Count.1.8 1番きれいな涙
―病院―
「痛たたたたっ…」
生まれて早や19年たつが足に包帯を巻かれるのなんて初めてだ。
「もう大丈夫だよ。全治2週間て所かな。そんなにひどくない。」
“感じのいい人だ。30になるかならないかぐらいの人かな”
そこにちょうど席をはずしていたマキが入って来た。
「いきなりで本当にすいませんでした…。他にも患者さんがいらっしゃったのに…。」
「いえ。あなたには恩がありますからね。私には断る理由はありません。」
“恩……?”
「それに幸い、私の所に来た他の患者さんもこの子と同じぐらいで命に別状がある危険はありません。」
「そうですか……。でも…命は命…。命の価値なんて誰も変わらないのに何が違うんでしょうね…。残された命と、奪われた命は…。」
「…違いなんてありません…。」
二人は陽に目を向ける。
「……。陽くん?」
「違いなんてありませんよ!命の価値はみんな平等だ!ただ神が、いや死神が“寿命”という形でランダムに奪っていく…。ただそれだけのことだ……。」
そう言い放ち、陽は左足を軽く引きずりながら診察室を出ようとした。
「もし……。」
マキの声に陽は足を止める。
「もし…その“死神の気まぐれ”で、あなたの大事な人の命が奪われたとしたら……どうする……?」
陽はマキに背を向けたまますぐには反応しようとしなかった。
「オレは…泣くことしかできません…。その人を想って…泣くことしかできません…。オレは…弱い人間ですから…。」
そう告げると陽は診察室から出て行った。
「……。マキさん…。もしかして今回は彼を…?」
「……。はい……。」
「そんな…!?一体彼は…!?一体彼は誰と電車に乗っていたんですか…!?」
「瀬名さん、声を押さえてください。聞こえます。」
医者、瀬名は困惑する表情を見せマキとの会話が漏れぬようカーテンとドアを閉めた。
「すみません…。そして誰と…?」
瀬名は椅子に座るなり話を続けた。
「友達です…。」
「……。友達……?」
瀬名は明らかに動揺している。
「はい。しかし、彼は、彼の友達は…」
マキの目をじっと見つめる瀬名。
「自分が死んでいる事に気付いていません…。」
マキの言葉を聞き瀬名はうつむき黙ってしまった。
ふとマキが瀬名の着ている白衣に目をやる。彼の白衣は彼の涙で小さな染みを作っていた。
「助けてください…。」
マキが瀬名に目を移す。
「助けてあげて下さい…。彼を…。彼らを…。お願いします…。」
マキは少し考えて口を開いた。
「その涙は…誰のために流してるんですか…?彼らのため…?それとも…昔、亡くした親友のためですか…?」
「…。両方かもしれませんね…。」
涙をこすり笑顔で答える。
「涙って…悲しい時、嬉しい時、怒った時や痛い時、色んな時に流れるものだけど…私は、誰かを想って流す涙が…1番きれいだと思います…。」
診察室を出ようとドアノブに手をかけるマキ。
しかし一度ノブから手を離し、瀬名のほうを向いた。
「助けますよ。彼は
「その人を想って泣くことしかできない。」と言いました。ただ悲しいから泣くんじゃない。その人を想って、想って想って泣くことしかできない。私は、それは強い人間だと思います…。彼なら乗り越えられる。あなたと同じように。」
「僕は…強い人間ですか…?」
「それは…あなた自身がよく解っているはずです。」
そう告げるとマキは瀬名に一礼をし、診察室を後にした。
瀬名は椅子に座ったまま動こうとはしない。そして、おもむろに天井を見上げた。
「なぁ…祐介…。もうすぐおまえの命日だな…。」