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光あふれて死ねばいいのに 作者:ポーン
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■■■第九話■■■

<黒野宇多>

 潮時が来た。
 石切場に着いた。嗜虐心を丸出しにした鳴瀬克美が泣き叫ぶわたしを砕石の絨毯に投げ出し、四人いる手下にわたしを押さえつけさせて、わたしの膝と足のガムテープをナイフで切ったところで、可愛そうなわたしの人格は崩壊した。崩壊させた。嗚咽や激情のカタルシスがもたらす中毒性のある陶酔から、わたしは目覚めなければならなかった。

 楽しかった弱虫ごっこもこれまでだ。

 最善のタイミングを見計らって起動する。
 まずは鳴瀬克美の鼻を蹴った。地面に押さえつけられたわたしは手下にのしかかられ、鳴瀬克美を目視することは出来ないが関係なかった。今の今まで体を預けていた偽装人格はセーフモードとは違う。ここに居合わせている人物の性能は走査済みで、現在の位置関係も完全に把握している。わたしの見えない位置から、薄笑いを浮かべてわたしの足を広げようとする鳴瀬克美の手をすり抜けて、その鼻をかかとで強打するのは簡単だった。何の苦労も無い。わたしは手持ちのカードを最適な順列とタイミングで切り続けるだけだ。いつものように。
 冷徹を二枚重ねする。わたしの顔を押さえる手の指に噛みつきつつ、覆い被さってるチンピラの左の睾丸を蹴り潰す。わたしは押し倒された状態のまま二人の男に痛打を与えた。しかもただの攻撃ではない。この時のためにわたしは観察を続けていた。こいつらの精神構造、とりわけ肉体を制御する神経連絡網を読み取っていた。痛みに悶絶してのたうつカオスを調べ尽くし、攻撃の位置と角度を調整して理想の結果を生む。ビリヤードのように。睾丸男は世界の中心で「あ」と叫びながら親切にもわたしを避けるかのように倒れ、指男はのけぞって後ろにいた男の鼻に頭突きした。
 同時に地面に転がる石の突起を利用し、背中に回されていた手を束縛するテープを切断する。わたしはチンピラの指をぶっと吐き出した。前歯が骨まで到達し、肉と神経を噛み千切った無惨な指を。そしてテープを引き剥がし、自由になった手で跳ね起きる。ついでに拾った石を肩越しに投げて、無傷だった最後の一人の右目に命中させる。睾丸男は完全無力化。他のチンピラ三人はまだ軽傷。動ける。
 わたしは全員に一撃ずつ見舞ったが、その中でただ後退しただけで怯みも驚きもしなかったのが一人いる。そいつがこの状況の最大脅威だ。わたしの戦力を5としてこいつは13。加えて複数の特能を隠し持っている。ふふん。
「暴れるのはいいんだけどよ」
 鳴瀬克美。虹色頭の牛巨人。創攻会会長の息子にして幹部。親を凌ぐ搾取の才覚を備えた高校生。
「人を騙すのは良くねえよ」
「違うでしょ。悪いのは簡単に騙されるその心の弱さでしょ。あんたらの倫理観に照らし合わせたなら」
 鳴瀬克美の恫喝じみた独白にわたしは応じる。突っ込みを入れる。と同時に、空いた体で根性のあるチンピラたちを一人ずつ無力化する。と同時に、蹴りの最中に空いた手で、はだていけたシャツのボタンを閉じる。空間を相手にした情報処理の中で、ひらひら舞いはためくノイズが目障りだった。
「騙されるのが雑魚だったらな。あいつらは仕返しひとつ満足にできねえ。鋳潰して小銭に変えてお終いだ。けどだめだ。だめなんだよ。俺みたいのを騙すのは。俺ぁ意地が悪いからよ」
「怒ったの? 鳴瀬克美」
 わたしは最後のチンピラを片づけた。全員無力化した。
「悲しくなったよ。色っぽく誘ってくるからよ、俺もその気になったんだよ。なのに遊んでやろうとした矢先に態度コロッと変えやがってよ。鬼か」
 わたしは微笑み返しながら足下を蹴る。石が二つ跳ね上がる。わたしの目の前に浮く。どちらも手頃な大きさで、よく尖っているものにした。わたしは右腕を振って、それらを指に挟み込む。
「あんまりだよ。女は信用ならねえとか思いたくねえんだよ。やめろよそういうの。人の純情弄ぶとかよ……」
