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好敵手〜戦姫とよばれたあたしの場合〜
作:新橋てっく



6.私立仙里高等学校


 仙里高校は元々は仙里女子高校という名前だった。

 県下に広く知れ渡るお嬢様高校として名を轟かせていた私立仙里女子高校。
 通称仙女。
 その仙女の共学化が始まったのはあたしの入学した今年度から。
 学校の名前も仙里女子高等学校から仙里高等学校に変わった。
 だから2・3年は仙里女子時代の入学生、当然女子のみ。

 1学年は180人。全校生生徒が約540人。
 辺鄙な場所にある高校にしては結構でかい。
 お嬢様に交通の便など愚問なんだろうか。入学動機が不純なあたしにゃ到底理解できないわね。

 共学初年度であるあたしたち1年生は男子54人、女子126人。
 54人の(つわもの)には拍手を送りたいわね。
 死地に飛び込むって彼らの事を言うんだろうね、零夜も含めて。
 だって学年の男女比率3:7、全校生徒だと1:9よ?
 男子はさながら絶滅危惧種、さぞかし肩身が狭かろうに。

「それって、裏を返せば選びたい放題ってことだぜ?」

 クラスの男子からとてもとても力強い返事が返ってきた。
 強い奴。きっと彼は転んでもただでは起きないタイプだ。

 そんな『野元くん』は、女子から『馬鹿』のカテゴリーに登録されてる。合掌。

 1クラス辺り30人前後と、比較的少ない学級人数で生徒のケアを重視。
 この辺りが交通の便が悪い割に倍率が高い理由なのだろう。
 共学前も後も変わらず、定員割れとは無縁の難関校だ。

 全学年普通科のみで構成され、2年次に各種コース分け。
 昨年度までの進学率は高く、共学後も県内有数の進学校に相応しい教育を目指すらしい。
 あたしとは無縁の難関校だ。

 決して甘やかさず、『いかなる状況に遭遇しても、強く生き抜ける生徒を育成』することを旨とし、その一環として本年度より、リニューアル仙里最大の目玉となる『クラス対抗戦』を取り入れるに至る。
 あたしにはよく意味が分かんない。

 あたし達新入生は共学化1期生であると同時に、言ってみれば『クラス対抗戦第1期生』でもある。
 これならあたしにも分かる。

「『対抗戦特待生』が居るらしい」
 と言うまことしやかな噂も、入学してから聞いた。
 信憑性は薄いけど。

 ちなみにクラス対抗戦がどういう形で行われていくのか、あたしは未だに知らない。
 そりゃそうよ、麻衣や零夜ですら詳しい事はしらないんだから。
 クラス対抗戦がどういうものなのか運営委員があんまり教えてくれないのは、あたしのせいじゃないもの!

 不透明なクラス対抗戦に、1年生がやる気満々なのは……あたしのせいだけど。


 そんな仙里高は、私立の元お嬢様学校。
 と言うこともあり、何かとお金が掛かるイメージがあった。
 けれどそれは杞憂に終わった。
 あたしは奨学生じゃないけど、授業料を半額免除さたから。

 中学3の冬、同じく仙里を受験する麻衣にそれとなく聞いてみたことがある。

「入学金は分割払い可、奨学制度充実で最大8割の授業料免除。全生徒の7割が奨学生。ってさー、そんなんで学校経営なんて成り立ってるわけ?」

「奨学金って言っても、いずれは返却しなきゃいけないんだよ? それに、毎年卒業生から多大な寄付があるんだって。お金が足りなくて学校経営が成り立たないっていうのは、今のところ全然ないみたいだよ?」

 弥生ちゃん知らなかったの? とでも言いたげに麻衣は笑った。

「知らないついでに、いろいろ教えてあげるね」


 以上、今までしてきた説明がほぼ麻衣の受け売りであることは言うまでもない。

 そりゃそうでしょ。
 あたしがそんな下調べなんて、するはずないじゃないの。
 そろそろあたしの本質に気付いてもらいたい。こういうキャラなのよ。


 校内の設備に男子向けの物が少ないのは、女子のあたしにはどうでもいいこと。
 だけど男子は不便なんだろうなぁ。
 体育の着替えもグラウンドの隅とか体育倉庫とか、可哀想な男子、男子可哀想。
 そう言えば「男子トイレが遠い!」って、クラス委員の村松くんが嘆いてたっけ。
 の割に零夜は一言も文句を言わない、変な奴。

