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『悪い自分』との対話

「……なるほどな」


 もし私が魔法の力を自分の欲望のままに使っていたら、どうなっていただろう。

 目の前にいるフィルサンド公爵よりもろくでもない暴君になるか、その前に寝首をかかれていたに違いない。


 今の私には安心して背中を任せられる仲間がいる。一方公爵は子供たちすら信用できず、信用もされていない人生だ。

 彼がその人生を後悔していないのは明らかだが、少なくともそのとばっちりを受けた被害者二人と直に会っている身としては、『ああならなくて良かった』と思わざるを得ない。


「ああ、分かった。貴方の生き方に文句をいうつもりはない。男なら誰でも一度はそのような人生を歩みたいと思うだろう」

「くくっ。俺より桁外れの力を持つ貴殿に言われても皮肉にしか聞こえないな」


 これもまた、本音ではある。

 私だって漫画や小説の悪役や、野望に燃えた戦国武将に憧れたものだ。

 公爵は現代日本の基準でいえば間違いなく悪人だし、もし彼が一方的にこちらを攻撃するようなことがあれば私も躊躇なく戦い倒していただろう。


 だが何の因果か、私と彼はこうして酒を酌み交わし語り合っている。

 それになにより、彼はもう1人の私だ。

 もし未来においてどちらかが一方を邪魔に思い倒そうとするとしても、それまでにできるだけのことはしてみよう。


「……ところで跡継ぎの話だが。もう『最近まで』引退しようとしていたということは、今はそのつもりはないのだな?」

「ああ。貴殿という凄まじい力を持つ同盟者ができればな。引退どころか昔の活力が甦るようだ」


 魔法の力を実際に目で見て確信したためだろうか。最初に会ったときよりもさらに、彼の目の奥の野心の光は強くぎらついていた。


「なら、私から頼みが……いや、注文がある」

「ほう?」


 あえて注文、とこちらが上のように言った。

 内心では怒りと屈辱を感じていたが、彼はそれを抑えてでも私の力を欲している。


 そもそもの私達の目標は、フィルサンドと交易を始めること、暗鬼に対する同盟を結ぶことだ。

 前者は既に完了したといって良い。

 だが後者については、公爵がもっと積極的な軍事同盟を求めるのが目に見えているし、もし軍事同盟を結べば彼は私の魔法を利用してフェルデ王国に対して反乱を起こすつもりだ。


 彼の野心はある意味羨ましくもあるが、なんとかそれを別の方向へ誘導できないものだろうか。

 私の頭は久しぶりに猛烈に回転し始めていた。


「私と貴方が組んで世界に覇をとなえようとしても、それには地力というものが必要になる」

「このフィルサンドの富と兵力では不足だと?」

「逆に聞くが、現在のフィルサンドが掴める程度で満足なのかね?」

「……ほう」


 挑発的に言ってやると、より強い視線で睨みつけられた。

 背筋がぶるりと震える。


「私と貴方がこれから現役でいられる時間は、長くて30年だろう。その30年をどれだけ有効に使えるかが問題だ」

「確かにな」

「時間を有効に使うためには有能な人材が多数必要なことは分かっているだろう。そして、貴方の子供達は全員、それぞれに有能なはずだ。第一、跡継ぎ問題で足元をすくわれるようなことになったら時間の無駄以外の何物でもない」

「……ごもっともだ」


 彼の表情は少し和らいでいた。私が、彼の野心に手を貸すつもりになっていると受け取っているようだ。


「ならば、まずは子供達の仲を取り持ち、今後も貴方のために喜んで働けるようにしてくれ。これが第一の注文だ」


 要するに、利己的な人間に何かをさせようと思えば、それが相手の利益に繋がるということを説明してやればいいのだ。

 エリザベルはもっと感情的な問題をフィルサンド公爵との間に抱えているのは分かっているが、他人の私にいまできるのはこの程度だろう。


「……なるほど。分かった。目の前で小競り合いされても面倒だしな。アグベイルとエリザベルには明日にでも話をしておく。しかし、バルザードはどうする?」


 意外なほど素直に彼は頷いた。ESPメダルで内心を読んでも嘘ではない。というより、引退を撤退した瞬間から内部抗争は止めさせるつもりだったようだ。


「バルザード殿については、捕虜交換を持ちかけてはどうだろう。私が個人的に捕虜にしたシュルズ族の姫を使えば、可能なのではないか?」

「ふむ……。それも、貴殿の注文のうちということだな? なら、使わせてもらおう」


 この期に及んで、私に借りを作らない言い方はまったく大したものだが、まぁ別に構わない。


 さて、次の問題だ。

 公爵と会話しなながらいろいろと考えを巡らせているのだが……。


「で、第二の注文は?」

「うむ……」


 公爵の野心を建設的な方向に向ける案はないだろうか?

 なんとなく、頭の中にぼんやりと一つの考えがまとまりかけていた。

 相変わらず力のこもった公爵の視線から顔をそむけ、壁にかけられたフェルデ王国周辺の地図を見詰めると……。


「むっ」


 ぴかり、と頭の中に閃きが生まれた。

活動報告にも書きましたが、地震のため緊急の業務がはいり更新できませんでした。

今回も短くてすみません。

月曜日からは平常運転に戻ります。

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