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青年と犬と、もう一人 作者:Schuld
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青年と女

Twitterでも誤字報告貰ったので、ここで一応謝辞を。ありがとうございました
 鈍い金属が噛み合う音が響く。それにあわせて、髪の束が地面に散らばった。

 音は連続し、その度に髪の毛が舞う。そして、時折男の苦しそうな声が鋏の金属質な音に重なる。

 「……すまん、痛かったか?」

 鋏を手にしエプロンを身に着けた長躯の女が、申し訳なさそうに空いた手で後頭部を掻く。対し、小学校の古風な椅子に座って髪を切られていた矮躯の青年は、いたく不機嫌そうに顔を歪めた。

 「やっぱり、普通の鋏じゃ無理があるんですよ」

 青年は些か長くなった前髪を忌々しげにつまみ上げつつ吐き捨てる。目の下にかかる程度に伸びた髪は、短く小奇麗に整えるのを常としていた彼にとって不快な長さに至っていた。

 「とはいえなぁ、梳き鋏を外に行って取ってきてくれとも言えんだろ」

 適当な布を巻き付けて、てるてる坊主のような有様になった青年の後背に立つ女は、その手に握りしめた子供向けの安全はさみを見てため息を零す。工作で折り紙を切るには事足りても、人の髪を切り落とすには役者が不足しているようであった。

 「髪切ってやるっていうから任せてみれば……」

 「なんだよ、お前だって、じゃあ頼みますっていったじゃないか!」

 二人が鋏のことで曇天の下に諍いをしているのは、単純に青年の髪の毛が伸びたからだ。新歓期間から梅雨に突入するまでの期間は、人の髪の毛が伸びるには十分すぎる期間であった。

 髪の毛を束ねたりバレッタなどで止める習慣の無い男性が快適に過ごそうと思えば、当然髪の毛を切るしか無い。

 似たような光景が、自衛隊からの配給で風呂に入った後の各家庭で繰り広げられていた。床屋に行けないのなら、自分たちで切りそろえるしかないのだから、それは自然な流れであった。

 だが、一体小学校の何処に髪の毛を切るための鋏なんぞがあるだろうか?

 当然、鋏は文房具なので沢山ありはしたが、殆どは事務用か工作用だ。髪の毛は油分を含み、束ねると中々に強度があって普通の鋏できちんと切り落とすことは難しい。ともすれば、切っているのか引きちぎっているのか怪しいことになるだろう。

 そして、女性陣の切ってやる、という言葉を信じて酷い目に遭わされた男性の一人に青年も肩を並べたのである。

 「もうちょっと何とかならんのですか?」

 引っ張られて痛む頭皮を庇う青年が見やる女は、自分は元々長いから、とか言って余裕そうに髪の毛を頭の高い位置で束ねていた。髪を切られているのは男性ばかりだ。

 「いやー……機械油でも塗ればマシになるか?」

 「バリカンじゃあるまいし……いや、もういっそ丸坊主の方がいくらかマシですよ」

 心底嫌そうに前に向き直り、再び頭が女の手に委ねられる。一度に切る束の量を減らし、どうにかこうにか与える痛みを減らそうと努力が凝らされるも……。

 痛みを堪えるような声は消えず、努力が実ってはいないようだった。

 半時間以上の悪戦苦闘の末、耐えられなくは無いが決して快くは無い痛みを対価とし、青年は短く整った髪を手に入れた。ただ、その対価が結果に見合っているかと言えば、鏡を見る当人の渋面から明らかだが。

 「まぁ、なんだ、その、悪い」

 専門家でもなかろうに割と小器用に整えた女だが、これはもう謝る以外の選択肢は用意されていない。我が身において考えたなら、確かに激怒したに違いないだろうから。

 むしろ、悪罵も打擲も試みぬ青年は、どちらかと言えば心が広い方だろう。いや、女自身が自分の器用さに救われたというべきか?

 これで酷い虎刈りにでもなっていたら、さしもの青年も渋面を浮かべる程度では済まさなかっただろう。実際、痛めつけられた上で酷い髪型にされた、という悲劇を発端とした諍いも幾らか起こっていたようだ。

 されど、自衛隊員に何故髪の毛を整える備品を揃えなかった、とは誰も言わない。彼らは彼らで必死に物資を集めたり、防衛線の構築に勤しんでおり、全力を尽くしていないわけでは無かったからだ。

 文句の一つも言いたくはなるが、流石に誰もが状況を理解し始めていた。

 一月以上が経ったというのに、自衛隊の増員は来ず、医療班が派遣されてくることもなければ、飛行機すら上空を飛んでいない。

 低空で救助のために進入してくるであろうヘリはおろか、高空を飛ぶはずの旅客機すら居ないのだ。関西に住んでいるなら、誰でも聞き覚えのあるジェットエンジンの重低音を何週間も聞いていなかった。

