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好敵手〜戦姫とよばれたあたしの場合〜
作:新橋てっく



18.[1年春/表彰式] 第一戦の結末


 暖かさの増し始めた5月の下旬。
 ブレザーともそろそろお別れの時期。

 って言っても最近はブレザーじゃなくてベスト着てるんだけど。
 だって暑いんだもん。でも脱ぐと寒いんだよね。面倒くさいなぁ。


 そんな体温調整の話はさておき……。

 死闘を繰り広げた駅伝から、5日が過ぎていた。
 慌しく通り過ぎてった春開催の記憶が、ここにきて再び蘇る。
 朝から妙にテンションの高いヒゲが、ショトホの時間に告げたからだ。

「お前らー! この間の学力試験の結果が出た!」

 自分でもすっかり忘れていた、春開催第一戦『学力診断試験』。
 あの悪夢は自分でも思い出したくない過去の汚点の1つ。出来れば卒業するまで発表されて欲しくなかったけど、流石にそうもいかないわよね。
 そんなあたしなどお構いなしに、具体的なことを避けつつも1人感動しているヒゲ。

「お前ら……よくやった!」

 溜めに溜めるつもりなんだろうけど、手に取るように分かっちゃうわよ。
 少なくとも、クラスの平均点は悪くない。
 ヒゲの表情と声色はそう告げていた。

「我らが1組は……1位だ! やったなお前らっ!」

 感づいていても、やっぱり口に出して言われると嬉しいよねー!
 だって、流石に1位だなんて思わなかったもの!
 第二戦に続き、第一戦も首位獲得。
 三戦目が2位だから、これで春の優勝は1位が確定!

 とはいえ、自分の点数が幾つだったのかは、まだ教えてもらっていない。

 1組の平均点を相当引き下げたはずのあたし。
(自分の成績が分かんないままクラスの1位だけ告げられても……)
 素直に喜べ……るところがあたしの現金なところ。
(もう、自分の成績なんてどうでも良いくらいよ!)
 すっごい嬉しい!

「今日の6限に春開催の表彰式があるから、6限は大講堂に集まるように。クラスの代表として村松、お前が表彰台に上がれ」

 ヒゲも嬉しそうに言い残し、教室を後にした。


 1限目の数学を終えると、クラスは春開催優勝の話題で染る。

 最近は麻衣とあたしに零夜を加えた3人に、瑠璃が漏れなく付属してくる。
 毎回毎回『沢木さん』を『瑠璃』に訂正させられ、あたしは根負けして『瑠璃』と呼ぶようになっていた。
 瑠璃もあたしの事を『弥生さん』と呼んでいる。
 あんな性格だけど、数少ない女子の友人になれると良いなぁ、なんて思う。
 ってわけで、周りから見たら4人で1セットなあたし達。
 運動馬鹿、運動オンチ、女生徒キラー、小悪魔メロン。
 生徒会主導の公式名がそれぞれ『不屈の戦娘』、『青い才女』、『プリンス』、『戦姫に恋する乙女』。
「何だか……お得なセットですね」
 なんて言わないでよ!
 特に1番目と4番目は、あんまり自慢出来る存在じゃないって思うんだけど、どう?

「普段から勉強しておかないからだよ弥生」
 それにしても、
「あれほど落ち込んでいたのが嘘のようね弥生さん」
 なんだろう、
「よかったね弥生ちゃん」
 あたしのの弄られっぷり、慰められっぷりは。
「まだあたしの成績、分かったわけじゃないんだけど……」
 他の2人はいざ知らず、零夜の発言は明らかにあたしの成績が悪いって示唆してるようなもの。
 そしてそれを否定する気なんて全くないあたし。
 多分悪いもん……それもかなり。

「次の試験のときは私に声をかけてね弥生さん。手取り足取り教えてあげるから!」
 瑠璃の『戦姫信仰』は既に、うちのクラスどころか1年全員にまで浸透している。
 戦姫の弱点を見つけた瑠璃のはしゃぎようは、周りがドン引きするほどだった。
「何なら今からでもっ、ほらっ!」
 座っているあたしの頭を、自分の胸に抱き寄せる瑠璃。
 メロンによる恐ろしいまでの圧迫は、今日も凄かった。
「もう許してぇぇぇ……ぇぇぇ」
 麻衣に救出されなければ、きっとあたしは死んでいたと思う。窒息で。

     * * *

 その日の6時限目、1年生が大講堂に集められ対抗戦の表彰式が開催された。
 核指針と謳うだけあって中々本格的よね、表彰式までするなんて。
 壇上で司会進行をしているのは、いつぞやの上級生のお姉さん。
 実は生徒会の役員だったらしい。何となく、末永いお付き合いになりそうなお姉さんよね。

