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フィルサンド公爵

 フィルサンドが湾を構える入江を守るように伸びる半島。

 その尖端にそびえるのがフィルサンド公爵の居城『剛毅城』だ。


 半島は先に行くほど高くなっていたので城のそばまでいくとフィルサンドの様子も良く見ることができる。

 何百年も前にシュルズ族が築いた都市というのは本当なのだろう。規模はレリス市以上だが、城壁や建物はかなり古びていた。

 ただ都市そのものは古いが、非常に栄えているのも間違いない。次々に交易船が出入りしているし、大門から出入りする隊商も多かった。

 この都市と交易できれば、ジーテイアス城もさぞや潤うだろう……。


「ちょっと。前を御覧なさい、前を」


 領地経営について思案するという領主として当然の仕事に没頭していた私の後頭部を、クローラがこつりとつついた。


「うむ……」


 しぶしぶ前を、そして上に視線を向ければ非常に威圧的な建築物が嫌でも迫ってくる。

 言わずもがな、剛毅城である。


 フィルサンドの市街とは違いこちらは最近建てられたものだ。最近というのは20年前、フィルサンド公爵がこの都市を占領してからのことである。




「これは、人間にしては中々見事な建築ですなぁ」


 隣で見上げるフィブルが……ドワーフがそういうなら実際そうなのだろう。


「この城はシュルズ族や、他のフィルサンドを狙う部族、軍隊に何度も襲われましたが全て防いでいます」

「けっ。胸糞悪いぜ」


 エリザベルが呟くように付け足した。嫌悪しているような、誇らしいような、微妙な表情だった。一応、捕虜という体裁なので後ろ手に拘束しているディアーヌは、当然ながら憎憎しげに吐き捨てた。


「さてと」


 剛毅城の城壁をさらに取り囲む堀の直前で私達は立ち止まった。

 目の前には防御塔を備えた小門があり、堀を越えたその向こうには跳ね橋があるが今はもちろん上がり切っている。

 当然、見張りもいるだろうしこちらの接近には気付いているだろうが、こちらから呼ばわるべきか? と思案していると。


「そちらにおられるのは! ジーテイアス城主、ジオ・マルギルス様でありましょうや!?」

「……あれ?」


 防御塔の上から、見張りらしい兵士が大声で聞いてきた。詰問とかではなく、十分な敬意を感じる態度だ。

 確か以前、エリザベルが『ジオ・マルギルス名前を知っているのはフィルサンドでも数名』とかいっていたが……。ああ、その『数人』にはもちろんフィルサンド公爵その人も含まれているということか。


「どうやら、父上はマルギルス様に敵対するつもりはないようですね。……マルギルス様の情報を把握しているとすれば当然ですけれど」

「フィルサンド公は戦斧郷やユウレ村、レリスにまで情報網を持っているということですか?」

「私も詳しくは存じませんが……。時間的に考えて戦斧郷でのマルギルス様の動きまでは伝わっている可能性がありますね」

「場合によってはシュルズ族との騒ぎも、ですわね」


 ふむう。積極的に情報を集めそれを活用しているという点では、エリザベルと似ているな。やはり一筋縄ではいかない人物だ。


「如何なさいますか、マルギルス様?」

「……ここで惚けても意味ないだろうしな。返事してやってくれ」


 クローラに、格下の他人とはいきなり直接やりとりするなと教育されていたためイルドに頷いてみせる。


「そのとおり! こちらはジーテイアス城主、大魔法使いジオ・マルギルス様とその一党である! そして、戦斧郷からの使者、交易の家リムロンのフィブル殿も同行している。フィルサンド公爵ダームンド様との面会を願いたい!」

「承った! 少々お待ちを!」


 イルドの堂々たる口上に、兵士は淀みなく答えた。すぐに跳ね橋が動き始める。

 ……イルドはもちろん、あえてエリザベルの名前は出さなかったのだろう。だが兵士からは彼女の姿は確認できるはずなのだが。

 馬三頭ほどが並んで進めそうな跳ね橋がゆっくり下りてくるのを待ちながら、頭の中で私とエリザベル、フィブルにかけた防御やその他の呪文を確認しておく。……とりあえずこれで良いか。

