誤変換のちランデブー?
初投稿です。文章の構成がおかしいかもしれません。
職員が帰り、一人になった事務所で信子はパソコンに向かう。まだ日にちはあるが、今週中に来月分の帳票を仕上げなくてはならない。
「ええと、肉組合っと」
ポチポチとキーボードを打ち変換をかける。
液晶の表示は 憎く見合い
「いやいやいや、パソコンさんもっと頑張って!」
シフトキーで変換位置をずらし、正しい変換に直す。
「憎く、見合いってなんなの!憎いなら見合いなんてしないでしょうよ。なに、パソコンさんお疲れ?」
ぺちぺちとノートパソコンの縁を叩いてみる。
パソコン相手に独り言を言っている信子の方がよっぽどお疲れではあるのだが、事務所にはそれを突っ込んでくれる人間はいない。
「次はー、青果組合、ね」
打ち込んで同じように変換をかける。
液晶の表示は 性格見合い
「だから!なぜ!こうも!見合い見合いと!性格は大切だけども!」
ポチポチと修正をかけながら、キイ!と信子が半切れ状態なのには理由がある。
というのも、信子はアラサーという微妙な年頃なのである。周囲の友人たちは次々と結婚してゆき、早いものでは子どももいる。そして、実家の両親がまだかまだかと手をこまねき、こまねくだけでは飽き足らず見合いを進めてくるのだ。
「行かず後家上等だわ!」
父親に言われた一言を根に持っている。それはもう深く深く。
次は豆腐組合と打ち込み、変換をかける。
液晶の表示は 東福見合い
「な ん な の !」
信子の怒りは爆発した。その怒りのまま、ファイルを保存し、帰り支度を始める。全くやっていられない。期日までまだ日があるし帰ってしまおう。
「パソコンまで私に見合いを進めるのね!わかりましたとも、受けて立つわお見合い!」
何を隠そう、信子の名字は東福なのだ。今日のパソコンはとにかく癇にさわる。一体なんだというのだ。こんな日はお酒を買って家で飲もう。そう意気込んでいたところで、
「東福さん」
「ひいっ!なっ、さ、坂下さん!?帰ったんじゃ?」
突然声をかけられ飛び上がらんばかりに驚く。事務所の入り口には二つ上の先輩である坂下がクスクスと笑いながら立っていた。
「いやぁ、手帳を置き忘れて取りに来たんだ。ところで、東福さんお見合いするの?今思いっきり叫んでたけど?」
「へ?あ、いや、あの、本決まりではないんですが、母親からお見合いしてみないかとさんざん勧められていまして。私もこんな年になってしまったし、それもいいかと思いまして」
盛大な独り言を聞かれていたことを知り、信子はしどろもどろになりながらも答える。
「ふうん。じゃあお見合い、すぐにする訳じゃないんだね」
坂下はなにか思うことがあるような表情で返すが、いっぱいいっぱいの信子は気づかない。
「あ、はい、そうですね。今週末にでも実家に帰って母親に返事をしようかと」
「なるほど。東福さん、じゃあ、そのお見合い、受けるの少し待ってくれないかな?」
「え、じゃあ、とは?」
なにがどうしてじゃあ、という言葉が坂下から出てきたかが信子にはわからない。そうこうしているうちに坂下が畳み掛けるように話を進める。
「それはあとで話すよ。今はとりあえずご飯食べに行こう?予定ないでしょ?」
予定はある?とは聞かずないでしょ?とはずいぶん失礼な話だが、まだ話についていけていない信子はこくりとひとつ頷くだけだ。
あれよあれよと夕飯の予定を組まれ、気づけば手を繋いでいる。この現実をぼんやりと眺めている信子の横で、坂下が満足げに目を細めていたことを、信子は知らない。
力尽きました。完全見切り発車です。