「では、これより1年次春開催の表彰式を始めます」
 にしてもこのお姉さん、2つ右の席に座る瑠璃に似てる気がしないでもない。
(何でだろ?)
 お姉さんを注意深く観察すると、原因はすぐに分かった。
 スカートとお揃いの冬ベストを着用してるお姉さんは、春先に着ていた黒いブレザーを今は着ていない。
(だからだわ……)
 ブレザーで隠されていた分と、ベストで妙に強調された分とで、かなり目を引いているのだ。
 瑠璃がメロンならあのお姉さんは……スイカ。
(…何あのスイカ。ありえんて……)
 瑠璃とダブったのは多分、胸だと思う。

 そんなスイカ……じゃなかった、お姉さんが表彰を始める。
「それでは、各競技の優勝クラスには目録が与えられます」
 開始前から言っていた事。だけど競技中にそんなこと考えてる余裕なかったわよ。
「『学食ドリンク券』1人2枚です。おめでとうございます!」
 学食で売ってる飲み物は、1つ200円位するらしいのよ。現金な目録だけど、悪くないわよね。

「一戦目『学力診断試験』と二戦目『食材調達料理戦』が1組。三戦目『駅伝』が2組。それぞれ代表の方は壇上まで来てください」
 1組代表の村松くんが目録を取りに壇上へ上がる。2組は知らない女子。
「おめでとう!」
 そう言って校長先生から目録を渡された村松くん。

 けれど、村松くんは遠目から見て分かるほど、耳まで真っ赤になっていた。
(村松くん。あんたとは良い友達になれそうよ……)
 男子の気持ちは理解できなくても、破壊力には一定の理解を示せるようになったあたし。主にメロン娘の抱きつき癖が原因なんだけど。
 だから村松くんが敗北した相手が『スイカ』だろうことに、何となく想像はついた。
(分かるわ、スイカでしょ? それ、見た目からして破壊力凄そうだもんね……)

「続きまして、春開催の総合成績です」
 もう決まってる、1位、1位、2位のうちのクラスにねっ!
「1位の1組には『学食無料券』1人3枚分、が与えられます。おめでとう!」
 各自3枚の学食無料券。
(凄いんだか凄くないんだかよく分かんないんだけど)
 そう思いながら周りを見渡すと、堂内の羨望の眼差しを一手に引き受けているではないか。
(みんな羨ましそうに見るって事は、多分凄いのねこれ……多分)

 そしてさっきと同じように、顔を真っ赤にした村松くんは、壇上でスイカに2連敗を喫していた。


「では皆さんお待ちかねっ! 最下位のペナルティの発表です」
 誰もが一番知りたがったこの内容に、堂内は一気に静まり返った
(でも、お待ちかねって……どうなのよ)
 言ってる事は正しいけれど、明らかにテンションがおかしいお姉さん。
「最下位は3組でした。残念ですが3組の皆さんには、次の土曜日、午前9時に第二グラウンドに集合していただきます」
 思わぬ展開に3組だけでなく1年生全員が驚く。
 大講堂はどよめきで包まれた。

「3組には……グラウンドの草むしりをしてもらいまーす」

 けれど、お姉さんのお茶目で場違いな言い方のせいで、ざわめきは軽い笑いに変わる。
(何だ、その程度で済むのね……驚かさないでよ)
「あの駅伝で使ったグラウンドでしょ? 綺麗なもんだったじゃない」
 しかし隣に座る零夜の反応は、あたしとは正反対のものだった。
「こ、これは酷いね……」
「はぁ? 草むしりくらいなら、それほど大した事ないじゃん」
「弥生は知らないのかい? うちの学校、グラウンドが2つあるんだよ」
(それは知ってるわよ。けどあんたのその驚き方は意外よ!)
「駅伝のゴールだった第一グラウンドは全天候型の合成ゴム舗装だから良いけど、第二グラウンドは土だよ」
「……え゛っ?」
「しかも、あんまり手入れされてないんだよ。普段はソフトボール部が使うくらいだからね」
「マジで? じゃ、今はもしかして」
「生えたい放題だね……うん。間違いなく夕方近くまで掛かるよ……」
 零夜は心底気の毒そうに言った。
「うわ、かわいそ……」
 明日は我が身と思うと、クラス対抗戦に対して更なる恐怖心が芽生えるってもんよね。


