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32 報告

 その日、メディア王国軍司令部にとんでもない知らせが舞い降りた。


「クルセイヤ基地が襲撃を受けて壊滅…?」

「夜間に襲撃などあり得ん…」


 あまりにもパンゲア世界からの常識から外れているため、誰もが懐疑的だった。


「誤報か…敵の謀略ではないのか?」

「…しかし、間違いなく我が軍の伝書鳩が届けて来た報告です。それも何通も…」


 確実に届くようにするためか、同じ内容の手紙を持つ伝書鳩も何羽かいた。

 手紙は10枚以上に渡り、

『夜間に敵部隊からの空襲を受ける。敵の詳細は不明。至急援軍を求む』

『敵の攻撃は苛烈極まりなく、極めて強力なロケット弾らしき攻撃を受けて龍舎は全滅』

『敵の飛龍が吐く火線に触れると人も飛龍も肉片になってしまう』

『至急、援軍を乞う』

 などなど、悲惨な状況を伝えるモノばかり。


「緊急時にのみ使用を許される伝書鳩を10羽以上も使ったのですから、相当逼迫していたのでしょう」

「ふむ……しかし、クルセイヤ基地は国境に最も近いとは言え、イリオスとは100エル(200km)以上も離れているのだぞ?」


 飛龍の航続距離は50エル(100km)ぐらいで、往復を考えると行けたとしても25エル(50km)が限界。

 個体によって増減があるので何とも言えないが、75エル(150km)以上はあり得ないので、各国とも飛龍基地など重要施設は国境から75エル以上離すのが常識だ。


 しかし、この報告を信じるならば国境から100エル(200km)以上離れているにも関わらず、飛龍による空襲を受けたという事になってしまう。あまりにもパンゲア世界の常識とはかけ離れ過ぎていた。


