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記念作品シリーズ

星すくい

作者:尚文産商堂
やあ、俺の仕事は星すくい。
え、俺が何かだって?
そんなことは気にしなくていいよ。
俺は俺だし、君は君だ。
だから、気にすることはない。
さあ、これから俺が話すのは、俺自身の物語。
ずっとずっと昔から続いている、俺の仕事の物語。


俺がこの仕事を始めたのは、俺の父ちゃんがしていたからだ。
「星すくい?」
もう、かなりの昔に、俺が父ちゃんに尋ねたときに、初めて聞いた仕事だ。
あれは確か、8歳になったかならなかったか、それぐらいの時だ。
「そうさ、星すくいっていう仕事だ」
この星には、いろんな仕事がある。
パン屋や、花畑管理人や。釜を集めているという仕事もあるし、ただひたすら物を壊すという仕事もある。
でも、このときには、星をすくうなんて、どんな仕事なんだろうと、わからなかった。
「お前が大きくなったら、すっかり教えてやろう」
そういって、父ちゃんは、俺を抱きかかえて、星空を見せてくれた。
この星は、夜というのはない。
どうしてかって?
決まってるだろ、無限に広がる宇宙には、無限に星があって、それが一日中光を振りまいているからさ。
この星に届く光も、当然、無数にある星から無数に届いているからこそ、昼と夜の明るさは若干ぐらいしか違わない。
君のところは違うのかい?
まあ、いろんな世界があるさ。
君のところも、そんないろんな世界の一つなんだろうね。
とにかく、そんな星空の中で、ポツリ、ポツリと何もない、真っ暗な場所があったんだ。
まるで誰かが手ですくったように、そこだけな。
だけ、といっても、そんなのがあちらこちらにある。
少なくても、10か所は目についた。
「あの穴、なあに?」
俺は父ちゃんに尋ねる。
ポッカリと空いた穴を指さしながら、俺に父ちゃんが答えてくれた。
「あそこには、昔、お星さんがいたんだ。でも、怪我をしてしまって、この星におちてしまった」
その時、父ちゃんはポケットをまさぐる。
取り出したのは、小さな瓶にキッチリと詰められた黄白色の砂みたいなものだった。
「そうれ!」
蓋を勢いよく取り外すと、瓶の中はあっという間に空っぽになる。
しかし、俺の目はそこを見ていなかった。
瓶の蓋が開いた瞬間、そこに詰められていた砂は空へと駆け上がる。
それはまるで、花火のようだった。
吹き上げられる噴水のようだった。
みるみる間に、砂は星となり、光り輝き始めた。
「光り出しただろ」
父ちゃんを見ると、笑っていた。
「うん!光ってる!」
この時は、仕事に大変さ、何て知らなくて、無邪気に俺も笑った。
星すくいなんていう仕事に興味をもったのもこの瞬間までなかった。
そもそも、仕事なんていうのは、大人がすることだという気持ちがあった。
だからだろう、今までとは違う、一歩成長できるんだという期待が、不安を上回っていた。


15歳になると、学校も卒業して、あとは方々、好きな仕事を探す旅が始まる。
短かったら半月で、長くても3年で結論を出して、どの仕事につくかを考えなきゃならない。
俺もいろんなところを巡る旅に出た。
旅に出る当日、父さんが教えてくれた言葉がある。
「いいか、世界は広い。でも、俺らは、ここで待っていてやる。決まるまでな」
すぐ隣には、母さんがいた。
母さんは、何も言わずに、俺のことを見ていた。
「分かった。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そう言う母を、俺は1回だけ手を振り返すために振りかえっただけだった。

俺の場合、旅は近くの町に行くことから始まった。
だいたい1週間店で働き、いくばくかのお金をもらって次の店へと。
そんな旅だ。
働き口はいくらでもある。
中には、地下奥深くにあるダンジョンの経営や、盗賊のあっせんなどもあった。
もっとも、そんなところには俺は行かなかったが。
勇者の仕事ということで、なにやら対戦をするという仕事もあるようだ。
こんな仕事は、だいたい街に1つや2つある掲示板を見に行けばいい。
大量に紙が貼られている巨大な掲示板だ。
設置されている街の規模に比例して、どんどんと掲示板は大きくなる。
俺が見た中で一番大きかった掲示板は、縦が30メートル、幅が100メートルはあった。
高いところにもびっしりと紙が貼られていたが、実際に見るのは床に置いてある台帳だ。
求職台帳という名前の、これもかなり厚さがあるファイルだ。
もっともジャンル分けされているおかげで、掲示板全体から探すという手間は省ける。
それであっても、最後には掲示板の中から目当ての者を探さなければならないから、大変だ。