 伊丹空港や関西空港など、空の玄関口が密集していて国内便、海外便問わず多数の航空機が行き交っていた地域にしては、異常なことだ。

 誰しもが、安全を確保されているだけで自分たちは恵まれているのでは? と察し始める。飛行機を飛ばす余裕があるところが、何処にも無いのだと分かり始めたのだから。

 そんな有様にも関わらず、一応のところで衣食住を確保している彼らに梳き鋏の一つも持ってこられないのか、と罵倒できるほど面の皮が厚い者は居なかった。

 精々、あると今後の衛生管理に便利なのでお願いします、と小声で頼む程度だろう。それほど、状況が良くないことを皆が察し始めていたのだ。

 余計なことを言ったり、体制に文句を言えるのは元気と余裕がある内だ。好き勝手を言えるのは安全な所に居る時だけで、自分の命が危機にさらされた時、普通の人間に出来るのは縮こまることだけである。

 それに、自衛隊を制御できる上の不在が一抹の不安を抱かせた。もし、彼らに追放された時、自分はどうなるのか? と。

 今のところ、迷惑をかけたからと追放されたり重い罰則をかけられた者は居ない。精々、罰掃除を命じられる程度で、ギリギリ平和な空気を維持することは出来ていた。

 しかし、ストッパーが居なくなり、必要に駆られたらどうなるか。少なくとも、他の生存に不要どころか重荷になると見られたなら、追放を言い渡される可能性はある。

 泣き落としが通じるような状況ではないし、周囲も自分の生存で必死だ。銃殺まで話が大きくなればまだしも、追放刑くらいならば受け入れもするだろう。自分が生き延びるために損にはならぬとして。

 表向きには平穏を維持しながら、裏では着々と空気が緊張していく。もう、危難は一部の聡い者だけが知ることではなくなっていた。

 それに、幾ら鈍い人間でも一日の発砲数が三桁に届けば、流石にことの拙さに気づくだろう。事実、昼夜問わず防壁の近辺はパンパカと賑やかだ。これを聞き逃すのは、それこそ聾唖でもなければありえないことだ。

 今は転換期と言えよう。事態の対処方針ががらりと変わりうる、大事な時期だ。そして、それだけに全員が大きな仕事に挑むこともあり、注意が薄れる。

 恐らく、何かあるのであれば直近であろうと二人は察していた。だから、今のうちにできる限り準備を進めようと努力している。

 その努力の一つが、身軽になって弱点を減らそうとしての断髪だ。結果的には成功したが、課程が酷かったので成功と呼んで良いかは大いに疑問が残ることになったが。

 「……首が痒い。これだから髪の毛切った後はいやなんですよね」

 鬱陶しそうに残った髪の毛を払いのけながら、青年は髪の切れっ端がついて違和感を伝えてくる首を掻いた。どれだけ気を遣っても髪の毛が入り込み、奇妙な痒さに悩まされるのは避けられぬ宿命だ。

 髪を伸ばした鬱陶しさに悩むか、首筋の痒みに悩まされるか。どちらかに甘んじるしかないのである。

 「弱点残しておくよりはいいだろ? 髪の毛引っ張られると痛いしな」

 髪の毛は人体の鍛えられない弱点の一つだ。大の大人でも全力で髪を引っ張られれば、痛くて力が抜ける。小兵が大きな目標を無力化するための弱点として数え上げられるほど、頭髪は人間に耐えがたい痛みを伝える部位なのだ。

 「そういうなら、丸坊主でもよかった気はするんですが」

 そんなことをいう青年に、女は目を見開いて反論した。

 「丸坊主は私の好みじゃない」

 と、普通の女子大生のようなことをのたまう女に彼が見せた反応は、渋面を通り越して憮然として見せることであった。台詞を書き加えるのであれば、お前は何を言っているのだ、という具合だろう。

 「……なんだその面は。私だって立派なJDだぞ、じぇーでぃー。相方の容姿を気にしたって良いだろ」

 「はぁ……」

 「というか、お前のそのシャツとベストの格好で坊主が似合うか! シュールでしょうが無いぞ!!」

 確かに、青年は今まで通り黒いスラックスと日によってグラデーションは変わるが大抵黒いシャツを着込み、その上にベストを羽織っている。丸坊主が似合う服飾ではない。

 「今更服飾に気ぃ使っても仕方が無いと思うんですがね……」

 「馬鹿だな、相方の気分が良くなると考えろ。値千金だろ」

 女は例え胡乱な目で見られようと、態度を改めることはなかった。別に秀でた見た目だとは言わないが、お前の面は割と気に入っているのだ、と言って青年の仏頂面を弄くり始める。

