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夕凪と闇夜の咲く場所で 作者:新夜詩希
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【対決された第三話】 <四>

「あ、タマお帰りー。遅かったね、モモさんとの話、そんなに盛り上がったの?」

「ただいま、ジン。まあ……そんなトコ。って……何コレ?」



 夕暮れ時を過ぎ、夜の帳が降り始める宵の口。秋吉荘101号室では美味しそうな匂いが充満していた。夕飯を作るカズをシンと共に手伝っている僕は、僕らよりも2時間近く遅れて帰宅したタマを出迎えた。……しかし料理を作るフライパンを覗き込んで、想像とは若干の差異を感じたのかタマは質問を二の句に継ぐ。

「何って……見りゃ分かんだろ、生姜焼きだよ。お前が食べたいって言ったんだろーが」

「そんな事訊いたんじゃないの。この肉は一体何だと訊いてんのよ」

「しょ、生姜焼きなんだから豚に決まってんだろーが。それとも何か? お前はイノシシか何かの肉で生姜焼きを作れとでも言うのか? そんなもん、硬すぎて食えたもんじゃねーぞ?」

「ほーぅ? しらばっくれるって事はアタシが何を言わんとしているか、分かっている訳だね?」

「あのねー、セールで国産特上を狙ってたんだけど他のお客さんに奪い取られて、それで仕方なく国産と安い輸入肉を買って来たんだって。『タマの事だから、混ぜりゃ分かんねーだろ。けっけっけ』とかカズ兄ぃが言ってたよー」

「わっ、バカシン! それは内緒だってさっき……!!」

「ほーぅ? ほーぅ? ほーぅ?」

「た、タマ……落ち着こうよ。ホラあれだよ、今月家計がピンチらしくて……」

「二人共そこへ直れぇぇぇぇぇ!!」

「「すっ、すいませんでしたぁぁぁっ!!」」

 輸入肉が少し混じっていただけ、という些細な理由でタマに正座させられる僕とカズ。確かにタマはここの家主ではあるが、そのバブリーな味覚もこのご時世どうかと思う。タダで住まわせて貰っている身でそんな提言は出来ないけど。
 因みに僕らの生活費は全てタマが工面して、カズが管理してくれている。出所は不明。何か元管理人のおばあさんの遺産がどうとかこうとか聞いた事はあるが、タマが詳しい話をしたがらないので僕も無理に訊いたりはしていない。現状衣食住に問題は一切ないので、不満もないし。

「……ま、いいか。今日はお腹減ってるし、この辺で許してあげる。料理が冷めちゃったらそれこそ本末転倒だもんね。それじゃ、頂きまーす」

『頂きまーす』

 僕らが説教されている間にシンが卒なく配膳を終え、今日も無事夕餉を迎える事となった。立ち直りや仲直りが早いのも僕らの特徴だ。いつも通り僕の隣にシン、正面にタマ、タマの隣にカズが座り、みんなで手と声を合わせる。こんな在り来たりの光景がとても大切に思えるのは、入学初日に問題続出でストレスが溜まっていたからだろうか。

 明かりが灯るようにほっとする安心がある場所。それが僕らの住むこの秋吉荘だ。胸に沈む言いようのない不安を掻き消すように、今日もカズの作った美味しい夕食に舌鼓を打つのだった。



「今日学校で倒れたんだって? 兄ちゃんが体調崩すなんて珍しいね」

「んー、まあ今は何ともないからいいけど……自分でも何で倒れたか分からないんだ。それよりお前の方はどうなんだよ?」

「うーん、いつもと変わらないかな。しょっちゅう体調崩して自分の限界が分かってるから、あんまり無理はしないようにしてるし」

「……そっか。ならいいんだけどな」

 ところ変わって、今度は僕の部屋201号室。浴室には僕とシンがいる。これも毎晩の決まり……という程の拘束力はないが、いつもシンと一緒に風呂に入る事にしている。……いい歳して弟と一緒に入浴とか、何となく気恥ずかしい部分もあるけれど、シンが一緒に入りたがるのだから仕方がない。まあ兄弟だし、水道代やガス代の節約にもなるし、特に問題はない。シンが体調を崩しやすいので、もしそうなった場合はすぐに対処出来るという利点もある。……因みにご期待に添えるような展開にはなりませんので、腐った方々はお帰り下さい。