だいたい旅をはじめてから半年は過ぎてたどり着いた、とある街のこと。
掲示板の大きさは、大体3メートル×5メートルぐらいの小さいものだった。
ここで俺は聞き覚えのある仕事を見つけた。
そう、「星すくい」だ。
仕事内容は、空のお手入れということらしい。
小さい頃に見たあの光景の謎を解きたくて、俺はこの仕事を選んだ。

「やあ、君が新しい人だね」
小さな工房のような質素な部屋は、俺と親方ともう一人女の子がいた。
部屋の大きさは10畳ぐらい。
そこここに仕事道具のような、見たことが無い器具が置かれていた。
「ん?君のお父さん、もしかして星すくいの仕事をしてなかったかい」
「あ、その通りです」
俺は親方に答える。
「そうか、やはりあの人か……」
そうか、そうだったかと何度もうなづいている親方に、俺は尋ねてみた。
「あの、なにかあったんでしょうか…?」
「ん、いやいや。実はね、君のお父さんと僕は昔からの知り合いでね」
初耳だ。
そのあたりを深く聞いてみたかったが、カタカタカタ……と小さな振動音が聞こえてきた。
「む、そろそろ続きをしなければな」
そう言って親方は、近くにあった胸のあたりまで高さがある作業台に向かう。
その上は散雑となっていたが、ある一か所はちゃんと整えられていた。
それは、小さな瓶にたくさん詰まった砂と、その周りだ。
瓶の中の砂は、わずかに光が脈動している程度で、明らかに元気が無い。
「いいかい、この子たちは星の欠片(かけら)だ。欠片は、空から落っこちかかっていたり、落っこちてしまった星なんだ。この子たちを、また空で輝けるように治療することが、僕ら「星すくい」のお仕事になる」
そう言って、砂を作業台の上に用意したトレイの上に広げる。
ふわっとわずかに浮かぶものもあったが、大半は、普通の砂のようにサラサラとトレイの上に広がっていく。
「この子を助けると言ってもやり方は様々。どうだい、してみるかい?」
親方は、その時、はっきりと笑っていた。
楽しそうに、新しい弟子を歓迎していたんだと思う。
俺ははいっ、とどう考えても緊張している震えている声で返事をして、作業台を覗く。
向こう側には女の子がジッと見ている。
そして、俺の脇から親方が作業をずっと指示をしてくれた。

30分ほどで作業自体は終わり、トレイから塵一つ残さずに瓶の中に星の欠片を集めた。
教えてもらったところでは、星の欠片は元気になると空に飛んで行きたがるらしい。
だから、作業が終わると必ず瓶に入れて、蓋をしっかりと締めないといけないそうだ。
そうじゃないと、家の天井を突き破って飛んで行ってしまうから。
そう、親方に教わった。

それから俺は親に手紙を出し、星すくいの仕事に就いたことを知らせた。
親からはそれから定期的に、大体月に1度ぐらいのペースで手紙が届く。
そして、女の子とは仲良くはなった。
それ以上の展開はなかっただけだ。


10年が経った。
星すくいは「星救い」だと思うようになってしばらくが経っていた。
女の子は立派な女性として成長して、今もなお親方と一緒にいる。
俺はというと、新しい仕事だということで、今日は外に出ていた。
「星すくい、という仕事は部屋にこもっているだけじゃないんだ」
親方に連れられてやってきたのは、街外れにある小高い丘だ。
「見てごらん」
親方が指さす先には、チカチカと、切れかけの蛍光灯のような感じの星の瞬き方をしている空の一部だった。
「そこで、こうする」
ポンと手を叩くと、星は流れてこちらにやってきた。
そして、親方が掲げる瓶の中にするりと入っていく。
「星すくいは、星“掬い”とも書く。星を集め、そして助ける。これが星すくいの仕事だ」
これが、本当の星すくい。
そう、掬い、救う仕事。


さらに5年間、この間に兄弟子の女性は別の町へと行った。
そして、弟弟子がやってきた。
そして、卒業の日が来た。
「これを持って行きなさい」
親方が別れ際に俺に渡したのは、手のひらぐらいのガラス瓶だ。
「星の欠片をこれにいれたら、出ていくことはない。頑張れよ」
「……はいっ」
弟弟子からも別れをいわれ、俺は親方のもとを去った。

そして、久しぶりの実家に帰ってきた。
「ただいま」
「お帰り」
母親が迎えてくれる。
遅れて父親も出てきてくれた。
「お帰り」
「…ただいま」
俺は父親にそれから無事に星すくいの仕事を続けることができるということをいった。
「そうだな、小瓶ももらったようだしな」
「うん、俺、仕事継ぐよ」
「よし、頑張れよ」
父親はそれだけ言ってくれた。
でも、それ以上言わなくても、全部理解できた。


これが、俺の仕事、星すくい。
掬い、救うという仕事。
今日もきれいに輝く星を掬う。
そして、救う。
次の世代を育てつつ、次の世界を見守りつつ。

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