 慣れたもので、手を払うために振るわれた一撃を女は受けること無く、素早いバックステップで躱した。そして、更に素早く一歩前に出て頬を引っ張る。

 ここで初めて、仏頂面にひびが入った。不機嫌そうだったり憮然として、軽く動きはしたが大きく表情を作ることの無かった表情筋が律動する。

 浮かんだのは明らかな怒りの表情であった。

 そして、何しやがるこのアマ、と言わんばかりに反撃に入るのだ。

 頭の悪い主と、その連れを見やり、髪を切っている間大人しくしていたカノンはテントの脇で大きく欠伸した…………。












 この狭い避難所で人が独りになる時間というのは、実は少ないように見えて多い。

 梅雨に入って雨が多く、その間はテントに籠もりがちな日々が続いたとしても、一日中テントで腐っている訳にもいかないからだ。

 雨の日は労役が休みなのもあり、大抵の面々は暇を潰して校舎内を徘徊することが増える。本校舎の方は自衛隊が使っているので無許可で立ち入れないのだが、東館やら分館などと呼ばれる体育館と特別教室がある区画は、一般避難者に開放されているのだ。

 そして、その区画には図書館もある。青年は、雨が降ると図書館で本を読んで時間を潰すことが多く、対して女は別の空き教室を用いて作られた談話室で過ごすことを選んだ。

 青年は単に読書がしたかったからであり、女は情報収集をかねてだ。青年が楽をしているように思えるが、彼は彼で小学校の割に豊富な蔵書からサバイバルマニュアルなどを引っ張り出し、今後に役立ちそうな情報を探しては筆記しているので仕事をしていないわけではない。

 要は適材適所なのだ。

 人と直ぐに打ち解けることが出来る女は、談話室で色々と雑談したり簡単なゲームに興じて人々の意見を集める。周りがどう思っているかを集めるのも、現状認識には必要な確認作業なのだ。

 そういうこともあり、二人が別行動を取ることは少なくなかった。その日も同様で、青年は一人で本の虫となり図書室の一角を占有する。

 一方で、女は談話室ではなく、体育館裏にあるスペースで雨樋からこぼれ落ちる雨水をぼぅと惚けたように眺めながら一服していた。

 談話室で子供達がゲームを始め、騒がしくなって大人達がそそくさと逃げ出したからだ。緊急避難すると親に急かされても、リュックサックに携帯ゲーム機を忍ばせるあたり、流石現代の子供達であった。

 如何にコミュニケーション能力に優れる女であっても、ゲームで盛り上がる子供達の中には混ざっていけない。昨今は、もう子供の頃からゲームが身近にあった世代が大学生になっているので多少なりともゲームをいじることはあっても、あの熱気にはついていけないのだ。

 何それを使うのは狡いだとか、今何やったの教えて教えて、などと動作一つ一つに本気になれる集中力と熱意。大人になるにつれて喪われて久しいものだ。

 あの空気には、大抵の大人は耐えられない。当てられて、しんどくなってしまうだろう。女もその例外ではなかった。

 ぷかりとバニラ香が燻る煙が吐き出された。消耗した精神を慰めるのには、これが一番だからだ。相方からの受けは頗る悪いが、ノルアドレナリンと軽い酸欠の慰撫は、本当に蠱惑的で心が落ち着くものなのだ。

 脳髄をニコチンに浸し、化学反応の慰めを堪能しつつ、女は緩く思考を回した。独りだからこそできる思考を。

 ノルアドレナリンの鎮静作用によって濁った脳裏に思い浮かぶのは、葬儀の参列者というよりも棺桶に収められている方がいくらか似合う後輩のことであった。

 アレが自分の同種であることを悟ったのは、何時のことだっただろうか。

 最初は単なる無口で無愛想だが、今時にしてはしっかりした奴だと思った。だが、普通に先輩後輩としてつきあっていき、たまに指導なんぞしていく内に感じるものがあったのだ。

 最初は分からずとも、ラジオのチャンネルが合うように、少しずつ分かっていった。あの無愛想な後輩が、どこか普通とは違うことが。

 何気ない仕草だが、あの青年は集団の後方に居ることが多い。何かを頼むにしても一番には口にしないし、相手も選ぶ。大勢で何かを食べる時も、大抵は誰かと同じ物を頼んだ上で、口に入れるのは間を開けてからだ。

 よく見なければ分からない、個人の習性とでも呼ぶべき癖。その一つ一つが、観察している間に全て自己保全に通じているものだと気がついた。

 立ち位置は、常に安全で身代わりになる物がある場所。頼み事は人から恨みを買わないよう慎重を期し、誰かから遅れて物を食べるのは毒味をさせているのだろう。

 作ったり選んで取った行動ではない。自然に出た行動であることは、さりげなさから明白だ。少なくとも、自分のように気を付けて見なければ全く気付けさえしないだろう。

 それが自然に身につくのは、一体どれほどの業がなせることなのか。生の可能性を可能な限り追求する、貪欲なまでな自己保全性。何処までに利己的であれば、ああいった行動が自然に出るのか。

