バーン!
振り向くと花火が上がりだしていた。今日は年に一回の夏祭り。いつもは人気のなく、暗い神社にも露店が軒を連ね、人でごったがえす。
俺は神社から少し離れた、とある店の前で待ち合わせをしている。時計に目をやると約束の7時まであと2分だ。するとこちらへ歩いてくる一人の女の子がいる。近づいて姿がはっきりしてくると俺はハッとした。
「あれ?達彦来るの早いね。待った?」
浴衣を来た鹿島聡美である。青を基調とした浴衣で、帯は黄色であった。
「そんなに待っちゃいないよ。じゃ行こうか。」
ぶっきらぼうに言うと俺はついと神社の方角へ歩き出した。
内心俺は嬉しかった。彼女の浴衣姿をである。いつも見る制服ではない聡美は、いつもより数倍可愛く見えた。だが同時に、俺の胸に恥ずかしさが込み上がってきたのだ。そのため俺はつっけんどんの態度を示してしまった。
彼女は俺の横に並びかけると、何か言いたげな表情をこちらに投げかけて来たが、俺が黙っていると諦めたのか、静かに前を見て歩いた。
神社に近づくとお囃子が聞こえてきた。それに露店商の呼び込みの声や子供の歓声や大人の話声、鉄板の上でソースが焦げる匂い、射的のコルクが発射される際の乾いた音。どれもがこの場の雰囲気に似つかわしく思われた。
「何か食べる?」
俺が尋ねると
「一回りしてからにしよう」
「そうだな」どうやら彼女もお祭りの気分を楽しみたいようだ。
この神社は社殿の割には、境内は広く、露店もたくさんある。
俺と聡美は横に並んで歩いた。聡美は無邪気に目を輝かせながら、露店を眺めていた。
俺は思わずそんな聡美の横顔を見つめてしまった。髪は上でまとめて、微かに覗く白い首が俺の目を惹き付けた。
すると聡美の視線がこちらに移動してきたので、俺は慌てて目を背けてやり過ごした。顔が赤らむのが分かった。聡美は俺の気を知ってか、知らずか
「たこ焼きでも食べようか」と提案したのだった。
「どうして祭で売っているものは、美味そうに見えるんだろうな」
「うん。たしかについつい買っちゃうんだよね」
二人でベンチに座り、買ったたこ焼きを頬張った。
俺は聡美に浴衣姿について何か言わねばと、思うのだが、それは最初の時点に言うべき事柄であって、今さら言うのはひどく遅く、要領の悪い自分を情けなく思うのであった。
ヒュルル〜
また花火が上がった。今回のは何発も同時に打ち上げられている、いわゆるスターマインであった。
次々に打ち上がり、漆黒の空に花を咲かせては消え、その後を追うように二の矢、三の矢が花を開き、空を鮮やかに彩る。
「うわー」
聡美が感嘆の声を上げる。
最期の盛りと言わんばかりに、数十発が一度にあがり咲き乱れた。花が散ると、其処には白い煙だけが宙をどこに行くとも知らず漂っていた。
聡美を見やると、名残惜し気に、先程までの花園であった空を眺めていた。
すると俺の口から、思わず、言葉がするりと滑り出てきた。
「聡美…」
聡美が振り向く
「浴衣似合ってる」
「ありがとう」
白い頬をほのかに朱に染め、聡美はそう述べると満足げな表情を浮かべた。
ずっとこの言葉を待っていたのだろう。
俺は恥ずかしくなって、慌てて言葉を探した。
「どうする、もう帰る?」
「うーん、もう一回あっちに行こうか」
聡美は笑顔をこちらに投げかけると、神社へと駆け出した。
少し離れた所まで走ると、こっちを見た。
「達彦早くー」
「今行く」
俺は全速で聡美へと走った。
遠くで虫の声が聞こえる。夏休みもあと少しだ。 |