越水七槻は家を出て早くから準備をしていた。
探偵甲子園が開催される無人島に行く予定がある事を片隅に留める。
港の方へ向かって足を運ぶ。
何かを思考内に留めながら歩を進める。
「やっと今日が来たのね。一年間の恨みがやっと今日晴らす事が出来るのね」
胸を高鳴らせながら一言漏らす。
声を高く上げて笑みを浮かべる。
言葉を漏らしたと同時に足を止める。
作り笑いをしていた七槻の表情が一変する。
「私の親友は通りすがりの高校生探偵なんかに──」
親友の敵をうてる事に胸を高鳴らせている反面、心寂しさを抱く。
陽気が空の下に居る七槻に向けて射す。
未だ春なのに暑さを感じる。
七槻には、寒気が深々と射す。
一つ離れた街並みで賑やかで人がよく通る。
七槻は物哀れな表情で前を凝視する。
(私の親友は自殺してしまったのね。あれからもう一年は経ったわね)
一年前の親友が亡くなった事件を脳裏に映る。
苛立ちの他に物淋しさが過る。
七槻の中での葛藤が始まる。
七槻の双眸が不意に細くなる。憂色を含んだ蒼白な表情で周りを見渡す。
それと同時に過去の出来事が脳裏に過る。
唇を噛み締めながら空を仰ぐ。
一年前の事件のあらましを思い出す事に耽る。
事件の内容が鮮明に浮かび上がるとともに蒼い双眸は目線を泳がす。
(勝手に空き巣に入った槌尾…。お嬢様の名誉云々で親友の潔白を警察に話してくれなかった甲谷さん…親友を骨の髄まで追い詰めた例の高校生探偵のせいで親友は──)
心の中で苛立ちを覚える。同時に親友を失った苦しみが浮かび上がる。
不意に涙腺が弛緩する。双眸が潤み、映る景色が歪む。
唇を強く噛み締め、小さな声で嗚咽を漏らす。
表情を覆いながら啾々と咽ぶ。
流れてくる雫が頬につたる。
無色透明な小さな雫が潸然と下る。
不意に持って来た鞄を落とす。
耳元で響いた微かな音に敏感に反応する。
今の自分の置かれた状況が思い出して我に返る。
(そういえば…私は親友の死を思い出して泣いている場合じゃないだ。今日決めたじゃないの。親友の敵を取るんだって)
未だ残っている苛立ちと葛藤する。流れる涙を拭いながら七槻の心の片隅の葛藤は加速する。
「そうだ! あの槌尾に電話しなきゃいけないわね」
鞄から携帯電話を取り出す。直ぐに相手の電話番号にかける。
「では、偽のディレクターとバレないように頑張って下さいね。バレてもギャラは半額が差し上げますから」
声色が別人としか思えない程の巧みな話術で語る。 燦々とした太陽を一瞥しながら電話越しで一言一言述べる。
『わかったよ。バレなかったらギャラは勿論、倍にギャラは有りますよね?』
声を上げて話す槌尾に苛立ちを抱きながら冷静な様子を装って対応する。
「ええ、勿論」
虚をつかれないように流暢に一言漏らす。
眉を吊り上げて口元を尖らせる。携帯電話を持っていない方の手のひらで拳を作って握りしめる。
腕を微かに震わせながら携帯電話の電源を切る。
半分怨色を含んで眉をしかめる。
いつもの艶麗とした七槻の双眸は鉛灰色に濁る。
やや遠くの距離に有る海を見下ろす。
海の近くにある船を見据えながら固唾を呑みこむ。
その後直ぐに足を進める。前よりも歩調を速めて港まで向かう。
感じた冷ややかな風が鮮やかに七槻の茶髪を靡かせる。
頬にあたる髪の毛を押し退けながら歩を速めていた。
閑散とした空気が漂う港へ一歩ずつ、足を踏み入れる。
(ついに仇を取れるのね。やっと親友の仇が取れるのね)
口元を固く結び、念をおして言い聞かせる。
青々と色を帯びた空を仰ぎながら船の見える港まで行進する。
──一年前に親友を自殺に追い込んだ人々を殺す事。
──親友を追い詰めた犯人の高校生探偵の正体。
その二つを解き明かす事を思考内に留めて向かった。
これから七槻が惨劇を起こす無人島に。 |