 普通に考えれば、おぞましい行動と言えよう。無自覚に他人を利用してまで自分が生きようとする意思が、常日頃から動作に滲んでいるのだ。世間一般では普通とされる倫理観、利他的であることが是とされる価値観の持ち主には、酷く薄気味悪く映ることだろう。

 平和な日本で死する可能性を、そこまで案ずるのはある種異常だ。初めて死を目にした子供ならまだしも、現実を知ったいい大人がとる態度では無い。

 しかし、女は普通では無かった。良くも悪くも。そして、その気持ちがよく分かったのだ。死に異様なまでに頓着してしまう、その気持ちが。

 女は自分が、他とは違うと認識していた。だから、青年のおかしな行動に気付けたのだ。

 自分もまた、同類であるが故に。

 あの夕日で染まった屋上で、あの日問おうと思った。自分たちのモラトリアムが暮れるその前に、時間が無くなってしまうその前に。

 でも、問いきれなかった。答えを聞くことが出来なかった。

 そして、今になった。

 死体が歩くようになって文明が終わり、あの後輩と二人で生き延びた。分かれてしまい、永遠に答えが見いだせないよりは良いが、中々にもどかしくもある。

 「……同病相哀れむは、あの犬よりも私自身への言葉だったかな?」

 知らずの内に短くなった煙草を女は雨の中に投げ捨て、勿体ないなと呟いた。ぼんやりと考え事をしていたせいで、あまり吸わないうちに燃え尽きてしまったようだ。

 新しい煙草を引っ張り出して咥え、ポケットからライターを取り出す。胡蝶がレーザー刻印されたオイルライター。随分と使い込んで色あせ、良い具合に渋い色合いになった品だ。

 そういえば、これは誕生日にもらった物だったな、と蓋を弾く小気味よい音を聞いて思い出した。サークルの面々が気を利かし、誕生日会を企画してくれたのだ。

 そして、その集まりで後輩はこれをくれた。百円ライターばっかりじゃ何なので。そんなことを言っていた気がする。

 その時はたしか、まだ異常性を察していなかった時期だろうか。連名で何か買うのでは無く、個々人で贈るとは面倒なことを頑張っているなとしか思わなかったが。

 いざ使ってみると、割と手に馴染んで手放せなくなった。それから、これは宝物というよりも、愛煙家である女の体の延長線に等しい物になった。今では懐に入っていなければ、違和感を感じるほどだ。

 しかし、ライターはフリントを回しても盛大に火花を散らすだけで火を生み出しはしなかった。普段ならオイルが染み込んだ軸に、優しい炎が灯るはずなのだが。

 数度回しても、機嫌でも損ねたようにフリントは空回りするだけであった。

 オイル切れか、と女が舌打ちを零そうとした時、横合いから手がすっと伸びてくる。

 体が驚きで軽く跳ねた。気配を感じていなかった、というよりも考え事に没頭しすぎて気配を察知することすら出来ていなかったらしい。

 これが外なら、死体に齧り付かれて終わっていたか、狼藉を働かれていたところだろう。

 だが、飛び出してきた手は腐敗しておらず綺麗な皮膚が張っていたし、長く綺麗な手指に保持されているのは武器でもなくありふれたターボライターであった。

 「どうぞ?」

 腕の先を見やれば、甘いマスクの男が立っていた。いつも配給を持ってくる、校内で良からぬことを考えている面々の一人だ。

 「……ああ、すまない」

 内心で無様だな、と自嘲しながら女は煙草に火を灯した。少なくとも、驚いて体を跳ねさせるのでは無く、何かしらの反撃をするべきだったのに。

 明確な殺意を以て襲いかかってくる敵でなかったから良かったものの、これでは先が思いやられた。学校から脱出するにせよ、今以上の危険が伴うというのに。

 不甲斐なさに頭を掻き毟りたくなる衝動に駆られたが、女は不自然な挙動を見せるのは良くないと考えて自制する。ただ、その代わりに少しだけ強くフィルターを門歯で噛み締めた。

 苦々しげな気分で吸うと、煙草の味もよいものではなくなってしまうらしい。普段より些か辛みといがらっぽさを増した煙を干して、女は笑みを少しだけ歪めた。

 「ボウッとしてたようですけど、何かあったんですか?」

 美女が雨を見て思索に耽る様は、随分と様になっていましたが。男はそんな、普通なら歯が浮きそうな台詞を口にしながら女にコーヒーの缶を差し出した。

 女は女で笑みを整えながら、ずっと見てたとか気色悪いな、と考えていることをおくびにも出さずコーヒーを受け取る。あまり見られたくない所を見られたこともあり、あまり良い気分ではなかった。

