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神剣

「どうした!? ジオ・マルギルスだ! どうせ、そっちのひょろいのか、そこのおっさんだろう!?」


 【力場の壁(ウォールオブフォース)】で作った透明な壁の向こうで、獰猛そうな女戦士がこちらを指差してがなりたてている。

 その指先はどうやら、私とイルドを指しているようだ。どっちが『おっさん』なんだろう。


「くそっ何だこの壁は!」

「か、硬いっ」


 最初に思っていたより、シュルズ族の数は多かった。いや、次々に後続がやってきているのだろう。すでに周囲には百人近い包囲網ができあがっていた。

 といっても、いくら殴ろうが斬ろうが、力場の壁にはまったく歯が立っていない。

 ちょっと頭が混乱しているが、この隙に整理してみよう。


 なぜ、彼女達シュルズ族は私の名前を知り、しかも命を狙うのか?

 なぜ、『武の頭』ディアーヌはエリザベルと瓜二つなのか?

 そして、どうすればこの場を切り抜けられるのか?


 皆の安全を確保できた以上、三番目は正直どうにでもなるのだが。


「参考までに聞くが、彼女は貴女のお姉さんか何かかな?」

「さあ……。母には姉妹がいたそうですから、従兄弟とかそのあたりだと思いますが」


 エリザベルも不審そうな顔をしながら答えた。レードの巨体の陰に隠れているため、まだあちらには彼女の存在は知られていない。


「では、彼らが私を名指しで狙ってくる理由は?」

「それこそ分かりませんね。正直、フィルサンドでも貴方の名前を知っているものはごく一部の商人や貴族くらいだと思います」


 リュウス同盟とフェルデ王国の間はそれだけ交流がないということなのだよな。だからこそ、私がフィルサンドと交易ルートを拓く価値があるのだが……。


「何時までしらばっくれてるんだ、さっさと出て来い!」

「もう、良いからやっておしまいなさいなマルギルス! どうせ、あの連中がこの非道を働いたのですわ!」

「……むう……」


 外と内から甲高い女性の声で攻め立てられるうちに、どうやら頭の整理がついてきた。


「私がジーテイアス城主、魔法使いジオ・マルギルスだ」


 一歩前にでて、銀髪の女戦士に名乗りをあげる。


「やっぱりおっさんの方か。手間かけさせやがって! さっさとそこから出てきて首を差し出しな!」

「その前に、質問が二つあるのだが答えてもらえないか?」

「うっせー! 壁に隠れてこそこそしてる臆病モンと話すことなんざねー!」


 フィルサンドの公爵令嬢とシュルズ族の女戦士、どうやら似ているのは顔だけらしい。

 激高したディアーヌは腰から剣を抜き放つ。


「おおっ。ディアーヌ様の神剣が……」

「神々しい……」

「あれは魔剣……それも超級ですわね」


 周囲の戦士たちがどよめく。クローラも息を飲んだ。

 確かに彼女の剣の刀身は極彩色のオーラで包まれており、如何にも強力そうだった。


「シュルズ族は500年前の最初の『大繁殖』(ブリードで滅びた古代神王国の血筋といっていますが、あんな魔剣を持っているとはあながち嘘ではないのかも知れませんね……」


 エリザベルが相変わらずレードの陰に隠れたまま、律儀に説明してくれる。古代王国か……またやっかいな話になりそうな気がする。


「そぉだっ! この俺の神剣『血を啜る蛇』に斬れないものは……ない!」


 銀髪の女戦士は一声叫ぶと跳躍し、私の眼前に着地するや魔剣……いや、神剣を振り下ろす。

 狙いは私と彼女を隔てる力場の壁。

 彼女の早業に誰も反応できぬまま刀身が閃き、飛沫のように極彩色の光が飛び散った。


「いってぇぇぇぇ!?」


 もちろん、【隕 石メテオ】でも破壊できない【力場の壁(ウォールオブフォース)】が魔剣如きで斬れるわけがない。見た目の効果エフェクトは派手だったが、ディアーヌの手には強烈な衝撃が伝わったのだろう。

 銀髪の女戦士は魔剣を握った手を抱え込んでうずくまった。


 私やクローラ、イルドなど私の魔法について知っている者は平然としたものだが、エリザベルやフィブル、新兵達などは驚愕に目を見開いている。

 シュルズ族の戦士たちのショックはそれとは比べ物にならないようだ。


「嘘だろ!?」

「神剣は大岩や鉄だって簡単に斬れるはずなのにっ」

「あいつは魔神なのか!?」


「うるせぇぞ! 今のはちょっと舐めてただけだ! 本気出せばあんな壁は屁でもねぇ!」


 まだ顔を歪めたディアーヌが立ち上がり、ざわめく戦士達を一喝した。

 その一声で、動揺した戦士達が静まるのだから人望はかなりあるのだろう。しかしよくよく表情を観察してみれば、迷い……というより畏れの色が見え隠れしている。


 感情をまだ抑制できないようだ……いやいや。

 クローラだとかエリザベルだとか、手強い女性ばかり相手にしていたせいで誤解していたが、むしろこれが普通じゃないか?


「ちょっと待ちたまえ」

「な、何だよっ」


 杖の石突で地面を打ち、コミカルな雰囲気に緩みそうになる気分を引き締める。

 この集落の惨状や彼らの襲撃についてはきっちりと始末をつけねばならない。


「二つ、質問がある。私に用があるなら、答えてくれ」

「……何だよ?」


 渋い顔をするディアーヌだが、声にどこか安堵の響があった。もう一度、壁を破る流れになることは避けたいのだろう。


「まず、この集落を襲撃して人々を虐殺したのは君達か?」


 ああ、そうだ。こんな時こそ『ESPメダル』が必要だったな。生憎、今は背負い袋の中だ。


「はぁ? 知らねーよ! お前らが逃亡した連中に報復したんじゃねーのか? それとも生贄にでもしようとしたんだろうがっ」

「……逃亡……。確かにここ数年、フィルサンドからは貧困のために逃亡する民もいますね。彼らがそうなのかも知れません」


 エリザベルが小声で注釈を入れてくれることもあるが、ディアーヌも嘘を言っているようには見えない。というか嘘をつけるように見えない。


「では次に、何故私の命を狙うんだ? 私が一体何をした?」

「はっ! 語るに落ちたな、暗鬼野郎が! てめぇ暗鬼崇拝者(デモニスト)だろう! シュルズ族の呪術官に宣託があったんだよ!」



 ……何だかどこかで聞いた話になってきたぞ。

少々仕事が忙しくしばらく更新時間が遅くなり、字数も少なくなりそうです。すみません。

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