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習作用婚約破棄もの

麗しき皇太子殿下の婚約破棄とその結果について

作者:夜雨
はじめましての方ははじめまして、夜雨と申します。

流行りもすぎてきただろう悪役令嬢ものに便乗してみました。
でもどっちかっていうと、婚約破棄ものといったほうが正しいような。
 宵闇の中に浮かぶ白亜の城。世界に名を轟かす我が帝国の象徴たる城の中の一室、豪奢な家具が並ぶ、俺の部屋にて。
 机の上の日記に向かいながら、しみじみと俺は今日の出来事を思い出していた。


 あれはそう、今日の高等部卒業式の時のことだ。





 何かインパクトのある感じで、と言われた。その方が悲劇的だとも。

 頭を捻った結果、とりあえず大声を出すという方針しか決まらなかった。特段俺は優秀な人間ではないのだから仕方がない。
 周囲が優秀なのでニコニコ笑って言われた通りやっていれば何とかなるのだ。傀儡?何とでも言え。


 俺はこの国を継いでいけるような人間じゃない。
 ……もうすぐそれが、証明される。


 大声と毅然とした態度と突然の宣言であれば、それなりにインパクトは与えられるだろう。
 だってその宣言の内容だけで、インパクトはもう十分だから。


「ユキシア・フォン・フィネーラ!貴様との婚約を破棄する!」


 驚きに見開かれた目は美しいターコイズ。波打つ髪は黄金の如く。醸し出す高貴な雰囲気は何者も寄せ付けない。
 神がその御手で作り上げたとさえ称される美貌。

 瞳と同じ色のドレスは露出は少ないがギラギラしていて少々派手だ。しかしそれが似合ってしまうほど、彼女は美しい。

 だが常には吊り上がった青は人を威圧し、口元に寄せる黒扇は不吉。横暴な振る舞いや我儘が酷いと聞く。

 人にその美を賞賛され、しかし忌み嫌われる魔女。
 それが彼女、我が婚約者ユキシア・フォン・フィネーラ。

 ……ああ、もう元婚約者か。

「わたくしたちの婚約は家同士のもの。あなたの一存で破棄できるものでしょうか、殿下?」

 既に彼女の口元には薄い微笑みが浮かぶ。先ほどの驚愕した様子がまるで幻のようだった。

 嘲りの笑みはどこまでも酷薄だ。一瞬気圧されかけるが、頭を振って恐怖を振り切る。

 俺は正々堂々としていればいい……違うな、そうせねばならない。
 何故なら俺は、この帝国の皇太子なのだから。


『誰よりも賢く。
 誰よりも強く。
 誰よりも泰然として。
 誰よりも威厳を持って。
 誰よりも、誰よりも。

 そして、誰よりも何事でも優る存在であれ。

 それが皇太子。
 この世で二番目に尊いお方である』


 散々聞かされてきた理想論。

 全く、俺のどこが尊いんだか。
 誰も彼も目が腐りきっているとしか思えない。

 そうだ、その性根もこの国の中枢部も。みんなみんな腐りきっている。


 冷めた気持ちも自嘲も胸中にしまい不敵に笑う。
 この役目もあと少し。

「ふん、だが陛下とて貴様がやった所業をお聴きになれば私の提案に頷かれることだろう」
「あら、わたくしが何かしまして?」
「とぼけるな!」

 俺が手招きすると、近くに一人の少女が寄ってくる。小さく震える彼女はとても弱々しく儚げだ。

 名はフィアネ。平民だから性はない。一応俺の恋人。

 上目遣いで俺を見る様は女の武器が何か知り尽くしている。

「わ、わたし……」
「大丈夫だ、怯えることはない」

 ユキシアと違い彼女は可愛らしい美少女である。ユキシアが芸術品のようならば、彼女は野に咲く花のように麗しい。だがだからこそ上位貴族の男は惹かれた。

 綺麗に整えた桃色の髪。同色の瞳には涙が薄っすらと溜まっている。右手で肩を抱きながら左手でその涙を拭ってやれば、彼女は俺を見上げてふわりと笑う。

 清純そうな顔をしているが、こうして婚約破棄させた馬鹿な男は何人に登ったか。

 勿論今から俺もその一人。

「その、ドレス……!」

 ユキシアが不愉快だと言わんばかりの顔である。だろうな、と内心同意する。
 このドレスは特注品だ。特別が一目でよくわかる、特注品。

 歯を噛みしめるユキシアを、今度は俺が嘲笑う。

「わかるか?白銀だ」

 白銀。それは俺の髪の色である。そして皇帝の色だ。
 我が家は必ずこの色が出るため、煌めく白銀は月の女神に守護された証と言われている。その謂れに見合うほどの奇跡もまた、起きている。