 それと共に、少しだけ安心する。内容に触れてこない辺り、自分が知らずの内に零した独り言は聞こえていなかったようだ。口の中だけで響かせるような声だったのが幸いしたか。

 恐らく何かしらの手段で銀蠅してきたであろうコーヒーを女は遠慮無くあおった。温いが、今はカフェインと苦みで頭をしゃっきりさせておきたかった。

 思索に耽る余り、些か腑抜けていた。今ここは自分たちの感覚で適地に近く、一瞬であっても気など抜いてはならないというのに。

 苦みばかりが目立つコーヒーを舐め、更に煙草を一口吸った後で、女は男に微笑みかけて話の続きを促した。わざわざこんな所まで来て、人の考察に水を差したのだから相応の用事があるのだろう? と。

 笑みに込められた皮肉に気づいてか気づかずか、男は蕩けるような微笑を浮かべながら女の顔に自らの顔を寄せた。耳に形の良い唇を近づけ、何事か囁こうとしている。

 少し馴れ馴れしすぎる行為だが、世の女性は眉目が整ってさえいれば多少の無礼は容れる傾向にある。女はそうではなかったが、それでも公然とする話題でないことだけは確かなので、黙って受け入れた。

 流石に相談事でなく、色事の類いを呟かれたら対応は違っただろうが。だが、彼が吹き込んだ内容は、そんな色っぽいものではなかった。

 囁かれた当人にしか聞こえぬであろう声量で、何事かが女の頭に流し込まれる。思考は血流に乗る毒もかくやの勢いで脳髄を拡販し、女の思考は一瞬だけ完全に停止した。

 数秒の後、女は熱い物にでも触れたように男から身を離し、目を見開いた。その表情は、今の話は本当か? と疑問を投げかけると言うより、正気か? と驚愕しているように思える。

 男は何も言わず、ただ微笑んで唇の前に人差し指を持って行く。それから、女の肩に自分の手を回した。

 生ぬるい体温が、じわりと体に染み込んでいく。ただ、無遠慮に踏み込んでくる他人の熱を余所に、女の脳内を巡るのは打算的な思考だ。

 脳が情報を咀嚼し、整理し、理解していく。それにつれて、脳細胞はきわめてシンプルな回答をはじき出した。狂ってはいるが、これは極めて合理的だと。

 先ほどまで脳裏の大半を占めていた、後輩の顔が浮かんだ。それは、特別な表情でも何でも無く、見慣れた仏頂面を貼り付けた、いつも通りの表情。

 そして女は悟る。ああ、やはり彼奴と私は似ているが、違うのだと。

 女は無遠慮に押し込んでくる熱をはねのけることはせず、瞑目して力を抜いた…………。












数日後、雨は降り止むことを知らぬという勢いで降り続けていた。

 雲の向こうからささやかながら明かりを投げかけてくれた太陽は失せ、校庭には薄明かりを覗かせるテントの群れが空しく連なる。

 その中で、青年と女は珍しく離れて寝転がっていた。どういうことが、普段は必要以上の接触を試みる女が進んで離れた所に陣取ったのだ。

 カノンはテントの中に居ない。女がたまには足を伸ばして寝たいと主張し、校舎の中に追いやられているのだ。今頃、他の犬たちと同じ教室の一角に押し込められ、同種同士で暖め合っていることだろう。

 しかし、平素と同じ鉄面皮を造りながら、青年は確かな違和感に炙られていた。態度にして露骨に示すことは無いが、女の挙動がおかしい。

 笑みは普段と変わらず、何が楽しいのか分からないがきっちり貼り付けられているし、身体的接触が少ない以外に目立ったことはない。いつも通り、そう言い切っていい程度の変化であった。

 カノンをテントから追い出したり、離れた所で寝転がっているのは心境の変化だとか気まぐれで十分片付けられる。

 だのに、青年にはどうしても違和感を感じざるを得なかった。

 自分だから感じられる違和感というべきか、何処か感じる余所余所しさ。腹に何か抱えている、そんな雰囲気を感じられたのだ。

 とはいえ、それを口に出して聞きだそうという気分にもなれない。女が妙な目でこちらを見ながら、何か言いかけては止めるのを繰り返すことは、今までも幾らかったからだ。

 言おうか迷っていることを無理に聞きだそうとすれば、かえって引っ込んでしまうのが人の性。青年は無理に聞きだそうとは思わなかった。

 別に急いで関係を整えばならぬ間柄でもないし、女にも思う所はあるのだろう。その程度に考えていた。

 にもかかわらず、背筋に感じる奇妙な違和感は何であろうか。

 いっそ、問うてみるべきか? と考えを曲げかけた青年であったが、思考は女の声によって打ち切られた。

 「随分とパンパカ賑やかだな」

 激しくテントに木霊する雨音と時折響く雷轟に混じって、銃声が響いていた。間断なくというほどでは無いが、散発的とは言えぬ続きよう。少なくとも、一分間に十数から数十発は確実に消費されているであろうペースで聞こえてくる。

