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不機嫌先生と個人授業。
作:森本エリ



第10話


あの後、先生は明日の準備があるとかなんとかで、あたしを寝室に監禁した。

愛する人の汗とよだれが染みついているだろう寝具につつまれ、あたしは一人妄想タイムに突入。

あぁ、もう、超イイ匂い。愛しの殿方の匂いときたらたまらん。カ○バンのエタ○ティか?この匂いたまらなく好きなのよ。ちゃっかりエタ○ティウーマンとか買っちゃおうかなぁ〜!
……んんぅ。素敵。
あたしは枕に鼻の頭をこすりつけながら、悶える。性的衝動よりも、だんだんと眠気が強くなってくる。先生どこで寝るんだろう。
あ、やべ。鼻水ついてないわよね?

とっさに頭をあげて、枕の無事を確認。よし、オゲ!
目覚めたら隣に先生いたらどーしよ?!やだ!興奮して眠れない!!
暇だし、妄想より楽しいこと思いついちゃった!

家宅捜索!ひゃっほぃ!出てこい!ヤマシイもの!





……やっと静かになったと思いきや、また動きだしたな。あの野性動物。
寝室の方から物音がする。まぁ、いいか。別になにもないし。

三年三組 水澤 夏樹。

授業態度は問題ないと思っていたが、それ以外の問題児だ。
はっきりいって彼女は危ない。
言動はもちろん、あの行動力。その根源にある衝動。自分の欲求に対してあまりにも素直すぎる。

……がさがさうるせえな。
思考を中断し、重い腰をあげ、寝室に向かう。

その途端に音が止んだ。

夜行動物みたいだな。 笑いを噛み殺し、ゆっくり息を潜めてドアノブを回して部屋のなかをうかがうと、ダンゴ虫のように水澤は布団を被っている。

「バレバレなんだよ」

巨大なダンゴ虫が少し蠢いた。やべ、うける。解り易すぎる。
だいたい、自分の部屋の状態は把握済み。
本棚とCDストックがやや乱れている。

様子を見たが、頑なに動こうとしないダンゴ虫に見切りをつけ、ドアをしめた。

解りやすい反面、予測不可能な行動に何度、翻弄されたか。
事実、常軌を逸し、その衝動に飲まれてしまった。
28にもなって17、8の小娘にしてやられたわけだ。
腑甲斐ない。
自嘲しながらも、悪い気分ではないな。
どうやったらあんな面白い動物ができるんだろうか。

さて、どうしようか。


水澤は思春期特有の性病にかかっている。
興味本位による“ヤリタイ病”
別に悪いことではないが、彼女の場合は、アプローチが異常かもしれない。

ヤリ捨て対象となりやすく、愚か者と言われても仕方ない気もするが、俺は、一応、教師だし、生徒が道を誤らないように諭さなければならない。

……うわ。なんか自分がキモイ。猥褻行為を正当化する教師ってこんな事言ったりすんのかも。

―なんか嫌な感じだ。

水澤に関わった時点で、俺は道を踏み外したのかもしれない。

まいったな。

無視したところでアノ水澤が引き下がるわけないし、なにより、俺が水澤を無視できる自信がない。

机の上に放っていた、ソフトパッケージの煙草に、つい、手が伸びる。
何気なく振ると、中味はもうなくなっていた。
ストックは寝室にあったな。そういやもうすぐ値上げだな。まぁいいけど。

ドアを開けると、珍獣が俺のシャツに着替えていた。

「ぎゃあああぁぁぁ!!」

水澤は悲鳴をあげ、すごい勢いでベッドに避難する。

「うるさい。両隣はいないが俺に迷惑だ」

なにをしているんだろう。この珍獣は。
水澤は再び警戒したダンゴ虫のように布団に包まった。
しかし、頭隠してなんとやら、右足が逃げ遅れている。

なんだか俺ばかり翻弄されているのが癪なので、少しくらい嫌がらせをしよう。

ベッドに腰を降ろすと水澤が一瞬、硬直した気配が伝わってきた。

「水澤、」

呼びかけても、返事はない。

俺は水澤の右足首を掴んで足の裏を擽ってみた。
さすがにくすぐったいらしく水澤は足をばたつかせ、抵抗したが、息を潜めて笑いを押し殺し、布団から出てこようとしない。

まったく滑稽な生き物だ。
「……夏樹、」

悪戯を止めて、笑いをこらえながら呼ぶと、ダンゴ虫が少女に戻った。

水澤は最新鋭のおきあがりこぼしの様に信じられない速さで起き上がった。

「先生があたしの名前呼んだ!名字じゃなくて、下!」

なにがそんなに感動的なのか解らないが、水澤の頬は紅潮し、軽く興奮しているようで呼吸が浅く、早い。

「だから、何なんだ?お前の名前だろう」

名前を呼んだのがそんなに嬉しいのか。
まったく不思議な生き物だ。
水澤はニヤニヤと締まりのない顔をしている。

「先生があたしの名前呼んだ事があたしにとって特別なんです!」

水澤は得意げな顔をして、一人で舞い上がっている。そんなものなのか?

俺は横向きに体を倒し、頬杖をついて目を閉じた。
やはり、ベッドの上が一番おちつく。
深く息を吐くと、疲労感が傾れ込んできた。

こんなに感情を消耗した事はない。
28年間、自分のペースでやってこれた。
ずっとこんな調子だろうと漠然とながら思っていた。

しかし、水澤が彗星のごとく俺のパーソナルスペースに激突した。

こいつには生殖の基本を教えてやらなきゃな。
どっから説明すりゃいいんだろう。

そんなことを考えているうちに意識はフェードアウトしていった。












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