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持ち回り企画短編

異世界召喚俺TUEEE

作者:笑うヤカン
「ハハハハハハ!」

 哄笑とともに、俺は戦場へと躍り出た。
 乾いた土に覆われた荒野には生命を感じさせるものは一つとてなく、遥か地平を覆う黒い海は敵の姿だ。その数、ざっと百万。

 振り返り見れば俺の背中には果てしなく荒野が広がるのみで、右にも左にも影一つ無い。

 正真正銘、孤立無援。百万対一の戦い。

 だが俺は、いささかの恐怖も抱いてはいなかった。

「さて」

 ぐ、と足に力を込めて。

「行くか」

 発したはずのその言葉が耳に届くより(はや)く、俺は大地を駆けていた。
 彼方の黒い海があっという間に目前に迫り、それが槍と盾とを構えた異形の兵士どもであると知れる。

 辛うじて人型だと認識できるところから更に一歩踏み出せば、俺は彼らの瞳の色がわかる場所まで近づいていた。豚に似たもの、狼に似たもの、蜥蜴に似たもの、様々な連中が浮かべようとしているのは一様に驚愕と恐怖の表情。

 だがそれが形を成すよりも早く腕を振り上げれば、豪風が数百体の兵士達を大地ごと巻き上げて空に放った。

『行くか』

 それを見送り、どしゃどしゃと音を立てて赤黒い挽き肉(ミンチ)になったところで、ようやく俺がさっき放った言葉が耳まで届いた。

 轟音を立て、四足の生き物が四方から迫ってくる。馬に似てるが、馬じゃない。馬であるところの首の上には屈強な男の上半身が乗っていて、大きな槍を構えていた。
 それが数十ほども俺に向かって突撃してくる。一点に向かって走ったのでは俺を殺せても互いに激突するだろうに、それを歯牙にもかけないその様はまさに決死の突撃だ。

 だが。

「弱い」

 彼らはそんな心配の必要もなく、俺の右腕の一振りで弾け飛んだ。バラバラと散らばるその肉片の向こうに、俺は目を見張る。彼らの突撃は神風特攻ですらなく、ただの目眩まし。敵の狙いはその先にあった。

 動きを止めた俺に向かって降り注ぐ矢はまさに呑天の如し。これが雨なら土砂降りもいいところだ。圧倒的な質量を伴って落ちてくるそれを、俺は敢えて腕を広げて総身に受けた。

 鋭い切っ先を備えた矢が、重力加速度を伴って俺の身体に次々と当たる。しかしそれはほんの毛先ほどの傷をつけることすらなく、地に転がって折れていった。大きく見開いた眼球に当たったものさえ、力なく弾かれて落ちるだけだ。

 盛大な矢のシャワーが終わると、ずんと衝撃があった。体長三メートル程、見上げるように巨大な大鬼が、全体が金属で出来た槍で俺を突き刺していた。

 正確には、俺の纏った金属鎧を、か。槍は俺の皮膚を貫くことが出来ず、飴細工のようにぐにゃぐにゃに曲がっていた。こんな風に鉄の槍が曲がるってことは、相当の膂力を持っているのだろう。だがそれでも、俺には傷ひとつつかない。

「弱い」

 槍を握って持ち上げれば、大鬼の巨体がふわりと浮く。そのままぶんと振ると、勢いで曲がっていた槍がピンと伸び、大鬼は地平の彼方に吹っ飛んでいった。

「弱すぎる」

 俺がこの世界に召喚されてからと言うもの、苦戦どころか戦いになった相手すらいない。格闘技の経験どころか喧嘩一つしたことがない高校二年生に、異形の姿の化け物達が紙のように引き裂かれていくのだ。

 ゲームにしたって、全く面白くない。

「もっと強い奴は! いないのか!」

 声に答えるように、何本もの触手を持った山の様に巨大な蛸が地中から現れてその触腕で俺の四肢を絡めとる。そのまま乱杭歯が無数に生えたミキサーみたいな口に入れようとするが、少し腕を引けば触手はブチブチと千切れ、パンチ一発で蛸自体も身体のどまんなかに巨大な穴を開けて死んだ。

「脆い」

 背中でパチパチと鳴る音に振り向けば、ハチの羽のようなものを生やした女型の魔物が、空から射掛けてきていた。まるで何万匹もいるように見えるが、目を少し凝らせばただの残像が作った幻影であると知れる。無造作に宙を蹴れば、渦巻く大気に避ける間もなく引き裂かれてバラバラになった。

「遅い」

 途端、視界が真っ赤な炎に包まれる。着ている鋼の鎧が赤く輝いて、ぶくぶくと泡だった。鉄が泡立つってことは、数千度は出ている炎なんだろう。だが、俺には火傷一つ出来ない。息を吸って思いっきり吐き出せば、炎を吐き出していた魔神がロウソクのように掻き消えた。