 今回は『ESPメダル』も首から下げている。本来ならもともと敵対している相手以外には使いたくないアイテムだが、今の状況を考えると少しでも情報がほしいからな……。



 重々しい音をたてて跳ね橋がかかった。その奥の城門ももちろん開いている。


「……。では、行こうか」

「分かりました」

「準備よろしくてよ」

「御意」


 ジーテイアス城の序列としては私に次ぐイルドが先頭に立つ。

 クローラとレイハは私の背中を守るように後に続く。

 レードはそのさらに後ろ。一応、拘束したディアーヌを見張ってもらっている。

 フィブルはテッドと新兵三人に守らせて最後尾だ。


「父上が実際何を考えているか分かりません。注意してください」


 エリザベルは私の隣に立って囁いた。

 正直、その彼女が何を考えているかも今ひとつ分からない。今のところ誰も彼女の存在に触れていないが、場合によっては婚約の話を復活させるんだろうなぁ。





「ようこそ、フィルサンドへ。俺がダームンド。フィルサンドの主だ」


 ダームンド・フェルディ・フィルサンド。

 フェルデ王国領フィルサンド領主にして公爵。

 彼は四つの巨大な防御塔に囲まれた城館、その謁見の間で私達を迎えた。


「「大魔法使い、ジオ・マルギルス様に敬礼っ」」


 二列に並んだ騎士達が、一斉に剣を立てる。黒で統一されたプレートメイルに身を包んでおり、ぶっちゃけ悪役っぽい。

 【達人の目(センスオブアデブト)】の呪文をかけた目で見ると、みな大体4レベルくらいだった。一般的な兵士は1レベルだから確かに精鋭ではある。


 私はその目・・・を二段ほど高い座からこちらを見詰める男に向けた。

 年は私と同じくらいだろうか。

 白いものの混じった黒髪。やけに角ばった髭をたっぷり伸ばしている。がっちりした身体に騎士たちよりもさらに数段豪華な鎧をしっかり着込み、膝の上に長剣を乗せていた。

 眼光は鋭い。こちらを見透かすとか、憎悪があるというようなことではない。実際、【敵意看破(ディテクトエネミー)】には反応していない。


 この目の力は多分、彼自身の強い意思と野心の表れなのではないか。


 とにかく色々な意味で想像を裏切る雰囲気だ。お陰で彼の隣に立つ、やや露出の多いドレスをまとった美女の存在に気付くのが遅れたほどだった。

 公爵の隣に空いた椅子が置かれているが、彼女の席なのだろう。


 もっとこう、脂肪で膨れ上がった俗物親父みたいのを想像していたのだが……。ここまでストレートな悪役貴族風だとは思わなかった。


 【達人の目(センスオブアデブト)】の表示をよくよく見ると、公爵の頭上には【人間/男性/43歳/戦士レベル15】と出ていた。戦族の幹部カンベリスよりもレベル高いのかよ……。隣の女性は【人間/女性/37歳/魔法使いレベル7】だった。


「……」


 思わず彼らをじっと見詰めていると、背後でこっそりクローラが背中をつついてきた。毎度すまないねぇ。

 この場の主であるフィルサンド公が先に名乗ったのだから、ここは直接私が相手しなければならないのだ。


「こちらはジーテイアス城主にして魔法使い、ジオ・マルギルスだ。面会に応じていただき、感謝する」


 上座のフィルサンド公を見上げ、微かに顎を引くように会釈する。本来、同格の貴族同士でなければ許されない挨拶だ。


「なに、こちらこそ光栄というものだ。偉大な英雄にして強大な魔力の持ち主を婿として迎えられるのだからな」

「……」


 やけに親しげに言う公爵の台詞に、背後の数名の雰囲気が一瞬ざわついた。

 あちらから言い出すとは思わなかったが、いくつか考えていた公爵の反応の中では無難な部類か? エリザベルの法螺を真実にして私を取り込もうということだろう。


「ということはだ。俺と貴殿は家族ということになる。なので、こういう構図はよろしくないな?」

「さあ、マルギルス様。こちらへどうぞ」


 侍従長が私を案内しようとしたのは、フィルサンド公爵の隣の椅子だった。


「どうした、遠慮しないでもらいたい。貴殿の魔力と俺の精鋭で、少しばかり世界地図を書き直す相談をしたいんだからな」


 ESPメダルでいくつか彼の思考を読んでみると。

 ……どうやらこの公爵。私を自分の同類だと思っているようだ。

例にようって更新時間の遅れすみません。

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