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同じ顔 分かれた道

「……俺をどうしようってんだ、あ?」


 フィルサンド襲撃を繰り返してきたシュルズ族の姫、ディアーヌはあぐらを組んで伝法な口調で言った。

 腕の拘束は解いているが、もちろん例の神剣は取り上げている。


「まずそれは年頃の娘さんのする格好ではないだろう?」

「うるせーんだよおっさん!」


 思わず注意してしまったが、案の定一蹴された。

 まあ彼女くらい若い子と価値観が合うわけもないんだけども。


「……次に主様に無礼な態度をとったら舌を引き抜くぞ小娘?」

「うごごっ!?」

「主様はおっさんなどではない。人族基準では年配の男性と言え」

「ぐ、ぐるじい……」


 私に罵倒を返したディアーヌの背後に影みたいに現れたレイハが少女の首を締め上げる。……とりあえず落ち着いて話をさせてほしい。


「レイハ、もう良い」

「はっ」

「げほっげほっ」

「君をどうにかしようという気はない。私の質問に正直に答えてくれたら、解放しても良い」


 美女と美少女の心温まるやりとりに折れそうになる心を叱咤して、改めてディアーヌに語りかける。

 彼女もレイハの怖さは分かったのか、ひとまず横座りの姿勢になってくれた。


「……決闘に負けたのはこっちだ。別に殺されても文句は言わねーけどな。俺が知ってることなら教えてやる」

「うむ。ありがとう」


 思ったとおりディアーヌは実直な性格のようだな。私はローブの裾の奥で握っていた『ESPメダル』をそっとポケットに戻した。

 もちろん彼女が嘘をつかないという保証なんかはないのだが。どうしても様子が怪しかったり、口を閉ざされたらまた考えよう……。




 ディアーヌは一応、こちらが聞くことには素直に答えてくれた。

 私の名前と、私が暗鬼に関係があるというのは『呪術官』とやらが伝えてきた情報だという。

 『呪術官』はシュルズ族の『砦』からさらに南方にはいった『神の庭』に居るということも。


「ううむ……」


 それに、フィルサンド公爵がフェルデ王国のダームンド将軍だったころにシュルズ族を追放し、それから様々な争いがあったことも聞いた。

 あくまでもシュルズ側からの証言だから誇張もあるのだろうが……まぁ酷い話ではあるな。


「……今までにその呪術官とやらが他の暗鬼や巣の出現を予言したことはあったのか?」


 考え込んでいると、背後にむっつりと突っ立っていたレードが珍しく口を挟んできた。まぁ暗鬼に関係することなら彼も気になるだろう。


「いや、そんなことはなかったぜ」

「……」


 ディアーヌの答えにレードは巨体の割に端正な顔を微かにしかめた。やはり胡散臭さを感じているのだろう。そして、それは私も同じだ。


「その、呪術官に会いに行く必要があるのではなくて?」

「そうだな。あくまで、彼女をフィルサンドに送り届け、交渉を終わらせてからだが」


 レードの陰からちらちらとこちらを見ていたエリザベルを安心させるように言うと、ディアーヌが反応した。


「つーか、なんだよそいつは! 俺と同じ顔してるってことは、裏切りもののシェーラ叔母の娘だろ! てめぇ、勝負し……ごふっ」


 エリザベルの素性に気付いたのだろう、瞬間的に激高したディアーヌは地を蹴ろうとしてレイハに押さえつけられた。


「裏切りって……母上は捕らわれたのですよ? そして無理やり……好き好んでフィルサンド公に娶られたわけではありません!」

「無理やりだぁ? 俺ならお前を孕む前にダームンドの喉笛を噛み千切って自害するね! それができねぇってことは、豊かな生活のために同胞を裏切ったってことだろーが!」


 フィクションならともかく、現代日本でこのような重い修羅場はそうそうないだろう。双方の事情もある程度分かるだけに、どちらかに肩入れするのはためらわれる。

 クローラやイルドも沈痛な面持ちだ。


 レードがまた珍しく私に目配せしてきた。どうも『二人を引き離せ』と言いたいらしいが……。


「貴女だって、私から兄上を奪った!」

「はっ、あの腰抜けの坊ちゃんか? あいつなら『神の庭』の牢獄で少しは痩せてるころだろうよ!」

「優しかった兄上を無残に殺しておい……え?」


 ……たとえ、永遠に分かり合えない二人だったとしても、とにかく話をすることで何かが変わることもある。この場合は、これ・・かも知れないな。


「エリザベルは、彼女の兄……バルザードだったか? がシュルズ族に殺されたと言っていたが。違うのかね?」

「殺してねーよ! 決闘で勝って捕虜にしたんだ! そっちにも知らせてるはずだぜ?」

「そんな? そんな話は聞いていない……シュルズからの連絡が握りつぶされている?」


 良く似た顔と正反対の雰囲気を持つ少女の顔が同じ困惑の表情を浮かべた。


「……やはりすまないが、君にはフィルサンドまで同行してもらわねばならないな」


 私はディアーヌに告げた。





 それから、旅の中、エリザベルとディアーヌも交え話し合いは続けた。

 交易のこと、暗鬼との同盟のこと、フィルサンドとシュルズの争いのこと。私を暗鬼だとした宣託のこと。

 エリザベルは、ただ父と話したいというだけでなく、兄であるバルザードを救いたいという希望を持つようになった。ディアーヌはもちろん解放されてまたフィルサンドと戦いたいという意思を曲げはしなかったが、それでも決闘に負けたものとして私に協力することには同意してくれた。



 私といえば、最初に考えていた以上に様々な課題が出てきたことで、日に日に胃が重くなっている。

 フィルサンドとシュルズ、どちらに助力しても絶対に後味の悪いことになりそうだからだ。もちろん、彼らの争いにはまったくタッチしないという選択肢もあるが……。


 結局、結論はでないままに私達はフィルサンドに到着した。


 海岸線が大きくえぐれた入江に面した巨大な城塞都市。

 レリス市よりもさらに広大で、大小多数の船が出入りしている。

 入江を形作る細長い半島の先にあるのが公爵の居城だった。



「冒険者はこういうとき、『宝箱の罠の心配は守護者を倒してからしろ』というのですわ」


公爵の居城を見上げて胃の辺りを抑えていた私の肩を、クローラがぽんと叩いた。


次回でやっとフィルサンド公爵が登場します。

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