 あ、男子と言えば……男子寮ってどうなってんだろ?
 仙里高校は生徒の大半が寮で生活してる。田舎で交通の便が悪いからね。

 ってことで、ここからは話半分に聞いて欲しい。
 ハゲ並に長く、そして実のない話だから。

     * * *

 あたしが住む東美空町は、美空仙里市の東側三分の一を占める、何も無いだだっ広い農村地区。

 この東美空に我が仙里高校はある。

 西に行けば行くほど開け人口も増えていく我が市。
 一番西の仙里町が市の中心部で、娯楽施設も多いから年に何回かはあたしも遊びに出る。
 中ほどの美空町も開けた町、近場で遊ぶならここ。他の三町に向けてバスが出てる。
 そこから更に東にあるここ東美空町は……はっきりいって過疎。
 ちなみに南一帯は沢登町で、東美空より過疎な山村の集落みたいな感じ。

 これら4つの町が、昨今流行の「市町村合併」で『美空仙里市』に一体化したのは6年前。
 それと同時に、仙里町の県立仙里商業高校と、隣の美空町にあった県立美空高校が合併、県立美空仙里高校になった。

 『仙里高校』って名前は結局、旧仙里町も今の美空仙里市も使わなかった。
 だから仙里女子がそのまま仙里と改名できたわけ。
 ……まぁ単純に言えば『余ってた』のよ。

 こんな経緯があるから、美空仙里市を代表する地名を持つ仙里高校は、公立じゃなくて私立。
 しかも旧仙里町じゃなくて過疎地の旧東美空町が所在地。
 一見するとかなりややこしい仕様になってるわけ。

 ね? 実のない話でしょ?
 実のないついでに、そんな美空仙里市の話をもう少しさせて。

 中心の仙里からあたしの住んでる東美空まで、交通機関を利用して通学するのは、かなり非現実的。
 美空仙里市で鉄道が通ってるのは仙里町だけ、しかもローカル線。
 市外からの通学はありえないと思ってもらっても良いくらいね。

 だから美空仙里市民の足は市営バス。
 そのバスは仙里から美空まで30分。
 美空から東美空まで40分。
 仙里から東美空までの直通バスはない。
 ここから仙里町まで行くためには、必ず美空町で乗り換えなきゃなんない。
 乗継が悪いから不便なのよ。沢登はもっとひどいけど。

 だから、せいぜい通えるのは美空町からが限界。

     * * *

 そして話は戻って、仙里高校に男子寮は存在しない。
 あるのは400人規模の女子寮だけ。
 仙里高校に男子寮は存在しない以上、男子入学者は近辺在住に限定されるはず。
 良くて美空町が限界。
 けど零夜が言うには、市内の遠いところ、例えば仙里町とかの中学出身者や、他市他県出身の男子学生もいるらしい。
 男子のネットワークは小さいながらも開放的みたいね、女子とは大違いよ。

 そんな男子の話を聞いた時は、「ネットワーク凄っ!」とかしか考えてなくて、寮の事なんて大して気にしてなかったんだけど、今考えると不思議。
 遠方の男子ってどうしてんだろ。

 ま、いいや。
 今度また零夜にでも聞いてみよっと。

     * * *

 登校は3人。それがあたし達の決まり。

 零夜の家はあたしの家の斜向かい、ちょっと大きなお屋敷。ってことで昔からご近所さん。
 麻衣も小学校から一緒だったけど、本格的な友人になったのは中学から。
 あたしたちの家からそれほど遠くないところに住んたでなんて、その時まで知らなかった。

 あたし達3人は中学時代から、ずっと3人で揃って学校に通っていた。
 麻衣とあたしん家の丁度中間地点に都合よく存在するバス停。そこまで零夜と二人で歩いていき麻衣と合流。
 バスに乗って学校へ行く。
 これが日課。
 行き先が東美空小か同中か、逆方向の私立仙里高校かの違いはあれど。あーあと、着てる制服も違うね。


 5月の連休もとっくに過ぎ、少しずつ緑が色濃くなり始める中、朝の通学路でバスを待つ。
 今朝の話題は部活。
 不本意ながら科学部入部を果たしたあたしに続き、麻衣も入部先が決まったらしい。

「へぇ、じゃあ麻衣はその料理ナントカ部ってのに入ったんだ?」
「うん、料理創作研究部」
「おぅおぅ。麻衣はお料理かー。可愛いやつじゃのー」
 あたしはおどけて言った。
 可愛い子が可愛らしい事をする、これ以上の王道があろうか。
「えへへー、お菓子とか作ったら弥生ちゃんにもお裾分けするね。あ、あのっ勿論零夜さんにも!」
「ああ、ありがとう国崎さん」
「いっ! いえっ! そ、そんな……」
(あーあー、顔真っ赤にしちゃってー……でも、そういうところも可愛いんだよなぁ麻衣ってば)
「れ、零夜さんはどの部活に入られたんですか?」
 零夜は運動センス抜群だし、何やらせてもソツなくこなしそうよねぇ。