「…それに、夜間に空襲を受けるなど聞いた事も無い。飛龍は夜も飛行出来るのか?」

「飛べない事も無いのですが……暗闇である夜は平衡感覚が狂いやすく、地面に激突したり迷ってしまうケースが多々あるので、夜間に飛行するなどまずありません」


 残念ながら飛龍は夜目が利く訳ではないので、真っ暗闇に地面と空の境界線を失ったり、目印としているモノが見えなかったりして迷う事が多々ある。

 そもそもパンゲア世界は夜間に戦うという習慣が薄いので、夜間空襲を敢行するなど考えもしない。




「…あの忌々しい新式銃のように、リディア王国は新種の飛龍でも生み出したのか?」


 ベラーシの大敗の原因である新式銃については、既にメディア連合軍にも知れ渡っており、少数ながら新式銃も鹵獲していた。

 その性能にメディア連合軍は恐怖し、現在はリディア王国軍への攻撃は控えている。


「銃はともかく…生物である飛龍の新種を生み出し、量産するとなるとかなりの時間がかかります。隠し通すなど不可能です」


 新種を生み出すには十年以上にも渡る地道な交配が必要で、それだけなら秘密裏に出来なくもないが、戦力化出来る程に量産化するには更に十年以上を要する。

 その間、他国に全く知られる事なく実戦投入などまず不可能。特に陸続きである隣国には必ずバレる。


「……もしかしたら、日本帝国の仕業かも知れません。

 元々新式銃も日本帝国の発明品ですし、外海を越えた先の大陸にある国なら、新種の飛龍を生み出し、戦力化出来る程量産しても知られる事はありません!」


 実際は飛龍ではなく航空機なのだが、パンゲア世界では空を飛ぶ存在は飛龍か気球ぐらいしか無いので、選択肢にすら無い。

 気球はまだ操作可能なバーナーなどが無く、風任せに飛ぶしかないので対空砲ですら撃ち落とす事が可能。そのため、空襲をかけたとなると飛龍以外にはあり得ないのだ。


「日本帝国だと? 確かにかの国はリディア王国の要請によって宣戦布告して来たが、未だに我が国と戦闘をしたという記録すら無い。

 ただ名目だけの宣戦布告ではないのか?」

「確かにその可能性も否定出来ませんが、リディア王国の仕業で無ければ日本帝国しかあり得ません。

 他に我が国に宣戦布告した国は、資金の供出だけに留めた後進国のみです」


 もし後進国に夜間襲撃が可能な飛龍隊がいるのなら、リディア王国の属国などという立場に甘んじる筈が無い。

 それに、後進国は資金の供出のみで派兵を行っていないので、例えそんな凄い飛龍を保有していたとしても、わざわざ襲撃を仕掛ける可能性は低い。


「ふむ……確かに消去法で考えればそれが妥当だが、情報不足で判断は出来ん。

 とりあえず、クルセイヤ基地に援軍として救援隊を送ろう。攻撃を受けた将兵なら何らかの情報を持っているかも知れん」


 この時、司令部の誰もがそこまで深刻には受け止めていなかった。

 夜間に、航続可能距離から離れた飛龍基地が攻撃された事には驚いていたが、所詮は空襲なので損害はそこまででは無いと楽観視していた。

 何しろ、パンゲア世界での空襲とは飛龍による爆撃の事であり、飛龍が持てる量である爆弾を落として敵を撹乱するのが精一杯。空襲のみで基地が壊滅するなどあり得ないからだ。


 日本帝国の艦隊などを見た事の無い彼等は、パンゲア世界の常識から離れる事など出来なかった。










「なっ……何なのだ…?……これは…」


 救援連隊の連隊長は、クルセイヤ基地の惨状を見て呆然とする。


 龍舎や兵舎があった場所は残骸の山になっていて、屋根や壁らしき物体が広範囲に散らばり、その中には人間や飛龍の手足や胴体、首などが散乱している。

 地面は穴ぼこだらけであり、その無数の穴の中にはかつて人間だったらしい肉片が散らばっているモノも沢山ある。どれも原形を留めていない程にバラバラになっていて、死後時間が経っているのかハエや蛆が湧き、腐敗臭を放っている。


 戦場や死体を見慣れている兵士にとってもそれはあまりにも凄惨な光景であり、嘔吐する兵士も少なくなかった。


「…何があったのだ…? この基地に…」


 辺り一面に惨状が広がっていて、目につくのは瓦礫の山かグチャグチャになった死体ぐらい。

 微かに生き残っているのは、手足などを失って悲鳴やうなり声を上げている重傷者か、幸運にも軽傷で済んだ兵士ぐらい。

 軽傷で済んだ兵士にしても、座り込んだまま呆然と瓦礫の山をただ見ている。身体的な傷は軽かったが、精神的には深い(トラウマ)を受けていた。




「……我々は援軍に来た救援連隊である!! 基地司令官はおられるか!?」


 このまま呆然としていても仕方ないので、無理矢理にでも声を張り上げて尋ねる。

 この惨状で基地司令官が生き残っている可能性など無きに等しいが、とりあえず手順通りに叫ぶ。


 何度か叫んでいると、軽傷の下士官がマスケット銃を杖に立ち上がり、連隊長に近付いて弱々しく敬礼した後、報告した。


「…基地司令官、並びに副司令官共に戦死されました…」


 ちなみに、基地司令官など士官の大半は襲撃開始のロケット弾によって、兵舎ごと爆死した。


「そうか……では現在生き残っている最上位の士官は誰だ?」

「歩兵大隊の大隊長は生きていますが……重傷を負っていて職務の遂行は不可能です」


 大隊長は最初のロケット弾攻撃に奇跡的に生き残ったが、右手と右足を失って瀕死の状態だ。間もなく死亡するだろう。


「…現在、動ける士官はいないのか?」

「残念ながら……他の士官の方々は戦死、あるいは大隊長同様に指揮を取れない程の重傷です」


 前記したように、深夜だったので士官達は貴族用の兵舎でぐっすりと眠っていた。初撃でその兵舎にロケット弾攻撃を受けたので、無事なのは初撃を逃れた下士官や兵士ぐらいだ。


「そうか…ならば貴様で良い。一体ここで何が起きたのだ?」

「…分かりません。深夜に突然始まり、そして突然終わりました。

 恐らく、襲撃は5分とかかっていないでしょう」

「5分っ!? この大惨事を僅か5分で起こしたというのか!?」


 目の前の光景は今まで自分が見たことも無い程に惨たらしいモノで、とてもではないがそんな短時間に出来る筈が無かった。自分を謀っているのではと連隊長は目の前の下士官を睨み付ける。

