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決闘の後で

「だったら安心だ……なっ!」


 フィルサンド公爵令嬢と同じ顔をしたシュルズ族の女戦士は、迷いなくこちらに斬りかかってきた。

 私の背後の紫電の巨大青竜ヒュージブルードラゴンには目もくれない。

 他の戦士たちが脅えきって逃げ出したりへたり込んでいるのに比べ、実に勇敢だ。


「ダヤー!」

「ひ、姫様っ」

「……姫っ!」


 『武の頭』の裂ぱくの気合に、周りの戦士たちも我を取り戻していく。


 それにしても的確な行動だな。

 ドラゴンと自分の間に私を挟むことで、私の身体を盾にするつもりなのだろう。

 これが別のドラゴンだったら彼女の神剣は私に届いたかも知れない。

 だが。


「青竜よ! 喪心雷スタンライトニング!」

『キュオォォォォッ!』


 彼女の目には、まるで背後の青竜が私ごと自分を喰らおうと大きく口を広げたように見えただろう。

 そして、その口腔の奥で青白い火花が飛び散り、眩い稲妻のシャワーとなって自分を包み込む光景も。


「ぎゃんっ!?」


 稲妻に全身を打たれた女戦士は短い悲鳴をあげてぶっ倒れた。

喪心雷スタンライトニング。青竜の特殊能力、稲妻の息ライトニングブレスの一種で要するに電気ショックで対象を麻痺させるという攻撃だ。あえて青竜を選択したのは、この能力をつかって無傷で決闘に勝つつもりだったからである。


「ううっ」


 彼女の絶妙な位置取りのお陰で、喪心雷スタンライトニングは私も巻き込む形で撃つしかなかった。

 当然、私にも稲妻は浴びせられていたが、そこは36レベル魔法使いの抵抗力セービングである。少々痺れたがむしろ血行が良くなった気がする。もちろん、喪心雷スタンライトニングの『抵抗に失敗すれば気絶スタン、成功すればノーダメージ』という特性がなければここまで気軽には撃てなかっただろうが。


「姫様っ!?」

「なんだよあれ……あんなのに勝てるわけないだろ……」


 大分数を減らしたが、それでもまだ踏みとどまっていたシュルズ族の戦士たちも呆然としている。

 私は倒れた女戦士の前にたつと、ウィザードリィスタッフで強く地を叩いた。


「見てのとおり決闘の勝者は私、魔法使いジオ・マルギルスである! 約定により、彼女の身柄は私が預かる! あー……名誉ある決闘の敗者として彼女には決して傷をつけないことは約束しよう! シュルズの戦士たちよ、この場は立ち去るが良い!」