「零夜さんって、バスケ部のポイントゲッターなんだよー」
 とか、中学時代に麻衣が言ってた事もあった。

「僕は陸上部に決めたよ。個人競技は都合が良くてね。学校に男子が50人ちょっとしかいないから、野球やサッカーみたいに人数が必要な運動部はなかなか難しくて……」
「サッカーは11人、野球は9人でしょ? あんたがやってたバスケも、野球より少なくて済むんだし、その辺なら何とかなりそうなもんじゃない?」
「ギリギリだと1人でも怪我したら出来なくなっちゃうよ、1チームだけじゃ紅白戦も出来ないじゃないか」
「あー、そりゃそうね」
「来年の男子生徒入学までは、今ある部活の中から女子と出来る部活を選んで欲しい、って先生に言われてるんだ」
「あんた達も苦労してんのねぇ」
「元々女子高だったんだから仕方ないさ。制服だって女子と違って殆ど市販のものだからね」
「あ、確かに男子のスラックスって、グレーの濃さが人によって違いますよね」
「仙里町のタナカで買ったんだよ、紳士用の普通のをね」
「もしかして、指定のお店とかないわけ?」
「男子はブレザーとネクタイ以外は指定店がないから……色さえ合ってれば市販で代用してるよ」
「苦労話もそこまで行くと……気の毒になってきたわ」

 部活の話から、いつの間にか仙里男子の苦労話にシフトしていく話題。
 まぁ雑談ってそういうもんよね。

「あ、そうそう。その苦労ついでにさー。ねね? 零夜」
「なんだい?」
「あのさ、仙里の男子ってさ」
「うん」

「寮生はどうしてんの?」

「「……」」
 顔を見合わせる零夜と麻衣。
「あれ、あたし今なんか変な事言った?」
「弥生ちゃん知らないの!?」
「えっ? ああ、うん。あたしそういうの興味なかったから」
「興味の問題じゃないよ弥生、入学式からもう3週間だよ。下校時に生徒会が言ってるじゃないか」
「なんて?」
「『シェア相手と喧嘩しないように』って」

「しぇああいて?」

「弥生ちゃん……」
「弥生……」
 頭を抱える麻衣、額に指を当ててうつむく零夜。声はほぼシンクロしていた。
「弥生ちゃん、自分に興味のない事はホントに聞かないんだね……」
「ご、ごめん……」
 急に恥ずかしくなったのと、毎回教えてもらってばかりいる申し訳なさから、あたしは思わず謝ってしまった。
「そんな! 謝る事じゃないんだよ?」
 慌てて麻衣が下から上目遣いにあたしの顔を覗き込む。
(麻衣、あんた破壊力凄すぎ)
「マンションを一棟丸ごと学校が借りて、そこを男子寮としてるんだ」
 空気を察した零夜は、何もなかったかのように話を続ける。
 あたしはアイコンタクトで零夜にサンキュと伝えながら、話の流れに逆らわず自然に答えた。

「えっ、じゃあ男子寮生はマンションで一人暮らしなの!?」

 再び頭を抱える麻衣。
 流れに逆らわずに乗ったつもりが、流されすぎて漂流してしまったらしい。
「だから、シェアって言ってるじゃないか」
「しぇあ?」
「あのね弥生ちゃん。女子寮だって一部屋に2人が原則なの。だから男子もその原則に従ってマンションの1部屋に、2名の男子が割り振られてるの」

「んー、ってことは……男2人で同棲?」

 頭を抱えてうずくまる麻衣。
 麻衣の肩に手を添え、額に手を当て天を仰ぐ零夜。
 既に二人とも虫の息。
 えーせーへー! えーせーへー!
 
