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青年と犬と、もう一人 作者:Schuld
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番外編 青年と女と百万

遅ればせながら100万PV達成の記念番外編です。多分第一弾。

この番外編は悪ふざけだけでできています。
 硬質な何かが砕け散る音に次いで、濡れた何かが床にぶちまけられる音が響いた。西瓜玉を割ったような鈍い音は酷く耳障りで神経に障る。

 埃がうっすらと積もる、元は真っ白なリノリウムが腐った血液の黒に染まった。強引に割られた為に骨片や脳漿が飛散し、前衛芸術のような様相を呈する。しかして、マーブルに塗られた銀行の床に転がった死体を含めて芸術と呼ぶのは、些かシュルレアリズムの拡大解釈とも言えよう。

 「ちっ、期待はずれだな」

 見上げるような長身の女が、吐き捨てながら打ち倒された死体の足先を蹴って完全に動かない事を確かめる。動きに合わせて豊かに張り出した双峰が揺れるも、死体の頭を鉈でかち割った青年は興味がないのか視線は床を向いたままであった。

 全身を黒で覆った、葬儀の参列者を想像させる陰鬱な青年は鉈を強く振るい血糊を払う。されども、腐って粘度が高まった血液や脳髄は何度振っても落ちきらない。このままでは然程時間もかからない内に鉈は錆びて朽ち果てることであろう。

 「バリケード築いてあったから期待して入ったは良いですけども、予想が外れましたね」

 死体が着ていた服に鉈を擦り付け、少しでも汚れを削ごうとしつつ青年は言う。矮躯の彼でも扱いやすい長さの鉈は珍しいので、大切に使いたいからか、その手つきは酷く神経質だ。

 「ああ、単に金目当てで入って自滅か。くっそくだらんな」

 今度は本当に唾を吐き捨てながら女が答える。今、彼等が居るのは地方の銀行、その受付ホールだ。二〇体近くの死体が転がっているが、内何体かは死体として倒されてから相当の時間が経過していると思われる。

 恐らく、死体が溢れて文明が終焉を迎えた後に、未だ金が役に立つと信じた愚か者の一団が入り込んだはいいが、中に残っていた死体が多く返り討ちにあったという顛末だろう。想像するのが馬鹿らしくなるほど安っぽい展開であった。

 転がる死体の大半は朽ちているので、金目当ての銀行強盗もそれなりには抵抗したらしい。武運は拙く、努力は実らなかったが。

 「全く、今じゃこんなもの、焚き付けにしか使えんぞ阿呆臭い」

 金の詰まったボストンバックを蹴りつける女。しかし、大量の金が詰まって相当の重量がある鞄は重くて殆ど動かなかった。空いたままになっていた口から札束か何本か零れるが、かつての妄執が宿ったかの如く鞄は鎮座し続けていた。

 落ちた札束を拾い上げ、ふと女は考えた。とある有名世紀末漫画の台詞を引用すれば、尻を拭く紙にもならないが、使い道は割とあった。

 「おい、後輩」

 「何ですかせんぱぶっ!?」

 快音。電気ランタンの白々とした明かりに照らし出される銀行に甲高い音が高らかと鳴り響いた。いっそ心地良いまでの大きな打音は、振りかぶられた一〇〇万円の札束が青年の頬を打った音である。

 「何をするか……」

 表面的な痛みだけではなく、奥に響くような苦痛を刻まれた青年は身体を屈めながら打たれた右頬を庇う。それを見て、女は彼の頬を打った札束をひらつかせながらさも愉快そうに哄笑を上げる。

 「すまんすまん、実は一回やってみたかったんだよ」

 札束で相手の頬を張る、というのは成金が貧乏人を恫喝する時の古典的な手法だ。実際、日本銀行が発行する日本銀行券は良い紙を使っていて厚みがあり、尚かつ硬い。その分厚さは百万円で丁度1cmにして重量100gジャストである。よくしなり、ある程度の堅さもある紙の束でぶん殴られたなら、熟慮するまでもなく痛いのは明白である。

 まぁ、使い道とは何かを端的に言えば、こういうことだ。浪漫を一回満たしてみたかっただけである。

 眇めというよりも最早睨むという方が正しい視線で女を射貫いた青年は、ゆっくりとした動作で同じボストンバックから札束を引き抜いた。

 「おっ? やる気か? 受けて立つぞ?」

 ニヤニヤと笑いながら、札束をビラつかせ笑う女。しかし、一歩下がって青年の射程から外れることも忘れない。実に三〇cm近い身長差があるが故に、女が一歩離れると青年のリーチでは攻撃が届かないのである。されど、背に見合った女のリーチでは届くという寸法だ。

 確かに殴り合いでは青年に勝ち目は見当たらない。が、青年の動作は止まらない。札束を幾つも抜き出し、左手にセットしていく。小脇に抱えてバランスを取って保持する量は、数千万円分にも上ろうか。