 「そうですね……雨で感覚を刺激されて、這い出してきてるんじゃないですかね」

 校門の方に目をやり、銃声に耳を澄ましながら青年は思考を切り替えた。

 死体には負の走光性があり、光からは逃げる傾向がある。昼間は物陰か家屋の中で大人しくしており、直近に食べる対象でもやってこない限りは大人しくしている。

 だが、光が弱いと這い出してくることが梅雨になってから分かった。雨が降って雲が分厚く垂れ下がり、昼間でも薄暗い時に死体は活動を始めるのだ。夕方頃から活発に動き始めるから分かってはいたのだが、昼間の太陽ほど光源が強くなければ彼らの行動を妨げるには及ばないらしい。

 そして、雨の音に翻弄されながらも本能に従って人間が居る方向へと寄ってくる。多少効率が悪くなるが、行動時間が延びるわけだ。

 これが何を意味するかというと、包囲される速度が上がるのだ。活動時間が延びれば移動距離が増えるのは道理であり、死体が緩やかな包囲を縮める速度が速まっていく。

 今では一日で三桁以上の発砲は当たり前、酷い時は重機関銃が金切り声を上げることすらあった。その上、微かに晴れ間が覗いても、避難民にバリケード付近での労役が言い渡されることもない。

 それ程に死体が寄り集まる最外縁が、ホットゾーンと化しているのだろう。遠ざけ、見せようとしないことが返って雄弁に事態の悪化を教えていた。

 そして、擲弾の爆轟が初めてテントを揺らしたのは、一昨日のことである。

 面制圧兵器を持ち出さねばならぬほど、死体は増えているようだ。そして、自衛隊はなりふり構わず漸減に努め始めている。どうやら、思ったほど最外縁の防御は捗っていないらしい。

 これは想定よりも早く避難所生活が破綻しそうだと青年が考えていると、不意に紙が破ける音が響いた。

 何事かと思って見やれば、女がノートの頁を破いていた。

 「何してるんです?」

 「ちょっとな。生活の確認マニュアルなんぞを認めて見たわけだよ後輩」

 問うてみれば、女は自慢げにありふれた大学ノートを掲げてみせる。青みがかったありふれた表紙には、ポストアポカリプスの歩き方、などと大それた表題が書き付けてあった。

 「思いついたアイデアを書き留めておくのは大事だろう? 覚えているつもりで、割と人間の頭はいろいろなことを忘れがちだからな」

 はぁ、と気抜けした返事をしていると、女は頁を一つ見せつけてくる。丁寧な字と、妙に味のあるイラストを用いた図解で、一体どの層に向けて作ったのか謎の解説が記してあった。

 「死体誘導理論、ですか」

 章題を読み上げると、女は誇るように豊かな胸を突き出した。そして、鼻を自慢げに鳴らして解説を始めるのだ。

 「アレは至近の感覚を音感に大きく依存しているであろうことは、今までの経験で十分分かった。その習性を利用してやれば、容易に誘導して戦闘を避けることが可能だと分かったのだよ」

 さも大発見をした、と言いたげな風情だが、青年は何を今更という顔をする。今までも、音を使って死体を誘導したことはあったからだ。

 女が外でバケツやら道路標識やらを殴りつけてハーメルンの笛吹きよろしく死体を遠方に引きつけて、青年が室内を探索することは今まで何度もやっているし、死体の一段を青年が大きな音を立てて誘引している間に、女が無防備な後背から襲いかかって撃滅したこともあった。

 いわば、使い古した手法、というやつだ。

 しかし、よくよく読んでみれば丁寧な字で書き付けられた内容は、青年をして中々画期的だと思う手法である。

 「キッチンタイマーや目覚まし時計による退路構築……へぇ」

 素直に感嘆の声が出た。青年は、さっさと漁ってさっさと逃げればいいと思っていたので、基本方針は早め早めの行動で退路がふさがる前に離脱することとしていた。

 実際、一人や二人が抱えられる物資をかき集める時間などごく短時間であり、早々に逃げることが出来ていた。

 大型店舗であろうと、ほしい物を決め撃ちして置いてある場所へ駆け、浚うように回収して離脱すれば不便は無かったからだ。

 しかし、女は新たに退路を用意しながらじっくり探索する方法を模索していたようだ。

 時間差で鳴る目覚まし時計は、予定時間がくれば折り目正しく鳴り始める。最近では、大音量を売りにしてアパートなら隣近所に叱られそうなほどにやかましい物もあるときていれば、誘因には大いに役立つであろう。

