結末から始まりへ / 始まりは旅立ちへ
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――戦いの果てに・・・
霞む景色の中、懐かしい者達と未熟な自分自身。
ここに来て、運命の一幕は一時の終わりを迎えようとしていた・・・
―――皮肉なものだな・・・
過去の未熟な自分と戦い、そして敗れ、己を誇示していた信念までをも粉々に砕かれ、私はやっと気付かされた・・・この身に掲げていた理想は、何も間違ってはいなかったのだと。
例えどんなに、どんなにも救いの無い結果だろうとも、自らに絶望する必要はなかった・・・
そう、どんなにも己の無力さに嘆いたとしても、立ち止まらなければ次があった。
救えた何かが、その先には確かにあった。
例えその理想が叶わなくとも、その意思をただひたすらに貫くだけで、それだけで・・・それは確かに尊かったのだ。
―――思い返してみれば、全てが報われなかった訳ではなかったな・・・
あぁ・・・だからまた、この身に理想を掲げようではないか。
――彼の者・・・英霊・エミヤは消え行くその最中にて、己の目指した理想(正義)を、再びこの胸に刻み付けるのであった・・・
――そして、彼の者は己の世界から追放された――
―――苦しい・・・
まるで、水の中に居るかのような息苦しさ。
―――何も聞こえない・・・
―――何も見えない・・・
一切の光と音を奪われ、五感が何も捉えることが出来ない。
―――ここはいったい、何処なのだ?
何も見えず、何も聞こえない空間。
この無音の空間で、私の意識が覚醒してからずいぶんと時間が経過した。
唯一分かるのは覚醒と共に感じる息苦しさと共に襲った、突然と胸を深くえぐる喪失感だけ。
―――この胸の痛みは、いったい何なのだろうか?
何度となく自身の心に問い掛け続けたのだが、私の心はなんの欠落も告げることはなかった。
そして何よりも・・・
―――私はいったい・・・誰なのだ・・・
私は己の名を、己の存在すらも思い出せずにいた。
自分が誰であって、いったい何者なのか・・・
―――分からない・・・私は、僕は、俺は、自分が分からない・・・
暗闇に抱かれ、己に関する記憶は何も存在せず、ただただ自問自答を繰り返し続けたその時、
―――ッ!!?
まるで、暗闇を引き裂くかのように、まばゆい光が射した。
その光に当てられると同時に、何かに体を引き寄せられる感覚。
その感覚に抵抗する術もなく、なすがままに引かれて行く。
―――これ・・・は?
光に近付くにつれ、思考に靄が掛かる。
だが、一切の苦痛は感じず、次第に唯一感じていた息苦しさから解放されていく・・・
―――温かい・・・
程なくして、体を温かさが包む。
それはまるで、母胎に包まれながら誕生を待つ赤子のような感覚。
―――なんと温かく、そして優しい光なのだろうか・・・
光に近付くにつれて朦朧とする意識の中、私は願った。
それは意図しない、無意識での願望。
この身の根源たる望み。
―――いつの日か私も、大切な何かにもこの温もりを・・・
瞬間、全てを覆う程の強い輝きに包まれ、私の朦朧とする意識はスイッチを切った―――
/ 始まりは旅立ちへ
「・・・ここは?」
謎の光に導かれ、一瞬のフラッシュバックと共に瞼を開けると、見渡す限りの樹木。
空には葉のカーテンが敷かれ、葉と葉の微かな隙間から陽光が射し、この身を照らしていた。
―――ここは、森・・・なのか?
「いったい何が起こったのだ?何故こんな場所に・・・」
私が発した声に答えるかのように鳴り響く鳥達の囀りと、柔らかく吹く風にサワサワと揺れる木々の演奏を耳に捉えながら、鈍く痛む頭を手で押さえた。
何故、私はここにいるのだろうか?
そして、私は・・・自分はいったい誰なのか?
