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ダークエルフ無双 その1

 ノクスは私に褒めちぎられて、多少は自信を持ったようだった。

 そんな彼に全権を預け、生活改善プロジェクトを進めてもらうことにした。


 結果がでるのはまた少し先になるが、本格的な冬になるまでには何とかしたいところだ。




 リュウス大会議に向けての準備を進める日々。

 そんなある日、レイハとダークエルフ四姉妹が城に帰還した。

 リュウシュク市とシルバスでの情報収集任務がようやく終わったのだった。


 「お久しぶりでございます、流れの主オルリマルギルス様。従属する者たる我ら、ただいま御前へ帰還いたしましてございます」

 「流れの主オルリ様、ただいま帰りました!」


 かしこまって平伏する黒い肌の美女と美少女四名。

 彼女たちが城にいない間、どうも裸でいるような不安があったのだがこれで安心だ。




 彼女たちを派遣したのはリュウシュク市とシルバス。

 リュウシュク市は、私とリュウス同盟が同盟を組むことに断固反対。シルバスの方は、逆に対暗鬼同盟だけでなく軍備の全てを私に委ねたいという両極端な都市だ。


 リュウス大会議において、この二都市の代表とどう話し合うのか?

 それを検討するための情報収集任務である。


 レイハは即座に報告したがっていたが、それを宥めて丸一日は休養してもらう。

 陸走竜ルーザディオ動く石像ストーンゴーレムに驚いたりもしていたが、何よりも私が王になることを承知したことに、彼女たちは喜んでくれた。


 その日は、モーラが久々に四姉妹と協力してご馳走をつくり、宴を楽しんだ。

 翌日。


 私は司令室に主要メンバーを招集する。

 レイハたちの報告を聞き、大会議対策を話し合うためだ。


 レイハは司令室の中央に膝をつき、皆の注目を浴びて少し照れていた。



 まず、シルバスだ。

 基本情報はこのようになる。


 場所は、リュウス湖北部の河口。他の都市と同じく防壁を張り巡らせた城塞都市である。

 人口は約三千人。ただし、シルバス男爵は三十ほどの村を支配下に置いており、その全体の人口は五万人を越える。

 特筆すべき産業はないが、農作物、漁業生産物を近隣都市へ輸出していた。

 人口相応の軍備として、五百人規模の騎士団と農民軍二千を揃える。


 都市としての規模はレリス市よりかなり小さい。

 ただし、シルバス男爵家がリュウス同盟の前身であるリュウス王国の名門貴族であったことによる権威は高い。

 全体の人口の多さによる生産量・市場価値と合わせて、リュウス同盟への影響力は侮れないということだった。


 ジーテイアス城と私に対しては好意的で、確か以前友好の使節をこちらに派遣している。


 さて、この都市の重要人物は当然、支配者たるシルバス男爵なわけだが。

 年齢は28歳。

 体型は小太りで性格は怠惰にして臆病、浪費家。特筆すべきは病的なまでの戦闘、軍隊嫌い。

 家族は母と姉が一人。兄もいたが、十年前の暗鬼の大発生時に死亡していた。


 実父である前男爵が事故により死亡したため数ヶ月前に爵位を継承したが、家臣・領民からの評判は最悪。ついたあだ名は『野豚男爵』。


 「……酷いな」


 レイハが淡々と語るシルバス男爵の情報に頭が痛くなってくる。野豚って酷いな。


 他の重要人物は、宰相のヨルスと騎士団長ロバルド。

 両名とも先代からシルバス家に仕える重鎮だ。男爵は内政をヨルス、軍事をロバルドにそれぞれ丸投げしているという。

 彼らの手腕は確かで、家臣・領民の評価も高い。


 「主様との同盟については、男爵領内は概ね一致しております。ただもちろん、軍備の放棄に関しては騎士団長を中心に家臣たちが猛反対している状況です」

 「だろうなぁ」


 少しでも考える頭があれば、この世界セディアで自衛のための力まで放棄するなどありえない。

 シルバス男爵は本気なのだろうか?


 「そういえば、エリザベルは男爵と話したことがあったな? どんな人物だったんだ?」

 「あまり、深くはお話しできませんでしたけれど。……統治にはまったくご興味がないようでした。お酒や食べ物、絵画……それにそのぅ、女性が大好きだとかで」


 エリザベルは少し顔を青くして、自分の身体を護るように腕を組んだ。


 「戦いがお嫌いというのも本当ですわ。私が魔術師の杖を持つことすら、怖いと仰っていましたし。ただまあ、ご親切で、優しいお方ではありました。お話しした印象ですが、能力が足りない方とは思えなかったのですが……」