 軽く咳払いをしたあと零夜は言った。
「ルームシェア」
 同棲も横文字にすれば格好いいもんだ。
「へーっ! 格好いいねぇ、そういうの。でも男子の2人暮らしだとご飯が大変だね」
「夕食は女子寮か学食を利用するらしいよ、陸上部に寮を検討してた男子がいてね、そう言ってたよ」
「お昼は購買とか学食があるとして、じゃあ朝ごはんは?」
「大体パンを食べるって言ってたかな、早めに起きて女子寮って人もいるらしいよ」
「やっぱ大変なんだー」


 そんな話をしているうちにバスがやってきた。
 結構混んでる、折角近くの高校にしたのになぁ。
 先に麻衣が乗り、続いてあたし、そして零夜。何気にレディファースト。
 零夜め、いじめようが無いじゃないか。隙を見せろ隙を。


 学校に着き校門を過ぎると、一人の男子が零夜に近づいてきた。
 短髪でちょっと強面。
 でも何てことはない、普通に朝の挨拶を交わす零夜。

 あたし達もそれに続いて『強面』くんと挨拶を交わしていると、零夜は彼にこう聞いた。
「中川君って確か寮に入ろうって思ってたんだよね?」
「ああ、美空町っつっても、オレ住んでるの仙里町との境ギリギリだからな。マンションで同じ学年の男子と2人暮らしってのも楽しそうだったんだけどなー。けどよー、お袋が許してくんなかったんだ」

 という事はこの『中川』くん、寮には住んでないってことかな?

「うちのクラスの木島が寮生だから、詳しい事知ってるはずだぜ? 分かんねー事があれば聞いておいてやるよ。で、なんだよ神園、お前もしかして寮に入ろうとか思ってんのか?」

 その後、零夜と中川くんは取り止めもない話を昇降口まで続けた。
 あたし達もそれを聞きながらあとに続く。
 そういえば確かに、中川くんの履いているスラックスは零夜のよりちょっとグレーの色が薄い。
 なんて事を2人の後ろでチェックしてたあたし達。
 中川くんはそんな視線に気付いたようだ。

「ん? なんだ? っていうかよ、なぁ神園。オレにもそろそろこちらのお嬢さん方を紹介してくれよー。ってことでオレ中川慶太(なかがわけいた)。2組で隣のクラス。んで神園と同じ陸上やってる。君たちはなんて名前なの?」

 気さくな中川君と自己紹介を交わし終わる頃には、本館2Fの1年生教室に到着していた。

「じゃっ! 明後日のクラス対抗戦じゃお手柔らかにっ!」

 そう言いながら隣のクラスへ駆けていく中川くんと別れ、教室に入り各々の席に着いたあたし達。

 3日目にして席替えがあり、あたしは愛しの麻衣との離別を余儀なくされた。
 窓際後ろっていうこれ以上ないロケーションがあたしの席。
 麻衣とも零夜ともちょっと離れてる。


 教科書やノートを机に放り込んで時間を潰すものの、すぐに終わってしまう。
 話し相手を失ったあたしは、ふと窓の外を見て考えた。

(一人暮らしかぁ……)

 隣の芝生は青く見えるっていうけど、分かっていても憧れるのが親元から離れた生活。
 うるさくいう両親もいない。
 好きな時に寝て好きな時に起きて、好きな時にご飯を食べて、好きなだけテレビを見て……。

 でも現実は厳しい。
 仮に一人暮らしが叶ったとしても、朝起きれない、料理できない、夜更かしばっか。
 母さんやお父さんから離れて暮らす生活を想像して……ダメだこりゃ。
 あまりの堕落っぷりが想像できてしまい、頭を振ってその想像をかき消した。

「弥生は……実家がいいよ」
 いつの間にかあたしの傍に立っていた零夜。

「……そだね」
 何も言っていないのに、零夜にまであたしのズボラっぷりを指摘されたみたいで、朝から凹んだ。

     * * *

 帰りは2人、あたしと麻衣。
 1時間弱のんびりと徒歩の帰宅。
 雨が降ったらバスを使う。

 料理なんたらかんたら部は、月に2回しか活動しないらしい。麻衣、あんた科学部より良いチョイスじゃない?
 陸上部の零夜は、放課後ちょっと練習してるみたい。今朝会った中川くんも一緒なんだろう。

「一人暮らしかぁ。何か憧れるなぁ」
 そう漏らしたあたしに、今日も麻衣は絶好調だった。
「弥生ちゃん、寮は二人暮らしだよ?」
「分かってるわよそんなこと、でもさぁ同棲でも何でも良いから、とにかく親元から離れてみたいとか麻衣は思ったりしないわけ? あたしは一度で良いからそういう生活してみたいわけよ」
 年頃の高校生なら一度は憧れると思うんだけどなぁ。

「ねぇ……弥生ちゃん?」
 突然真顔であたしを呼ぶ麻衣。

「ん? なに?」
「ルームシェアと同棲は意味が違うって事、ちゃんと分かってるよね?」
 麻衣の叱責を受けた。そして凹んだ。

 零夜にも麻衣にも見透かされる自分の単純さに、つくづく凹んだ。







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