第四話、見つけて……。
あの後、どうやって帰ったよく覚えていない。
ただ、気付いたら自宅に居た。
私はアパートの鍵を開けて部屋の電気を付けた。
チカチカっと二、三度瞬いて部屋を照らす。
散らかった部屋。私はドサッと倒れ込むように膝を付く。
白い包帯が巻かれた手首に視線を向けた。
痛みはない。けど、不気味さが残る。
昨日の窓に映った少女といい、さっきの青白い手は……。
ウ゛ーッ。ウ゛ーッ。
バックに入れたままの携帯電話が沈黙が破る。
一瞬、出るのに躊躇ったが職場関係の人かもしれないと思い、そこから携帯電話を取り出した。
画面表示には、直人。
との文字。
「もしもし?」
慌てて、通話ボタンを押し電話を耳に当てる。嬉しくて声が少し弾む。
「おーもしもし。詩織?」
「な、直くん……」
優しく響く彼の声に酷く安心感を抱き、不覚にも泣き出してしまった。
「詩織?」
電話の向こうから彼の声が聞こえる。少し、心配そうな声色。
「…ッヒクッ……直くん、…会いたい……。今すぐ会いたいよ……」
涙がポロポロと零れ落ちる。
「し、詩織?」
恐かった……。でも、何がどう怖いのかよく分からなくて上手く言葉に言えない。けれど、目に見えない恐怖心に駈られる。
今まで、彼にこんな我が儘言った事ない。いくら会いたくても電話で我慢した。
けど、今は直人にあってギュウって抱きしめて貰いたい。
こんなワケの分からない恐怖を拭ってほしい。
「詩織……。分かった。今から行く。着いたら連絡するよ。」
泣きじゃくる私を気遣うように優しい口調で宥めてくれた。
私は、子供みたく…うん、うんっと頷いて電話を切った。
暫くしてから、大分落ち着いた。鏡に映る泣き腫らした顔が酷くブスで嫌になる。
とりあえず、顔を洗おうと洗面所に向かった。
バシャ、バシャ、
火照った顔に水道水が冷やしてくれるのが心地良い。
顔を上げてタオルで顔を拭う。ふと鏡に目を向けた。
顔を洗って大分冷静さを取り戻した。そして、急に我に返った。
恥ずかしさが不意に沸き上がる。
けど、今から行く。って言ってくれた彼の優しさが素に嬉しく感じた。
鏡の中の自分に笑い掛けた。
その瞬間、笑顔が凍り付いた。
私の背後に誰かいる。鏡越しに映っている。けど、この位置からはよく見えない。
振り向いて確かめる。ただそれだけ。
なのに、恐くて恐くてそれが出来ない。
けど、いつまでもそうやっているワケにも行かない。
私は覚悟を決めて後ろを向いた。
誰も居ない。
静かな六畳半の部屋に水道から流れる水の音が響く。
もう一度、鏡に視線を向けた。ひどく怯えた表情の私が居る。それだけ。
気のせいかな……と自分に言い聞かせたその直後。
ドン!ドン!
玄関のドアから誰かが叩く音が聞こえる。
直人かな?
私は直感的にそう思い、鍵をガチャっと回し、ドアを開けた。
「…ねぇ…?」
そこには長い黒髪、真っ白なワンピースを身に纏った華奢な少女が立っていた。足は、もちろん裸足。
「っ………!」
私は思わず、その場にしゃがみ込んだ。
けれど、人間って不思議なものだ。怖いのに声が出ないのだ。目を逸らしたいのに目を見開きそれを見ている。
「…いやぁ……」
私は、後退りをしながら彼女から離れた。
けど、背にテーブルがあたり、これ以上下がれない。
しかし、彼女は構わず足を進める。
「ねぇ……」
前髪が被って表情が分からないが彼女の唇が動き、か細い声が響く。
「……あたしいつまで待ってればいいの……?」
「……?」
不思議に思い、顔を上げてみた。
「…もう、一人は嫌……。早く来て……」
その言葉からは、寂しさだけが伝わってきた。
「みみこちゃん……?」
私は手を伸ばして、彼女の頬に触れてみようとした時。
ウ゛ーッ。ウ゛ーッ。
テーブルの上に置いてあった携帯電話が震え出す。
不安定な所に置いていたせいか、テーブルから崩れ落ちて、私の手のすぐ傍に横たわる。
しつこく鳴り響くバイブ音。
私は、手だけ動かし携帯を耳に当てる。
「…も…もしもし?」
「やっと通じた。」
声の主は直人だった。
「……な、何?やっと通じたって?」
さっき電話で話した時、ちゃんと通じていたよね?
そう思いながら彼からの言葉を待つ。
「はぁ?その後すぐに詩織かけ直してきたじゃん?」
「えっ……?」
「何?って聞いても何も言わねぇーし。仕舞いには最後に変な切り方するし。」
「変な切り方……?」
「゛もーぅーいーいーよ゛。って言ってブチっと切ったじゃん?」
顔から血の気が一気に失せた。
携帯電話を耳から離した。ストラップの揺れる微かな音と直人の声が耳に付く。
それが妙に耳鳴りで、私は通話ボタンをもう一度押して電話を切った。
視線を玄関に向ける。もうみみこちゃんの姿はない。
けれど、私の中で一つの答えが浮き上がった。
見つけて欲しいんだ。
みみこちゃんは。
自分の事を。
誰かに。
なぜ、そう思うのかよく分からないけど直感的にそう思った。
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