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青年と犬と、もう一人 作者:Schuld
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防人と略奪者と破城槌

 ぎしりぎしりと、金属が軋む音が木霊する。コンクリートむき出しの寂しい倉庫、否、独房で響く耳障りな音。それに混じって、少女の楽しそうな鼻歌が溢れていた。

 手錠で拘束された両手を膝の間で組み、だらしなく開いた長い足は、地面を蹴って椅子を大きく傾けさせる。

 そのたびに、小柄とも儚いとも言えぬ、見事な体躯の重みに耐えかねてパイプ椅子が叫んだ。しかし、その音は少女にとって不快な音ではなく、むしろ鼻歌の伴奏が如く心地よくさえあった。

 「さてさて、首筋の後ろがぞわぞわするなぁ」

 鼻歌の合間に、実に楽しそうに言葉が溢れる。平素から貼り付けた笑みはいよいよ持って強まり、闇の中で開かれた目は剣呑にぎらついていた。

 臭うのだ、戦いの臭いが。戦いに身を投じた人間であれば、何ともなしに感じ取れる、独特の気配。それがもう、直ぐ近くまで迫っていた。

 「どう転ぶやら、楽しみなような不安なような……期待してるよ、おやっさん」

 椅子が上げる軋みは、延々と暗闇に響き続けた…………。










 完全に闇に落ちた廊下があった。ホームセンターの店舗部分三階、裏口を臨む職員用通路の廊下は、窓を全て板で打ち付けてあることもあり、微かな月光や星明かりすら差し込むことはない。

 灯火管制で明かりが焚かれることもないので、夜半を過ぎた廊下では自分の鼻先さえ伺えず、慣れていなければ一歩を踏み出すことも危うい。

 そんな中で、一つの明かりが産まれた。百円ライターのフリントが生み出す火花だ。

 幾度か激しく火花が明滅し、灯が灯る。儚いガスの火が揺らめき、くしゃくしゃによれた煙草の先端へと熱が移された。すると、呼気によって強まった光によって、闇の中に男性の顔が浮かび上がる。

 皺を寄せた、巌のような壮年男性の顔。一人の防人が、歩哨として窓に付いているのだ。

 深く肺へと誘い込まれた煙が血液を汚し、呼気と共に吐き出され立ち上る。煙とも暖かい呼気の湯気とも付かぬ靄は、静かに窓の隙間から外へと逃げ出した。まるで、こんな陰鬱な所に空気でさえ居たくない、と言うかのように。

 板で打ち付けられた窓には、小さなスリットが設けられていた。普段はボロキレで隠されているそこから、外を覗くのだ。そうすれば露出する面積が減るので、外から撃たれる心配が減る。

 とはいえ、擾乱目的で適当に打ち込まれた弾が折り悪く当たることもあるので、運の領域の話も関わってくるのだが。

 今回も運が良かった。実感を噛み締めつつ、煙草の明かりが外から見えない位置へ来るよう注意しつつ、慎重に視線が外の闇を浚う。

 町は沈黙に沈んでいた。欠けた月の光と、地上からの照り返しが消えたために賑やかになった夜空の星に照らされて、朧気に輪郭だけが浮かび上がっている。

 地上をつぶさに観察することはできずとも、動きの有無程度は見分けられる。その点に関しては、町はまるで眠っているかのように見えた。明かりが落ち誰も動かない光景は、自分たちだけが現実から切り取られたような錯覚を覚えさせる。

 このちっぽけな砦に立てこもり、戦う準備をしている愚か者は自分たちだけで、実はあの町の中では皆がまどろみに身を任せているのではないだろうか……そんな、取り留めも無い考えが浮かぶのだ。

 まだ現実が俯瞰できていない証左だな、と防人は頭を振って、馬鹿げた思考を追い出しに掛かる。追い銭とばかりに煙草をもう一服し、淀んだ思考を煙に混ぜて吐き出した。

 こんな温い様だから、あの日にボケっとして怪我人を出すのだ。

 民意に意識を傾けるのは良い。それなりの付き合いになってしまった、本来なら関わりの無かった部下の死を悼むのも良いだろう。

 だが、気を緩めてはならなかったのだ。歩哨が居るから構うまいと、自分はせめて葬儀に立ち会うべきだと考えてはならなかった。誰か別の奴に進行を任せて、自分も警戒すべきだったのだ。

