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荒野の超巨大ドワーフ

 新しく城にやってきた兵士や使用人たちが慣れるまでの数日間は、特に何事もなく過ぎた。

 兵士達は中庭に居座る戦族たちにも驚いていたが、特に大きな問題は起きていない。

 ダメ元で、レードに新兵達の訓練を手伝ってもらえないか聞いたがもちろん断られた。



 城内の雰囲気が落ち着いたところで、戦斧郷へ向けて出発することにした。

 今回同行するのは、交渉の実務を担うイルド、相談役としてクローラ。護衛兼荷物持ちにテッドと兵士3名。レイハは言わずもがなである。

 セダムと他の冒険者とダークエルフ姉妹は、城の守りと兵士達の訓練に必要なので居残りである。


 さらに。


「万一の時、お前の首を狩るのが俺の任務だからな」


 と真顔で宣言したレードも同行することになった。言ったのが美少女剣士とかならツンデレとでも思えるのだが、100%本気なのだろう。

 ただし、戦族に監視されているなど体面が悪すぎると精一杯の抗議をしてみると、戦族のものではない通常の鎧を装備してきてくれるというから、全く融通が利かないわけでもないようだ。


「そいつはマルギルス様の荷物だからな、粗末に扱うんじゃねーぞー」

「了解っす兄貴!」

「そっちはクローラさんの荷物だぞ! もっと丁寧に扱えよ!」

「すいませんっ兄貴っ」


 テッドを兄貴と慕って(?)いるのが、巡視の時に『淵の村』で徴兵した若者三人組だ。もともと木こりで体力も根性もあったし、ジルクの訓練にもしっかりついてきている。今のところ、私への暴行未遂の罪による強制徴用されている身分だが、このまま真面目にやってくれるなら正式に雇用して給料も出してあげよう。




 ジーテイアス城から東へ向い森を出るまでは、森の巨人がよってたかって切り開いた路を使った。

 ドワーフたちによる石畳の敷設などはまだ終わっていないが十分移動可能だった。

 森を出たら、一旦北上してユウレ村から戦斧郷へ繋がる街道を見付け、そこから東に進まなければならないので、なるほどこれは大回りだと思った。

 このルートだと戦斧郷まで5、6日間はかかるが、交易路を開通させれば3日間程に短縮できるだろう。





「サッコ! そっち引っ張れー」

「あいよー」

「兄貴、薪集めてきやしたっ」


 何日も旅をするというのは、慣れると暇との戦いでもある。

 野営用のテントや食事の支度などほとんど手伝えない私がそんなことを思うのも、非常に申し訳ないのだが。

 テッドが若者たちに指示して簡単に準備を整えていくのを見ていると、手伝わないほうがむしろ早いし効率が良く見えるのだから仕方がない。

 逆に考えると、必要最低限の人員、つまり彼ら4人がいなかったら私やイルドやクローラがヒィヒィ言いながらこういった仕事をしたり荷物を運んでいたということだ。

 一城の主として、流石にそれは情けないしな……ここは彼らに働いて貰うとしよう。

 もちろん、レードは野営の手伝いどころか食事を共にすることもなかった。



 時間を有効に使うため、少し予習をすることにした。


「イルド、一つ教えてほしいんだが」

「はい、なんでしょう?」

「戦斧郷の東にあるフィルサンドについてだ。どんな都市なんだ?」


 そう、戦斧郷からさらに東に交易路を伸ばし、ジーテイアス城までつなごうと考えている東方の都市だ。

 以前セダムから簡単に聞いたところでは、東方の新王国フェルデの公都で海上貿易が盛んな大都会ということだったが。


「そうですね、海上貿易が盛んな都市らしいです。フェルデよりさらに東方の国々や、南の軍神国ラン・バルト北方の王国シュレンダルとも海上で繋がっているそうですからね」

「それはかなりのものだな……」

「ええ、ただ南周り航路で南の軍神国ラン・バルト北方の王国シュレンダルへ向かうには、竜人帝国の支配する海域を通過する必要があるためコストが非常に高いようですね」

「ここで竜人か……。ところで、戦斧郷はフィルサンドと交易しているのか?」

「細々と……という程度でしょうか? ドワーフと人間が普通に交易する方がどちらかといえば珍しいですし。もしかすると、他に何か理由はあるのかも知れません」


 その理由を調べてみないといけないな。

 怪物が邪魔して通行できない、とかそんな単純な問題なら良いのだが。

 工事そのものは、ドワーフの協力と私の魔法があれば何とかなるだろうし。


「もしもだが。フィルサンドから戦斧郷、ジーテイアス城を繋げて、陸路で大陸中央をつっきるルートができたらどうなるだろう?」


 ここまで言えば当然、イルドには私の考えが分かっただろう。はっとした目で私を見て、それから大きく頷く。


「それは、非常に有効ですね。今でも、黄昏の荒野を陸路でフィルサンドへ向かう隊商や商人はいるのです。しかし、ほとんどは黄昏の荒野のアンデッドや山賊、その他のモンスターに襲われて大きな被害を受けますからね。ジーテイアス城を中継に安全なルートを開拓すれば……」


