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大魔法使いの仮面

 事情が飲み込めていない(それはそうだ)ダーバルスと一緒に宿屋、『鉄鍋騎士亭』の扉を潜ると、モーラが男性に抱きつかれていた。


「モーラっ。よくぞ無事で……すまなかった、お前をこんな目に合わせてっ……!」


 男は茶色の髪で、黒目がちなところがモーラに良く似ている。動きやすそうだが刺繍や飾りの施された服装からして、いかにも成功した交易商人といったところだ。


「私はへっちゃらだったよ! 怪我もしてないし。助けてもらったから!」

「おおっ!? セダムさん、ありがとう! 本当に、何とお礼を言ったら良いか……!」

「あーいや、ちょっと待ってくれ。いろいろと事情が変わってな」


 男性……イルドはセダムに縋り付くように何度も頭を下げる。その様子からも、相当娘のことを案じていたのが良く分かった。……やはり急いで村にきた方が良かったな。


「さあさあ、まずは落ち着いて。みなさん一服してくださいな」


 宿の女将さんに促され、私たちはテーブルについた。どうでもいいが、やはり宿屋の一階は食堂なんだな……。



「……と、そんなわけさ」


 隣にモーラを座らせたイルドが、頭を叩きつけんばかりに何度も頭を下げてくるのを制して、セダムが淡々と事情を説明した。なお、暗鬼の軍団と出会ったことについては伏せている。


「では貴方様がモーラを……大魔法使い様っ本当にありがとうございましたっ!」

「あんたがモーラを? おお! 大魔法使いというのは凄い魔術師という意味かっ」


 イルドもダーバルスも素直に信じて感謝してくれる。ある意味ではセダムの人徳だ。


「い、いえ……。魔法使いとして当然のことをしたまでですよ」


 ちらりと横目でセダムとクローラを見ると『まぁまぁだな』という顔をしていた。

 それから、冒険者たちの報酬の話になり、セダムは当然辞退した(前金は返せないといっていたが)。その上で、私に成功報酬を譲ろうという。

 断ろうにも当のイルドから懇願され、結局金貨3千枚を受け取ることになってしまった。


「ところで金貨3千枚というのはどのくらいの価値があるんでしょうか? ……このあたりでは」

「まぁ、金貨1枚あれば町で1家族が1日美味い飯食えるくらいだろ」

「金貨3千枚あったらレリス市で家が一軒買えますよ? 丁度、2人で住むのに丁度いいくらいのが! 父さんに紹介してもらいましょうか?」

「なるほど……?」


 色々聞いてみると、どうも金貨1枚が日本でいう1万円前後くらいの価値らしい。もっとも、貨幣経済が日本ほど浸透していないこの世界セディアでは、農民や猟師は金などほとんど使わずに生活しているそうだ。

 しかし、ということは、金貨3千枚は日本円で3千万円か。


「……たかっ!?」


 3千万円て。日本の私の全財産より多いぞ。


「そうか? こっちの冒険者ギルドじゃ、あのくらいの仕事では普通の相場だがな。何しろ、こっちも命がかかってる」


 確かに金貨3千枚も5人で分ければ6百枚か。死ぬ危険性もある仕事と考えたら高いとは言えないのかも知れない。やっぱり現代日本やゲームを基準にしてはダメだな。


「とはいえ、いまは手持ちがありませんので……後日、レリス市まで引き取りにきていただけないでしょうか? 証書を用意しますので……。こちらはとりあえずの気持ちということでお受け取りください」


 そういってイルドが差し出した革袋には金貨がぎっしり入っていた。これで100枚分だという。……別にお金には困っていないというか、これと同じくらいの金貨を300万枚以上持ってるんだがな……