 そうすれば、こんな様に陥ることはなかったろうに。

 何もかもが甘かった。だからこんなことになる。あの手負いの獣が、人間の皮を被って産まれてきたような獣が、突拍子も無い事をしでかすことくらい分かっていたのに。

 思い返せば、迂闊さに煙草を握りつぶしそうになった。弛んでいた、緩んでいた。精神が弛緩していたのだ。

 “人と戦う”という認識ができていなかった。それは兵士として、絶対にしてはならぬこと。

 死体とばかり戯れていて、自分まで脳味噌が腐っては笑うに笑えまい。

 だが今は違う。もう頭は切り換えた。

 兵士の思考に。戦う者の思考に……。

 ふと、次の煙草に手を伸ばした時、痛いほどの静寂が汚された。窓の外、狭いスリットの向こうから小さな音がする。

 防人は嫌な予感を感じ取り、腰元に手をやって双眼鏡を求めた。何かが来る、始まろうとしている。

 それは分かっていた。敵が寄せて来るのはこの時期、この時間帯だろうと。

 空気が温み始めて雪が減り、行軍には支障を来さない規模になってきた。寄せ手側としては、最も都合の良いコンディションであろう。

 そして闇は彼らの味方だ。最初の接敵時から分かっていたが、彼らには暗視装備がある。近代軍らしく、自衛隊には暗視装置が配備されており、彼らもそれを兵装している。さもなくば、あれほど見事に闇夜で弾丸を叩きこめまいて。

 任務の傾向からして必要の無い装備は、どうしても省かれてしまうことが多く、残念ながら防人と配下の背嚢に夜間装備はない。彼らはあくまで、救出と護衛任務で出動要請が出たのだから。

 となれば、有利な点を活用しないはずがない。寄せて来るのは夜だ。闇に乗じて奇襲、或いは浸透強襲をしかけてくるはず。

 本来有利な筈の守手側は、それだけのことで不利に追い込まれる。月明かりすら入り込まぬ建物の中で、儘ならぬ視界のまま戦うか、明かりを付けて外から狙撃される危険性に晒されるかの選択を強いられる。

 考えるだけできつい選択肢だ。何処で戦っても、視界が悪いというのは大きく働く。人間は、目が見えねば何もできないのだから。

 「……あれは」

 如何にして侵入を阻むのかを主軸に据えた戦術は組んだが、無駄になりそうだと防人は悟った。近づいてくる音と、闇の中を進んでくる大きな影を見て分かったのだ。

 トラックだ。一両のトラックが闇の中を高速で突っ切ってくる。しかもご丁寧な事に、車体の前面には障害物を蹴散らすため、鉄板で作った即席の衝角まで誂えてあるではないか。

 「クソッタレ! 直接乗り付けに来やがったか!!」

 疾駆する巨体を確認すると同時に、防人は椅子を蹴り飛ばしながら駆けだした。最早窓辺に居る意味は無い。あんなもの、どう足掻いた所で今の装備では止められないからだ。アレを突入する前に止めるのであれば、12.7mmかカールグスタフでも持ってこなければなるまいて。

 背後で轟音が響く。鉄パイプや建材で強化した、駐車場のフェンスが突破された音だろう。何百という死体を食い留めた壁も、運動エネルギーを伴った圧倒的質量の前では脆いものだ。

 「畜生、何処の教習所で運転ならいやがったんだか」

 軽口を叩きながら短い距離を走った防人は、目当ての場所の前で壁に手を叩き付けて止まった。暗い廊下のなかで、そこだけはぼんやりと赤い光に照らされている……火災報知器だ。

 態々警備系統の電源だけは確保して、燃料まで使って生かしておいたのだ。もしもの時、敵襲を皆に報せるために。

 とはいえ、これだけの大音量で敵が来訪を報せてくれているのである。押す意味は薄いかも知れないが、気分の切り替えにはなろう。

 押さないでと書いてある、誰もが一度は押したくなる衝動に駆られるボタンを防人は迷わず押した。すると施設に世界が割れたのでは、と錯覚するほどの大音響が響き渡る。

 人間の本能を刺激する音を聞いて、寝ぼけが抜けきらぬ間抜けは早々居るまい。一ブロック隣で鳴っても気になるのだ。自分が居る建物の中で鳴ったとなれば、否が応でも気が引き締まるというもの。