 3組の週末を心配するあたし達をよそに、司会のスイカお姉さんは興味深い話を始めた。
「ところで皆さん、この春の開催で一番印象に残った生徒は誰でしたでしょうか?」
 ざわつく堂内。
 もはや完全にスイカの独壇場、色んな意味で。
 このお姉さんは胸以外にも、瑠璃に通じるものがあるんじゃないかってくらい。
「生徒会が中心となってアンケートを行いました。対象は2年生と3年生です」
(そんなことしてたのね、意外と暇よね、仙女時代の学生も)
「印象に残る輝かしいプレーをした生徒に与えられる春のMVP!」
 かなり大それた名前が与えられた春のMVP。
 優勝クラスよりも後に発表するってのもどうなんだか……。
「栄えあるMVPに選ばれたのは!?」
 今朝のヒゲ並に、溜めに溜めるお姉さん。

(あんた分かってる! 場の盛り上げ方を!)
 けど30秒は長すぎると思うわけよ。

「駆け抜ける衝撃!」

 溜めるだけ溜めたせいか、堂内の視線が一気に2組へ集まる。勿論あたしも。

「土壇場、グラウンドで大逆転を見せ生徒を沸かせた……そう! 1年2組中川慶太くん!」

 お姉さんにそうコールされた中川くん。
 片手で頭をかきながらヘコヘコしつつ立ち上がった中川くん。
 壇上へ上がっていった彼は、村松くん同様スイカを前に顔を赤らめる。
(中川よ、お前もか……。悲しい性よね……)
 壇上で表彰状と、何やら目録が授与されてるMVP中川慶太。
 『東美空町の商店街で使える商品券5000円分』だそうだ。

 いいなぁ。


 とまぁ終始和やかな空気の中で行われた表彰式。

 しかし翌日、地獄が待っていた。

     * * *

 翌日のショートホームルーム、それが地獄の始まりだった。

 一戦目に行われた『学力診断試験』の全答案が……返却された。
 ヒゲは答案を返しながら、あたしの顔を見て『凄く可哀想』って顔をしていた。
 多分ヒゲの表情は、とてもとても的を射ていたと思う。

 そして地獄は……それだけでは終わらなかった。

「1年生180名の成績はー、総合成績順に全てー、張り出されとる。場所は1階南昇降口だ」

 あたしにとって非情ともいえる結末が待っていたのだ。
「高坂、強く生きろ……」
 そう言ったヒゲの目は、いつになく慈愛に満ちていた。

 クラスのみんなは誰もあたしを責めなかった。
「2戦目の立役者は高坂さんだよー」
「陸上部相手に良く頑張ったものね」
 口にはしなかったけど、目でそう告げていた。
 あたしは余計に凹んだ。


 444点で学年1位を叩き出したのは麻衣。
 その日から麻衣は『青い才女』と呼ばれるようになった。
 『青い』は多分ヘアバンドなんじゃないかなと思う。その辺のチョイスは結構適当だけど。
 でも良いなぁ……あたしなんて『不屈の戦姫』だよ? 運動馬鹿みたいじゃん!
 まぁ、みたいじゃなくて、そうなんだけどさ。

 『プリンス』零夜は422点で5位。
 零夜の上に麻衣以外にも3人いるなんて、信じられないなぁ。

 『メロンのプレッシャー』沢木瑠璃は401点の19位。
 今後の展開が手に取るように分かってしまい、あたしは思わず身震いした。

 春のMVPに選ばれた『駆け抜ける衝撃』中川くんは355点の99位。
 勉強も結構出来る人だったんだね。
 でも「3桁順位は免れたぜ」と言った後、あたしの存在に気付き逃げるように立ち去ったので、中川くんの評価は下げておくわね。

 駅伝九区で競い合った『弾丸娘』相沢さんが353点の100位。
 恐らく本人はまた陸上部男子に負けたって騒いでるんだろうけど……。
 あんた頭良いじゃないのよっ! この敗北感は忘れないわ!

 高飛車『お嬢様』田中陽子は380点で31位だった。
 縁がない割に妙に悔しい。
 ここでもやはり敗北感は大きくなる一方だった。

 クラスの他のみんなはプライバシーを主張したので報告を避けるわよ。
 まぁ300点辺りでみんな固まってたから、その辺が平均点なのかも。

 だとすると、麻衣や零夜は異常。メロンも異常、あの子は色んな意味で異常よ。

 でもきっと、この3人がいたからこそ1位になれたんだろうなぁ。

 だって……。

 あたしは……195点で178位。
 後ろから3番目の順位。

 平均点に直すと1教科39点。
「あはっサンキューだね」
 などとは、到底言えない獲得点。

 ……予想通りよ!
 ここまで予想通りになると逆に笑えるわ!
 さぁ、笑いたけりゃ笑いなさいよ!
 今の心境を一言で言うなら……穴があったら入りたい。
 どこかの木に紐で出来た輪が吊るしてあったら、率先してそこにあたしの首を入れたいわっ!
 試験後に心の中で母宛に書いた手紙が、文字通り一言一句違わずにこれから展開されていくだろう。
 クラスから白い目で見られる『不屈の戦姫』。
(死なせて! あたしを死なせてぇぇえぇぇ!)