「相変わらず……消えないなその痣」

「……ああ、これ? ボクはもう見慣れちゃったよ。ただ、教室で着替えたりする時とかはちょっと恥ずかしいけど」

 交代で身体を洗っているシンに目をやった。シンの身体には奇妙な痣がある。それも右肩と背中とへその近くの三箇所。いつからある痣なのかは分からないが、これが一向に消えない。しかも年々、何かの模様のような形状に変わっていくようにすら見える。僕としては、この痣はシンの体調不良と何か関係があるように思えてならない。
 原因不明。そう医者に告げられたシンの体調不良。症状は貧血のそれに限りなく近いので、表向きには貧血と診断されている。多少の好き嫌いはあるものの食欲は十分だし、血液に問題がある訳でもないし、痣が疼く訳でもない。そもそも痣はただの痣で、悪性の何とかだとか極端に言えばそれこそ皮膚ガンだったりと言った可能性も全くないそうだ。炎症の心配がない入れ墨みたいなものらしく、今後消えるか消えないかは全くの不明。
 要するにシンは、身体に原因不明を二つも抱えている事になる。兄としてはそれが少し不憫で、出来る事なら代わってやれれば、とよくそう思う。無理なのは分かっているけれど。でもだからと言ってシンを見放したり嫌いになったりなんて出来る訳がない。

「……でも、別にこの所為で虐められたりはしないし、友達から気味悪がられたりもしない。兄ちゃん達も優しいしね」

「シン…………」

 えへへ、とシンは照れくさそうに笑う。……こいつもこれでしっかりしている。両親がいない事や体調の事を憂う事はあるかも知れないけど、気に病むほど思い詰めてはいないし、きちんと僕らを慕ってくれている。たまーに毒を吐く事もあるが、それも良い意味で遠慮がないのだと思えば何て事はない。……や、もうちょっと歳相応の可愛らしさが発揮される場面が増えてくれれば……例えばちょうど今みたいに、ねぇ……。

「……あ、兄ちゃんなーんか変な事考えてんでしょ。ダメだよ、ボクの身体はエリナちゃんの為に取っておかなくちゃいけないんだから」

「よ、余計な疑惑を産む発言はやめろ! そもそも何だよその台詞! 何処で覚えた!?」

「あははー、冗談だって。兄ちゃんからかうと面白いんだもん。つい、ね♪」

「くっ……この……! そんな生意気な事言うガキンチョはくすぐりの刑だ!!」

「ちょ……やめっ……ぎゃはははははは!! やめてよ兄ちゃん! 謝るから! 謝るから許してぎゃははははは!! ボク笑い死ぬってぎゃははははははははは!!」

 春の夜、狭い浴槽でじゃれる。浴室には二人分の笑い声が反響し、空間を彩っていた。兄弟水入らずとは正にこの事かも知れない。やっぱり笑顔が一番いい。それは自分でも、他人であっても。家族であれば尚更だ。こんな日々が、いつまでも続けばいいと思っている。

 ……だが僕は、既に巻き込まれている運命をまだ知らなかった―――――







 *

 ―――午前二時。

「……もう寝た?」

「ああ、いつもの通り二人共ぐっすり寝てるよ。そろそろ行くか?」

「そーね。良い頃合いだわ。キレイな月……。これが夜桜見物なら上等だったのに」

「ついでに、隣にいるのはオレじゃなくてジンだったらって?」

「そうそう……はいいとして、これだけは肝に命じておいて。もしアタシがやられた時は、何があっても秋吉荘に戻る事。ジンとシンにはまだアタシ達が必要。せめてどちらか一方でも残らないと」

「……へえ、弱気な発言だな。らしくねーじゃんか」

「別に日和ってる訳じゃない。これはジン達の為の命令。万が一の話。勿論その逆も然りだよ。アンタがやられたらアタシは容赦なく見捨てて離脱する」

「当然だろ。その為にオレは『造られた』んだからな。言われなくても分かってるよ」

「……そうだね、今更だった。……さて、お喋りはこのくらいにして、そろそろ行くよ。準備はいい?」

「オーケー。どうせなら派手にブチかましてやろうぜ」

「当然よ。いつまでもあんな低級にのさばらせていたら居心地悪いったらありゃしない。今日で全てが片づけば、後のスクールライフはアタシとジンのバラ色ラブコメが待ってるんだからっ!」

「おっ、調子出て来たな。それでこそ我が(あるじ)。背中はオレに任せて思う存分暴れてやれ」



「……そう、アタシ達は勝つ。アタシ達でジンを守り抜くんだから―――――」



【対決された第三話】 了
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