 鳴瀬克美が動き出す。歩いてくる。走りはせず、遅くも速くもない、ニュートラルな速度で。この揺らぎの無い雰囲気が、普通は威嚇になるのだろう。
「許せねえじゃねえか」
「ふふ。ごめんね」
 わたしは謝った。心から。鳴瀬克美の言い草は滅茶苦茶なようでいて一部は筋が通っている。少なくともわたしは合意できる。わたしが彼を騙せたのは彼の願望につけ込んだからだ。目の前で泣き叫ぶこの女は、他の奴らでは手の付けられない暴れん坊だが俺にとっては美味い肉だ。好みだ。ねじ伏せて俺のものにしたい。簡単だ。力づくで征服すればいい。……これらすべての心の声は、わたしから見れば間抜けな希望的観測でしかなかった。彼は一杯食わされてから、ようやく現実が見ることが出来た。文句を言いたくもなるだろう。鳴瀬克美のこのクレームが無かったら、わたしから謝ろうと思っていたくらいだ。だから彼は正しい。これからわたしを再度ねじ伏せられると未だに信じ込んでいる、その話にならない脳天気な認識を除けばだが。
「思わせぶりだったよね。こっちはぜんぜん興味なかったのにさ」
 大振りのオーバースローで石を投げる。鳴瀬克美の右目を狙って。錯視しやすい軌道を選んだ。これは避ける方が簡単なのだが、彼は大ざっぱにはたき落とした。スペックと性格がよく分かる。
 わたしは痛覚の棄却を一瞬だけ解除し、わき腹の痛みを確かめる。痛い。でも多少は動ける。体力は刻々と減耗している。活動限界が迫っている。しかしそれを鳴瀬克美に悟らせる気は無かった。
「謝っても許さねえ。薬漬けにして風呂行きだ」
 敗北のペナルティが跳ね上がる。関係なかった。そもそも確率がゼロなのだから、リスクはまったく変動しない。倒せる。さらに言えば、彼を倒した後に生じる別の問題の解法も見えていた。しかしながら彼を凌ぐには代償が必要だった。全通り探索してみたが、鳴瀬克美に無傷で勝つルートは無さそうだ。彼は万が一レベルの怪物だった。
 鳴瀬克美が目の前まで来た。周りにほかの敵はおらず、なおかつ相手は強大だ。だからわたしは勝ちを急がない。後の先を取ることにした。わたしは彼の目を見つめ、攻撃を待った。
 奴の右手が飛んでくる。わたしは頭をそらして避ける。それ自体は苦労もないが、一択なのがこの状況の厳しさを物語っている。攻撃は拳ではなくナイフだった。ジャブのように連発してくる。三回。本気で刺しに来ている。腕で受けるルートもあるが、これ以上失血したくない。わたしはすべて避ける。しかしわたしのフットステップのリズムの中で、どうしても方向転換できない一瞬があった。鳴瀬克美はそれを見逃さない。そこを狙って左のストレートを繰り出してきた。甘くない。これだ。これが避けられない一打だった。最も被害が少ないこのルートですら、甘んじて受け入れなければならない一撃。
 右腕で受け止める。骨が折れた。痛覚の棄却により毛ほどの痛みも感じないままわたしは、体を回して衝撃を流しながら相手の懐に飛び込む。左手で作った拳を鳩尾に差し込む。止められた。筋肉がみっちり詰まっていた。関係ない。その割れ目の交点となる隙間を、硬質の突起が貫通する。石だ。わたしはさきほど蹴り上げた石を拳から突き出させ、鳴瀬克美の腹にめり込ませていた。石は鋭く尖っていた。まるで刃物のように。彼は舌を鳴らした。
「ちっ」
 石を持った手を力強く押し込み、傷口を広げてやると共にわたしはふたたび自分の体を回す。その勢いでさらに左足での蹴りを見舞う。石に。同じ場所に。鳴瀬克美が息を吐いた。初めて彼にダメージらしいダメージを与えられた。この間半秒にも満たない。彼では割り込めない。
 耐えられず彼は後退する。よろけながら。大したダメージではないだろう。三秒ほどで克服される。しかし三秒も稼げた。わたしは足下の石をまた蹴り飛ばし、彼の左目に直接当てて瞳孔を傷つける。今度は避けられなかった。彼はさらなるダメージに悶える。ここからもう、わたしは彼に一切手番を譲る気は無かった。もう彼は何もできない。もうわたしは何でもできる。勢いに乗ってわたしは、彼をきっちり片づけにかかった。