 それが予測していた時間にあらかじめ決めた場所で鳴り響けば、死体は時計に引き寄せられて空白地帯が生まれる。それによって退路を生み出すという寸法であった。

 女が探索に時間をかけられるようにと考えたのは、今後医薬品や軍需物資を求めて構造も分からなければ、簡単に物資も持ち出せない場所に足を運ぶことを想定してのことだ。

 病院の薬品倉庫は分散されているし、施錠もしっかりしている。自衛隊の駐屯地などなら、例え隊員が全滅していたとしてもセキュリティの頑丈さは健在だろう。少なくとも、武器庫の扉は専用のドアブリーチャーであってもぶち破ることはできまい。

 となれば、魅力的な中身が詰まった缶詰を開けるための缶切りが必要になってくる。鍵を求めて施設を駆け回ったり、持っていそうな死体を探さねばならないのであれば、時間は幾らあっても足りないはずだ。

 探索の安全度を上げ、時間を稼ぐ手段は確かに有用であった。青年は頷き、女は満足げにノートを閉じる。

 「音の大きさなら、防犯ベルの方が大きいし、直ぐに使う囮ならキッチンタイマーよりよさそうですね」

 それから、一応自分の思いつきも伝えておいた。態々文章にして残すくらいなのだし、ネタは提供しても文句は言われまい。

 「おお、そうだな。それに、キッチンタイマーと違ってアレは頑丈な造りらしいし」

 女は嬉しそうに言って、ノートへの書き付けを増やしていく。

 確かにキッチンタイマーは音量もそこまで大きくないし、何より脆い。死体がふらふらと近づき、何かの拍子で踏みつければ壊れてしまうだろう。ともすれば、堅い地面に落ちた衝撃だけで壊れることもあろう。

 だが、防犯ベルなら壊して音を止められるのを防ぐために頑強に作ってあるし、音も注意を引くために相当大きい。直ぐに効果を発揮させたいのであれば、キッチンタイマーよりも有効であろう。

 欠点が一つあるとすれば、キッチンタイマーよりも手に入る機会と場所が少ないことか。とはいえ、こればかりは需要と供給の問題なので如何ともし難いが。

 「やはり、一人でネタを絞るより二人で絞った方が良いな。三人寄れば何とやら、には後一人足りないが」

 文章を書き付けている女の笑顔は、いつもより強まっていて喜色を前面に押し出していたが、やはり青年には違和感を禁じ得なかった。

 何かを隠している。そうとしか思えない。

 さっきは出鼻を挫かれたし、今度こそと思って青年は口を開いた。気になることを残したまま寝床に入ると、寝付きが悪そうだから。

 しかし、言葉を発することはまたもや出来なかった。外から浴びせかけられたライトの明かりで、青年の目が眩んだからだ。

 「もう消灯時間だ。明かりを消して寝なさい」

 二つ並んだ人影は、巡回の自衛隊員だろう。足音が雨でかき消されて、接近に気付けなかったらしい。

 腕時計を見やれば、確かに消灯の時間になっている。これ以降は寝る寝られないはさておき、明かりを消さなければならない。

 よい子は寝る時間なれど、大人はこれから、と言わんばかりに活発な行動を始める者も居るのだが、女が素直な返事を自衛隊員に返してランタンの明かりを消してしまった。

 唯一の光源が消え、外から差し込んでいたライトの明かりも遠ざかると雨雲で月明かりさえ差さない校庭は暗闇に沈む。遠間から差し込む都市の光さえ失せた今では、本当の闇が蟠るようにやってくるのだ。

 明かりに慣れた目には何も見えない。まるで、世界が墨で塗りつぶされたような一分の隙も無い闇だ。暗視スコープでもなければ、例え目の前に誰か居たとしても何も気付けないような暗さの中、隣で女がシュラフに潜り込む音だけが響いていた。

 「じゃあ、お休み後輩……またな」

 言うが早いか、女は早々に浅い寝息を立て始めた。実に寝入りが良いが、そういえば配給で貰ったとかいう酒の小さなボトルを煽っていたのを思い出した。

 強い酒精を入れていたから、寝ようと思えば直ぐに寝入れる土壌ができていたのだろうか。されど、この酒に強い女が、そんな大学入りたての無垢な乙女が如き様を晒すとは思えなかったが。

 「……おやすみなさい」

 小さく吐息して、青年もシュラフに潜り込む。聞きたいことはあったし、思う所はあれど難しく考えることもないかと諦めたのだ。

 確かに違和感を抱えたまま過ごすのは、あまり気持ちの良いことでは無いが、寝たい人間を叩き起こしてまで聞き出すほどでもない。

 それに、明日もあるのだ。幸いにも自分たちは、まだ生きていて明日を生きる特権がある。素晴らしい特権を持っているのだから、遠慮無くそれを行使させてもらうとしよう。この避難所が続くモラトリアムの間に解決さえすればよいのだから。