 ベルの騒音以外で建物の中が俄に賑やかになり始めた。待機していた人間も、寝ていた人間も一斉に目覚めて動き始めた音。以前より、非常ベルが鳴ることが敵襲の合図だと周知させてきたので、ぼけっとして対応できぬ愚か者は居ない……はずだ。

 『おやっさん!』

 「おいでなすったぞ! 装備整えて集結地点に部隊配備! 歓迎の準備を整えておけ!」

 胸元に固定してあった通信機がノイズ混じりに音を立て、何処か切羽詰まった声が防人の耳に届く。警備室のチャンネル、待機していた自衛官の一人だ。

 通信には他の人間の声も混ざっており、下で動いている人間の気配は多い。以前からの備えの一つで、敵が夜襲を取るだろうからと自警団の多くは夜型の生活に慣らしておいたのだ。昼に多く寝て、夜には仮眠を取って動けるように備える。

 寄せて来る時間が分かると、対策も結構取りやすいものである。

 一つ問題を挙げるとするのであれば、例え目が覚めて動けたところで、本職相手に素人集団に出来ることなど限度があるということだが。

 「おやっさん!」

 廊下の角から自警団員が二人、短機関銃を持って走ってくる。別の面を見張っていた歩哨だ。

 「二人は窓から動向探り続けろ! 連絡入ったら手はず通りだ!」

 「了解! ご武運を!」

 声を背に受けながら階下へ通じる階段へと駆け、そして一足で降りるのでは無く飛ぶ。階段の頂点から下まで、足を動かすことすらもどかしいとばかりに飛び降りるのだ。

 装備がこすれる音と、ブーツの底が叩き付けられる音が響くが、次に響いた音に比べてば実に些細なものであった。

 大音響。正しく鼓膜を奮わせる音の暴力と言うに相応しい、不快で大きすぎる鋼と建材の喝采が施設に轟いた。着地してしゃがんでいた防人の体が、微かに揺れ動くほどの衝撃を伴った大破砕。

 「くそ! 正気かよ! そのまま突っ込んで来やがったぞ!?」

 上階の見張りが叫ぶ。それはきっと、誰かに報せるためのものではなく、驚愕を絶叫へと変化させなければ心のざわめきが抑えられなかったが故、自然に溢れた声なのだろう。

 何が起こったのかは、正しく彼の言葉通りだ。突入してきた車両は、単なる露払いではなかったのである。

 “破城槌”なのだ。

 相手も此方を観察し、既に正面にバリケードが構築されていることは確認済み。であるならば、如何にして損耗無く建物に乗り込んで無力化するかが作戦の胆となる。

 余裕がある軍隊なら、窓という窓に制圧射撃を仕掛けながら装甲車で部隊を肉薄させ、催涙ガスなどで制圧するのだろうが、状況が状況だ。今の日本には、そこまでの作戦能力を有する部隊などは存在するまい。

 ならば、頭を使ってこすっからく、そしてせせこましくやるしかない。

 防人達があり物で城塞を構築したように、彼らもまたあり物で攻城兵器を仕立ててきた。その威力はお聞きの通りだ。現代建築、それも店舗用建物の薄い外壁なんぞ、十トンを超えるトラックの突撃に耐えうるものではない。

 大男に蹴飛ばされたベニヤ板の如く、容易く打ち破られて車体が食い込んだことであろう。或いは貫通しているかもしれない。

 そして、破城槌の後にやってくるのは……。

 『おやっさん、侵入された! 北側入り口側面だ!』

 「分かった、予定通りやれ」

 当然、歩兵がやってくる。拠点を取るのは歩兵の仕事だ。戦車でも航空機でもできない、最も大事で最も原始的な大仕事。この世で最後の、個人が武勇を競いうる領域である。

 大方、トラックのコンテナ部分に侵攻部隊が入っていたのだろう。かなりの衝撃に襲われるであろうに、随分と気合いの入ったことをする。

 「さて、仕掛けをご覧じるとしようかね」

 されど気合いが入っていて、退けないのは相手だけではない。此方とて後が無いのは同じこと。

 戯けるような言葉尻とは逆しまに、防人の顔は氷のような冷徹さを保ったままであった…………。












 濛々と埃の立ち込める空間があった。空気中に飛散し、煙のように視界を妨げる埃は、無精によって積もったものではない。破砕された建材の欠片や、壁の間に堆積していたものが吹き出したのだ。