 「お、おい、ちょっと待て、それは狡くな……」

 「問答無用」

 コンパクトな振りかぶりで青年は札束を投擲した。一纏まりになっているとはいえ、普通に投げたら空気抵抗で広がる札束をコントロールすべく、ご丁寧な事に縦方向での回転での投擲だ。強い回転を持った札束は鋭い軌道を以て女を襲う。その上、新札ばかりで角が立っているので命中した時の痛さはそれなりのものになるだろう。

 「おっ、おまっ!? 青年将校か何かかっ!?」

 「犬養毅に謝れっ!!」

 投擲は一度や二度では止まらない。直ぐにリロードが為され、身体を反らして回避する女に向かって投げつけられる。しかも、嫌らしい事に狙うのは避けづらい足下が多く、足下に気が集中したら顔面を狙う軌道に変わったりするので始末が悪い。

 尚、余談であるが、あの下りの問答は普通の話しの流れで出ただけであり、言葉の後に撃たれたのではないらしい。

 それはさておき、着弾の衝撃で帯が外れた札束が広がり、汚れた地面を埋めていく。時には倒れていた死体にも命中し、薄汚れた亡骸を金色かかった茶色で染める。死体にかけるには豪勢過ぎるシーツであった。

 「うおっ!? いたっ!? お、お前な! 顔は止めろ顔は!! 女の命だぞ!」

 知るか死ねとでも言わんばかりに女の抗議を無視して投げつけられる札束。抱えている札が無くなれば、しゃがみ込んでボストンバックから直に投げつけ始める有様だ。どうやら、理不尽に札束で打ち据えられた怒りは全く収まっていない様子であった。

 「あがっ!? ち、畜生調子に乗りやがって! 貴様後輩の分際で……おっ」

 数個纏めて散弾の如く投げつけられる顔面狙いの札束を腕でガードした女は、カウンターの上に良い物を見つけた。

 即座に札束を払った腕を翻し、取っ手を掴んで捧げ持つ。顔面の前に展開されたそれは、三個の札束を完璧にガードし、帯を粉砕して紙吹雪の如く霧散させた。

 「ふはは! そこまでだ馬鹿め! アタッシュケースシールドっ!!」

 高笑いしながら女が掲げた物は大きなアタッシュケースだった。銀色に光るスチールの外殻に、紙でしかない札束は無情に阻まれる。

 今まで少し楽しそうに持ち上がっていた青年の髀肉が落ちた。このままでは接近され、近接攻撃で逆襲を喰らうだろう。あの理不尽な女の事である、きっとこれにも札束が詰まっているからやりかえしても常識の範疇だ! 等と無茶苦茶な理屈を捏ねてアタッシュケースで殴られかねない。そうなれば、流石に死ぬだろう。

 このままではいかん、と思った青年がボストンバックを漁ると、硬い物が手に触れた。札束ではない何かだ。不思議に思って引っ張り出した物を見て、落ちた髀肉が再び上がる。梱包の一部を解いて掴み出し、今までと同じように振りかぶって投擲する。

 「完全勝利っ! 先輩に敵う後輩など、この世には存在しなっ……いったぁ!?」

 自信満々に盾を構えながら接近しつつあった女が痛みに声を上げる。庇いきれぬ長躯の下半身を襲ったのは白銀の打擲だ。

 甲高い音を立てながら床に転がる無数の金属片。俗に新五〇〇硬貨と呼ばれる、日本政府発行の公式貨幣であった。

 「てっめ! それ反則だろ! 普通に痛いわ!!」

 セロファンやビニールで一纏めにされた棒金をバラしてから、一掴みほど握って投げつける青年に女は怒気も露わにキレた。さもありなん、五〇〇円玉は割と大きく重量もあって尚かつ硬い。そんなものがある程度の加速度を以て激突したら痛いに決まっている。最早、お遊びの範疇を超えつつあった。

 「棒金のまま投げつけないのを慈悲と知れっ!!」

 こっちはこっちで収まりが付かないのは、普段の能面の如き無表情が嘘のように表情が歪んでいたことから明らかだ。しかし、表情の変化は怒りではない、口の端だけをつり上げる邪笑だ。

 何が気味が悪いかというと、口は嗤っているのに微塵も目は笑っていないことだ。普段通りの停滞して淀んだ溝川のような光を宿し平素の如く無表情を保っている。恐らく、どちらも意識しないままに為されているのだろう。

 「あだっ!? おま、マジ巫山戯んな! 痛いつっとるやろ!」

 逃げ惑う女の怒声が軽く語尾が上がる巻き舌の関西弁へとシフトする。普段は標準語で話す関西人でもキレる時に関西弁が出るのは珍しくも無い。やはり、心の制御が外れた時にこそ身体に馴染んだ反応が出る物だ。