 とはいえこの流れで拒否するのも感じ悪いというのは流石にわかる。彼には後で何かお返しするとして、今はありがたく頂いておこう。


 ちなみに、ローブのポケットに入っていたジーテイアスの金貨をイルドに見てもらったところ、リュウス同盟内で問題なく使用できるとのことだった。


「ワシからも礼を言わせてもらうぞ、大魔法使い! 戦斧郷で困ったことがあったらいつでもワシを頼ってくれ!」


 ダーバルスも私の両手をがっちり掴んでそういってくれた。『戦斧郷』というのは、この村に近いドワーフの集落のことらしい。



 一通り、モーラの救出と帰還に関した話がまとまり、皆が女将さんの淹れてくれたシル茶を楽しんでいると。


「ジオさんっ。お願いがありますっ」


 と、モーラから山賊に奪われた積み荷の回収を手伝ってほしいと言われた。何しろ砦を断崖の上に持ち上げてしまったし、当然私もいかなければならないだろう。もちろん了解する。


「ああ、それは良いができれば後にしてもらえないか?」

「マルギルス殿には、是非ともやっていただかねばならないことが、ありますからね」


 む。そうだ。まずは暗鬼の巣を破壊しなければならない。


「あとで良いですけどっ! 絶対、絶対手伝ってくださいねっ!? あの積み荷が無くなっちゃったら困るんですからっ!」




 そんなやり取りのあと、父娘はイルドの部屋で休むことになった。近いうちに別の隊商に同行してレリス市に戻るのだという。

 ひとまず、最初に定めた目標は達成できたな……と私は胸を撫で下ろした。


「じゃあ、悪いがこっちの話をしても良いかな?」

「あ、はい」


 私とセダム、クローラの三人は別室に移った。今後の行動について相談するためだ。


「第一に優先しなきゃならんのは、暗鬼の巣を探して破壊することだ」


 セダムが私とクローラを見ながら言った。もちろん、私も彼女もうなずく。


「ありがたいね。ただ、あんたも分からないことが多いだろうから、俺の考えをまず説明させてもらう。その上で、聞きたいことなどあったら言ってくれ」

「ええ、お願いします」


 相変わらずセダムは理知的に話すな。会社の若い連中にも見習ってほしいところだ。


「このあたりで暗鬼やその巣を発見した場合、普通はカルバネラ騎士団かレリス市の評議会に報告するのが冒険者の義務になってる。場所的に今回は騎士団に報告するのが筋だろうな。そして、報告を受けたものは全力で暗鬼を排除することになっている」

「なるほど」

「しかし、問題がある。大規模な暗鬼の軍団や巣ってのはここ10年以上見つかっていない。そのせいで、評議会や騎士団の中には暗鬼の排除という義務を軽く考えてる連中がいる、って問題がな」

「しかし、実際に暗鬼の大群が現れたのですから……」

「それを彼らが信じればな」


 セダムが苦々しげに言った。クローラも渋い顔で頷いている。


「え? いや、しかし……」

「暗鬼の軍団を見かけたが、ちょっと隕石を落として壊滅させておきました……なんて話を誰が信じる?」

「あー……そういう話ですか」


 そうか、ここは現代の日本ではないのだ。暗鬼が出現したというのは、セダムたち冒険者からの情報でしかない。暗鬼の軍団が存在したことや、私が隕石を落としたことの証拠は現場にしかない。暗鬼が実際に村を襲ったとか、騎士の誰かが目撃したというならともかく……。


「俺たちも騎士団や評議会からの信用がないってわけじゃない。しかし彼らがこの話を信用しない……したとしても、事態を軽く見て対応が遅れる、ってことは正直十分予想できる」


 うーん……日本でもこういう話は良く聞いたなぁ……。

 あ。

 そういうことならばだ。何かが、すとんと胸に落ちた気がした。


「それなら、私が本当に隕石を落として暗鬼の軍団を倒せるくらいの魔法使いだと納得してもらえれば良い、ということですね?」

「俺たちがさっきから言っていたのも、そういうことさ」


 ……なるほど。今回の件を信じてもらえるかどうかはつまり、私という規格外の魔法使いの存在を信じるかどうかということなのだ。しかも、暗鬼の軍団を倒せるぐらいの『危険な(もしくは頼りない)』魔法使い、と思われてしまっては元も子もないのだ。それが、『英雄に見えるようにしろ』という助言に繋がるんだなぁ。