 この結果から、高坂家の臨時予算編成会議が開かれる事は明確だ。
 予算編成における長女弥生への配分は、ほぼ皆無となるだろう。
 こっちは全然笑えないわよ!
(死ねないなら、あぁ誰か……いっそ殺してええぇぇ!)


 案の定、瑠璃は台風の如く暴走を始めた。

 気落ちしたあたしを見て、『これを逃す手はない』とばかりに執拗に迫る瑠璃。
 本来ストッパーとして機能するべき存在は、誰でもないあたし自身。
 そんなあたしが『下から3番目』という成績によって、完全にノックアウトされたのだ。

 ストッパーはその役目を果たせなくなった。
 瑠璃はその日、完全に暴走し続けた。

 メロンに抱きつかれ、顔から肺から圧迫され続けるあたし。
 呼吸困難になるたびに、麻衣の救出で一命を取り留めるあたし。
 それを休み時間毎に、毎回毎回繰り返されるあたし。

 メロンの束縛から逃れる事は、その日一度も出来なかった。

「今度一緒に勉強しましょ? ね、弥生さん」
 台風の中心速度はおよそ5km/h。

「我が家に招待するわよ、何ならお泊りでもいいわ」
 甚大な被害が予想される。

「そうだわ……私の家で合宿! これがいいわ!」
 ちなみに勢力は拡大中。

「一緒のお布団で寝ましょ!」
 進路は直撃コース。

「はだっぷ」
 本来「っぷ」に入ったであろう言葉は、『切り札』によって何とか遮られる。
 決死隊として女子から投げ込まれた村松くん。
 それは切り札でもあり決死隊でもあり勇者でもあり、生贄でもあった……。

「「「「クラスの平和は保たれた!」」」」
 誰も口には出してなかったけど、目がそう訴えてた。

 でも村松くんはその日、3限終了後から姿を消した。
 彼はホームルームまで保健室から帰ってこなかった。

 村松くんという『切り札』を失い、台風を止める術をなくしたクラスメイト。
(野元がいるじゃない)
 と思って隣の席を見たら、台風の威力が大きすぎたのか、口から魂を出しながら放心してた。
 そして野元は「頭が痛くなってきた」と言い残し、切り札を追うように保健室へ向かった。

 他のクラスから興味本位で、瑠璃(とあたし)の様子を伺いに来た人たちも居たらしい。
 しかし想像を絶する光景に数秒でドン引きし、足早に帰っていったと聞く。

 廊下からあたしを見ていたスイカのお姉さんは、何故か申し訳なさそうな顔をしていた。

 既に疲労はピークに達しているだろう。あたしは既にピークを越えてたけど。
 心身に鞭を打ち、何とかホームルームまで辿りついたあたし達。
 村松くんも何とか野元の肩を借り、心が満身創痍の様子ながらも教室へ帰還。

 1組のこんな『尋常ならざる惨状』を見て、ヒゲは己の身に危険でも感じたのだろう。
 彼はホームルームを僅か1分足らずで切り上げ、逃げるように教室を後にした。

 放課後、帰宅するあたしに向かって瑠璃が何かを叫んでいた。
 けど、記憶にない……って事にしてる。


 幸いにも瑠璃の暴走は1日で終わった。その理由は分からない。

 ただ翌日からしばらく、教室の近くでスイカを見ることが多くなった。
 それと……
「ひっ! わ、わわわ私! ごめんなさい!」
 小動物のように身体を震わせながら、瑠璃はあたしに謝罪するのだ。
 スイカを見るたびに。

(スイカのお姉さんが救世主に見える! 理由は分かんないけど!)

 メロンとスイカの間にある因縁めいたもの。
 それが解き明かされるのは、もう少しあとのお話。


今度こそ春開催完全終了。
1シーズンが終わりました。

春はクラス対抗戦をメインにして書き続けてきましたが、少し急ぎすぎましたね。
大筋はこのような『対抗戦』と学校行事を織り交ぜた生活スタイル。今後はこのスタイルの中に、高坂嬢を中心とした『人間関係』を付け加えていく形で展開させていく予定です。

長いっすよねぇ。まだ1年春だよ……。

夏開催がまだ手付かず、これから少しペースが落ちると思います。
出来る限り短い期間で更新していきますので、ご愛顧の程よろしくお願いいたします。

ご意見ご感想、ご要望など、心よりお待ちしております。






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