先代勇者と騎士の姫
(シルヴィア達ほど似てはいないが……うん。すごい血を感じるぞ)
俺がメアリー・フィ・クレストリアに抱いた感想はこんなところだ。容姿はアイツらほどは似てないもの、纏う雰囲気や金髪ロールで姉妹か親族だとわかる。
「知っていたのかい?」
メアリーさんの傍らに立っていたファルハットが、メアリーさんの変わりに聞いてくる。
「あー、俺はついこの前までリズワディアに居て、少し間だけど教鞭を執っていたんだ」
俺がそこまで言うと得心がいったとばかりにファルハットは頷いた。
「妹君にお会いしたのか。確かにお二人はとても良く似ておられるからなぁ」
あ、やっぱり姉なのか。
「フン。騎士の国の王族でありながら魔法にかまけている妹などとは、断じて似ていませんわ!」
ファルハットの言葉に否定の言葉で返すメアリーさん。姉妹仲はあまり良くないのかな?
……いや、どうにもシルヴィア達と比べちまうが、これくらいが普通なんだろう。多分。恐らく。……きっと。
「で、そのメアリーさんが何故ここに?」
クレストリアと言えば中小国の一つながら『騎士の国』と有名な国で、著名な騎士を多く輩出している国らしい。(昔レオンハルトにそう聞いた)
そんな国のお姫様が、何故こんな場所にいるのだろうか。
俺の問いに何故か顔を少し赤らめたメアリーさん。
「ファルハット卿との婚前旅行ですわ」
「へぇー、婚前旅行! それはおめでとうございまうぇ!?」
王族とか貴族とか、結婚した後は凄く忙しくなるんだろうなー、なんて思いながら答えると、彼女の言葉に聞き逃しちゃいけない単語が含まれていて思わず変な声が出てしまった。
今なんて言った? 誰との婚前旅行だって?
「姫様、その事より……」
俺が追求するよりも早くファルハットがメアリーさんを促す。
俺としては結婚の詳細を知りたいのだが? え、……歳の差結婚? 俺より少し上くらいの姫さんと、四十を過ぎてそうなファルハット。姫様の反応を見るに政略結婚とかじゃないみたいだけど……
「ああ、そうでしたわね。ユウ・ヤシロ、私も、此度の事件で力を貸しますわ」
「え? ……いいんですか?」
ドヤ顔でそう宣言してくれるのはありがたいが、仮にも一国の姫様がそんな事していいのか?
「リーゼリオンの皇女であるシルヴィア様は勇者との旅の中で、そういった事件をいくつも解決なさってましたわ。騎士の国の王女たる私が、遅れを取るわけにはいきませんわ!」
あー……そういや嬉々としてやってたっけシルヴィア。正義感が強いのもそうだが、合法的に暴れられるからと言う理由の方が大半を占めていたからな。あいつもあいつで戦いとか好きだし。魔装演武とか出たがるかも。
「あー……了解です。御身のご守護はファルハット……卿に任せます」
ここで断ってもどうにも引き下がりそうに無いから頷いておく。万が一があってもファルハットなら大丈夫だろうし。
「では早速、どこまで進んでいるのです? 敵の居地は掴めたのですか?」
了解するや否やすぐさま目を輝かせたお姫様に質問責めをされた。
この人絶対シルヴィアと同類だわ。
仕方がないのでヴォーダン邸であった事を簡単に伝えると、聞き終わったメアリーさんの身体がわなわなと震えはじめた。
「愛すべき家族を盾に脅迫するとはなんて外道ですの! こうしてはおれません。ファルファット卿、ユウ・ヤシロ! 私にお供しなさい!」
「いやおいおいおい! 何処に行くつもりだ!?」
思わずタメ口になっちゃったがんな事言ってられる余裕なんてあるか。怒りに顔を赤くして今にも走り出そうとするメアリーさんを呼び止める。
