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事の顛末 その2

 私との公式な同盟は結べない。

 言葉を濁してはいるが、戦族長老イーズはそう言った。ただ声に嫌悪はない。むしろ、諦めとも悲しみともつかない感情が篭もっている。


 「……理由を聞いてもよろしいか?」


 だから私も穏やかに聞きかえした。


 「我等は、法や秩序……人の命すら足蹴にし、暗鬼を狩ることのみを至上とする」

 「そんな我等が、秩序をたっとぶ魔法使い殿と同盟を結んでもお互いの不利益にしかならぬでしょう」


 イーズ老の左右から、カラオン老とディルギルオ老が説明してくれた。

 説明の内容自体は、私も何となく想像していたとおりである。


 「お前……貴殿にはっきり言ったことはないが、我等は暗鬼崇拝者(デモニスト)であれば女子供、貴族でも神官でも容赦なく斬り捨てる。邪魔をするなら、その子や親もだ。法も破る。というより権力者が暗鬼崇拝者(デモニスト)であった場合、法に頼ってはこちらがやられる。……だから我等は、あらゆる法の外側にいるのだ」


 カンベリスも暗い顔で付け加えた。彼がこんなに長く喋るのは初めてではないか。

 彼の後ろに座るレードはいつものように口を引き結んで無表情だった。


 「極端にいえば、俺が昔殺した貴族の係累が復讐のためお前の城に攻め寄せるかも知れん。それでも良いのか?」

 「……その問題は認識していた」


 正直に答える。

 彼らが私への不信や意地で同盟を拒絶しているのではないことは明白だ。それに実際、正論でもある。


 人道的に考えれば、彼らを五百年の伝統から解放し人間らしい生活を送れるように努力すべきなのかも知れない。少なくても、暗鬼を倒すためなら無実の人間を殺しても良いという考えは改めさせた方が良い、のだろう。

 だが、私は既に彼らの言葉に半ば納得していた。


 この『宿』にきて初めて実感できたことだ。彼らはただ伝統に縛られるだけの哀れな蛮族ではない。


 「だから、私も『今すぐに』同盟を組もうとは言わない。……とりあえず、『裏の同盟』でどうだろう?」




 「ふぅむ……」

 「むむ……」


 私の提案に三長老やかんなぎ、カンベリスも腕組みして首を傾げた。

 現実的、常識的な観点からみればさほどおかしな提案をしたわけではない。


 「お互いに何の損もない。実際これまでやってきたことと変わらないだろう」


 私が彼らに言ったのは要するに『公式に同盟するのではなく水面下で協力しよう』ということだ。

 具体的には、今までどおりジーテイアス城に戦族の戦士を駐留させてもらうこと、緊急時にはお互い連絡をとり援軍を送り合うこと、暗鬼に関する情報を共有していくこと、などだ。


 「ただし、何処かから文句がでたら知らん顔をする、と?」

 「まあ、そうなるな」


 戦族の戦士が駐屯しているのは今更だし、近辺を調査中に滞在しているとかいくらでも言い訳はできる。

 私達の戦族ならば証拠を残さず連絡を取り合うことなど簡単だしな。


 「何と言うか、こう……姑息……ですな……」

 「これっ、イーズ」


 何とも微妙な顔で唸るようにいったイーズ老を、巫が窘めた。といっても、エルフの少女の儚げな美貌にも同感だと書いてあった。

 姑息といえば姑息だがこの程度の寝技うらとりひきに抵抗感を持つとは、戦族の人々は純粋だな。……いや、分ってはいたが。


 彼らの純粋さ、誇り高さに比較して我が身のセコさが悲しくなってくる。


 「俺は受けるべきだと思う」


 逡巡しながらも、肯定に傾きかけた場の雰囲気にレードの重い声が止めをさした。


 「レード?」

 「細かい理屈は分からん。だが、こいつは信用できるし……信用するべきだ」


 巫の問うような呼びかけにレードはきっぱりと答えた。


 なんだ? ここでレードがそれを言うのか?

 ……なんだかホロっとするな。


 「確かに、大繁殖(ブリードの発生が確定的となった今、魔法使い殿との縁を切るのは愚かだな……」

 「……そうだな」


 長老たちも頷きあっている。



 しばらくの後。

 長老三人はそろって巫に平伏し、宣言した。


 「「戦族の総意として、大魔法使いマルギルス殿と非公式の同盟を結ぶことと致します」」


 黒髪艶やかなエルフの美少女は老人達に微笑んで頷き、私に言った。


 「我が子らをよしなにお願いいたしまする」



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