 普段冷静過ぎるイルドがごくりと唾を飲んだ。


「これは、凄まじい利益を産みますよ」


 うむうむ、そうか。イルドが太鼓判を押してくれるなら自信が出る。


「マルギルスの常識外れの魔法があればこその計画ですわね。ただ……」


 途中から聞いていたらしいクローラが腕組みして付け足す。


わたくしも良くは存じませんが、フィルサンドは大きな都市だけに問題もあるようですわよ。一つには、支配者である公爵と、フェルデ王が不仲だとか……。それと、あの都市には蛮族の襲撃が頻発する、という噂を聞いたこともありますわね」

「ふむう……」


 私が各国と結成したい同盟はあくまでも対暗鬼のものであって、普通の意味の軍事同盟などではない。どの国とも対等な立場でなければならないのだ。逆に言えば、内乱だの内紛だの勢力争いなどにはできるだけタッチしたくない……のだがなぁ。


「まあそれはそれとして」

「ん?」

「そういうのを、駿馬の前に拍車を買う、と言うのですわ。まずは、戦斧郷のドワーフたちと同盟を結ぶのが先決ですわよね?」


 多分、獲らぬ狸の皮算用、とかと同じ意味であろうこの世界セディアの警句を引用するクローラの言葉に、私とイルドはもっともだと頷くしかなかった。




 巨大な岩が転がり、起伏の差も大きい道を数日進み、戦斧郷まであと半日ほどというあたりまで旅は順調に進んだ。

 岩で左右を挟まれ視界が悪いので、レイハに先行してもらっていると。


「主様! 前方に異形の影が……!」


 彼女は血相を変えて駆け戻ってきた。


「まるで巨人のような……警戒してくださいっ」

「巨人!?」


 私とクローラは杖を、テッドや兵士達は慌てて武器を構える。レードも巨大な剣を引き抜き、側にやってきた。


「まだこちらには気付いていないようで……おかしな動きを繰り返しています」

「……?」

「とにかく、見てみよう」


 モンスターについていえば単純に巨大な怪物、というだけならあまり脅威ではない。むしろ怖いのは動きが早くて数が多いタイプだ。

 とはいえ、普段冷静沈着なレイハの焦った顔に押されるように高台まで移動して見ると……。




 高台から見ると、まず遥か彼方に壁のように並び二つの山が見えた。片方の山は火山なのか、山頂付近から噴煙を立ち上らせている。

 その二つの山より大分手前に、三分の一ほどの高さの岩山があった。遠目で良く分からないが、岩山には人工物らしきものが張り付いて見える。このまま道を進めば岩山へ続くようなので、あれが戦斧郷なのかも知れない。


 そして。


「……なんだ、ありゃ……」

「人間……にしては……」

「サイズがおかしいな」


 私とクローラとレードが目を凝らして見詰めるのは、何か『人影』らしきものだった。二本の太い手足と、ずんぐりした胴体のシルエットは無骨だが力強い。

 岩山と我々の中間点くらいに立っており、岩山に辿り着こうと思えば、人影の足元を通り過ぎることになる。

 足元の道や回りの岩などと比べると、明らかに……。


「でかいな」

「主様が使役する森の巨人の倍ほどの大きさかと」


 レイハが深刻な表情で解説する。

 いくら、でかいだけの怪物は怖くないとはいえ、ここまでとは想定外だ。ほとんどモビルスーツ並みだぞ。

 さらに、人影ほどではないが目を引くのは、その周囲にある巨大な円形の何かだ。一番似ているのは遊園地の観覧車だろう。それが5、6個、大地から生えるようにそそり立ち、しかも回転しているようだった。


「う、動いてますの?」

「むう……」


 円形の何かだけでなく、人影も動いていた。

 ゆっくり、ぎこちなく片腕を上げ、そのまま両膝を曲げ……伸ばす……。踊りか、体操か、何とも判断の使いない動作である。


「ああ、兄貴ぃ、やばくねぇっすか?」

「ば、ばかやろっ。マルギルス様なら、あんなのは一発だぜ、一発!」


 兵士達も浮き足立っているが、テッドがかろうじて抑えてくれる。幸い、こちらに向かってくる様子はまだないが……。



「ドワーフがあんな巨人を飼ってるのか? それとも、襲われているのか……」

「あ、あのう、マルギルス様」


 予想もしなかった存在との遭遇に顔を見合わせた私達に、イルドが声をかけてくる。


「マルギルス様は確か、遠くのものを観察するためのアイテムをお持ちでしたよね? それで良くみてみてください」


 そういえば私は『遠見のレンズテレスコープレンズ』を持っていたな。

 要するに望遠鏡の効果を持つレンズを背負い袋から引っ張り出して覗き込むと……。



「どれどれ……」


 そこに見えたのは、水車を背景にして黙々と奇妙なダンスを踊る『超巨大ドワーフの石像』だった。

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