ファイル283:蜂野鈴也の淡い過去
蜂野鈴也、19歳。
文武両道、質実剛健と言われる男である。
いつも朝4時には起床する。
彼の生活は、夏休みであっても変わる事はない。
鈴也
「はっ!!」
ガッ!!
「それまで!!」
「しっかしウチもいい加減だな、空手を相手に他流試合だなんて。」
「小三郎があれだしなー!しかし鈴坊はこっちでもいけるんじゃねえか?」
「それじゃアイツの頭がもったいねえよ!」
「ハハッ、違えねえ!」
「小三郎!息子をちったあホメてやれよ!」
鈴也
「いいんですよ・・・」
「おお!!」
鈴也
「!」
「全国区レベル相手にようやったな!桜野!」
松葉
「いやー、苦労した苦労した!!ん?なんやなんやぁ!?オマエも勝ったんやからちっとは嬉しそうにせいや!かてーヤツやなぁ!!」
ツンツン!!
鈴也
「イテテ、やめろっての!!」
桜野にはいつも、妙なかたちで元気づけられる鈴也であった。
学校以外では、わりと気安い仲の2人なのだが・・・
『Birthday Party for Matuba Sakurano』
鈴也
「桜野の誕生会かあ。もうそんな時期か・・・ん?」
『何か芸をしろ。 松葉』
鈴也
「何か芸をしろって言われても・・・変な芸を見せたりしたら、また松葉に怒られるし・・・般若心経の暗唱とかじゃあダメか・・・」
友人達の前では、松葉はなぜか鈴也にキツかった。
鈴也
「く、くそぅ!みんなが喜びそうなものがさっぱり思いつかん!だが・・・男・蜂野鈴也!みんなを失望させるワケにはいかん!!学研の手品セットでも何でもいい!何かないか何かないか!」
ガサガサ・・・
鈴也
「ん・・・?これは・・・」
心の奥で眠っていた思い出が・・・
目を覚ます事がある・・・
そう、あれは・・・
小学2年の夏・・・
ドカッ!!
「オマエってマジ弱ーよ!」
「ダッセー!それでも道場の息子かよ!」
「ムダなんだよっ!弱ーくせに武術やんなっつーの!」
「カッコつけやがって!」
そんな事は、本人であるボクが一番よくわかっていた。
父に無理矢理やらされているだけなんだから。
「マジメ君はガリ勉してりゃあいいんだよ!」
バリン!
鈴也
「あ・・・!」
「ハッハッハ!!」
鈴也
「(ならなんでメガネを割るんだ・・・勉強できないじゃないか・・・)」
ボクは、いわゆるイジメられっ子だった。
もくもく・・・
カチャカチャ・・・
鈴也
「ごちそーさま!」
「鈴也!残すんじゃありません!そんなんじゃ、マツちゃんにどんどんおいてかれるわよ!」
鈴也
「(普段は『ヨソはヨソ』と言ってるのに・・・不条理だ・・・)」
ボクは頭脳労働向きなのだ。
ムリヤリ比べられても困るのだ。
マツちゃんは明るい、みんなの人気者。
それにひきかえ、ボクは・・・
松葉
「やぁ!!」
ガッ!!
鈴也
「あつぅ!!いつつ・・・」
ス・・・
鈴也
「?」
松葉
「大丈夫?練習終わったらみんなでおソーメンやろ?めいっぱいおなか空かせとかないとなー!」
彼女にはとてもかなわない。
松葉
「ホレホレ、もっと食え!」
鈴也
「も、もーいいって!」
松葉
「あー、こぼしてるって!ホラ、もー!」
鈴也
「ゴ、ゴメン・・・」
「・・・」
ムカムカムカ・・・
かたやヒーロー、かたやイジメられっ子、分不相応のツケはたまる一方で・・・
音楽のリコーダーの授業の日・・・
堰をきったように激しく、最強のイジメ『全員シカト』が始まった。
まるで自分が空気になったような、ビックリするほど不自然な感覚・・・
ほどなく、ボクは不登校になった。
ボクは、なんにも悪くない。
嫌いな学校なんか、こっちから願い下げだ・・・
松葉
「蜂野ー!」
鈴也
「!」
ガラッ!
鈴也
「マツちゃん!」
松葉
「笛の発表!アタシ音楽係やから、先生がアタシと組めってさーっ!」
音楽係だから
+マツちゃんがヒーローだから
+ボクがイジメられてるから
=完全な同情と事故満足!
『ここで行ったらダメだ!』
ボクは思った。
鈴也
「行かない!ボクは行かない!!断固行かなぁい!!!」
ピシャッ!
松葉
「なにー!!!出てこーい!!出てくるまで吹くぞー!!!練習もかねてー!」
ピュラルリラー!
よせばいいのに、意固地になるボク。
それでも、マツちゃんはやって来た。
それこそ、蒸し暑い日も雨の日も、風の日もだった。
ジリジリジリ・・・
ザアアアーッ・・・
ビュウウウウ・・・
ボクは一応、指の練習だけしていた。
鈴也
「(マツちゃん、今日は遅いなぁ・・・)」
「松葉!早く帰って寝なさい!」
鈴也
「!」
ヒョコッ・・・
鈴也
「(マツちゃんのお母さん・・・)」
松葉
「ヤダ!まだいる!」
「いい加減にしなさい!あなたカゼひいてるのよ!」
鈴也
「!」
ボクは・・・サイテーだ・・・
翌日・・・
松葉
「おおっ!よーやく行く気になったか!!先生が『早く演奏しろ』ってウルサイんや!ガンバローな!!」
マツちゃんは何も言わなかった。
カゼをひいた事、お母さんに止められた事、それと・・・
ピロリラ〜!
ザッ!
鈴也
「!」
「おーなんだなんだ?」
「桜野!オマエ男と組むなんて恥ずかしくねーのかよ!みんな女どーしだぜ!?」
「お似合いだねー!結婚式はいつでっか!?」
松葉
「カ・・・カンケーないやろー!あっち行けぇ!」
「じゃーなんで蜂野なんかと組んでんだよー!」
・・・もーいいよ、マツちゃん・・・
先生の言いつけなんて、破っちゃっていーんだから・・・
「だいたい桜野、オマエ他の奴と組めって先生に言われてたじゃんかよー!!」
「男と、しかも蜂野とだぜー!?」
「フツー恥かしーよなー!!」
・・・え?
・・・あれ?
ちがうよ・・・
だってマツちゃんは、先生の言いつけでムリヤリボクと・・・
ドカッ!!
「ウワッ!!」
松葉
「・・・なんかないっ!!恥ずかしくなんかないっちゅうねん!!!」
「うわーんっ!!!」
ダッ・・・
松葉
「二度と来るなー!!!ドアホー!!!ホラ!さっさと練習続けるよ!」
・・・マツちゃん・・・
ホントは、ものすごく恥ずかしかったんだろう・・・
ビュラルラリ〜!
ピュルラ〜!
松葉
「だああ!何泣いてんだぁー!!!しかも、音外しまくってるやないかぁ!!」
決めた・・・
ボクは、マツちゃんみたいなヒーローになる!!!
鈴也
「・・・うん!」
誕生会当日
その日、鈴也はまた一歩、ヒーローの松葉に近づけた気がした。
鈴也
「一番、蜂野鈴也!リコーダーを吹きます!!」
ビッ!
ピロリラリ〜!
松葉
「アハハ、引っ込めドヘタクソー!」
カーン!
そして松葉は、その日の思い出の事を忘れていた。 |