第二章 推薦の手紙
私は、校長室のドアの前に立ち深く深呼吸する。今、走ってきたため、まだ心の準備ができていない。呼ばれたので、たくさんの視線をあびながらも顔を赤くして、ここまで何も考えずただ走ってきた。
しかし、今考えると……いや、今頃だが、そもそもなぜ呼ばれたのだろう……?何をやらかした、というわけでもなく心当たりも0だ。それに、私は過去の学校生活を振り返ると、一度も校長室に入ったことがない。少しだけ、窓から覗き込んだ事はあったが、やはり入るのは初めて……。それに校長室に入るのは、相当の問題を起こした生徒だけだ……、と自分自身思いこんでいた。だから、自分には入室する機会なんて一度もないと考えていたし今ここに、自分が立っていることが信じられず、呼び出しなんて思ってもみなかった。
『校長室呼び出し』私は、一体何をしてしまったのだろう……?と思いながら、不安と緊張を堪えて、もう一度深く深く深呼吸。『よし』と一息。
私は、ついにドアを軽くノックする。
「入りたまえ」
低くて響く声。いつもは、全校朝会の挨拶で、体育館に響いているあの声だ。体に自然と力が入る。
「失礼し……ます」
少し声を上ずらせながら、冷たいドアノブをゆっくりひねり、ついに一歩を踏み出す。その時の、心臓のバクバク感を私は2度と忘れないだろう。
校長室は、まさに想像していた通り。手前に低いテーブルと両脇にソファー。その奥には、偉い人らしい奇麗な机、その上に肘を乗っけて、こちらをジッと見つめる眼……。
「そんなに緊張しなくてもいいですよ。私の机の前に来なさい」
白髪頭の校長先生は、やさしく私を呼んだ。
「さっさと来ないか、川下」
気付かなかったが、担任の老眼教師もいるようだ。
私は少し落ち着き、机の前に立つ……。
「まあまあ、君を説教するために呼んだのではない。肩の力を抜いて話を聞きなさい」
校長先生は、表情を和らげてそう言った。『よかった……』心からそう思い、私は普通に戻った。
「君に大事な話があってね、ここに呼んだ訳だが……。何の事だか分かるかね?」
私は全く思い当たらず
「いえ、全くわかりません」
と正直に答えた。
「ああ、そうであろうな。実はな、ここ数日前だった……。私の元にある1通の手紙が届いたのだ。それは重要な手紙だ。そこには、君の名前と君のことに関する内容が書かれていた。君を、推薦したいという手紙だ」
そう言うと、校長は私の反応を確かめる。もちろん私は、推薦という言葉に唖然とし『……』だった。
「君は、夢や進学先は決めっているかね?」
もちろん、夢はないし進学先に希望はない。
「いえ、希望もないし。特にその気ではないのですが……」
と答えた。
「もしよければ、君を推薦で入学させたいという文章が、ここに記されている」
校長の手には、封筒が握られている。
「あの、一体どんな高校なんですか?」
私は、そればかりが気になる……。よい高校なら、進んで入学は希望してもよい。どうせ、受験勉強は、充実していないのだし。どのみち、志望校もいけないのだから。
「その事だが……。実に才能のある選ばれた、ごく少ない者しか通うことのできない、それはそれは、特別な高校でな。一般の人は入学できず、推薦のみの特殊なところなのだ」
この人は、一体何を言っているんだろう……。私は、帰宅部で成績も悪いし、特別何かに優れているはずもない。そんな自分がなぜ、そんな推薦報告を今受けているんだ!それも、ただの高校ではなく、特別で才能持ちのみの学校!!
「何かの間違いでは?私は、馬鹿で才能ももってないし、部活もしていないのですよ!!」
校長は、優しく微笑み
「間違いではないのさ。それは、ここに証明されている。この封筒の中の1枚の手紙に……」
と私に言って、封筒を差し出す。
それを、疑い深く見つめながら、私は受け取ると中身を取り出す。そこには、間違いなく自分のことが書かれていた……。
つづく
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