気になるなら。私は答えてあげましょう。

「よく噛まずに言えたね」

「まあね」

 そこだけは素直に認めてあげよう。

「あのね。私はこう、あんまり可愛くないよ?」

「そんな事ないよ。そりゃ、絶世の美女や傾国の美女とは違うけど紛れもない美少女だよ」

「もう。馬鹿」

 何かのフィルターでもかかってるのじゃないかな。やっぱ馬鹿。

「って、いいの?」

「何が?」

「え、だって、そういう風に言うってことは」

 そこで言葉を濁す大輔。んもう、私に言わせんの?

「さあ、どうでしょう」

 私の口から出た言葉はこんなもの。でも、ちゃんと伝わったみたい。飛び回って喜んでる。で、木の枝が当たって痛そうにしてる。馬鹿だなぁ。でも、そんなところも好き。

「好きだよ。大輔」

 私のその言葉は残念ながら風に流されたみたいだけど。ま、いいか。



 ――翌朝。昨日は大輔のこと考えてて少し眠れなかった。別にやましい事考えてたわけじゃないから。ほんとだから。
 桜の花も全て散り、青い葉が見えている。今年はやけに散るのが早い。きっと、低気圧のせいだろう。小川では鳥が魚釣りをしている。流れが緩やかだから結構いる。

「あ、準備しないと」

 私は寝巻きを脱いで、下着を着ける。スカートを履いて上の制服を着る。鏡の前でタイを整える。そして、そのまま髪をとく。今日は、ゴムを取り出す。そして、二つに括る。そう、ツインテール。

「空~! 彼氏きてるわよ」

「はーい」

 そう。今日から大輔と一緒に行くのだ。私達はたまたま家が近かった。
 私は窓の外をチラッとだけ見て、その後鞄を持った。

「行ってきまーす」

――これからは私と大輔の新たな生活。まあ、とりあえず目一杯楽しむよっ!
 よろしくね、彼氏さん。

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