「―――グウ゛ッ!?」
疑問を抱いた瞬間、頭に激痛が走った。
「クソ、頭が・・・い、いったい何だと言うのだ・・・」
ズキズキと痛む頭を手の平で強く押さえながら、私はゆっくりと立ち上がる。
―――思い出せ・・・何でもいい、とにかく思い出せ・・・
しばらくのあいだ、自分に関するありとあらゆる記憶を探すが、自らに関係する事柄は何も見つからない。
一般的な常識や歴史、社会等の構造はいくらでも思い出せる。
だが、自分に関する事柄は何一つとして思い出すことが出来ない。
より深く記憶を探ろうとしてみるが、考えれば考えるほどに頭の奥深くからはズキズキと痛みが増して、思考に集中することが叶わない。
「グゥ・・・こ、この様な場所に投げ出された身で、簡単にわかるハズもないか・・・」
現在この身に起きていることが何なのか、それは追い追い探るとしよう。
何よりも今は、これからどうするか・・・
―――さて、どうするか?
「ふむ・・・」
腕を組み辺りを見回せば、見渡す限りに生い茂る木々達。
木と木の合間を射抜くかの如く目を細め遠くまで見据えるが・・・見えてくるの景色は何一つも変わらず、木と木と木。
「・・・まさに森だな」
そう、これ以上はないほどに森の中。
他に言いようのないほどに、ここは森林であった。
「さて・・・」
考えるまでもなく、方針が決まる。
本来ならこの様な状況下では、遭難や野生動物(主立っては熊等の猛獣)との遭遇による二次災害の危険性があるために、下手に動かないことが鉄則ではあるのだが、
「この場に居ても、危険性はなんら変わらんな・・・それに、待っていたところで状況が良くなる訳でも無い・・・」
現状は既に遭遇に限り無く近いもの・・・いや、もはやこれは全くも以って同じ様なもの。
その上に、救助の期待も出来なければ、自分が誰かもわからない身元不明者。
つまり私には、当てなどはなからないのだ。
ならば簡単な話しだ。
現状を打開する術を探すしかあるまい。
「さて、この選択が吉と出るか、または凶と出るか・・・」
★
「結局は迷ってしまったか・・・いや、最初から迷っていたのだから、この場合は薮蛇だな」
木々の生い茂る中を歩き続け、あれからずいぶんと時間が経った。
歩き出してからそれなりに進んだつもりなのだが、今だ景色には何の変化も訪れない。
「いや、むしろ悪化したと言うべきか・・・」
最初よりも視界を覆う木々が高く生い茂り、伸びたい放題に伸びた弦や細枝がそこらじゅうの樹木や背の高い草等に、その身を何十にも巻き付けていた。
いかに相手が草木とは言えど、一歩足を運ぶ度に進行を妨げられては、歩行に掛かる労力が倍増どころではすまない。
もしすると、出口を探すつもりで歩いて来たが意図するところとは逆に、より最奥の方に進んでしまったのかもしれない。
―――あぁ、これは困ったな・・・
「何故かな・・・記憶が無い上に遭遇までしている現状。それなのに冷静な自分の精神の具合が、激しく物悲しいではないか・・・」
そんな心境とは裏腹に、自分でも不思議なほど口調は軽かった。
修羅場を多く潜った身なのか、はたまは理不尽に対する耐久性が付いてるのかは良くわからないが、私の心は静かな水面の様に揺らぎがない。
まぁ、単純に私の神経が図太いのかもしれないが、普通なら簡単に陥る状況ではないだろう。
「何故かな・・・不思議と後者なのだと、絶対の自信を持って言える気がするのは・・・」
記憶が無いにもかかわらず、何故かこれにかんしては絶対の自信が持てた。
「あぁ、本当に不思議だ・・・そして何よりも不思議なのが、実は否定する気になれないことに不思議を感じられない自分自身だったりするのだから、たまらなく不思議だ・・・ハァ」
意図せずにこぼれた溜め息と同時に、目尻が少しだけ湿った気がした。
「さて、感傷に浸るのはここまでにしておこうか・・・」
私は振り返り、並ぶ木々の中へ視線を向けた。
―――ソコには何かが潜んでいる・・・
あまりにも漠然としているが、私の直感がそこには何かが居ると言っている。
根拠など微塵も無い、ただの直感だが・・・
―――ッ!!?
