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ダークエルフ無双 その2

 レイハたちダークエルフの、現代メディアもびっくりな諜報力。

 暴かれたシルバス男爵や騎士団長ロバルドのプライベートに、司令室の皆は気まずい表情を浮かべて押し黙った。

 これをダークエルフ砲と名付けようか……などと、思考が明後日の方向へ飛びかける。


 「……シルバスへの対応は後ほど検討するとして、リュウシュクでの情報収集の結果をお伺いしましょうか?」

 「そ、そうですわねっ」

 「はあ。主様がそれでよろしければ」


 イルドが場を取り繕うようにいうと、クローラや皆はうんうんと頷いた。

 レイハと四姉妹はちょっと不思議そうな顔をしているが。


 「では、ご報告申し上げます。リュウシュク市は……」


 シルバスの時もそうだったが、レイハの報告はごく一般的な情報から始まった。

 私が異世界の人間だということを知ってのことだろう。皆も静かに聞いている。


 リュウシュク市。

 場所はリュウス湖西岸。湖面に突き出た半島に建設されている。

 レリス市以外には唯一、防壁を二重に張り巡らせ水堀も完備した城塞都市だ。

 人口はレリス市を越える約四万人。しかもこのうち一万人以上が兵士か、何らかの軍務についている。

 産業は言わずと知れた軍隊派遣業。

 暗鬼や賊徒など、様々な外敵からの防備として各都市に兵士を常駐させている。また緊急時には多数所持している軍船を活用し、迅速に増援を派遣することもできるという。

 リュウス同盟の諸都市が、ほとんど湖岸に建っているという地の利を活かしているわけだ。


 経済力においてはレリス市に劣るが、軍事力とそれを活かした外交によって、リュウス同盟でも主導的な立場を確保していた。


 ジーテイアス城と私に対する反応は、はっきり言って最悪だ。

 市民たちは私を公然と詐欺師呼ばわりするか、良くてもリュウス同盟の支配を企む悪の魔術師・・・という扱いらしい。


 リュウシュクの重要人物は二名。

 一人は例の『中央良民軍』司令官、ソダーク・マクサリー。五十歳。

 厳格で実直。生真面目だが情にも厚く部下・市民からの評価は高い。

 妻を早くに亡くし、三人の息子も二人まで暗鬼や賊との戦いで失ってしまった。また自身も十年前の暗鬼の大発生時の負傷で片足が不自由だという。

 ちなみに残った次男、ソラスは一士官として良民軍に所属していた。


 「……なかなか立派な人物のようだが」

 「リュウス同盟の成立からの三十年。その間同盟を守ってこられたのは確かです」

 「他の領主のように盗賊ギルドあたりと馴れ合ったりしないのは、偉いと思うがな。堅苦し過ぎていかん」


 ここまでの情報だと、特に問題のない人物に思えるが……。

 裏話を聞く前にもう一人の重要人物についても確認しておこう。


 魔術師ギルドリュウシュク支部長ペリーシュラ。三十五歳。女性。

 超級魔術を使いこなす大魔術師であり、リュウス同盟内の魔術師の頂点に立つ人物である。

 『魔術は人間が世界を制するために創造神リメイダーが与えた技術であり、人間社会の発展のために使うべきである』という考えを持つ『神聖派魔術師』の代表でもあるそうだ。

 リュウシュク市の魔術師ギルドで多数の魔術師を育成するともに、良民軍にも積極的に協力している。当然、市民の人気も高い。


 「大魔術師、それも女性か」

 「……なんですの?」


 つい十五年後のクローラを想像して彼女に目をやってしまい、怒られる。

 しかしまぁ、この女性も話だけ聞くと問題があるようには思えない。


 ソダークにしろペリーシュラにしろ、純粋にビジネスの観点で私がでしゃばることを警戒しているというなら、まだ話し合う余地はありそうだ。


 「両名は自らの手でリュウス同盟を守るという点に執着しております」

 「……あ、そう……」


 ダークエルフ砲はここでも発射された。

 リュウス同盟への影響力と権益を保持したいとか、軍隊派遣業の利益が減るとかいう現実的な理由ももちろんある。

 ソダークは、リュウシュク市独立時のリュウス王国との戦いで戦死した父親の遺言により。ペリーシュラは親や他人から見捨てられた孤児であるという、過去へのコンプレックスから逃れるための名声を得るため。

 そういう個人的な動機によって、私との同盟を拒否したいということだった。


 「…………」

 「……?」


 またしても、広間に沈黙が訪れた。

 レイハたちはきょとんとしている。


 「そんな理由は、一言もおっしゃっていませんでしたが……」

 「まああまり人には言えねーだろ」

 「しかし困りますね。感情的な問題というのは、道理や利害によって説得できるものではありませんからね……」


 エリザベルとディアーヌのひそひそ話。そしてイルドが渋面で呟くのが聞こえた。


 「しかしな。リュウス同盟を守りたいって志はあるんだろ? だったらマルギルスが直に話せばどうにかなるような気もするが?」

 「……そうですわね」


 そうか?

 まあ、利害で話してダメなら個人的に信頼してもらうしかない、というのは分かる。

 しかしその前に一点、気になることがあった。


 私に頼りたいシルバス市と、私を排除したいリュウシュク市。

 両者の私に対するイメージに、差が有りすぎないか?

 私がこれまであちこちでやらかした・・・・・ことは色々あるが、その噂の伝わり方がおかしいのではないか?


 そのことについてレイハに尋ねると、彼女はもとよりサンダール卿も大きく頷いた。


 「申し訳ございません。その件につきましては、続けてご報告するつもりでございました」


 レイハの報告はある意味、これからが本番だった。


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