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想い道
作:永富 予受子



第22話 前と後


 白地に真っ赤な曼珠沙華の花が描かれた着物を白い帯で留め、それをわざと着崩した下に黒の上着を着込み、両サイドにスリットの入ったやはり黒のスカートをはいた連が、窓際に立っていた。
「連…」
 呟いた正人をちらりと見て、連は再び口を開いた。
「あの連中がいた時、お前達の前には何があったと聞いている」
 にこりともせずに言われた言葉に、正人と卑硫、そして何故か竜喜はそれぞれに思い返す。
「あいつ…あの女いた」
 体育館の入口を思い浮かべて、正人が最初に答える。
「慶太…ですね」
 次に答えたのは卑硫。
「…バス停と道路くらい…。あの人は横にいましたから」
 答えた竜喜を連は、不思議そうに見てしまった。
「お前、遭ったのか?」
「へ?あ、はい。女の人だけですけど」
 聞き返した連に、答えた竜喜は思わず連の言葉を待ってしまう。
「お前の場合は論外だ。しばらく黙ってろ」
「…そーします…」
 複雑そうな表情で竜喜は返事をしていた。その様子を見ながら、それは酷いだろ…と賢治が心の中で突っ込んでしまう。
「で、女と慶太…。本当にそれだけだったのか?」
 本題に戻して、連は改めて二人に聞き返す。
「他に何があるんだよ…」
 意味が分からないと呟いて、正人は不貞腐れた顔をする。
「じゃぁ…後ろには?」
「後ろ?慶太」
 後ろに何があると聞かれ、益々訳が分からない。
「…蛇ですね。後は鳥居くらいです」
 卑硫は素直に答えている。
「慶太に蛇に鳥居か…。もう一人に聞いたら何と答えるかな」
 言って、連は踵を返すと同時に消えてしまった。この行動に驚いた顔をしたのは正人だ。
「…何しに来たんだ?」
 さぁ…と呟いて賢治は、冷蔵庫に入れている麦茶を取りに席を立った。



 小学三年生の頃、学校で飼っていた兎が死んで、それがすごく悲しくて。帰りに泣きながら帰った事があった…。家に帰っても兄弟が多過ぎて、誰も聞いてくれないのは分かってたから、途中の誰もいない公園で寄り道して泣いてた。辺りは暗くなったけど、帰る気になれなくて、そのままじっと公園にいて…。
 どれくらい、いたのかな…。分かんないけど、気が付くと高校生くらいのお兄さんがいて、心配そうに僕の顔を覗き込んでて…。どうしたのか聞かれたから兎の事を話して、家じゃ聞いてくれないから、ここにいるんだって言ったら、そのお兄さん僕の頭、無造作にぐしゃぐしゃって撫でて、言ってくれた。
『お前はその兎の為に泣いたんだろ。だったら、今度はちゃんと笑ってやれよ。じゃねーと兎が心配するかならな』
 何だか変な事言ってたけど、その言葉聞いたらどうしてかな、ちゃんと笑えた。その後、お兄さんに家まで送ってもらって、玄関で振り返ったらもう居なくて。結局、名前も何処に住んでいるのかも、聞きそびれちゃった。覚えているのは、制服が矢木城の制服だったって事くらい。
 もう一度、あのお兄さんに会ったら、あの時のお礼ちゃんと言わないと…。



 誰もいなくなった部屋に音も無く現れた連は、未だ意識の無い幸の額をそっと撫でた。すぐに幸はゆっくりと瞼を開いた。
連はそのまま、ベッドの脇に座り込む。
「気が付いたか?」
「…連さん…。僕、何してたっけ?」
 意識がまだ戻りきっていないのか、ぼんやりとした表情のまま、幸は連に聞いた。
「さぁ。お前、倒れる前の事覚えているか?」
「倒れる前…。蔵…何か探そうと思って行ったけど、何を探そうとしてたのかな…」
 優しく額を撫でて、連は子供を見ているような瞳で幸を見た。
「倒れる前、お前の前には何があった?」
 柔らかい口調で聞いた連に、幸はしばらくの間じっと見詰めていた。
「慶太がいた。後は、古い道具とか…」
「では、後ろは?」
「書棚と蛇…」
 再び先程の口調で聞いた連に、今度はすぐに答えた。そして、ふと気付いたように連を見る。
「前に灯りも見えたかな…」
「そうか…。辛いのに済まない。ゆっくり寝ていろ」
 子供に言い聞かせるように言うと、優しげな笑顔を幸に向ける。
「うん、そうする」
 そっと額を撫でると、幸は再び瞼を閉じようとした。
「そうだ。連さん、夢見たの。昔、兎が死んだ時の夢…」
「兎が死んだ時の夢?」
 聞き返すと、幸は頷く。
「うん、悲しかったけど、励ましてくれたお兄さんがいて…。でも顔も名前も分かんない」
「そうか。その話はまた今度、ゆっくり聞かせてもらう事にしよう。今は早く元気になる事だ」
 連の言葉に頷いて、眠った幸を見ると下を向いたまま、ベッドから立ち上がる。下を向いた連の唇は、何かを見つけたように笑っていた。












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