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人海戦術VSダークエルフ

「ぶひっ、ぶひっ」


 子豚に転生したシャウプ君が元気に走り回る床には、私が背負い袋(インフィニティバッグ)からばら撒いた金銀宝石が小山になって堆積していた。

 モーラが必死の形相で制止してくれなければ、小山が山岳や連峰になっていたかも知れない。

 背負い袋(インフィニティバッグ)の中を探ってみた感触では、三百万枚以上詰まっているはずの金貨や、数も覚えていない宝石類もほとんど減った感触はなかったが。それでも、いま冒険者たちの目の前にはこの世界セディアの金貨にして十万枚分くらいの財宝が積み上げられているわけだ。

 イルドが、モーラの救出のために支払うはずだった報酬が金貨三千枚。セダムたち1パーティを雇う相場がそれくらいであれば、目の前の全員、10パーティを雇っておつりがくるだろう。


「これで十分かね? であれば、さっそく仕事にとりかかってほしいのだが」

「は……ははっ。承知しましたっ」


 ギルド長以下、冒険者たちはこれまでと打って変わった真摯さで打ち合わせを始めた。

 さすがに、大量の金貨がばらまかれた応接室では話にならなかったので別室に移ってからだが。



 流石にプロだけあって、一度方針が固まってからは話が早かった。打ち合わせは直ぐに終わり、レベルの高かった戦士と僧侶が中心となってイルドたちの護衛を、調査を担当するグループはセダムが指揮をとることとなった。パーティ数でいうと、護衛が4パーティ、調査が6パーティだ。


「俺はまず盗賊ギルドをあたってみる。シャウプも連れて行きたいんでな、そろそろ戻してやってくれんか?」

「その呪文の持続時間は6時間だから、放っておけば勝手に元に戻るが」

「ああ、そいつはいいな。盗賊ギルドの連中にもその様子を見せてやろう。『協力しないならお前らも豚にされるぞ』といえばやつらの口も軽くなるだろう」


 相変わらずセダムは頼もしいな。しかしその流れだと私の方が悪っぽいんだが。

 とはいえ、所詮、この街にきて数日しか経っていない私が暗殺者や黒幕を探そうとしても、まさに雲を掴むような話だ。ここは彼らに任すべきだろう。


「そういえば、クローラはいないのか?」

「クローラは魔術師だからな。魔術師と神官はちょいと扱いが特殊なんだ」


 どうも、魔術師と神官は非常に特殊かつ有効な技術を持つため、魔術師ギルドや神殿組織と冒険者ギルドに同時に所属することができるらしい。クローラはどちらかといえば活動の軸足を魔術師ギルドに置いているので、セダムのパーティに参加するのも不定期なのだとか。