 しかし、当の下士官は顔色1つ変える事なく答える。


「感覚的には数時間にも感じましたが、戦死した士官の方々の懐中時計はどれも5分程しか経っていませんでした…」

「…………」


 複数の時計が同時に狂う事はあり得ないので、その可能性は除外出来る。それに、目の前の下士官は嘘をついているようには見えなかった。


「……では、敵の数はどうだったのだ? 数百、数千か?」


 ここまでの大惨事を僅かな時間で成し遂げたのだ、ならばかなりの規模でなければおかしい。


「…分かりません。夜間という事もあったので敵の姿は何も見えず、魔術師が『照明』魔法で敵を照らそうとしていましたが、直ぐに敵に殺されました」

「そうか……では、敵に与えた損害は?」

「我が軍の戦果は……ありません…」

「それは…暗くて戦果を確認出来なかったという事か?」


 まさか敵にほんの僅かでも損害を与えられなかったなどあり得ないので、連隊長は良い方に解釈した。


「…いえ、我らの攻撃は当たりもしませんでした」


 しかし、下士官の答えに希望は無かった。


「…当たりもしない? この基地には90騎以上の飛龍に、山程の対空ロケット弾や対空砲があった筈だ。

 それらを持ってしても敵に何ら被害を与えられなかったと言うのか!?」


 幾ら夜間だったとしても、90以上もの飛龍がいれば少なくとも1割ぐらいは敵の飛龍を落とせるし、命中精度が極めて悪い対空ロケット弾や対空砲だったとしても、1騎ぐらいは落とせる筈なのだ。


「…飛龍は襲撃の始めに龍舎を攻撃されて飛ぶ事すら叶わず、対空ロケット弾や対空砲についても保管していた倉庫が爆破されてほとんどが使用不可能になり、例え無事なのがあっても夜の暗闇で敵飛龍が見えず、ただ闇雲に発射していましたが直ぐに破壊されました。

 …もしかしたら命中していたのかも知れませんが、落ちてきた敵飛龍はありませんでした…」

「…………」


 無念そうに言う下士官の言葉に、連隊長は戦慄した。


 もし仮に目の前の男の言っている事が本当ならば、クルセイヤ基地はその敵に対して何ら攻撃が出来ず、ただ一方的に攻撃されただけという事になる。「夜間に不意打ちを受けたから」という言い訳も出来なくはないが、だとしてもあまりに圧倒的過ぎる。

 僅か5分足らずで龍舎や兵舎、兵器庫を爆撃し、そして基地にいる兵士の大半を殺傷したのだ。それも極めて惨たらしく。

 メディア王国最強である近衛飛龍連隊を用いたとしても、到底不可能だろう。


 そもそもクルセイヤ基地の守りは固く、リディア王国との国境に近いという事もあって飛龍隊は精鋭揃いだ。敵飛龍隊と戦う事なく散ったのでどちらが優れているのかは定かではないが、少なくとも攻撃力については敵が圧倒している事は言うまでもない。


(…もしもこの夜襲が他の飛龍基地でも行われれば、同様の被害が出るかも知れない…!)


 それが恐怖だった。

 幾ら夜襲への警戒を強めた所で、夜間に戦う術など持たないメディア王国軍では対処のしようが無い。昼間のように戦った所で戦力は半減し、それどころか暗闇で上下感覚を失って地面に激突する可能性すらある。

 昼間ならどうにかなるかも知れないが、夜に攻められればどうしようも無いのだ。










 その後、他の生き残った兵士達にも話を聞いたが、全員が同じ様な内容だった。

 しかし、個人による捉え方の違いから微妙な差異が生じているため、口裏を合わせている訳では無いと分かり、ますます真実味が増した。


 連隊長はクルセイヤ基地での事を報告書に纏め、司令部に提出したものの、「真実味が無い」として信じて貰えず、それどころか「敗北者による過剰な誇張」として適当に処理されたのだった。

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