「待ってて」
そういって彼は去った。
「いつか戻ってくる」
そういって彼はいなくなった。
もう何年も待ち続けてる。
友達に言ったら、
「それって待ちぼうけじゃん!」
そう言われたけど、
それでも探すことなく私は待った。
彼の言葉を信じて。
ただ、待ち続けた。
手紙を――。
電話を――。
連絡を――。
彼自身を――!
でも…、
どんなに待っても、
電話の前で祈っても、
郵便受けの後ろで拝んでも、
彼からの連絡は何もなかった。
月日はゆっくり流れた。
彼と出会ってからはじめての、
彼のいない誕生日、クリスマス、初詣。
どれも我慢できた。
「戻ってくる」
って約束したから。
でも…、
いつからだろう。
待つことが出来なくなったのは。
いつからだろう。
待つということが苦しくなったのは。
いつからだろう。
「それって…振られたんじゃない?」
何年も聞き流すことが出来た友達の言葉が、
胸を指すようになったのは――。
いつからだろう。
「そんな奴のこと忘れて新しい恋しなよ!」
そういう友達の言葉に光を見るようになったのは――。
いつからだろう。
新しい恋をしてみようと思ったのは――。
でもそんな時、
必ず彼の顔が浮かぶ。
約束どおり帰ってきた彼が、
ショックを受けている姿が…。
(待ってて…っていったのに…)
そういいたそうに、
私を見つめる彼の顔が――。
そこでどうしてもまた思いとどまる。
「もうすぐだよ」
「もうすぐ彼は帰ってくる」
そう、自分に言い聞かせて――。
何の連絡もない彼を、
ただただ待っていた。
待つごとに疑う気持ちは生まれたけど、
彼の言葉だから、
好きな人の言葉だから、
信じることが出来た。
そう。
――あの時までは――…。
その日私はなんとなく、
彼とよく行った波止場へと歩を進めた。
今考えればあれは、
――予感――
だったのかもしれない。
よく夕日を見ていたその波止場に着いたとき、
私はもしかしたら幸せだったのかもしれない。
だって、
彼の姿を見たのだから。
偶然か、
必然か、
神様の悪戯か。
そこには彼がいた。
ずっと、何の連絡もなかった彼が――。
――見知らぬ女の人と共に――。
彼はびっくりしたんだろう。
私の顔を人目見て、後は瞳を合わせようとはしなかった。
そのことで、目の前のことが現実だと知った。
夢ではないのだと。
その時、私の中で何かが弾けて消えた。
「あぁ、そうだったんだ」
気づいたら口にしていた。
頭も感情もすんなりと、本当にすんなりと目の前の現実を受け入れた。
それと同時に湧き上がる、怒り。
女の人が憎いとは思わなかった。
感情の矛先は、信頼を裏切った彼にのみ向かった。
女の人の方はなんだかわからないのだろう。
きょとんとしていた。
「結局友達の言ってた通り、ただの待ちぼうけだったんだ」
言葉に毒があることには気づいたが、言い直そうとは思わなかった。
瞳はまだ私と瞳を合わせようとしない彼を刺すように見ていた。
「あんた何年?何年で乗り換えたの?人を待たせといて」
声音は静かだった。
何年も付き合っていた彼には、私がとても怒っていることに気づいているだろう。
感情を表にだす私が本当に怒った時にのみ、それがフッと切れることを知っているのだから。
「――ロクデナシ――」
私は呟くようにそういうと、踵を返した。
きっとこの場所にはもう来ないだろう。
彼と初めて会ったこの場所には…。
思い出がたくさんあるこの場所には…。
今になって涙が溢れる。
彼を疑う自分を戒めていた自分が許せなかった。
平気であの場所にいた彼が許せなかった。
後々振り返ってみると、私は彼を5年半もの間待ち続けていた。
私は今、恋をしている。
あんな男のことを引きずるなんて許せないから。
彼を思っていた時間は忘れようと思う。
あんな時間はなかったんだ、そう自分に言い聞かせた。
けれどどうしても、なかったことには出来ない部分があることも知っている。
あの男の裏切りから、どうしても信じられない。今の彼を信じることが出来ない。
いくら好きになっても――。
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