 その中にふらふらと一つの影が這い出していく。影は砕かれた壁から突き出す、大破した急拵えの装甲トラックの運転席から落ちるように現れた。

 酷い咳を繰り返す、まだ年若い男だ。服装は全くの平服で、寸鉄すら帯びているようには見えない。しゃがれた咳を吐き出し続ける彼は、この破城槌の操縦者だったようだ。

 激突の衝撃で体を揺さぶられ、エアバックの守りを受けてなおダメージを被るほどに強く胸を打ったらしい。かすれた咳の響きからして、何処かを痛めて居るであろう事は確実であった。

 「おっ、おい、大丈夫か!?」

 続いてふらりとペンライトを持った一人の男が出て来て、横たわり咳をする男を揺さぶった。彼もまた一般的な服装をしており、兵士ではなかった。

 「いたっ……痛いっ……」

 「くそっ、なんでだよ、エアバックきちんと動いてるじゃねぇか!」

 次いで出て来たのは、同じような平服の男が三人ほど。彼らは苦しそうに呻いている男を見て、顔を青ざめさせていた。まだ何も始まっていないのに、早速一人脱落者が出たことに戦慄しているのだ。

 エアバッグは確かに衝撃を吸収し、運転者の生命を守るものだが完全ではない。それこそ膨張する勢いが凄まじく、膨れた衝撃で打撲や骨折を起こすこともあるのだ。六〇km近い速度で突っ込んだのだから、これでもまだ軽い方であろう。

 咳を繰り返す男を引っ張り、車体に凭れさせる。体を起こすと咳が酷くなったが、手の施しようが無い。打撲程度なら放っておいてもよいが、胸骨が折れていたならば手遅れだ。ちょっとした怪我が死に繋がる今では、本当に容易く怪我は致命傷へと発展しうる。

 彼をどうしたものかとノタノタやっていた男達の後ろに、静かに一つの影が這い出した。トラックの運転席は一部が切除され、後方のコンテナと一続きになっており、彼らはそこに乗ってきたのだ。

 「……抵抗がないな」

 迷彩の野戦服にタクティカルベストとヘルメット。そして両腕にしっかりと担われた小銃。紛うこと無き自衛官だ。顔には黒いドーランが塗りたくられていて、目鼻立ちをしっかりと伺うことはできなかった。

 されども、目だけが酷く歪に浮かび上がっていた。目立たぬよう工夫された装束の中で、瞳だけが奇異に感じるほど印象に残る。剣呑な、腹を空かせた獣のような瞳だった。その目は、例えドーランを落として他の要素が浮き彫りになったとしても尚目立ったであろう。