 シュラフに包まれ目を閉じたが、眠りは中々訪れてくれなかった。寒さに足を動かしながら抗い、今日は寒いなと感じ入る。

 そうか、今日はカノンも居なければ先輩も離れて寝ているからか。ふと、青年はそう気づいて、女が居るであろう闇の向こうに顔を向けた。

 普段なら、鬱陶しいくらい近づいてくる女が熱を分けてくれた。カノンが来てからは、熱を放つ大きな毛布が増えたも同然だから更にぬくかったのだが、それを一気に喪えば寒く感じるとは当然だろう。

 違和感と共に物足りなさを感じながらも、寝なければ仕方ないので青年は目を閉じた。前と違って、ライトの下で眠気がくるまで本を読んだり、暖かい牛乳を飲んで眠気を誘うことはできないのだ。

 なら、ただ目を閉じてじっとするしかない。そのうち、神経も静まって勝手に眠りに落ちるだろう。

 体温を少しでも下げないように体を小さく動かしていると、シュラフの中が少しずつ暖かくなり、次第に眠気が訪れた。

 微かな熱に浸りながら、青年は眠りに落ちる。そして、寝入る寸前に思った。

 「またな」

 女はそう言っていたが、一体何の意図があったのだろうかと。しかし、回答を得られるほど思考が回ることはなく、浮かんだ疑問もまどろみの中に溶けて消えた…………。











 闇に沈んだ校舎の一角。新月の夜よりも尚暗い物陰で、一つの陰がうごめいていた。

 暗闇で見つかりづらくするため、全身を黒で固めた者達。人数は一〇人ほどであろうか。厳重に姿を隠しているため、その全貌を窺い知ることはできない。

 そんな彼らは、息をかみ殺し、雨音に混ざる巡回の音に耳を欹てながら遊具の影に隠れていた。彼らは何のために、こんな遅く忍んで集まったのであろうか。

 ただ、彼らが担う物から、穏やかな集まりで無いことだけは確かであった。

 布を巻き付けた棒きれや鉄パイプに幾らかの刃物。そして、幾本も並べ立てられたビールの瓶が飲み込んでいるのは、口から伸びる新聞紙により酒精でないことは明らかにされている。

 「時間だな……全員集まったな」

 一人の背の高い影が、面々を見渡していった。

 「段取りを確認するぞ。まずは……」

 「待ってください」

 男の声に、若い男が割って入った。全員の視線が声の主に集中するも、彼は何事も無いように視線を受け止めて話し始める。

 「前々から言っていた、最後のメンバーの勧誘に成功しまして。もう直ぐ来ます」

 当然のように履き出される台詞に、話を切り出した男は不愉快そうに鼻を鳴らす。

 「そういう重大事は、もっと早くに言え」

 「すみません。でも、口説けたのはほんの少し前だったんで」

 謝罪の言葉は添えられているも、若い声の主は全く悪びれていないように思えた。しかし、慣れているのかその場の面々は呆れたように頭を振るか、嘆息するに留めて、それ以上何か言うことは無かった。

 多少の独断行動が許される程度には、彼が集団に貢献しているからだろう。事実、計画に必要な物資の殆どを揃えたのは彼であり、あまり大きく出られなかったのだ。

 「随分と堂々とした集まりだな」

 唐突に投げかけられた台詞に、彼らは火箸でも押しつけられたかのように反応した。早い段階で露見しては、計画が破綻してしまうのだから。

 ただ一人、甘い声の男だけが闖入者の姿を見ても驚いていなかった。歓迎するように腕を広げ、招き寄せる。

 そこに居たのは、黒いフード付きの雨具を目深に被った女であった。

 「ああ、待ってましたよ。しかし、凄いですね、足音が無かった」

 「側溝の上を歩いたら泥の音もしないだろう。ここはかみ合わせが良いから、上を歩いても静かなものだ」

 大したことではない。そういうように女は歩を進め、黒ずくめの構成員となった。

 「……まて、あんた。恋人はどうした?」

 事態をよく把握していないのか、一人が不思議そうに問うた。声から誰からは分かっていたのだが、この女性は常に一人の青年にべったりくっついたお熱いカップルだったはずだ。

 こういった企てに顔を出すのなら、セットで来るのが自然ではないだろうか?

 しかし、他の面々は大凡把握していたらしい。あの若い男が声をかけたのだから、本意が何処に向けられていたのかは明白であった。

 そして、女は自分が集まりに本気で加わったことを示すため、雨具の中から手を引き出して一つの物を示す。

 革の手袋に覆われた手が握る物は、一本のナイフ。されど、校庭は闇に沈んでいるし、彼らは隠密行動のために明かりをつけていないのでよく見えない。

 だが、次の瞬間、夜空に白い雷光が閃いて、全てが薄白くさらけ出される。

 数瞬遅れて届く轟音。その真下で女が担う刃は、人血でべったりと汚れていた…………。
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