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魔王育成学校設立に向けて

作者:夕凪 天音
魔王育成学校。
それは、天界に新しく設立された魔王を育成するための教育機関である。

魔王は一世界に一人しか存在しないが、世界は一つではなく、お互いの世界の住人が交わらないだけで膨大な数の世界があるのだ。
そのため、魔王の総数も膨大であり、天界にて魔王を管理する役職が存在した。

その役職――魔王管理官、という捻りも何もない名前だ――に長年就いているルーファスは、深いため息をついた。
その背には純白の翼があり、頭上にはやわらかな金の光を放つ輪が浮かぶ。
癖のない金髪は光を含んでいるかのように輝き、とろけるような蜂蜜色の眼と相まって、ルーファスの神聖さを引き立てる。
きめ細やかな白い肌に、完璧なバランスを保った肢体だが、不思議と妖しげな魅力ではなく清らかな雰囲気をまとっている。
そう、どこからどう見ても天使だった。

天使とはいえ、ルーファスはまだ下っ端であり、日夜書類仕事に追われていた。
憧れのミカエル様やガブリエル様に追いつくべく精進しているものの、一朝一夕にどうにかできるものでもない。
ましてや、天使は気が遠くなるほど長い時を生きるのだからルーファスの昇進は、最短でも10年(天界での10年は人間の500年ほど)は先だった。
そう、この退屈な書類仕事が永遠に続くはずだったのだが――――。

「やはり、増えていますね……」

ルーファスはこれまでの記録をまとめたファイルをめくりつつ、難しい顔をした。
ルーファスが見ているのは、魔王がその世界の住人に倒され、天界へと魂が戻ってくる数だ。
折れ線グラフで示された資料は、ある年から右肩上がりにその数値を伸ばしている。

魔王は何も、勇者に倒されるだけのオブジェクトではないのだ。
知性をもたないものが多い魔族をまとめあげ、その世界の住人ではすめないような地域が広がらないように抑え(放っておくと、砂漠化のようにその世界の住人が住める土地が失われていく)、共通の敵として君臨することで争いを起こしにくくする等々、倒される前に果たすべき役割が存在する。

それが、今や魔王が勇者の旅のチュートリアルになるレベルでよわ、いや、威厳を失っている。
本来の魔王は、その世界に現れたときは何も知識は持っていないのだ。
恐ろしいほどの力をその身に秘めながら、その力の奮い方も知らない、赤ん坊のような存在なのだ。

その魔王に、先代魔王に仕えた魔族や、代々魔王の側に仕える魔族がその世界の知識や力の使い方を教えていく。
その過程で、その魂に刻まれた自身の本来の力を取り戻し、魔王の本能とでも呼ぶべきカリスマ性を発揮して、世界の敵として君臨するのだ。

だが技術は発展し、魔王からの宣戦布告でしかその存在を知ることができなかった昔と違って、魔王が世界に現れた時点での察知が可能になった。
武器や防具も、素材が強力になり、鍛冶の腕が上がり、強い形状が研究され、高性能になった。
魔法の研究も活発になり、魔族の天敵である聖魔法やら自在に場所を移動できる転移魔法やらが開発された。

極めつけは、勇者召喚である。
交わることができないと思われていた別の世界との門を一時的に開き、勇者の素質をもつ者を常に抱えられるようになったのだ。

魔王も成長がはやい方だが、勇者とは雲泥の差がある。
結果、魔王はその世界に馴染む前に倒されてしまうのだった。
いまでは魔王城に拠点を構え、魔王が誕生したそばから斬ってしまう勇者もいるという。

昇進までの辛抱とは思っていても、ルーファスはこの仕事に誇りを持っていた。
この状況を何とかしなければならないという思いで、上司に直談判をした。
そして、当然のように具体案を求められた。

天界の上層部も、魔王をめぐる現状には頭を悩ませていた。
魔王は悪の権化とされる存在だが、滅んでしまうとそれはそれで問題なのだ。
そもそも、魔王や魔族が天界の思惑を超えたところで生み出されるのであれば、それこそ大問題だ。