 異質な瞳が鈍く輝き、闇の中を浚うように睥睨する。しかし、彼の視界で動くのは風に揺られるバリケードや壁の残骸ばかりであった。

 馬鹿みたいに目立つライトを付けて、五人の男を先に降ろしたのは意味あってのことだ。敵の攻撃を誘発させ、どの程度が即応して出て来たかを知りたかったのである。

 堂々と敵対している以上、攻めるにあたって何かしらの抵抗を受けるのは当たり前のことで、彼らはそれを想定して準備した。

 カナリアを用意したのだ。死ぬことによって危険を知らせる、死んでも惜しくない小鳥を。

 要は彼らは、敵の抵抗度合いを探るためのカナリア代わりだ。想定通りであれば、彼らはとっくに蜂の巣になっている筈である。

 だのに抵抗はなかった。おかしなほど静かなままに、目立つライト片手に男達は突っ立っていて、今も呼吸ができている。

 「罠か、誘いか……」

 「どうしますか?」

 割れたフロントガラス越しに、もう一丁の小銃が伸びる。警戒しているのは、彼と同じく野戦服を着込んだ自衛官。否、元自衛官達である。

 「行くしかあるまい。どうせ今夜で決めるしかないからな。おい、さっさと案内しろ」

 目が歪に目立つ男は、まだ咳が止まない怪我人を見ていた面々を焚き付ける。彼らは単なるカナリアではない。此処から離脱し、彼らに拿捕された元避難民だったのだ。

 「でもコイツが……」

 肩を蹴ってまで促されても、離反者は動こうとしなかった。仲間を気遣って、というよりも何かしら理由を付けて、ここから先へと進みたくないのだ。

 闘争の気配。死の気配に慣れて居ない彼らには、仲間の重傷者を前にして折れぬ士気など、持てようはずもない。

 元々、なぁなぁに楽に暮らしたいから、そんな理由で離脱した面々だ。兵士らしい行動など、求めても仕方のないことだ。

 「そうか、見せてみろ」

 ドーランの合間から目をぎらつかせながら、元自衛官の首魁は離反者達の間に割り込み、負傷者の肩に手を添える。

 そして首に腕を回し、まるで使い終えた楊枝をへし折るように頸椎をねじ切った。

 乾いた音と、最後の咳が呼気と共に吐き出されるノイズが響く。体が数度、死を拒絶するように跳ねたが、直ぐにそれも失せた。じわりと、股間から湯気が立ち上り悪臭が漂い始める。

 「これでもう心配ない。さぁ、立て。戦争の時間だ」

 呆然と立ち尽くす離反者達に蹴りを一発くれてやりながら、首魁は小銃の安全装置を外した…………。













 延々と暗闇に響いていた、椅子のフレームが軋む音は最早止んでいた。

 今はただ、如何なる音も聞き逃すまいと静かに耳を澄ます少女が一人、椅子の上で瞑想するかのように黙して座するだけ。

 呼吸は長く緩やかに。自らの鼓動すら雑音であると断じるように、体が発する音を限りなく消して状況の把握に努める。

 建物の中から響く、混乱した自警団員の声や避難民の怯えた叫び。指示を飛ばす怒声に銃器が擦れあう音。静かな夜に響き渡る音は大きく、外の様子を少女に伝えてくれた。

 巨大な衝突音は、恐らく車でも突っ込んできたのだろう。実にスマートな手法だ。老齢のドライバーがやらかすことでお馴染みの事故だが、ハリウッドスターがとる伝統的な戦法でもある。

 やはりシンプルかつ野蛮な方法が、一番効率が良く強いと相場が決まっているのだ。車両の質量と衝突力は、障害を撤去するのに打って付けである。

 それも恐らくは、人員を送り込めるように大型のトラックなんぞを使ったはずだ。衝突音の大きさからして、決して小型車両の物ではあるまい。

 緩衝剤を後部に詰め込むなり、手摺りを溶接するなりすれば乗員の安全も図れる。後は壁を取っ払い、先端が建物内に突っ込んだ運転席からお邪魔しますという寸法だろう。

 巨大な破城槌の前では、ホームセンターで売っている商品なんぞで作ったバリケードは役に立つまいて。

 いや、態々頑丈な部分なんぞ相手にせず、構造的に脆い窓に突っ込んでもいいのだ。

 恐らく今頃、必至こいて構築したはずの第一防衛ラインは突破されていよう。水際迎撃をしようとしていたかは兎も角、大変なことになっているに違いない。

 人員がそろそろ必要になってくる頃だ。上手く行けば、もう直に……。

 そう考え始めた時、外から足音が聞こえてきた。何人もの人間が駆けてくる音。どうやらお呼びが掛かるらしい。

 「さて、もう根を上げたかな?」

 閉じていた目を開き、少女は立ち上がった。未だ治りきらぬ傷口は痛めど、動きに問題は無い。激しい動きを連続しては行えぬが、しばしの間であれば全力で活動することも適おう。

 後は、自分の体がどの程度、銃の感覚を忘れずにいてくれているかだ。

 如何に半年以上を戦いが日常になる世界に身を置いたといえ、本職相手には大きく劣る。それでも十全に動けるか否かは、実に重要だ。例えハンドが弱くとも、やりようによっては勝てるのはゲームと同じ。

 であるなら、少しでも見えているカードの面子は強い方がいい。

 幾つもの足音が駆けてきて、鍵穴の機構が噛み合う音が響く。しかし少女は、小さく首を傾げた。

 鍵を差し込んだ音がしたということは、当然扉の前に人が来たということなのだが、違和感を感じたのだ。

 しかし少女の疑問を置き去りにして扉は開かれ、状況は動き始めた。

 終わりに向かって…………。
 お待たせして申し訳ない。就職にそなえ、少し忙しかったもので遅れてしまいました(LoLのアカウントなんぞを隠しながら)。

 多分あと二つ三つでケリがつくと思います。今暫し、狂人達の物語にお付き合い願えれば幸いにございます。
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