 悪寒がした。

「ぉぃ……」
 空気が、風が、わたしの体に警告を伝える。選択分岐ツリーの先にある、恐ろしい破滅のイメージを見せる。
「おい……っけんなよ……」
 鳴瀬克美の口から呪詛が漏れる。片目は瞑っている。残った片目でわたしを睨む。体が震えている。激高しているようだった。
「ざけてんじゃねえぞおおおお!」
 声は体感できる振動となって石切り場いっぱいに広がる。それはこの怪物の存在の大きさそのものだ。

 だめだ。

 近づくな! 生物が違う! そう主張するのはわたしの本能だった。あまりに荒々しい圧力が、わたしの抑制を貫いて本能を揺り起こした。 戦えやしない! あそこにあるのは死だ! 逃げろ!
 黙れ。
 数億年の蓄積ごときが偉そうに指図するな。ろくに例外対応もできない統計ごときが、わたしからハンドルを奪おうとするな。わたしは暴れる感情をねじ伏せて疾駆する。と同時に推論を押し進める。いま、鳴瀬克美は何を思っているか。その心の内には何があるか。それはわたしへの威嚇。精神的圧迫だ。つまり時間稼ぎ。ナイフを捨てて胸元に移動する右手。ほうらね。分かってんだよ。鉄砲だろ? 抜かせる訳ないでしょイノシシが。
 しかしながら鳴瀬克美の発する波動は、わたしが進むにつれて圧力を増した。近づくほどに反発する磁石のように。だから逃げろって! 今は黙っててってばもう。わたしは左手で肩を抱き、自分の震えを押さえつける。



<荒野>

 ブロロンと車は到着した。
 石切り場だ。一面に転がる大小の石をタイヤが踏みつける音がする。一枚岩の小山を曲がると開けた場所に出た。地面には複数の人体が転がっている。戦闘の後だ。男五人。女一人。女はもちろん黒野さんだった。
「克美さん!」
 車が止まってすぐに金髪が飛び出す。角刈りも遅れて外に出る。二人で克美なる男に走り寄っていた。克美はうつむいた状態で地面に座っている。動かない。
「わああああ、ウタちゃんと相打ち? ちょっと、こいつらカッコ悪過ぎるんだけど」
 織原七重も車を出る。広い空間を仰いで伸びをした。他人事のようだった。そして倒れるチンピラを回っては、楽しそうに蹴りつける。
「あれ、克美さん……なんで巻かれてんだ?」
 金髪が言った。俺は動けないので遠目にしか見られないが、克美もガムテープで束縛されているらしかった。そして目と口も封じられているようだ。金髪がそれらを剥がすと、克美はスピーカー要らずの大声量で叫んだ。
「黒野宇多を潰せ!」
 しかし遅かった。既に黒野さんは起き上がっている。走っている。数秒前までの沈黙が嘘みたいだった。近づいて来る。車がある方へ。俺のいる方へ。



