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この作品には 〔ガールズラブ要素〕 が含まれています。

【う た か た 。】

【中庭の木漏れ日】

作者:加藤糖質
 木漏れ日が、優しくチラチラと銀もくせいの葉の隙間から光を通す。
 それだけでもこの秋の涼しすぎる気候を少しだけ忘れることができる。
 だけど温もりはそれだけじゃない。


 「昼休み…、まだもうちょっとあるから、まだここにおろうや」

 「そうやね。なんか眠くなってきたんだけど」

 「それはいけんやろ。次現社やけ、ただでさえ寝るのに」


 じゃあ、もう現社知らんわ。

 そう言ってウチはふあぁとあくびをした。
 そんなうちを見て莉那は優しく微笑む。


 莉那、可愛い。

 左肩に莉那の体温を感じながら、ウチは頬が紅潮していくのを感じる。

 校舎の窓ガラスに映る木の下の二人の少女は仲良さげに肩をくっ付けあっている。

 窓ガラスに映る莉那よりも頭一つ分ほど低い自分はこっちから見ても妬いてしまうくらいに幸せそうだ。
 その緩みきった表情は明らかに恋をしている少女のもので、改めてこう自覚させられる。

 ウチは、莉那に、恋をしている。

 その思いを煽らせるかのように銀もくせいの甘い香りが挑発的に鼻腔に飛び込む。


 莉那がウチの肩にそっと頭を乗せてくる。

 ……嬉しい。


 でも、止めて欲しい。

 莉那は八方美人と言ったら聞こえが悪いけど、誰に対しても優しくて優しくて、残酷なまでに平等だ。
 きっとウチ以外の人間に対しても男女問わずで、微笑んだり肩に頭を乗せたりするんだろう。


 莉那は学校の人気者だ。

 演劇部と英会話部を掛け持ちし、校内を歩くだけでも「莉那センパイ、莉那センパイ」とひっきりなしに声がかかる。
 生徒会長にも気に入られ、莉那は無投票で生徒会役員になった。
 普通こんな特別措置には反対分子が現れるものだと思うのだが、生徒はもちろん教職員さえも咎めなかった。

 成績はいつも学年十位以内。
 体育祭では小学校の時からリレー選手に選抜。
 英会話部でただ一人県大会に出て見事優勝。
 演劇部では、照明という裏方にいても莉那は注目を浴び、莉那の演出があると無いとでは役者の演技がさらに際立つ。
 実際莉那がライトを担当し始めてから演劇部は大会やコンサートに誘致される頻度が格段に上がっている。


 誰もが認めるスーパースター・莉那。

 もしもウチが出席番号の関係で莉那の隣に机を並べることにならなかったら、今こうして話すことも無かったのだろう。

 莉那との出逢いは、そんなものだ。

 もしもこれが出逢いの運命だったのなら、なんて安価なフラグなのだろう。

 きっと演劇部の台本にも、こんな展開は載っちゃいない。


 「でも、やっぱ寒いねえ」

 手を擦り合わせながら、莉那は少し困ったように笑いかけた。

 そんな莉那を、抱き締めたい衝動に駆られる。


 「ま、冬ももうちょっとやし。当たり前やろ」

 そんな感情に渇を入れる。

 こんな、莉那の掌で踊らされて楽しいの?

 誰にでも向ける、その微笑みに、ウチの安っぽい感情を動かされてもいいの?


 「もう、由美ちゃん冷たいなあ」


 ………でも、莉那。

 ウチは情けないことに期待してしまうんだよ!?

 馬鹿みたいだよね、情けないよね!?


 今まで特別頑張ることも、良くも悪くも目立つことなく生きてきたウチにとって、机が隣っていう展開さえ眩しく思えてくる。


 ……だから、莉那。

 拗ねたようなその顔も、ずっと眺めておきたい微笑みも、止めてくれないかな。


 「莉那、もう帰った方がいいかもしれん。チャイム五分前やけえ」

 「あ、もうそんな時間なん。でも、由美ちゃん眠くない?大丈夫?」

 「うん、なんか目覚めたわ。色んな意味で」

 「え、何それ。どうしたん」

 「……何でもない。でも、またきっと夢に引き込まれていくはずやし」


 木漏れ日は、パサついた日の光を隠しちらつく光によって心地よい空間を作り上げていく。

 依存したくなるような優しさは、本心を隠し誰にも平等に暖かく接する莉那のようだ。


 「待って~、由美ちゃん。一緒に帰ろうや」


 ああ、覚醒しきったはずの脳が急激な速さで夢の中に引きずられていく。

 莉那がウチの腕を掴んだ。


 「……ねえ、由美ちゃん。莉那何か悪いことした?」

 「…いや、ごめん。やっぱ眠いや」


 莉那が隣にいる限り、その微笑みをやめない限り、ウチは永遠に夢の中をさまようのだろう。


 銀もくせいの木漏れ日を心で愛でながら、ウチは罪無き大罪人に腕を引かれて下駄箱へと向かった。

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