 「な、なるほど」


 ……個性的な人物であるのは確かなようだ。

 エリザベルがいうなら実際、悪いヤツ……少なくても『邪悪』な人間ではなさそうだが。かといって、外部の力に頼って自衛しないなどという領主では困るなぁ。


 「主様、続けてもよろしゅうございますか?」

 「ああ、すまん。頼む」


 私が首を捻っているとレイハが報告を再開する。

 ここまでの情報は、シルバス領内での聞き込みなどで得たいわゆる一般情報だ。


 レイハたちダークエルフは、要所への潜入や盗賊ギルドとの接触などあらゆる方法で『裏の真実』を暴いてきていたのだ。

 その調査結果は……。


 まず、騎士団長ロバルドはかなりの奸物だった。

 軍権を握っているのを良いことに、領民から勝手に税を取り立てたり農兵に労働させたりと私腹を肥やしているという。もちろんその悪評は男爵に押し付けていた。

 先代の事故死はただの偶然だったようだが、男爵周辺の家臣を賄賂と脅迫でほとんど味方につけている。

 現在もほとんどシルバスを我が物にしているが、名実ともに君臨するため、軍事的な功績をあげた上で男爵の姉を娶る計画を練っているそうだ


 一方、シルバス男爵にも裏の顔はあった。

 怠惰で戦い嫌いなのは事実。しかし政治に関わらず放蕩生活を送っていたのは、ロバルドの目を欺くためだった。


 私との同盟に積極的なのも、軍事を握るロバルドの権力を少しでも削るためだ。

 ロバルドが功に焦って無謀な行動を起こすのを待つつもりらしい。


 なお、宰相ヨルスは裏も表もないただの善人だそうだ。


 「……うーむ」

 「…………」


 二つの点で、感心するやら驚くやらで、私は絶句していた。

 他の皆も同じような顔をしている。


 「驚きましたね」

 「は、はい。まさかシルバス男爵にそんなお考えがあったなんて……」

 「騎士団長にも驚きましたわ。騎士とは呼べない卑劣漢だったとは、先代男爵もお気の毒に」


 うむ。

 一つは、ボンクラ領主とそれに振り回される忠臣、といった構図があっというまにドロドロの内部抗争劇に変わったことだ。


 「いや、それより驚いたのはレイハにだろ」

 「ほ、ほんとだぜ。姐さん、とんでもねえな……」


 「そうだな。レイハ、良くそこまで調べてくれた」


 私も深々と頷く。

 もう一つは言うまでもなく、男爵や騎士団長の真意まで調べ上げてくるレイハたちダークエルフの諜報力の凄さだ。


 「主様にお褒めいただき、光栄の極みでございます。……ですが、お時間も資金も十分に頂きましたし、アルガたちもおりましたので……正直、さほどの難事ではございませんでした」


 レイハは涼しい顔で答えた。

 普段私が少しでも褒めると、恍惚として喜ぶのだが。……それだけ、彼女にとっては当然の仕事ということだろう。


 こんな女傑を、レリス市の冒険者や衛兵がよく捕獲できたものだ、と思うが。彼女に言わせると、暗鬼崇拝者デモニストに洗脳されていた頃は、能力の半分も発揮できない状態だったそうだ。


 「シルバスがそのような状況だったとは……。このままリュウス大会議で同盟を結んでも、男爵が騎士団長に謀殺されてしまうのでありませんの?」

 「うむう、そうだなぁ……」


 気を取り直したクローラが問題提起した。

 私もしばし考え込む。

 『そんなもん我が君が乗り込んで騎士団長をぶっ殺せばいいじゃんか』と言ったディアーヌを、隣のエリザベルがヘッドロックで黙らせていた。


 まあ、その騎士団長を排除なり説得する、というのは手段としては良いだろう。

 だがそれは私がやるべきことなのだろうか? 内政干渉もいいところだ。

 これが、暗鬼崇拝者デモニストの陰謀だとか、男爵の一族を皆殺にするクーデター計画だという話なら、まあ介入する大義名分もあるのだが。


 できれば政治的な争いには関わりたくないんだよな……。


 「主様がお望みでしたら、どちらか、もしくは双方を抹殺もしくは弱みを握って傀儡にすることも可能ですが?」


 レイハが『昼食は魚と肉どちらがよろしいですか』と同じ調子で聞いてきた。

 頼もしすぎて逆に怖いよ。


 「レイハナルカ殿。一つ聞きたいのであるが」

 「何でしょう?」


 それまで黙っていたサンダール卿が重々しく質問した。

 おお、何か妙案があるのだろうか。


 「両名の真意は分かり申したが、その動機は何なのですかな? 金なのか、権力なのか? あるいは命が惜しいだけなのか……」

 「はあ、それでしたら」


 レイハあっさりと、一国の主とその騎士団長の最もプライベートな秘密を口にした。


 まず、シルバス男爵。

 彼の根本にあるのは、優秀な戦士で家を飛び出し冒険者になった兄への劣等感だという。

 十年前の暗鬼の大発生の時に兄は死んでいる。

 その兄にあって自分にない『戦う力』を嫌うあまり、『戦う力』に頼らず国を豊かにすることに執着しているのだそうだ。


 次に騎士団長ロバルド。

 彼の動機はもっとわかりやすく、惚れた女性と結婚するためだった。そう、男爵の姉であるフィリィネ・シルバス嬢だ。

 今年三十歳と、この世界では行き遅れも良いところだが美貌と気立ての良さで家臣・領民の人気は高い。

 そのフィリィネと結婚し跪かせるために、周辺国からも認められるだけの功績を上げ、男爵以上の権力を握りたい。それが、ロバルドの人生の目標なのだという。


 「……」


 今度こそ広間は沈黙に包まれた。

 まぁ、例えば戦国大名とか高名な王なんかでも、心の底にあるのは案外俗な感情のかも知れない。

 だからシルバス男爵とロバルド騎士団長の『動機』も、馬鹿にしたものではないと思う。

 問題はそこではない。


 「……レイハ、そういうのってどうやって調べるんだ?」

 「? 普通に、日常生活を観察しただけでございます。誰でも周囲に誰もいないと思っている時は、本心が出やすいものです」


 うわぁ……。


 同盟をどうこうする以前に、預かりしらないところで丸裸にされてしまってるシルバスの人々に私は深く同情していた。

 というか、ますます関わりたくなくなってきたぞ。

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