<黒野宇多>

 狸寝入りはトドたちを逃がさないために必要だった。
 わたしの戦闘能力は異常値だ。ただ強いというだけでなはない。女、それもとりわけ厳ついわけでもない女子高生であるという先入観が、敵の油断を買うのに大きく貢献している。わたしと戦う羽目になっても、恐れを成す男はあまりいない。
 しかしトドがいる。彼の目は節穴ではない。そしてかなり慎重だ。彼がここに来たらどうなるか。わたしが鳴瀬克美を含む五人相手に完勝したという事実を、彼が知ったらどうなるか。さすがに気づくだろう。戦いにならない。彼らでは決して敵わない。黒野宇多には勝てない。実を言うと織原七重の動き次第ではわたしに対抗できる目もあるのだが、それはトドには理解できるものではない。
 トドは撤退を選ぶだろう。仲間を説得し、車から降りないまま逃亡する。それはわたしには不都合だ。荒野を助けるのが遅くなってしまう。だからわたしは欺いた。狸寝入りで逃亡を防いだ。
「そぉい!」
 車のドアを開け、リアシートに座っている荒野の体を足で押す。転がす。今わたしは右手が使えない。
「手当ありがとね。今助けるからねー」
 転がった荒野はうつぶせになった。わたしは片手で銃と一緒に抱えてきたナイフで、荒野の後ろ手に回された腕のガムテープを切った。足を自分で上げさせて、膝とくるぶしの束縛もすいすいと断ち切る。はい間に合った。
「お疲れさまです。俺は無事です」
「そ。わたしは右腕いかれたよ。あともう限界。電池切れる。わたしは寝るからあいつらは荒野が潰しといてよ。はいこれ武器1と2あげるから、運転手は寝かせないで、わたしと七重を七重の家まで運ばせて。そこで決着つけるから」
 鳴瀬克美が持っていたナイフと銃を荒野に渡す。
「空砲トラップは無かったからすぐ撃てるよ。じゃーおやすみ。よろしくね」
 わたしはリアシートに座ると、止めていた息を吐き出した。意識を閉ざし、とろりと眠りを受け入れる。



<荒野>

 金髪と角刈りが遅れて走ってきた。俺は車から降りる。
「何してんだてめえ!」
「止まれ」
 俺は黒野さんからもらった武器2を構えた。二人は止まる。
「ふざけてんじゃねえぞ」
 金髪が言った。口調は反抗的だ。しかし俺の指示には従っている。縛れた。
「無駄口を叩くな。言うことを聞け。さもないと」
 武器2を下ろす。引き金を引く。金髪と俺の間の地面が弾けた。石が砕けて埃が散る。
「当てる」
 手順ははっきりしている。金髪と織原七重を気絶させ、運転手を脅した上で、織原と俺たち二人を車で運ばせればいい。
 俺は成し遂げた。武器2があるので簡単だった。



