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トンネルの入り口

 翌日。


 戦斧郷の実質的な支配者である統治の家ザムスロンの長、ギャルド氏との会談は拍子抜けするほどあっさりと終わった。

 もともと、イルドが下話を通しておいてくれたのだから当たり前といえば当たり前なのだが。

 ジーテイアス城との交易開始、対暗鬼のための同盟締結についてはむしろギャルド氏の方からお願いしたいと言われた。

 特に、燃料になる木材が不足しがちだということで、絶賛大量伐採中のジーテイアス城周辺から輸出しようと申し出たら大変喜ばれた。

 同盟についても、ドワーフたちも暗鬼に悩まされるのは同じらしく二つ返事で同意してくれた。

 これは、私の活動が事前に彼らに知れ渡っていたことが大きいようだ。


 そして、改めて提案した、交易路をフィルサンドまで伸ばすという提案についても、一つ条件を出されたが前向きに検討してくれるとのことだった。




「では魔術師殿、一つ頼む」

「魔法使いだが。すぐにはじめよう」


 いま、私達はドワーフの重鎮数名とともに戦斧郷の外にいる。

 農業には不向きそうな、岩が転がる荒野にはあちこちに奇妙な建造物もみえた。もちろん、例の巨大ドワーフ石像も彼方に確認できる。

 そんな荒野で何をしているかというと。


「これから私の下僕がどれほどお役に立つか、ご覧に入れる」


 そう、フィルサンドまで交易路を伸ばすためには、戦斧郷の東にある山地にとてつもない長さのトンネルを掘らねばならない。

 先の会議の場でドワーフたちから、私の魔法がトンネル掘りにどれほど役立つのか確認したいという条件を出されたのである。


『伐採や造成と違って、トンネル掘りはただでかい巨人がいれば良いというものではないぞ?』というわけだ。


 もちろん、最初からそのことは考えてある。



 仮想の私が例によって『内界』の魔導門を通り、螺旋階段をぐるぐる降りて第八階層に辿り着いた。

 呪文書庫の書見台に『準備(チャージ)』された呪文に触れながら、あの、おぞましくも役に立つ巨大モンスターの姿をイメージし、混沌に投影していく。


「この呪文により我が眼前に巨大魔虫ディグダグ・ワームを創造し1時間の間使役する。【特殊怪物創造(クリエイトスペシャルモンスター)】」



「おおぉぉっ!?」

「なんだあれはっ!?」

「化け物っ!」

「き、気持ち悪いっ……」

「うぷっ……、い、いきなり変なものを出さないでくださいましっ!」


 ドワーフたちの驚愕や、クローラからの苦情はまぁ当然か。

 私の呪文で創造されたのは全長30メートル、直径3メートルの巨大長虫なのだから。


「……むう」


 『D&B』のゲーム内では良く使っていたのだが実際にこの目で見るのははじめてだ。

 紫色の体表が濡れ光り、長大な身体をくねらせる姿は確かに気持ち悪い。


「こ、これが貴殿の魔術……いや、魔法か。しかしこれが一体何の役にたつというんじゃ……?」

「まあ、すぐに分かる」


 ギャルド氏が流石に顔色を悪くして聞いてくるのに、吐き気を堪えて余裕そうに答える。


「さあ、巨大魔虫ディグダグ・ワームよ。本領を見せろ」


 言葉というより私の意志を受け、ワームは仕事を始めた。

 大きく伸びをするように頭部を高く持ち上げれば、長い身体の尖端には円形の口がぽっかり開いているのが分かるだろう。うう、ぐろい。


 ワームはその頭部を大地にたたきつける。


『ズウンッ』


 と、強い単発の衝撃のあとから、『ガリッゴギッ』という粉砕音があたりに響き渡る。

 ワームは頭部を大地に押し付け、残った身体をうごめかし……徐々に、頭部を大地に潜り込ませていく。


「おい、まさかこいつは……」

「そう、このワームは岩でも土でも何でも喰って、穴を掘るのが大得意でね」


 解説している間にも30メートルの巨体はまるで吸い込まれるように大地に消えていく。

 鋭い毒針をもつ最後部が見えなくなるまで、5分ほどだったろうか。


「信じられん、これほど早く掘り進むとは……」

「何処まで進んでいるんだ?」


 好奇心旺盛なドワーフたちは、さっそくワームが潜っていった穴の縁までいき覗き込んでいる。


「ん? これは? トンネルの壁が何かで塗り固められているが?」


 建築の家ダウロンのドワーフが目ざとく問いかけてくる。彼のいうとおり、大地に垂直に穿たれたきっちり直径3メートルのトンネルの壁は、灰色のコンクリのような物質で硬く舗装されていた。


「……お耳を拝借。これはワームの排泄物だ。食べた土や岩を体内で変質させ、補強材として体表から分泌している」

「おぉ……至れり尽くせり、だな」

「山をくり抜くトンネルであれば強度が問題になるしな」


 女性陣の耳に入れたくなかったので小声で言ったが、ドワーフたちには大好評だった。




 結局、フィルサンドへの交易路建設について、戦斧郷のドワーフたちは大賛成してくれた。彼らは、フィルサンドを通じて遠方から輸入される珍しい素材を欲していた。

 ただもちろん、これはフィルサンド側の承諾の必要な話であるので工事を始めるまえにあちらと交渉しなければならない。


 私は当初、イルドにフィルサンドを訪問してもらうかと思っていたのだが、ギャルドから思わぬことを言われた。


「実に都合がいいことに、いま丁度こちらにフィルサンド公爵の娘が商談に訪れているのじゃよ。明日にでも、彼女を交えて相談しようではないか?」





 夜。


「……あの少女が、フィルサンド公爵のご令嬢だったとは不覚でしたわね」

「まあ、少々第一印象は悪かったかも知れないが……」


 私の客室に集まりみなで食事をとっていると、クローラが気まずそうに呟いた。

 あの少女、というのは例のエレベーターで出会った美少女である。

 気まずいのは私も同様、というか多分彼女の中で印象最悪なのはむしろ私だろう。


「エリザベル・ローニィ・フィルサンディア嬢ですか。噂で聞いたことがありますが、各国に出向き商談や外交をおこなう才媛だとか」


 イルドの有難い新情報も頭痛の種にしかならない。……いや。


「それだけ聡明な少女なら、交渉に私情を交えたりはしないだろうさ」


 意外なことにレードがフォローしてくれた。しかも、私が言おうとしたことだ。

 最近、ほんとに気が合うな。


「そうだな。まぁくよくよ考えても仕方がない。明日に備えて風呂でも入ってくるか」

「うむ」


 以前、ヴァルボが風呂が好きといっていたのは本当で、昨夜も公衆浴場(しかも温泉だ)を1時間以上堪能させてもらった。

 レードは最初嫌がっていたが、硫黄の匂いの強い大浴場に浸かれば借りてきた猫のように大人しくなっていたしな。


 と。


 私とレードとイルドが客室を出ようとしたタイミングで、ドアが外から乱暴にノックされた。


「何者か? ここは大魔法使いマルギルス様の居室である。名前と用件を述べよ」


 レイハが当然のようにドア越しに鋭い声で誰何すいかすると、怒気と緊張に硬くなった男の声が返ってきた。



「夜分失礼する。こちらはフィルサンド騎士団のものだ。我らが護衛するフィルサンド公爵令嬢エリザベル様の姿が見えないのだ。そちらの部屋を改めてさせていただきたい」


またも更新時間が遅くなり申し訳ありません。


年度末ということで少々忙しく来週も更新遅れ/できない、という事態があると思います。

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