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素敵な商売

 結局、サンダール卿との『騎士任命の儀』は城に戻ってから行った。

 晴れて正式に彼を仲間に迎えることができたわけだ。

 ただ、本人よりも従者の青年が涙を浮かべて喜んでいるのは少し異様だったが。




 それから数日間、私たちは後始末に追われることになった。


 戦族やシュルズ族の偵察要員を駆り出して、賊徒が残存していないかの確認。

 焼失や損壊した家屋の復旧に必要な人材や資材の手配。

 怪我人の治療のためには、医療官サリアを助手や大量の薬剤をつけて派遣した。


 村長には、村の被害を正確に調査し報告するよう指示している。


 特に大仕事だったのは、八十名以上の捕虜を城まで護送することだ。

 現場での指揮はサンダールとジルクに任せたのだが、色々と苦労したようである。




 四日後。

 今回の襲撃事件についてまとめるために、仲間を広間に集めた。

 セダムやイルド、レイハといった主力メンバーが欠けているのは痛いが仕方がない。


 窓の外からは、中庭を走り回る生徒達の歓声が響いていた。


 「ディノー! 踏ん張れー!」

 「ジェラ、負けるな」


 ディノとジェラは、三人の少年少女と仲良くやっているようだ。

 ドラゴンに変身した私を上位者と認識したらしい、例の恐竜もどきである。


 サンダール卿によれば、南の軍神国ラン・バルトで軍用に飼育されている小型ドラゴンの一種らしい。

 動物に罪はないということで、生徒達を飼育係として城で飼うことしていた。




 「マルギルス? よろしくて?」

 「ん、ああ。すまない。報告を頼む」


 クローラに促され、会議を開始する。


 「死者は十五名。うち働ける男性が七名、子供が二名。療養を要する怪我人が十一名。焼失した家屋は二軒。村外の畑が半分ほど荒らされて収穫不能。……以上が奥の村の損害ですわね」

