先代勇者と代行者
「……な、何言ってんだよ親父。バカな事言ってんなよ!」
ヴォーダン氏の言葉に放心しかけたクオンがソファの前に置かれたテーブルに拳を叩きつけながら叫ぶ。
「オレ達ヘレオット組が占めるこの街で誘拐騒ぎが起きてるんだぜ? こんなこと、黙ってるわけにはいかないだろ!?」
ヘレオット組である事を誇りにしてるのか、クオンはヴォーダン氏の言葉に強く、強く返す。だが、ヴォーダン氏はクオンを一瞥し、俺に視線を戻す。
「……これを見て貰って良いか?」
ヴォーダン氏は懐から折り畳まれた紙を取り出し、俺に渡して来た。
数回折られていたそれを広げと、そこには……
「あー……こりゃ、無理ですな」
彼の一人息子であるクオンの暗殺を仄めかさす一文とともに、今回の誘拐事件から手を引けと書かれていた。
「っ、!?」
「これはいつ?」
俺の言葉と共に手を伸ばして来たクオンの腕を掴みヴォーダン氏に問う。クオンが殺されるかもしれない割に、昨日は魔装演武に出させたり随分好き勝手にさせている辺り恐らく今日、それも……
「今朝だ。……今朝、俺の枕元にあった」
「でしょうね」
思った通りの言葉に、クオンの腕を放し、手紙を畳んでヴォーダン氏に返す。
彼の親バカっぷりからして、クオンを殺されるのはなんとしても防ぎたいはずだ。
暗殺なんてのは古今、厳重な守りであるはずの王宮なんかでも良く起こることで、完全に防ぐ事なんてできやしない。
魔法を使えば姿を消したり音を消す事だって可能だ。ますます暗殺の成功率は上がる。
わざわざ枕元に置かれるなんてインパクト有りまくりのイベントを経験したんだ。暗殺への恐怖は凄まじく高まった筈だ。
「悪いが、組は動かせねぇ。……本当に、すまねぇ」
自分の島で行われている誘拐事件に対しての怒りか、大切な一人息子が殺されるかもしれない恐怖からか、彼は震える拳で自分の膝を強く叩いた。
◇
「くっ……待ちなさいっ……!」
神聖ウルキオラ教団に属する修道女であり、『代行者』と呼ばれる部隊の一人であるベルナデットは、ベ・イオの街を駆けていた。
人混みをかき分けながら、自身の持てる全速力で駆ける。
何かから逃げているのか?
否。その逆である。
「このままじゃあ、逃げられてしまいますっ!」
ベルナデットは追いかけている。逃げられてはマズいと、額に冷や汗をながしながら追い掛ける。
「ぬぁっ!?」
「っ、すみません!」
通行人と肩がぶつかりよろけてしまうが、そも構わず走り続ける。
だが人混みを抜けるのは難しく、視界に捉えても直ぐに距離が開いてしまう。
子供一人が入りそうな大きさの、いや、今まさに子供一人が入っている麻袋を抱えた二人組の男達は、人混みの中を慣れた動きで進む。
それに対し彼女達は、人混みのせいで中々前に進めない。
「流石に手慣れてる、と言ったところか。ええいっ、忌々しい!」
ベルナデットと併走するケンタウルスの少女は、その端麗な顔を不愉快そうに歪ませる。
「このままじゃあ……クーシェさん! 二手に別れましょう!」
「二手……なるほど、挟み撃ちだな?」
「はい!」
「先に行け!」
ベルナデットの意図する事を瞬時に理解したクーシェ。
顎をクイ、と前に向け指示すると、ベルナデットは頷きクーシェから離れる。
「追い込み、任せます!」
言うが速いか、ベルナデットはしゃがむように立ち止まると、建物を優に超える跳躍力で建物の屋根に飛び上がり、屋上から追跡を続ける。
……何故、こんな事になったのかと言うと、話は少し遡る。
新年、明けましておめでとうございます! 今年も先代勇者をよろしくお願いいたします!
お待たせしました、最新話です。
いやぁ、去年までに投稿する予定だったのですが、少々予定が狂ってしまい遅れてしまいました。
さて、第二巻の表紙がついに公開されましたね。ベルナデットやアリシア、二代目一行の三人娘もついにイラスト化です。
早く手にとって読んでみたいものです。
ではまた次回。お楽しみに!