 「んにゃろ、マジ殺す……腹に手ぇ突っこんで腸ぶっこぬいて……おっ?」

 盾の面積が狭すぎて役に立たなくなった女はカウンターを跳び越えて障害物の向こう側に避難する。着地する時、カウンターの向こう側で完全に機能を失っていた死体の頭部を踏み砕いてしまったが、死んで時間が経っていたせいか殆どミイラ化しており液体は零れなかった。

 「おっと失礼、えーと……お嬢さんでいいな」

 うっかりでブーツに踏み砕かれた死体は、服装から判断するに銀行の受付嬢だろう。これが動く死体だったら、ちょっとやばかったなと女は内心で冷や汗を掻いた。

 しかし、女が反応したのは死体よりも、死体の側に転がっていたボストンバッグだ。ホールに転がっていた物よりは中身は少ないものの、それには重量物が詰まっている。

 カウンターの上から曲射で降り注いでくる硬貨に絶えながらジッパーを開くと、思わず女は笑ってしまった。貸金庫がある銀行だからか、こんな物まであったのかと。

 青年が振り上げていた手を止める。棒金の残りが心許なくなっていたこともあるが、今まで喚いていた女がカウンターの向こうに行った途端静かになったからだ。何かが砕けるような乾いた音は聞こえたが、問題でも起こったのだろうか。

 もしや、向こう側に下半身がもげて這いずることしかできなくなった死体が居た? と考えて軽く焦る青年。しかし、その懸念は立ち上がった女の姿を認めたことで払拭されると共に……。

 「死ねゴラァッ!」

 凄まじい巻き舌の怒鳴り声と共に投擲されたものの回避行動に移ることでかき消された。

 「うわっ!?」

 驚きのあまり、素で声が漏れた。プロの速球とまではいかないが、草野球程度でならエースになれそうな速度で放られた物体が床の一部を砕いたからだ。

 美しい奇跡を描きながら飛び込んで床を砕き、最後にはランタンの明かりを受けて姿を晒した物体。明かりを反射して蠱惑的な光を放つそれを、人は金塊という。

 青年の顔から血の気がざっと引いた。ぶつかった衝撃で僅かに形を歪ませ、着弾した面が拉げて平らになった塊はロンドン金市場の適格品であると推定した場合一二.五kgもの重量を有している。

 「こっ、殺す気かっ!?」

 「良く分かったな! 死ねっ!!」

 カウンターの向こうから女が再び顔を出し、金塊を投げつけた。横っ飛びに転がって回避する青年、数秒前まで頭があった空間を一二.

五kgもの質量物が駆け抜けていき、延長線上にあったフレッシュな死体にぶつかって背骨をへし折った。避けねば、青年の骨もあの死体と同じ末路を辿るという良い見本となる。

 「き、貴様ぁ!!」

 「加速させたんはそっちやからな! 後悔しても遅いぞワレェ!!」

 思ったよりも口が悪い女。青年は軽くなったボストンバックを抱えて待機用の椅子に身を隠す。流石に何度も避けるのは無理だった。

 されど、青年とて退くつもりは無い。向こうががその気なら、こちらもその気だ。今度はばらさぬままに棒金を手に取った。投げやすい棒状なので、狙いは付けやすいはずだ。

 どちらも自棄になっていた。恐らく、手持ちの弾が尽きるか怒りが収まるまで止まる事は無いだろう。ただ、せめてもの弁護としては、互いに得物は使っていないので最低限の冷静さは保っていると言っておこう。

 十数分後、ふらりと人間の気配に惹かれてやって来た死体の顔面に一本の棒金と金塊が同時に突き刺さって頭が砕かれ、馬鹿をやるのに疲れた二人は自然停戦に入り、言葉も無く銀行を後にした。

 遺されたのは硬貨や金塊で彩られる無数の札束が作り出す絨毯だ。その下には多くの死体が埋められている。

 馬鹿騒ぎの残り香をかき消すように割れた窓から風が吹き込み、札束が舞った…………。
 執筆時間実に一時間と三〇分。試験勉強の現実逃避に作られた100万PV達成記念の番外編ですが、その実、割り込み投稿ではお気に入りに入れていても最新話投稿に反映されていないと教えて貰ったので焦ってやりました。間に合わせの上、下らないし普段の雰囲気ぶちこわしで申し訳無いです。多分、次からは最新話として普通の話しを投稿し、完結したら順番を整理します。

 二人ともキチガ●であることに違いはありませんが、気を抜いてたら大学生なので基本馬鹿です。頭悪いことも平気でやらかすかもしれません。最初は少女が子供達と一緒に万札で折り紙やる話を思い着いていたのですが、あの形状で何が折れるんだよ、とか100万の札束使わないから意味無いな、と思い返して止めました。誰か私にネタを下さい。

 一応、100万PV記念の第2弾とかのネタで見たい物があったら活動報告コメントにリクエストください。R-18ネタでも無い限りは考慮します。考慮するとはいったがやるとは断言しませんが。

 それでは、また次回の更新でお会いしましょう。
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