 「子供までか……」


 クローラが読み上げた村長のレポート。少しばかり上向いていた私の気分は再び急降下した。


 「死者が出た家には十分な見舞金を出そう。特に働き手を失った家には手厚くしたい」

 「……?」


 せめてもと、私が出した提案だったが仲間たちは不思議そうに首を傾げた。


 「村での暮らしが厳しければ、城で使用人として雇っても良いだろう……。どうした?」

 「普通の領主でしたら、今回のようなことが起きても見舞い金など出しませんわよ?」

 「そうですなぁ。村人からすれば有難いでしょうが、一々見舞金を出してたらこっちが困りやせんか?」


 クローラとジルクの発言に他の者も頷いている。

 これが、この世界セディアの常識というものなのだろう。


 「余所よそ余所よそうちうちだ」


 私にしては珍しく、頭の固い親のようにぴしゃりと皆に言い渡す。

 見舞金といったって、背負い袋インフィニティバッグが軽くなるほどの額ではない。これくらいは、領主の好みでやらせてもらいたいものだ。


 幸い、『どうしても金を出したくない』と言い出すほど冷たい人間は我が城にはいなかった。




 それより遥かに頭を悩ませることになったのが、賊徒改め捕虜どもの処遇だった。


 「連中が南の軍神国ラン・バルト地方軍の脱走部隊ってのは、間違いないみたいですなぁ」


 捕虜の尋問を頼んだジルクが疲れた顔で報告する。

 私の記憶では南の軍神国ラン・バルトは内乱の最中ということだった。


 捕虜の情報でも、かの国は複数の小勢力に別れて勢力争いに明け暮れているという。

 彼らは元々国直属の軍隊だったが、とある地方貴族の軍隊との戦闘に破れ脱走したそうだ。


 「南の軍神国ラン・バルトでは軍からの脱走は最悪の罪ですからな。ヤケになって白魔山越えに挑むのも分かりまする」


 サンダール卿がうなずき補足する。

 白魔山、というのが南の軍神国ラン・バルトのある大陸南方と、リュウス地方を隔てる要衝らしい。


 「で。その白魔山をやっとこさ越え、森の中を二ヶ月以上さまよってようやく見つけたのが奥の村だった、と」


 私達が奥の村に到着した時、村を攻撃している賊の数が少ないと思ったのはそれが原因だった。

 つまり、多くのものは空腹と疲労でまともに動けなかったのである。


 「呆れ果ててものも言えませんわね。礼節をわきまえて助けを乞えば良いものを……」

 「連中、南の軍神国ラン・バルト内でも道中の村やら集落を襲ってたんだよ」

 「身も心も賊に堕ちていたということですわね」


 クローラが美貌を歪めて嫌悪を露わにする。私も全く同感だ。


 「慈悲をかける必要などありませんわ。全員、処刑なさるべきかと」

 「うーむ……」


 しかし私は、クローラの提案に考え込む。

 日本にいたころから、私は死刑制度賛成派ではあった。

 とはいえ、すでに抵抗もできない捕虜を皆殺しにするというのはなぁ……。正直、寝覚めが悪くなりそうだ。


 冷静に考えれば、連中の中には子供を殺して食料を奪った鬼畜もいるわけで。そういう奴を処刑すること自体には賛成なのだが。


 「いーんじゃねーの? 我が君、面倒くさかったら俺が全員の首を落としてやろうか?」

 「別に面倒くさいから渋っているわけじゃないんだが」

 「ちぇっ。卑怯者共に慈悲をかけてやることなんてねーと思うけどなぁ」


 むしろ処刑役をやりたそうなディアーヌは、可愛く頬を膨らませた。言っていることは全く可愛くないが。


 「そうだな……。全員とは言わないが、積極的に殺人を犯したものは処刑すべき、だな」

 「それは良いですが、見分けられますかね? 連中、命惜しさにでたらめ言うに決まってますぜ?」

 「気は進まないが、私の呪文で一人ずつ確認するしかないだろうな……」


 ESPメダルは壊れてしまったが、【読心テレパシー】の呪文は使用可能だ。

 一日に使用できる回数に制限はあるが、これで意識を読みながら尋問すれば冤罪は防げるだろう。


 「ほう? 流石城主殿。そのような能力もお持ちか」


 『主要メンバー』の中では新参であるサンダール卿が厳つい顎を撫でながら言った。


 「ということは逆に、あの者共の中でも比較的まし・・な人間を見分けることもできるわけですな?」

 「ん? 確かにそうだな」


 村を襲っては食料を奪って生き延びてきた賊徒どもの中に、そんな人間がいるかは分からないが。

 普通ならそんな人間を見つけることは不可能で、まとめて処刑とか投獄ということになるのだろう。

 面倒ではあるが、魔法使いとしてはそのくらいの労力は割くべきだろう。


 「ではこれから何日かかけて尋問のやり直しをしよう。それで処刑すべき者とそうでない者を見分ける」


 よく考えてみると、処刑するものとそうでないものを仕分けるというのもストレスがかかりそうな作業だな……。


 「では、もしもまし・・な人間が居たら、そやつらはそれがしにお預けくださらぬか? 我が城の兵士として鍛えてみたく存じまする」


 なるほど、サンダール卿が言いたかったのはこれか。

 元将軍で人間同士の戦争の経験もある彼にしてみれば、捕虜にした兵士というのはむしろ資産に見えるのだろう。


 「ですが、処刑する者以外を全員城に迎えるというのも問題がございませんこと?」

 「そうですね。元賊が何十人もお城に入るというのはぞっといたしません」


 一方クローラとエリザベルは、さも不快そうに口を揃えた。


 「確かに、奥の村の人々や城の兵士たちも嫌だろうしな」


 結局、処刑しない捕虜の扱いもまだアイディアが出ていない。

 どうしたものかと、また腕組みをすると。


 「それでしたら我が君、良い考えがありますわ」


 エリザベルが両手を合わせて、可愛らしく言った。


 「処刑するまでもないけど城にも置いておけない。そういう方々は、フィルサンドの奴隷商人さんに売り払ってしまいましょう」


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