「うーむ……」


 セダムの言いたいことは理解できた。私の考えが甘かったと言わざるをえない。暗鬼の巣を破壊するといっても、セダムたちにひっそり同行して必要な時に呪文をこそっと使えば良いだろう、くらいに思っていた。



 私も就職してから20年程、社会の荒波の中を生きてきた。

 その経験から考えれば、これは『ペルソナ』に関する話なのだろう。ペルソナといっても自分の影を受け入れることで発現する例の能力ではない。『社会の中の役割に応じて演じる自分』というやつだ。つい数日前までの私は、主に『勤続20年のベテラン社員』というペルソナを着けていた。プライベートでは『温厚でゲーム好きな中年』といったところか。どの場面でどんなペルソナを着けるのか? それを適切に判断できるのが良い社会人だと言えるだろう。


「こっちにきてから、ふわふわ足元が定まらないような気分だったのはそういうわけなのかもなぁ……」


 私は天井を見上げて呟いた。そうか、牢獄で目を覚ましてからの私は、ただの素の私であり、どんなペルソナも被ってはいなかった。要するに、自分という存在の土台がなかったわけだ。


「分かりました」

「そいつは良かった」

「本当に分かりましたの?」

「……とりあえず、『大魔法使い』らしくすることは努力します。自分でいうのは何ですが、事実ですから。しかし英雄かどうかはまた別の話です。英雄っていうのは、他の人からの評価でしょう?」


 まぁ、そういう能力をもらってしまったのだから仕方がない。『大魔法使い』という大仰な仮面を被ることにしよう。しかしだからといって、早期退職の楽隠居をあきらめる必要もないはずだ。


「とりあえずそれで頼む」

「……まぁ、今のところは良しといたしましょう」


 セダムとクローラも一応納得したようだ。



 まずは、カルバネラ騎士団の拠点である白剣城にいかなければならない。

 私とセダム、トーラッド、そしてクローラが、ユウレ村で馬を借りて急行することになった。

 その手続きなどでみなが忙しく動き回っている中、例によって一人暇をしている私にクローラが話しかけてきた。


「少し、お聞きしてよろしくて?」

「あ、どうぞ」


 前にいっていた魔術と魔法に関する話だろう。魔術師ギルドが吹っ飛ぶとかなんとか……。


「もう少し、勿体つけた言い方の方がそれらしいですわよ、『大魔法使い』?」

「……ああ、構わないよ」


 せっかくのアドバイスなので、勿体つけるというより、『会社で新人に質問された私』モードで対応してみることにした。


「悪くありませんわね」


 クローラが少し笑う。自然な笑みを見るのは初めてかも知れない。


「それで聞きたいこととは?」


 会社なら『こととは?』なんて付けないが、アドリブだ。


「色々ありますけれど、今は危急の折りですし、一つだけ」


 彼女は私を真っ直ぐ見詰め、静かに語った。


わたくしたち魔術師が、初代魔術学院長から二百年。連綿と受け継ぎ発展させてきた魔術……。わたくし自身も、それなりの月日と努力を経ていまの地位にありますわ。でも、その魔術師ギルドの総力を挙げてもあなたの『魔法』には及ばないでしょう。わたくしがお聞きしたいのは、貴方の『魔法』それは、貴方だけの特別な恩寵ですの? それともーー」


 彼女は声を詰まらせ、まるで怖い噂に怯える子供のように頼りない声で続けた。


「学べば、誰にでも習得できる技術、なのでしょうか……?」


「……」


 元々ゲームのキャラクターが使っていたもので、設定とか私と友達が適当に考えました。

 などとはとても言えない。

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