「温すぎる」

 この鎧は防護のために着てるんじゃない。普通の服じゃ走るだけで摩擦で燃え上がるから着てるんだ。いくら俺でも、全裸は避けたい。

 呼び出されたその日に召喚者を殺し、その国を滅ぼし、この世界を危機に追いやっている俺でも。


 異世界から世界を救う『勇者』。
 それを信仰する国家によって、魔王を倒すために召喚された俺は、強かった。

 強く、強く、どこまでも強く……ぶっちゃけ、強すぎた。

 肉体的には脆弱な人間でしかなかった召喚の巫女は、俺の声を聞いただけで破裂して死んだ。俺を取り囲み、捉えようとした兵士達は、俺が敵意をないことを示すために振り上げた腕の風圧で死んだ。

 そして召喚所であった王国の城は混乱し半狂乱になって駆けまわった俺の動きで崩壊し、王族は死に絶え、国は滅びた。

 どんなにどんなに気をつけて振る舞っても、俺の力は人を殺すのに十分な威力を持っていた。抱きしめるどころか、軽く撫でることも、声を発することも出来ない。相当に鍛えた人間でさえ、指で突付いただけで弾けて死ぬ。

 こうして魔王軍と戦っているのも、別に使命を果たすためじゃない。世界の敵と言われる魔王軍なら、俺を殺してくれる奴がいるかもしれないと思ったからだ。

 だが、そんな望みも儚く消えた。

 俺の何十倍もあるバケモノですら、俺の手打ちのパンチに敵わない。

 強い落胆とともに、ただ作業的に俺は腕をふるう。
 その度、触れてすらいない魔物たちが消し飛んでいく。
 殺し、殺し、殺し、もうこのままこんな世界など、壊してしまおうか、と思う。
 マグマの中で三日三晩快適に暮らせた俺が、その程度で死ねるとは思えないけれど――



 ゴッ、と。



 鈍い、音がした。

「ここは、通さん」

 一言で言うなら、岩の鬼、だろうか。

 身長は目算で十メートルほどで、人型。全身が切り立った岩で出来ているかのようにゴツゴツしていて、額からは長く鋭い角が生えている。俺の身長と同じくらいの太さの腕はやはり岩で出来た棍棒を手にし、片膝をついて俺を見下ろしていた。

「四天王最弱と言われたこの土のワンダ。攻撃力は無くとも、頑丈さにだけは自信があるんだ。そう簡単に通れるなどと思わないで貰おうか……!」

 傲然と言い放つその姿に、俺は思わず、膝をついて、言っていた。

「結婚してくれ」

「……………………………………………………………………はあ?」

 たっぷりと沈黙した後、ワンダは声を上げる。
 それは俺にとって、天国で鳴り響く鐘のような音に聞こえた。





「そりゃあ……まあ、同情しなくもないけどさ……」

 あぐらをかくような姿勢で、ワンダはそう呟いた。
 その肌は完全にガッチガチの岩で柔らかくもなんともなかったが、本物の岩と違ってほのかに温かい。それだけで、俺にとっては何物にも代えがたい至福だった。

 俺の拳を受けても、死なない。それどころか、撫でても、抱きしめても、死なない。
 そんな生き物がこの世にいるなんて、思っても見なかった。

「だからって、結婚してくれなきゃこの世界を滅ぼすって脅し文句はどうかと思うよ……」

 結局、なんやかんやでワンダは俺の求婚を受け入れてくれた。
 最初は世界や魔王を人質にして手に入れた関係だったが、最近は彼女も少し俺に優しい気がしてとても嬉しい。

「まあ、こんな岩女でよきゃ、別にいいんだけどさ」

 魔王軍でも人型の生き物は人間と美的感覚が近いらしく、ワンダはちょっとばかり美人とは言い難いらしい。こんなに天使なのに。

「やめろよ。気恥ずかしい」

 ゴスン、と巨大な拳が俺の頭を叩くが、痛くもなんともない。可愛らしいボディタッチだ。彼女のゴツゴツした肌も、鋼の槍すら受け付けない俺の防御力の前では柔肌同然だ。

「待て待て待て。力はいりすぎてるから! あたしの肌ヒビ入ってるから!」

 おっと、危ない。慌てて肌を撫でれば、ヒビは一瞬にして消滅した。即死さえしなければ、万能回復魔法で治せるのだ。即死さえしなければ。

 まあ、即死しないのが彼女だけなんだけど。魔王も一応女性らしい(竜なんだそうだ)が、ワンダほどの防御力は備えていないそうで、試しにハグすることも丁重に断られた。

「おい。今なんか、余計な事考えたろ」

「まさか。俺が君以外の事を考えるわけ無いだろ、ハニー」

 彼女が意外と嫉妬深いというのも、最近知った事だ。
 俺は赤子のように抱きついていた彼女の胴から離れて、その肩の上に乗る。
 そして逞しい顎を人差し指で撫で……


 俺達は、熊をも殺すキスをした。

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