光があれば、必ず闇がある。
それが世の中の摂理だ。
そして、その闇から生み出されたものが魔族である。

言ってしまえば、魔族はその世界の住人が作り出したものなのだ。
だからといって共存ができるわけもなく、魔族は変わらず悪の象徴だった。
だが、闇をすべて滅ぼしてしまっては、世界のバランスが崩れてしまう。

そのために用意されたのが、「魔王システム」である。
魔王というトップを置くことで世界の注目を魔王に向け、魔族の一部は潜伏するのだ。
さらに魔王が世界のバランスを保つために、ある程度調整しつつ世界と戦争をすることによって、世界の均衡を保つことができる。

「魔王システム」崩壊を阻止するためには、既存のシステムではなく、新しい機関を立ち上げる必要があるだろう。
しかし、その具体的なイメージがルーファスにはまったく浮かんでこなかった。

途方に暮れるルーファスは、「地球」という世界のパンフレットを目にとめる。
そのパンフレットはルーファスの同僚からのもらったもので、いつか休暇をとって「地球」に行くことがルーファスの目標だった。

何の気なしにパンフレットをめくっていたルーファスはとあるページで手をとめる。
そのページは「地球」の学校を特集したもので、ルーファスは衝撃を受けた。

学校。 そう、学校である。
なぜ今まで思いつかなかったのだろう。
無限とも思えるほどに存在する世界だが、大抵の世界に教育のための機関が存在していたではないか!

「これだ!
魔王のための学校を作れば、そうすれば……!」

ルーファスは大急ぎで提案書の作成に取り掛かった。
魔王や魔族の生態や、君臨してからの過ごし方などできる限りの資料を集める。
初めての試みだが、失敗するわけにはいかない。
ルーファスはなるべく魔王がスムーズになじめるような教育機関を目指した。


ルーファスの提案は無事に通った。
それどころか、かなりの高評価で、上司によれば昇進も夢じゃないということだ。

ルーファスは、とても達成感に満ち溢れていた。







数か月後――――

ルーファスは教壇に立ちながら、「どうしてこうなった」と頭を抱えたくなる気分だった。
目の前にいるのは、5人の子供たち――子供と言っていいのかは微妙だが、見た目は子供だ――で、彼または彼女はルーファスを緊張しながら見つめていた。

共通しているのは、見ているものに思わず不安を抱かせるような闇の色に染まった黒髪と血濡れた真紅の色を宿した瞳。
着ている衣装には個性が反映されていたが、どれも黒を基調とし、暗い色合いでまとめている。
もちろん、魔王である。

魔王たちは天界で再び姿を保てるようになるまでに、一旦記憶を消されている。
だから、目の前の魔王たちの目線に含むところは何もなく、純粋な瞳をしていた。

ルーファスはため息をついた。
魔王の教育係が天使とか、絶対おかしい。
たしかに上司の言う通り、昇進はした。
だが、それはルーファスを新たな機関の責任者としてふさわしい地位をもたせるためのものでしかない。

ルーファスとしては魔王の教育は引退を決めた元魔王に任せればいいと思っていたのだが、それは天界の上層部が断固として拒否した。
結果、魔王を教育するための機関――通称、魔王育成学校を設立する際に期せずして魔王に詳しくなってしまったルーファスに白羽の矢が立ったのだ。

ルーファスは魔王の教育などさっさと放り出したかったが、魔王たちの無垢な眼差しに屈した。
そして、のちに数多くの魔王を送り出し、「魔王システム」の危機を救ったルーファスの伝説が始まるのだ。
初投稿です。
わりとスルスル~っと終わる。

短編の練習と三人称の練習を兼ねているので、不自然なところもあるかもしれません。
短くまとめようとすると、かなり削られてストーリーが消える不思議。

タグなど勝手がよくわからなかったので、何かあれば教えてください。

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