 皇帝の色である白銀は王太子とておいそれと身に纏えない。精々がいくつかアクセサリーをつけたりピアスにつけたりする程度だ。

 白銀を身に纏うのは皇帝と皇妃のみ。つまりフィアネは未来の皇妃であると言っているも同然だ。

 次期皇帝たる、俺の妻だと。

「まさか、その平民にその色を着せるなんて!それもわたくしを差し置いて!?」
「庇護すべき民を守るどころか貶める貴様にこの色は渡せぬ!」
「で、殿下、やはりこのお色は……」

 俺の腕の中のフィアネが恐る恐る発言するが、俺は「何も心配ない」と頷く。

「貴様の悪事を今白日の下に晒そう!」

 その言葉と同時に幾人かの令嬢たちが進み出る。彼女らはユキシアの友達……いや、取り巻きだ。

 取り巻きは次々に話す。自分たちはユキシアに命令されてフィアネに嫌がらせをしたと。

 それを話すたび、フィアネは身を縮こまらせて震える。

「な……そんなの、わたくし知りませんわ!」

 この後に及んで悪足掻きをするユキシアに可哀想なほどに震えながらも、フィアネは告げた。

「ゆ、ユキシア様が謝ってくだされば……わたしはいいんです」
「フィアネは優しいな」

 だがフィアネの優しさを踏みにじる女。

「何を……!あなたのせいでしょう……!この魔女!」
「魔女は貴様だ!証拠は揃っている。貴様は皇太子妃に対する反逆罪として死刑になるだろうな。捕らえろ!」
「これを……皇帝陛下が知ったらどうなさるか……!」

 ユキシアの最後に見えた顔はまるで悪鬼だった。それに冷めた顔で見下してやれば、ユキシアは唇を戦慄かせる。
 だがユキシアが何か言う前に、俺が手配した衛兵たちが猿轡を噛ませて連れて行く。

 到底高貴なる令嬢に対する仕打ちとは思えないが、反逆罪に問われた魔女へのものならばこれくらいはぬるいとも言えよう。

「殿下、わたし……」
「大丈夫だ、もうあの魔女はいない。それに、何があっても私が守る」
「殿下……!」

 怖がるフィアネを宥めてながら俺も退出した。






 そうして俺は婚約破棄をした訳だが。

 やっぱり俺の人生を左右するような出来事な訳だし、これが始まりだし、日記には劇的に書こう。

 よし、と意気込んで傍らに置いたペンを取ると同時に後ろから抱きしめられた。

 低く甘い声が耳元で囁く。ぞわぞわ、と鳥肌が立った。

「我が姫よ、そろそろ我に褒美をくれてもいいと思うのだが?」
「うぎゃあ!?」

 我ながら色気の欠片もない悲鳴だが、それよりこの胸に伸びた不埒な手を叩きおとさねば。

 どこ触ってんだこの変態邪神め。
 今は男の格好をしているとはいえ胸を触られるのは嫌だ。

「つれないな」
「当たり前だろ、もっとロマンチックに誘わなきゃ女は落とせないぞ」

 けらけらと笑い声。聞き覚えがあるが記憶の中のそれより些か低い。
 その姿は金髪碧眼。麗しき美貌の少女。先ほど俺に婚約破棄された、ユキシア・フォン・フィネーラである。

 抱き締めと言う名の変態の拘束から、何とか脱出しようと格闘中の俺はユキシアに助けを求めた。

「兄上、この変態どうにかしてください!」
「契約の内容に含まれてるから無理だな。『嫁といちゃつく時は邪魔するな』ってよ」
「我が姫よ、先ほどはあんなにくっついてくれたではないか」
「誰が嫁ですか誰が!ってうわ、触るな変態!死ね!」
「こらこら、淑女が死ねとか言うな。兄ちゃん悲しいぞ。『どうぞ息の根をお止めになってくださいまし』って言うんだよ、そう言う時は」
「どうぞ息の根をお止めになってくださいましぃぃぃ!!」
「グハァッ!?」

 どごっ、と音を立てて俺の頭突きが決まった。荒い息を整えながら、蹲る変態を見下ろす。

 さっきはくっついてとか言ってるけど、あれ演技だからな。そのこと知ってるだろうが。

 ユキシア……兄はよく言えたなー偉いなーとか言いつつ俺の頭を撫でる。
 俺より背が高いのだ、我が兄は。ちょっと悔しいが体の成長には男女差がある以上しょうがないことだ。

「まあでもこれからはちゃんと口調を穏やかで淑女らしくしろよ?ティアリア姫?」
「ずっとこれでやってきたんだから今更変えられる訳ないでしょう、兄上」

 王太子である俺をティアリア姫と呼んだユキシア。そしてユキシアを兄上と呼んだ俺。二人ともまだ卒業式の時の服装のままだから、はたから見ればかなり変な光景だ。


 男のはずの俺が女と言われていて、女であるはずのユキシアが男と言われているのだから。


 だがこれはごっこ遊びではない。
 真実、俺は女なのだ。ずっと隠してきたけれど。
 ただそれももう終わりだ。俺はちゃんと第二皇女ティアリアに戻って、兄を支えなくてはいけない。