<織原七重>

 ナナエはパパには似ていない。ママには少し似てるけど顔だけだ。二人に育てられてた頃ナナエは、どうして自分はここにいるんだろうとずっと思っていた。
 ネネコガーデンに連れていってもらったことがある。あれは本当に楽しかった。忘れられないのが夜のパレード。ネネコの踊りとフーガと、数え切れないキラキラがナナエを包んだ。そこにはあれがあった。すごさがあった。ナナエは頷いた。こここそが本当の世界だ。ナナエが生きるべき場所だ。ナナエはここに帰ってきた。だけどそれから手を引かれた。パパとママが家に帰ると言い出したのだ。イヤだった。戻りたくなかった。あの家には色がない。安心しかない。ナナエは逃げた。本気で逃げた。絶対捕まりたくなくて、奥にいたネネコに匿ってってお願いした。だけどネネコは裏切った。パパとママに引き合わされた。ナナエは絶望して泣いた。ママはナナエを抱きしめて、なにを勘違いしたのかごめんね大丈夫だよとか言ってきた。ナナエはママをつき放したかったけど、きつく抱かれて適わなかった。ネネコは別れ際にネネコのぬいぐるみをくれた。なんだそりゃ。違いますよ。これはナナエの欲しいものじゃありませんよ。ナナエのことを思ってナナエの思いと違うことをされると、無性に腹が立った。ネネコにバイバイをされながら、ナナエはパパとママに車でさらわれた。もらったネネコのお腹を押すと、ネネコは声を出した。ねーねこーだよっ。ナナエはお腹を何度も押す。ねーねこーだよっ。ねーねこーだよっ。ねーねこーだよっ。怒りが頂点に達したナナエは、ネネコを窓から投げ捨てた。
 あの二人は優しかった。愛してるって何度も言われた。なんだよもう。病人のための言葉だと思う。だから違いますよ。それはナナエの欲しいものじゃありませんよ。ネネコガーデンの色をナナエは忘れられなかった。色のない家がナナエはイヤだった。ナナエは塗り変えることにした。色に包まれていたかった。ナナエの本当の故郷の色に。



 目が覚めるとナナエの部屋だった。ナナエはベッドにいた。むくりと起きる。
「起きたね。織原七重」
「あれ? ウタちゃんだ」
 ナナエの部屋なのにウタちゃんがいた。ウタちゃんはナナエの椅子に座って、目覚めたばかりのナナエを見ている。

 ナナエを。見ていた。

「あれー? 今はちゃんと見るんだね」
 ウタちゃんは今までずっと、ナナエを見ようとしなかったのに。ナナエから目を逸らしてばかりいたのに。なにが変わったんだろう。なにが起こったんだろう。
「見てるんじゃないよ。見られさせてるの」
 分からんことを言う。ナナエは分からんので分からんと言った。
「分からん」
「ゲームをしよう。織原七重。そして賭けをしよう」
「いいよ。なにするの?」
 とりあえずOKした。ウタちゃんのお誘いだ、迷うことは無かった。
 ナナエはカードをめくるのが好きだ。箱を開けるのが好きだ。いろんな人の箱を開けてきたけど、中に入ってるのはがらくたばかりだった。荒野くんの箱は少し不思議で、中から風が吹いてきた。なにかと思って覗いてみたら、底が抜けてるだけだった。もういいやと思った。でもウタちゃんにはまだ望みがある。この子は空いてない箱だ。ナナエはウタちゃんを開けたかった。
「何をしてもいいよ。本当に何をしてもいい。泣かされたら負け。相手を泣かせたら勝ち。どれだけかかってもいい。どちらかが泣くまで勝負はずっと続く」
「え?」
 ナナエを泣かせるっていうのか。ウタちゃんが。
「で、負けた方は謝るの。ごめんなさい、許してよ、って。相手が許してくれるまで。勝った方は許しても許さなくてもいい」
「なにそれ……」
 そんな言葉が出た。ううん違う。なにそれは違った。ウタちゃんがやりたいことは分かる。この子は本気だ。本当に勝負を挑んできている。しかも賭かっているのは、あのあれだ。一番大事な、あのあれだ。

 ウタちゃんはナナエを開けるつもりだ。

「怖くなった? やめる?」
 ウタちゃんがふざけたことを言う。ナナエがそんな挑戦逃げるわけないだろ。
「ナナエに怖いことなんてないよ。いいってば。やろう」
「じゃあ約束しよう」
 ウタちゃんがベッドに来てナナエと指切りした。そのときウタちゃんは、すごくナナエを見てきた。ナナエもウタちゃんの目を見た。あれ。なんだろう。不思議な感じがする。みんなに見られた時とも親分の時とも違う、晴れ晴れとする感じがウタちゃんにはあった。なんかすごいな。これは初めてじゃない感覚だ。何だろう。ああ。そうか。分かった。
 きっとこれが、特別な人を見る感じなのだ。みんな、こんな気分でナナエを見ていたのだ。
+注意+
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