廃村
4月4日
物凄くアホな書き間違いを発見したのでご連絡して修正します。
エリザベルの台詞
×『結局のところ交渉と同じでしょう?』
○『結局のところ脅迫と同じでしょう?』
でした。
申し訳ありません……。
翌日。
さっそく、皆の行動の成果が挙がってきた。
まず私はイルドとともにドワーフとの交渉をまとめ終わった。
戦斧郷とジーテイアス城の交易開始及び税率などの細々した契約と、暗鬼に対する同盟について統率の家のドワーフと調印することができた。
計画としては、ひとまずはジーテイアス城の拡張工事と戦斧郷までの交易路建設を優先する。それらが完了後、フィルサンドの了解を得て戦斧郷からさらに交易路を伸ばす予定である。ジーテイアス城の工事を行っている間に、戦斧郷では巨大魔虫で掘るトンネルや交易路の設計図を作成することになっている。
フィルサンドとの交易については、戦斧郷からも交渉役を出してもらうことになった。
また、戦斧郷からはジーテイアス城に常駐する人員として、鍛冶師と技術者をそれぞれ助手とともに派遣してもらえることになった。彼らは城のスタッフとして使ってよいということだったので、大変ありがたい。
レイハは諜報達人ぶりを遺憾なく発揮してくれた。
フィルサンドの『星の盾騎士団』1人1人の会話や独り言から手荷物の中身まで調べ上げ、有益な情報をエリザベルに報告している。もちろん、彼らにまったく気付かれていない。
そしてエリザベルはレイハの情報から彼らの事情や人間関係を推測し、個別に交渉を重ねていった。
護衛にはクローラたちがついているので心配いらない。
エリザベルとレイハの調査結果をあわせて考察すると、やはり今回の首謀者はフィルサンド公爵家次男、アグベイルだった。ただしフィルサンド公が直接関わっているかどうかは不明のままだ。
さらに騎士団の中にも、暗殺という手段やアグベイル個人に対する反発を持つものもかなり存在していることが分かった。その中でも家柄や役職、資金などの面で比較的アグベイルからは遠い関係の騎士数名を寝返らせ……いや、協力してもらえることになった。
「本当に申し訳ありませんでしたっ!」
「これからは、姫様に忠誠を誓いますっ」
エリザベルに平身低頭する若い騎士2名。
彼らは今後、騎士団内部の情報を提供しいざとなったら彼女の側に立ってくれることになった。
アダードはじめ、その他の騎士たちも少なくともフィルサンドに帰還するまでは敵対行動はとらないという言質をとることはできた。
一応、騎士団には私達が先行してフィルサンドに戻った後、例のエリザベルがドワーフに発注した攻城兵器を運んでくるという任務を与えたので、道中や現地で邪魔になることはないだろう。
「お疲れだな」
「いえ……。いざとなればマルギルス様のお名前を出せば良いのですから、楽なものでしたよ」
『婚約者』として当然のように私の客室でくつろぐエリザベルは肩をすくめた。
「その割には不服そうだな?」
「絶対的な力を背景にした交渉というのは結局のところ脅迫と同じでしょう? ……気分の良いものではないですよ」
「そうだな。しかも『その力を向けられたくなかったら○○しろ』っていう交渉では余計脅迫じみている」
「あら? そんなことを言っていいんですか? 貴方のことですよ」
からかうような令嬢の言葉に、今度は私が肩をすくめた。
下品なことだと分かっているが、やらなければならない時はやらなければならないからな。
「妖精よ、秘術によりしたためた葉書を我が親しき友に届けよ。【秘術の葉書】」
呪文の詠唱が終わると、テーブルの上に小さな光の粒が集まって一枚の葉書を形作った。
私はその葉書に現在の状況の報告やジーテイアス城の様子を尋ねる文面を書き記す。書き終わると、葉書を摘みセダムの顔を思い浮かべながら窓の外へ投げた。すると、どこからか現れた小妖精が葉書をキャッチして彼方へ飛んでいく。
「……貴方の呪文の効果にしては、詩的ですわね」
「いままで巨人や鬼や長虫ばかりでしたからね……」
「ほっときたまえ。とにかく、これで2、3日後にはセダムに葉書が届く」
こうして、いま戦斧郷でやっておくべき仕事は全て終わった。
翌日、エリザベル嬢とドワーフの交渉役を加えた私達は、フィルサンドへ向けて出発した。
その四日後。
「……思っていたよりもこれは……きついですね」
「ちょ、ちょっと休ませて……」
いまのところ、戦斧郷からフィルサンドへは東の山地を抜ける曲がりくねったルートを使うしかない。
南北に二つの高山をもつ山地は標高が極端に高いわけではないが、岩が多くとにかく歩き辛い。
野営道具などを担いでいるテッドや新兵たちはもとより、身軽なエリザベルやクローラもかなり疲労していた。
私といえば、疲労せず歩き続けられるマジックアイテム、『トラベリングブーツ』を健康のためにと思って履かなかったことを後悔しているところだ。
「なあに、そろそろ御山を抜けますからね。下りになれば楽でしょう?」
「そうだな……」
私の横を平気な顔で歩くドワーフは、戦斧郷で案内役をしてくれた交易の家のフィブルだ。フィルサンドとの交渉役を任されたのだ。
道中、彼が説明してくれたところによると、二つの山はドワーフたちの神が祭られているそうだ。特に北の山は休火山であり、鍛冶の神の化身として神聖視されているという。
そんなことを思い出しながら歩いていると、例によって先行して偵察してくれていたレイハが戻ってきた。
「主様」
「ご苦労。何か、問題でもあったか?」
「問題なのかどうか。危険はありませんが……」
確かに、それが問題なのかどうかは判断に苦しむところだった。
数時間進んだ先に、レイハの報告通りのもの……滅びた小さな村があったのだ。
「これはどう見ても人間の村ですね。我々の聖地に勝手に住み着くとは……」
「しかしこの有様は……」
そう、そこは山地の岩場やささやかな森に潜むようにつくられた人間の小集落だった。
フィルサンドと戦斧郷を結ぶ山道からは少し外れている。
ただし、粗末な家々は焼き払われ、破壊され、住人らしい人々の遺体が転がっている。
「……むう……」
こうも露骨に暴虐の跡を見るというのは、以前暗鬼の巣を破壊しにいった地下通路以来だ。
遺体はどれも一般の村人のような姿で、ただ殺されたというだけでなく、執拗に嬲られたのがありありと分かった。胃の中身が逆流しそうになるの抑えていると、エリザベルがそのうちの一体に駆け寄った。
「……これはフィルサンドの人々の服装です……」
「戦士や兵士は見かけませんわね。このような村を襲うとは……賊でしょうか? それとも……」
無残な暴行を受けたであろう遺体の横に跪き呆然とするエリザベルに、クローラが寄り添って肩を抱き寄せてやる。
「微かだが、暗鬼の匂いがするな」
基本的に無言のレードがぼそりと呟いた。
片手に例の、暗鬼の血を封じた水晶球『見鬼』を持っている。
「レイハ、周辺をもう少し調べてくれ」
「はい……っ!?」
レイハが頷いた瞬間、私達の足元に数本の矢が突き立った。