代行者となぞの魔法使い
「……クーシェさん」
「ん? ……どうした?」
自分の名を呼ぶベルナデットにクーシェが振り向くと、ベルナデットの表情には焦りが見えた。
「見つけました」
「?……っ!?」
その言葉の意図を理解すると、クーシェはベルナデットの視線の先に目を向けた。
「……あれかっ」
ベルナデットの視線の先にある路地から、麻袋を抱えた男達が現れた。子供一人分の大きさの麻袋を二人掛かりで運ぶ男達は、まるで誘拐なんてしてない、といった平然とした様子で人混みを進む。
「良くもぬけぬけと……っ!」
「待ってください、クーシェさん」
誘拐犯達に怒りを覚えたクーシェが、今にも走り出そうとした瞬間、ベルナデットが彼女を手で制す。
「……なんのつもりだ?」
誘拐犯達を前に止められたクーシェ。訳が分からず、誘拐犯達への怒りがそのままベルナデットに向けられる。
対してベルナデットは落ち着いた様子だ。
「落ち着いてください」
「落ち着け、だと? ……この、状況で、良く言える」
「言いたくもなります。……今この場所で騒ぐのは得策じゃあありません」
辺りは、昼を過ぎていながらも人通りが激しく。今ここで誘拐犯達を糾弾しては誘拐犯達が暴れるとしよう。……被害は大きくなるだけだ。
「気持ちはわかりますが、抑えてください」
「……了解だ」
渋々といった様子で頷いたクーシェ。ベルナデットはそれを見ると誘拐犯達に向かい、歩き出した。
◇
そうして誘拐犯達に尾行していた二人だが、感づいたのか誘拐犯達は
「私とした事が……っ!」
建物の上を飛び移りながら誘拐犯達を追い掛けているベルナデット。
付かず離れずを意識しながら追跡していたにも関わらず見つかった事に、自身の失敗に呻く。
「けど、今は!」
誘拐犯達が暴れず逃げに徹してくれているのは嬉しい誤算だ。
うじずじと悔しんでいる暇は無いとベルナデットは誘拐犯を追う。
「!?」
屋根を飛び移りながら誘拐犯達を追っていたベルナデットだったが、突然視界を横切った黒い何かに反応し後ろに飛び退く。
瞬間、
轟ォォォォォッ!!!!
一瞬先まで足場となっていた建物が突如爆発、炎上した。
「っ、一体なにが……っ!?」
視界を閃光で奪われたベルナデットは咄嗟に身を屈め爆風に耐えた。
霞む視界の先に見えるのは、人の形をした黒い影。
「……なるほど、今のは爆炎の魔法、『Explosion』……上位魔法使いっ!」
屈んだ姿勢のまま二挺の魔銃を抜き銃口を魔法使いに向ける。
「上位魔法使いを雇い入れているだなんて……今回の事件、余程気合を入れているようですね……っ!!」
魔力弾を乱射し牽制し、次の瞬間には双銃の撃鉄を起こしたベルナデットが、その銃口を自分のこめかみに向ける。
「聖王女! 聖騎士ッ!!」
二挺の魔銃から放たれたのは魔法弾。それも、教会で秘術とされる聖人の名のついた特殊な魔法だ。
「……なるほど、教会の犬か」
黒い人影から聞こえた声は低い男の声だ。
「犬……随分とお口が達者なようですね」
回復した目で見たのは、二mは優に超す巨体に黒いローブに身を包んだ男。顔こそフードに隠れて見えないものの、その体躯と声は紛れもなく男だ。
「通りたくば、……と言う奴ですね?」
ベルナデットが魔銃を構えながらそう言うと、魔法使いの男はクツクツと笑う。
「何がおかしいんですか?」
魔法使いでありながら、両手には魔法を発動させるための触媒を持たない相手を不審に思いながらベルナデットは問う。
すると男は、左腕をベルナデットへ向け伸ばした。
「ッ!!」
ガチッ!
反射的に引き金を引いたベルナデットだったが、魔銃はただ引き金の音が鳴ったのみに終わった。
「そんなっ……!?」
ガチガチと引き金を引くベルナデットだったが、自身の体から、魔力が無くなっていく感覚に気づく。
(魔力が消えていく!? ……一体、何が……!?)
突然の事態に焦るベルナデットに、男はニタリ、と気味の悪い笑みを見せる。
「……犬は、這いつくばっていればいい」
「っ、これは……睡眠の、魔法?……何故……聖王女は、状態異常にも、……」
聖王女の真価、常時治癒効果が発動し続けると言う、再生力だ。その効果は毒などの状態異常にも効果があるはずなのだ。
(ヤシロ……さん……)
朦朧とする意識の中、ベルナデットの脳裏には少年の笑顔がチラついた。
どうも、最新話です。ベルナデットがピンチです(笑)
仙台、もとい先代勇者二巻の発売まで十日を過ぎてしまいましたね。資本が届くのが待ち遠しいです。
ではまた次回! お楽しみに~