「マルギルス様っ! 大船に乗った気でいてください!」

「ダークエルフだろうが暗鬼崇拝者だろうが、俺達がとっ捕まえてきますからっ!」


 調査と護衛にあたる冒険者たち10組が口々に威勢の良いことを良いながらギルドから出発していった。

 調査班は盗賊ギルドやスラム街から始まってレリス市中の情報屋から情報を集め、地下道など隠れ家になりそうな場所を片っ端から虱潰しにすることになっている。

 護衛班は3交代で切れ目なく屋敷とイルドたちを守る予定だ。


 正式な契約書も取り交わしてから私達は冒険者ギルドを後にした。

 護衛たちのこともあるので、亜空間を移動するのではなくギルドが用意してくれた馬車に乗ってだ。




 帰り道、議事堂によって評議長ザトー・ブラウスにも面会した。

 体調は問題ないようだったが、やはりしきりに恐縮して謝罪を繰り返すので、それより早く犯人を捕まえてくれと言っておく。


「当然ですな。レリス市の威信にかけても、犯人を捕えるつもりです」

「犯人は当然として、その黒幕も是非捕えていただきたい。私だけならともかく、友人にまで危害が加えられたとあってはな。後の憂いは完全に断っておきたい」

「……私とマルギルス殿を毒殺しようとした犯人と、イルドの娘を誘拐しようとした犯人は繋がっていると?」

「評議長、私はこの市の人々に好意を持っていることは変わらない。これが一部の者のやっていることだとは、十分理解しているつもりだ。よって、建前は結構だ」

「……失礼。当然、そう考えられますな」


 評議長にしても、本来なら私如きが優位に立てるような相手ではないのだが。

 何しろ自分が招待した面談の場で、自分とその相手が毒殺されそうになった(しかも自分は相手に治療してもらった)というとてつもない弱みがある。

 だから私もぐいぐい踏み込んでいけるのだが、調子にのってあまり圧力をかけ過ぎないようにしないとな。


 そういうわけで、衛兵たちの激励という名目でまた少々財宝を渡してきた。

 市には衛兵が1500人程度いるそうだが、彼ら全員にボーナスが出ることだろう。

 帰りの馬車から通りを見ると、気合十分といった顔で衛兵達が聞き込みや検問を行っていた。





「はぁ……。ジオさん、ちょっと無駄遣いしすぎじゃないですか?」

「うぐ」


 屋敷に戻った私に、モーラが言った。さすが商人の娘だけあり、私の金の使い方には呆れたようだ。

 正直、自分でもあまり格好良いものではないなぁ、と思っていたところなのでかなり『効く』。


「モーラ、マルギルス様は私達をまもるために……」

「そりゃあ、そうだけど。……だってこれじゃ、私達がジオさんの邪魔になってるみたいで……」


 たしなめるイルドに向かって口を尖らせたモーラが、私に向かって勢い良く頭を下げた。


「ごめんなさいっジオさん! 私の(・・)ためにまた迷惑かけちゃって! ジオさんは大魔法使いなのに、私みたいな足手まといがいたら……」

「……」


 確かに、文字通り湯水のように大金をばら撒く私を見て、真面目なモーラが気に病まない訳がなかったな。

 私にとっては、ジオのキャラクターシートの隅っこに記入されていたただの『数字』に過ぎないため、そういう気持ちに無頓着になってしまったな。


「モーラ、そんな風に気にさせてしまってすまないな」


 私はモーラの前で膝をつき、視線を合わせて語りかけた。


「君は自分の事を邪魔だというが、そんなことはない。君が私を『大魔法使い様』ではなく『ジオさん』と呼んでくれるからーー人間として接してくれるから、私は人間の心を失わずにいられるんだ。もし君が今日の私を見て拍手喝采したらと思うと、ぞっとするよ」

「ジオさん……」

「だから、君やイルドのためなら私は金なんか全く惜しくない。君たちは私の『身内』だと、勝手に思わせてもらっているんだからね」

「マルギルス様……」

「ジオさああんっ」


 日本の会社員のままだったら、例え本心でもこんな臭い台詞を真顔で言うことはとてもできなかっただろう。

 だがここは、現代日本よりも少しだけシンプルな人間達が住む世界で、私は大魔法使いという仮面を着けている。だったらこれくらいは、許されるだろう。




 屋敷を長時間離れるのは心配だし、独自に調査しようにも土地勘も人脈もない。

 イルドが仕事で止む無く外出するときに付き添った以外、その後の3日間、私は引きこもっていた。

 その間、ダークエルフに雇われた盗賊が2回ほど屋敷を襲撃してきたり、レリス市の地下に未知の地下道が発見されたりとイベントは盛りだくさんだったが、全て冒険者たちが張り切って対応してくれたお陰で私の出番はまったくなかった。


 私が感知しないところで起きたイベントはもう一つあった。

 クローラもダークエルフに誘拐されそうになったのだ。考えてみれば、私に親しい人間という意味では対象になるのかも知れない。

 私にとってクローラは『頼れる仲間』であって、保護の対象という認識ではなかったためまったくの盲点だった。

 調査班の冒険者パーティが間一髪でダークエルフの動きに気付いてクローラを守ってくれたため大事には至らなかったが、後で聞いて盛大に冷や汗を流したものだ。


 もちろん、その後でクローラからは散々苦情を言われた。

 冒険者パーティを一つ護衛につけようと提案したのだが、「そんな効率の悪いことをしていられませんわ!」といって、今彼女もイルドの屋敷に居座っている。




 そして、4日目。

 冒険者たちや衛兵の奮闘が実を結ぶ時がきた。

 地下道を探索してダークエルフたちの隠れ家を発見し、4人のうち1人を捕縛することに成功したのだ。




「……これは……」


 私は冒険者ギルドに運び込まれたダークエルフを見下ろして思わず呟いた。


「何でこんなに露出度が高いんだ?」

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