先代勇者の想い人?
ん? ……今何か言ったか?」
「いいや何も?」
「……呼ばれた気がしたんだが……気のせいか」
ヴォーダン氏との話し合いが終わった後、一人でも探し出すと息巻いたクオンをふん縛って部屋に叩き込んでおいた俺たちは、ベルナデットを迎えに道場まで来ていたのだが……。
「いねぇな」
「ああ、いないな」
そこにベルナデットの姿は無かった。どうやら先に帰ったみたいだ。
「あんにゃろう。先に帰りやがって……」
俺が帰っていてもいいと言ったんのだが、やはりどこか許せん。どうにも体調が悪いようには見えなかったからだ。
「おや? 随分彼女を気にかけるのだな」
俺の言葉にジャンが茶化すように反応する。自称文化人のジャンは野次馬めいた所がある。ふざけて言ってるんだろう。
「そんなんじゃねーよ……って、なんだよ」
ふざけて言ってきてるのだろうと思ってジャンの顔を見ると、口元こそ笑っているが、目は真剣そのものだった。
「あの修道女……彼女はベルナデットと言ったかな? 確かに、姫に似ているな。君が惚れ込むのも、無理はない」
「は?……何を言ってるのか、ぜんぜんわかんねーんだが?」
俺が問うと、ジャンは肩をすくめて、やれやれと言いたそうにため息をついた。
「やれやれ、相変わらず君は強情な奴だ。……その恋心を、誰も止める権利はないのだよ?」
本当に言いやがった。つか、なんの話だ本当に!
俺の苛立ちを感じ取ったのか、はたまたそれが狙いだったのか、ジャンは帽子のつばで目線を隠し、言った。
「彼女はどこか、オリヴィア姫に似ているな、……勇」
オリヴィア・フィン・ルーテシア・リーゼリオン。
―― ……勇くんは、どんなことをしたいの? ――
シルヴィアやアリシアに似た容姿の、
―― 私はね~、世界一周とかかっこいいと思うな! ――
なんて笑いながら人の将来を決めちまう、
―― そしたら、世界中の事を勇くんに教えて貰えるし! ――
少し年上の、ただの、女の子。
―― 名案だと思わない? ――
「バーカ、んなわけあるか。全然似てねーよ」
「む?」
俺が答えると、ジャンは予想していなかったように目を上げた。
「だってよぉ、ベルナデットの胸は物を挟めるんだぜ!? それだけで驚きだってのにふとももやお尻もエロい! ……これだけ聞けば、あの地獄にいた事もあるお前なら、どれほど凄いことかわかるだろ!?」
俺の力説を聞いたジャンは一瞬間を空け、盛大に笑い始めた。
「そう言えば、君が女性陣の下着を奪い去ったことがあったな。あれは傑作だった。「胸囲が、驚異的に足りない!」と騒ぐ君は最高に愉快だったよ」
うっ。わ、忘れたい過去を思い出させるな。あの時の俺はエロが不十分だったのだ。
「あのフィオナが陛下と共に火炎魔法で君を焼き払おうとする場面は、腹を抱えて笑わせて貰った」
あー、フィオナか。懐かしいな。フィオナって言うのはギレーのおっさんの姉で、歳相応に老けてるおっさんとは違って、エルフ特有の若く美しい容姿を保っているエルフだ。
当然と言うか必然と言うか、彼女も貧乳だった。
「エルフって破壊の象徴だとかで炎系を嫌ってるはずだったんだがなぁ」
「それほどまでに怒らせたわけだな」
思い出したくも無い。二人揃って射出型殲滅魔法、紅蓮の射手を放ってくるとは思わなかった。レオがフォローに入ってくれなかったら灰になってたぜ。直ぐに生き返るけど。
「ま、つーわけだ。……オリヴィアとベルナデットを重ねてたりしねーよ。それに、俺はオリヴィア一筋だ」
サムズアップして答えてやると、ジャンは両手を挙げて降参のポーズを取った。
「君らしいと言うかなんと言うか……フフフ、私の負けだよ」
何が負けだか知らんが、ジャンは勝手に納得したようだった。
◇
「おお、ヤシロ君!」
「んあ?」
宿まで行こうとヴォーダン邸を出た時だった。
突然横から声を掛けられたのだ。
「やはりこちらの方にいたか。ヴォーダン氏とはどうだった?」
振り向くと、そこにはファルハット・エンハンスと、俺より二つ三つ年上そうなドレスを着飾った女性がいた。
「うぁお」
思わず変な声が出てしまう程に、俺の受けた衝撃は強かった。ドレスを着た女性に、俺の目は釘付けになった。
「まさかとは思いますが……クレストリア関係の?」
俺がそう聞くと女性は驚いたようで、目を見開いた。
「よくわかりましたわね。……ええ、私こそ、クレストリアの王女、メアリー・フィ・クレストリアですわ」
腰まで届く見事な金髪ロール。勝気な眼つき、そしておでこ。リズワディアで知り合ったヘンリエッタ・デ・クレストリアそっくりだったからだ。
お待たせしました、最新話です。
ようやくオリヴィアのフルネームが出せた……んですが、以前書いた覚えもあり、そのときは違う名前だったような気がします。
私の杞憂であればいいのですが、もし以前に書いてあり、更に違ったりしたらお教えください(人それを他人任せと言う)
ではまた次回。お楽しみに~。