突然、木々の隙間から影が飛び出した。
その影は恐ろしい程の速さで、私に向かって一直線に突進して来る。
「―――チィッ」
舌打ちとを打つのとほぼ同時に、私の体は無意識に横へと跳び退いた。
次の瞬間・・・
―――ドゴォオォォーーーーーーーーンッ!!!
周辺の木々を揺らしながら鳴り響く、大きな破壊音。
「なんともまぁ・・・」
先程まで私が立って居た場所は土埃を昇らせ、微かに覗く地面からは黒ずんだ焦げ跡が見えた。
まるでそう、手榴弾でも投げ込まれた後の様な有様になっていた。
もし、後少しでも跳び退くのが遅れていたとしたら・・・
「・・・考えただけだと言うのに、生きた心地がしないな」
正直に言えば、血の気が引いた。
っと、
「ほぉ・・・今の爆破から逃れたと言う事は、君はアレが見えたのか?いや、大したもんだ・・・」
変わらず昇り続ける土埃の奥から、氷の様な冷さを感じさせる女の声が発せられた。
「君は、誰だね?」
首筋にうすら寒いもの感じながら問う。
この時、私の体は自然と重心を前方に置き、臨戦体制をとっていた。
「オッと、そんなに警戒しないでくれないか?」
土埃を抜けて姿を現した者は、全身を緑のローブ覆い隠し告げる。
「先ずは友好的に・・・私はこの再生の森に住む一族の者でね。ちょうど、暇潰しがてらに散歩をしいたのだよ、健康に良いからね・・・」
「ほぅ・・・」
再生の森・・・始めて耳にした名だ。
「それではこの私に、こうも阿保らしいまでにド派手な演出をして出迎えてくれるほどの用事でも?もしくは、ただの暇潰しであんな物を吹っ掛けてたのかね?」
「イヤイヤ、誤解だよそれは。コレは私ではないから間違ないよーにッ」
タップリの皮肉を込めるが、両手をヒラヒラさせながら返された。
「では、改めて聞くが・・・君は誰で何者だね?」
ほんの数秒程度の短い会話であったが、強く思った事がある。
―――私はきっと、コイツが苦手だ・・・
「そんなに睨まないでくれないかね?」
「クッ・・・すまない。この人相は生れつきでね・・・」
言って、私は唇の端を上げる。
「・・・分かったよ、それで納得しとこう・・・」
「多少の間があったが、腑に落ちなかったかね?」
「そーでもないさ。人相は人それぞれな物だからね・・・だから君が生れつき悪人面でも仕方のない話しさ。それも一重に、神から授かった運命だからねぇ」
「・・・」
随分と酷い言われ様だ。
「さて・・・では、いい加減本題に戻るとして・・・君の名は?」
何故だかドッと疲れを感じた私は、臨戦体制をといて頭をかいた。
「やっと信じてくれたのかい・・・」
ヤレヤレと肩を揺らし、被ったローブを勢いよく脱ぎ捨て、
「私はこの素晴らしい緑の自然が生み出した、もう筆舌にしがたい程に素晴らしい美人のエルフだッ!!ここ再生の森の看板娘と思ってくれても・・・私はいっこうに構わないよ?」
そう、得意げにのたまったのだった・・・
「・・・成る程な、そうきたか。いやはや、大した者だな君は」
そう言いながらも私は「おい君、結局名乗ってないではないかね?」っと、胸のうちでぼやいた。
「ふぅ・・・取り敢えず、なんでさ・・・」
物凄く、頭痛がした・・・
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