「街の端から端までですわ! そうすればねずみのようにわらわらと逃げ出し姿を現すでしょう!」
「んな数人で人海戦術なんて出来るわけねぇでしょうが! この街は村とかの規模じゃないんだぞ!? つか見てないでファルハットも止めろよ!」
メアリーさんが首を突っ込んできた時に止めようとしなかったくらいだからそう言っても無駄だと思いながらファルハットに言うと、ファルハットは真剣な表情で何かを思案していた。
「ヤシロ君、あのシスター……ベルナデット、と言ったかな? 彼女はヴォーダン氏の元に届けられた脅迫文の事は知らないんだね?」
「ん? ああ。脅迫文を知ったのはベルナデットと分かれた後だ」
そう言えばなんでベルナデットはあんなふて腐ったような態度をしてたんだろうか……ううむ、謎だ。
しかしとりあえず謝って置くべきか? 何かして怒らせた可能性もあるわけで……。
悪いことした覚えがないのに謝るのは癪だが、機嫌が悪いままだと気まずいし。
「ヤシロ君。……もしかしてだが、彼女は誘拐犯を見つけたのかもしれないぞ」
ベルナデットにどう謝ろうかなやんでいると、ファルハットはそんな事を言ってきた。
◇
「おいおい、なんなんだこりゃあ」
「……凄まじいな」
港町ベ・イオ。その港と街とを一直線に伸びる大通りに来た俺たちは、瓦礫の山となった区画に足を止められていた。
そもそも何故大通りに来たかと言うと、ファルハットとメアリーさんが来る途中、この大通りでベルナデットとぶつかったと言うのだ。
ただぶつかっただけならそれでいい。ベルナデットは何かを追うのに必死な様子だったらしい。
もしかしたら、誘拐現場に居合わせたのかもしれない。と言うことでベルナデットが走って行った方向やらを教えてもらおうと現地に来たのだが……
「二、三軒どころじゃねぇ。纏めて爆破されたみたいだぞ」
俺たちは事件に群がる野次馬から少し離れて見ていたのだが、まるで爆撃でも喰らったんじゃないかと言う悲惨な有様だった。
街の人だろうか、数人の亜人が瓦礫の撤去作業をしていた。
「なぁ、ちょっと! 一体何があったんだ?」
近くにいた犬族の男に声を掛ける。すると男は「それが俺にもさっぱり! 気付いたら火の手があがってたんだ!」と興奮気味で語り出す。
興奮した様子の男はもっと近くで見ようと野次馬の人垣を前進していった。俺はファルハットに目配せする。「どう思う?」と。
「十中八九、間違いなく魔術師だろう。それも高位の魔術師が複数人……」
君の意見を聞こう。と目配せして来たファルハットに俺は頷き返す。
「同意見だ。ただ、なんでこんな街中でやり合ったんだか……」
「恐らく今回の事件の、誘拐騒ぎに関係していると私は思う。……ベルナデット君が追っていた誘拐犯ではないだろうか?」
「だとしたら……ベルナデットが戦っていたってのか?」
俺はもう一度瓦礫の山を見る。もし建物に巻き込まれたって言うなら、間違いなく死んでいる。
そう考えると、俺は人垣を無理やり押しのけ瓦礫の山へ走り出す。
「冗談だろっ……冗談だよなぁ!?」
大の大人数人が居てやっと持ち上がるような瓦礫を蹴飛ばし、放り投げ、俺は杞憂であれと願いながら掘り返していた。
そして、ソレは思いの外早くに見つかった。
「コレ……ベルナデットの、魔銃……」
瓦礫の下から出て来たのは、ベルナデットが愛用していた二挺の拳銃。それは正しく、ベルナデットがここで戦い、敗れた証であった。
お待たせしました。最新話です。
ようやく二巻が出ましたね! 余談ですがメアリーさんは勇から見て年上ですが胸が大きくないのでそこまで騒いでません。
ではまた次回。お楽しみに!