「……ううっ」

「くっ……このまま姫様を見捨てるわけにはっ……」


 戦士たちの反応は二つに分かれた。

 諦めて武器を下ろすものと、恐怖と戦いながらもじりじりこちらへ近づいてくるものたちだ。どちらかといえば、前者が多い。


 背後を振り返れば、青竜はそのまま存在し、首をゆっくりと巡らせて彼らを威圧し続けていた。それでも向かってこようというのだから、この子の人望は相当なものなのだろう。

 長々と彼らを説得するのも手間がかかり過ぎるし、さらに増援にこられても困るな。


「青竜よ、もう一度喪心雷スタンライトニングだ。彼らを全員気絶させろ」

『キュオォォォッ』





 結局、残っていたシュルズの戦士は全員稲妻に打たれ倒れた。


 少々手荒だったが、まぁあちらは最初問答無用で矢を射掛けてきたわけだし、これくらいは我慢してもらおう。

 力場の壁の中から出てきた仲間とともに、私はその場を離脱して本来のルートに戻った。

 本当はこの集落で暗鬼の痕跡を調べたりしたかったのだが、追加でシュルズ族がやってくるかも知れないので断念している。

 もちろん、シュルズ族の姫、ディアーヌは捕虜として連れてきていた。



 フィルサンドへ向かう山道に戻って数時間。

 案内役も務めてくれているフィブルによれば、そろそろ平地に出て、そこから4、5日歩けば到着するということである。


「それにしても驚きました。まさかドラゴンまで使役されるなんて……」

「まったくですなぁ。マルギルス殿の力は一つの軍……いや大国の軍隊全てに匹敵するでしょう」

「巨人や虫が使役できるんだから同じようなものだよ」


 追撃の気配がないことが明らかになると、エリザベルとフィブルが話しかけてきた。フィブルはともかく、エリザベルすら興奮したように顔が赤い。

 まあ、『D&B』でも最強クラスのモンスターだしインパクトはあっただろうな。


「マルギルス様は我等の流れの主オルリ。あの程度のことは造作もない」

「いやぁ、ダークエルフが人間に仕えているのも奇妙だとは思いましたが、納得ですなぁ」


 自慢気にフィブルに話すレイハ。この二人も最初は警戒し合っていたが、少しは仲良くなってくれたようだ。




 と、順調に歩いているところに、新顔の罵声が響き渡った。


「おいこらてめーっ! 何なんだよこの扱いはよぉーっ!」

「別に痛かったり苦しくはないだろう? 捕虜の扱いとしてはまぁまぁ人道的だと思うが」

「この辱めの何処が人道的なんだよこの野郎!」


 辱めとは失礼な。

 ただ、逃げたり暴れたりされないように腕を縛った上で【見えざる運び手スプライトポーター】で運送しているだけだ。

 まぁ『運び手』は彼女を肩に担いで運んでいるようで、傍からはシュルズの姫はお尻を高くあげて身体を折り曲げた姿勢でふわふわ浮遊しているよう見える。

 確かに少し恥ずかしいかも知れない。


「……」


 エリザベルは道中、複雑な顔でディアーヌを見ていた。

 ディアーヌも自分と同じ顔をした少女に気づいていたが、こちらは逆に完全に無視する姿勢である。


 『宣託』のことなど聞きたいのでこうして捕虜にしたが、正直トラブルの種にしかならないような気もする……。




 そろそろ山が終わる、というところで大きな岩を迂回すると、視界が一気に広がった。

 広大な平野と南に広がる海が見える。リュウス周辺の平地に比べてかなり緑が少なく、痩せた印象だった。

 と、少しの間展望を楽しんでいると頭上から輝く紙片がひらひらと落ちてきた。


「ん? ……ああ、これは【秘術の葉書アーケインポストカード】か」


 自然と掌に収まった紙片は、数日前にジーテイアス城のセダムに宛てに送った魔法の葉書だった。この葉書は一度だけ往復葉書として返信を送り返す機能があるので、それをセダムが使ったのだろう。


「なになに……『賊徒の排除のための戦闘二回。また、暗鬼の小集団が出現し、戦族、カルバネラ騎士団と協力してこれを撃破。被害は軽微。それ以外は全て順調』か』

「……暗鬼の出現がまた増えているようですわね」

「……」


 セダムからの報告を聞いたクローラが思案気に呟く。

 レードが無言で私を見つめ、それをレイハがまた無言で牽制する。レードとは戦斧郷で少し気心が知れたとも思ったが、彼と本当の意味で和解するには、私にかかった容疑を晴らすしかないだろう。





「やれやれ、御山を越えるのは久しぶりですよ」


 その日の夜。

 野営での食事の後、ガチガチになった脚を揉んでいるとフィブルがしみじみと呟いた。丁度良いので、彼に質問してみることにした。


「あのあたりはドワーフの聖地ということだったが、やはり暗鬼は出現するのかね?」

「暗鬼はどこにでも沸いてでますからねぇ……。もちろん、見つけ次第『戦闘の家バルバドロン』が駆除はしますよ」


 今までまったく暗鬼の気配がなかったというわけではないようだ。……要するに、私がやってきたから暗鬼が出た、ってことではないのだと思い、少し安堵する。


「人間が勝手に住み着いていたのはどうなのかな?」

「もちろんいい気はしないですよ。もし見つけたらやはり追い出すでしょうね。ただ隠れ住んでるものをわざわざ探し出すほど暇でもないですが」

「……ここ数年、フィルサンドはかなり税を上げてきているのです。それで市民の中には破産して奴隷になったり、逃亡するものもでていると聞きました」

「市民が逃亡するほどの増税を? フィルサンドは豊かな都市だと聞いていましたが……」


 エリザベルの捕捉説明に、イルドが心配そうな顔をする。


「竜人のせいで南方航路が不安定になっているんですよね。それにフェルデ国王からも臨時の税を何度か要求されていて……。ですから、戦斧郷、さらにジーテイアスとの交易路を開発するというお話は……」

「はっ! てめーらの稼ぎが足りねーからって、俺たちから奪おうってんだからな! 強欲なフェルデ人らしーぜ!」


 私達から少し離れたところで食事を摂らせていた(監視と世話はレイハに頼んでいる)ディアーヌが、大声で野次を飛ばしてきた。


「……」


 エリザベルを除いては特にフィルサンドに親近感を持っているものはいないのだが、これから同盟を結び交易しようという相手のことだ。みな、眉をしかめている。


 気は進まないが、もともとそのために捕虜にしたのだ。彼女も食事が終わったようだし、少し話してこよう


昨日土曜日は更新できずすみませんでした。

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