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告白
作:佐達砂羽


 いつからだっただろう。
 あいつが私のこと 菜子と呼ばなくなったのは。
 それに対抗するように、私があいつを祐也と呼ばなくなったのは。
 家を出るとき、向かいの家の自転車が気になるようになった。
 大樹が私に断ってからあいつを家によぶようになった。
 ただひとつ、はっきり覚えていることは自分の気持ちに気付いたあの時のこと。
 グラブ 逆光 ユニフォーム 土のにおい 野球部のよくわかんないかけ声
 中学3年だった。





 「あたし、最近変じゃない?」
 「‥‥菜子が変なのは昔っからだよ。そうだなあ、中3だったかな。球技大会の前ぐらい。」

 どうして 大樹はこう、人の感情に敏感なのだろう。
 どうして 知り得たことを口外せずに普通に接することができるのだろう。
 私にはどちらも到底まねのできないことだった。羨んだこともある。

 「菜子は気付くの遅いんだよなあ。」

 私が気付く前から大樹には分かっていたみたいな言い方だった。
 自分を理解してくれるひとがいるのは うれしい。
 だけど、今は悔しいのほうが少し大きいんだ。
 この気持ちに気付くのは、私が一番でありたかった。

 あいつは いつから私をすきだったんだろう。





 『だっておれ おまえのこと すきだもん。 結構ちっさい頃から。』

 『‥‥どうしたらいい?』


 真夏の太陽が 刺すように肌を焦がし、ほてった体はいっこうに冷めない。
 体中に血が送られる感じがどんどんリアルになって、波打つ鼓動のはやさと頭の回転速度は反比例していった。

 どうして、こんな状況になったんだっけ‥‥。

 どうしたらいい? なんて、私が聞きたい。
 自分がどうしたらいいとかどうしてほしいとかわかんない。考えられないんだ。
 目の前にしゃがみこんだあいつを見つめて、立っているのが精一杯なんだよ。

 あいつの背はいつのまにか私を追い抜いていたはず。
 顔をうずめてひざを抱え込む姿はとても小さい。
 火傷をしたように、耳だけが 赤い。
 ぽつり ぽつりとつむがれた声は、あいつの体にこもって漏れてきた。

 体がほてり続けるのは、夏の太陽のせいだけじゃないなんてことは 気付いてる。
 私の耳も きっと あいつみたいに真っ赤なんだ。



 「多賀ー!おっまえ ちょっと来い!」
 流れ続ける沈黙を破ってくれた。
 見上げた校舎の窓から、担任が叫んでいた。

 私はその声を合図に、逃げるようにして校舎へと駆け込んだ。
 先生の元に着くまで、速度は落ちなかった。むしろ上がっていった。

 教室のドアを開けると、冷房のきいた室内からひんやりとした空気があふれてきて私の体を包んだ。
 涼しい。
 先生は半ば飽きれながら、私にいろんな注意をした。
 冷房がきいているのに、私の体はなかなか普段の体温を取り戻すことができなかった。
 あの場から逃げる口実をつくってくれた先生に感謝したくても、響くのはあいつの声ばかりで。
 先生の声は右から左へと流れ続け、消えた。





 結局、眠れなかった。

 あいつの声がいつまでも響いて。


 『‥‥どうしたらいい?』



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