 そして支えるべき兄は、ついさっき俺が婚約破棄した魔女ユキシア・フォン・フィネーラこと、第一皇子ユキシスである。ドレスの露出が少ないのも当然のこと。女のまるみなど微塵もない鍛えられた男の体を見せる訳にはいかない。

 一応まだ二人とも隠し通せているが、もう成人も近い。限界だった。

 なので今回の婚約破棄騒動を起こしたのだ。
 因みに皇太子の恋人のフィアネは変態邪神が変身した姿である。
 だから先ほどはくっついてという台詞をあいつは口にしたという訳だ。


 第一皇子ユキシスと第二皇女ティアリアは幼くして死んだはずの双子だ。
 それは兄上がある呪いにかかって見事な白銀だった髪が金に変わってしまったことに起因する。

 金髪に変わったユキシスを第一皇子にしている訳にはいかない。
 しかし今の皇帝の子はたくさんいるが、白銀が出たのはユキシスとティアリアだけ。

 つまり、ユキシスが皇帝になれないならば残るはティアリアしかいない。
 だが女は皇帝にはなれない。

 その結末は見ての通り。
 双子は死んだことにされ、実際にユキシスは殺されかけた。皇帝はユキシスが本当に死んだと思っているが、神との契約によりある公爵家に令嬢として記憶を改竄して潜り込み生き残った。

 更にはティアリアは男として育てられ、第二皇子ティースハイトとなる。
 成人したらすぐに皇帝に即位することが決まり、ティースハイトは皇太子となった。

 婚約者として用意されたのが公爵令嬢のユキシア。勿論これも邪神が関わっている。

 初めての顔合わせで俺はすぐにユキシアが兄上だと気付いた。その後、兄上の計画に賛同してそのために準備してきた。


 すべては兄上が世界統一皇帝として君臨するため。


 この婚約破棄騒動もだ。
 平民の女に惑わされた愚かな皇太子を皇帝は廃嫡にはできない。もう帝位継承権を持つ皇子はいない。

 だから皇太子ティースハイトは皇帝になる。だが、傀儡にされるだろう。

 その時こそ、我々が付け入る隙となる。

「兄上、逃亡ルートは?」
「大丈夫だ。お前も早く来いよ、待ってるから」
「大丈夫です、この変態神がいますから」
「姫!我を信頼してくれるのだな!好きだ結婚しよう!」
「断る!信頼してるのは契約だ、お前じゃない!」

 俺に抱きついてくる変態はこれでも一応神様であった。なんかよくわからないが、幼い頃の俺に一目惚れしたとか言って俺に会うため兄上と契約したのだ。
 ロリコンかよ。気持ち悪い。

 こいつのおかげで兄上はこうやって生きてるし俺も兄上に会えて嬉しいけど、でも変態と結婚はしたくない。

 ただ、この変態はまだまだ俺たちに必要だ。


 皇族を殺すには月の女神が肝要になる。

 神は偉大で強大だ。しかし、人の愚かさは見抜けない。

 月の女神が皇族に目をかけているのは本当だろう。それが我が先祖の成したことであるのも。
 だが、増長させるだけさせて放置するのはいただけない。

 神は善も悪も知る必要はないだろうが、皇帝を守護してもらうのは、もう困る。

 手を出さなければ何もしない。だが助けもしないくせに俺たちを敵と呼ぶのならそれ相応のことは覚悟してもらおう。

 その高みから引き摺り堕とされるくらいは。

 まあ今はとりあえずこの変態を引き剥がすのが先である。

「兄上、可愛い妹を助けてくださらないのですか!」
「可愛い妹の幸せを願ってるんだよ」
「そうだ我が幸せにしてやる!」
「絶対嫌だ!」

 格闘する俺と変態を横目に、兄上はびしっと決めて言った。


「俺たちの物語はまだまだこれからだ!」
「誰に言ってるんですか!?」


 まあ、兄上の目的である世界征服を果たすためにはまだスタートラインにすら俺たちは立っていない。まずはこの国を手に入れるところからだ。

 そのあと、兄上を皇帝にするために色々と波乱があり、そして皇帝になっても敵対する国々との戦いがあり、ついでにその合間に変態からの求婚があった。

 まさにまだまだ物語は始まったばかりで。


 何故だろう、……最近あの変態神がいないと胸に穴が空いたような気持ちになるのは。
 兄上に聞くと、ニヤニヤと笑っていらっしゃる。

 その意味は、その、そういう……?


 …………………………いやいやいや、何かの気の迷いに決まってる!


 決して変態に絆されないからな俺は!
 徹底抗戦だ!
閲覧ありがとうございました。楽しんでいただけたら幸いです。

活動報告でこれを書いた動機などをグダグダ語ってるので、もしよければそちらもどうぞ。

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